この記事でわかること・結論
- ヒューマンエラーは人間が原因で発生する誤りであり、多様な原因により発生し全ての職種や業界で避けられない
- 労務トラブルの多くがヒューマンエラーに起因しており、残業代・給与未払いや法改正への未対応、労働者への不利益が代表的な例
- ヒューマンエラーを未然に防ぐ対策として、法改正に対応したBPO・クラウドサービスの利用、社員の健康管理、タスクフォース制度の導入が有効
更新日:
人材・組織この記事でわかること・結論
どの業界、職種でも必ず起きてしまうヒューマンエラー。ヒトは間違いを犯す生き物であり、それを完全に取り除くことは困難です。
しかし、それを許容・放置していると取り返しのつかないことになりかねません。今回はヒューマンエラーが発生する原因と対策、労務トラブルを防ぐために必要なことを解説します。
目次
ヒューマンエラーとは「人間が原因で発生する誤り」のことで、人為的なミスを指します。ヒトが達成すべき目的のために動いたとき、その行動が本来の目的から外れ、意図しない結果を得ることを意味します。
ヒトが介する場所や事象で発生するミスがヒューマンエラーであり、労働災害の9割以上の原因はヒューマンエラーにあるとも言われています。一昔前までは、機械の故障や自然現象がトラブルの主原因とされてきました。
現在はITの発達により自動化や機械化と同時に人員削減が進む一方で、ヒトにしかできない業務の人手不足が深刻化しています。人手不足による業務過多は従業員のストレスを増幅させ、不十分な社内コミュニケーションや慢性的な疲労により、十分なパフォーマンスを発揮できないことからヒューマンエラーが発生します。
実際にヒューマンエラーが発生する原因はさまざまで、大きく下記の12種類に分類されます。
ヒューマンエラーの原因 | ||
---|---|---|
危険軽視・慣れ | 不注意 | 無知・未経験・不慣れ |
近道・省略行動 | 高齢者の心身機能低下 | 錯覚 |
場面本能行動 | パニック | 連絡不足 |
疲労 | 単調作業による意識低下 | 集団欠陥 |
ヒューマンエラーは、役職や年次に関係なく発生する可能性があります。下記などがヒューマンエラーを引き起こします。
下記の3つの要件を満たすものがヒューマンエラーと判断されます。
ひとつでも三原則が機能していれば、ヒューマンエラーは防げます。「期待されない行為」をしても、目的通りの結果を偶然得ることはあり、達成しようとした目的と違う結果を得ただけでは、その原因が人的ミスによるものとは限りません。
このふたつに「目的と違う結果を達成する意図はなかった」という要件が加わり、ヒューマンエラーと定義されます。目的を持ち、意図して誤りを達成した場合は、ヒューマンエラーに定義されません。
ヒューマンエラーが起因して労働トラブルにつながることは珍しくありません。ここでは労働トラブルの代表例とその原因を紹介します。
ずさんな給与管理や勤怠管理による時間外労働手当・深夜労働手当・休日労働手当などの賃金未払いは、労働トラブルの中でも多くを占めています。
勤怠管理を人間がチェックする場合、単純な計算間違いが大きなリスクとなります。タイムカードの集計・計算ミス、有給休暇・休日出勤などの勤怠のチェックミス、紙面で勤怠管理を行うことによる紛失や誤廃棄などのミスが発生することによってリスクが生じます。
残業代や給与の未払いに関しては、社員から未払い残業代を請求されれば、支払い時に遅延阻害金または遅延利息を支払うことが必要です。適切な勤怠管理は、余分な経費がかかることを防止できます。
遅延損害金は、在職中に請求します。根拠は「民法」または「商法」になります。
遅延利息は、退職後に請求します。根拠は「賃金の支払の確保等に関する法律」です。
法定手続きや法改正の動きの把握漏れは、ヒューマンエラーにつながることがあります。
労務関連の年次スケジュールを把握していない、法改正における対応が遅れているなど、事前の把握や準備をしておけば、防げるヒューマンエラーも存在します。
2019年4月(中小企業は2020年4月)より時間外労働の上限を超えた場合には、罰則が科されます。さらに、臨時的な特別な事情がある場合にも上限を上回ることはできません。
法改正の動きを把握し事前に対応することで、企業をヒューマンエラーから守り、企業イメージの下落や業績悪化を防ぐことができます。導入費用が削減できるクラウドサービスを利用するなど、事前に年次スケジュールを把握するための仕組み化が重要です。
【参考】時間外労働の上限規制-厚生労働省
法定福利や入退職に伴う社会保険手続きの提出漏れは、ヒューマンエラーの発生により労働者へ不利益が生じる可能性があります。
雇用保険の手続き漏れが発生した場合、遡及して手続きできる期間は2年間であり、退職時に従業員が金銭的損害(離職に伴う基本手当の給付日数の削減、再就職手当の金額削減、教育訓練給付金の受給資格の喪失など)を被る可能性につながります。
雇用保険関連の手続き漏れは企業として法令違反になるうえ、従業員から損害賠償請求を受ける場合があるため、些細なヒューマンエラーが企業にとっても命取りになります。
ひとりの従業員のヒューマンエラーが企業に大きなダメージを与え、社会的批判にさらされた場合、企業イメージが低下し、金銭面で大きな損失を被る可能性があります。ヒューマンエラーを未然に防ぐために経営戦略の視点から対策を講じることが重要です。
2020年4月より特定の法人について電子申請が義務化されます。オフィスステーションのような社内業務を効率化するBPOやクラウドサービスは、法改正や帳票変更に自動対応しているものが多く、スケジュールの失念や対応遅れによるヒューマンエラーを防止します。
企業内の労務担当者の負担を減らすだけでなく、従業員から関連情報を収集し、行政手続きに必要な情報を自動化・ペーパーレス化することで、事務作業の負担から解放されます。BPOやクラウドサービスの利用はコア業務への集中力が向上し、本来のパフォーマンスを発揮しやすくなる効果も期待できます。
長時間労働や人手不足は従業員に体力面での負担を強いることになり、ヒューマンエラーの原因となる疲労や省略行動を引き起こします。
近年、従業員の健康管理は企業の重要な経営課題として認識され、「健康経営」を経営戦略として導入する企業が増えています。従業員の健康状態は、生産性の向上に直結しており、ヒューマンエラーの防止だけでなく、長期的な企業の成長に直結します。
従業員の心身の健康を確保し、働き方改革と合わせて推進することで、「従業員満足度を向上しながら、会社に積極的に貢献する」という良い循環を生み出すことが重要です。
ヒューマンエラーの防止策として、タスクフォース制度に注目が高まっています。
タスクフォース制度とは、元はアメリカ海軍で編成されている部隊の名称であり、複雑化する課題を迅速に、部署を越えて問題解決することを目的とした考え方です。
企業内で各部署の専門家を集め、課題遂行のためのチームを結成します。部署や立場が異なるメンバーで構成されるため、多様な視点で議論が進みます。ヒューマンエラーを発生させた当事者のみを問題とせず、本来の原因を追及し、最善の解決策に導きます。
社会保険労務士の中でも、10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛ける特定社会保険労務士/ワークスタイルコーディネーター。なんば社会保険労務士事務所の所長。
詳しいプロフィールはこちら