この記事でわかること・結論
- 時短勤務とは
- 時短勤務者の残業の制限
- 時短勤務制度導入の注意点
この記事でわかること・結論
時短勤務とは育児・介護に従事する労働者の1日の労働時間を短縮する制度です。少子高齢化・人手不足の日本では仕事と出産・育児、そして介護との両立が重視されるようになりました。なかでも女性の労働者は出産・育児を機に会社を離れやすく、出産・育児休業後の職場復帰が課題となっています。
今回は育児の視点から時短勤務制度の概要や残業制限、時短勤務制度を導入するときの注意点を中心にご紹介します。
目次
時短勤務とは、3歳未満の子どもを持つ労働者が1日の労働時間を短縮する制度です。
育児・介護休業法の法改正により、平成29年1月から対象となる社員から時短勤務の請求があった場合、事業主は時短勤務もしくは時短勤務に代わる措置の実施が義務付けられています。
時短勤務に注目が高まる背景には、女性の積極的な労働参加と少子高齢化問題への対策が考えられます。
将来の不確実性が増し、人材不足に陥っている日本経済では育児・介護を両立することが難しいといわれています。育児・介護と仕事を両立し、経済的に困窮しないために時短勤務を希望する労働者も増えており、柔軟な働き方の実現に注目が高まっています。
また、事業主側にも時短勤務制度の導入を通じて企業イメージの向上につながり、優秀な人材確保にも効果的です。そのため、官民ともに時短勤務制度の導入に拍車がかかったと考えられます。
時短勤務による残業時間の制限は、
の3つに分けて考えます。
所定外労働時間とは、就業規則で定められた労働時間を超過した労働時間です。事業主と労働者の間には、就業規則や雇用契約書で明示されている所定労働時間があり、事業主が必要と判断した場合は労働基準法上の制限内で労働者に所定外労働を指示できます。
しかし、3歳未満の子どもを持つ労働者が時短勤務を請求した場合には、所定外労働の指示をおこなえません。育児の必要がなくなった場合(子どもが3歳に達したなど)、産前産後休業や育児休業が始まった場合は当該所定外労働の制限が終了します。
時短勤務は、労働者が制限開始予定日の1カ月前までに、1回につき1カ月以上1年以内の期間で請求できます。また請求回数には上限がなく、条件を満たす労働者(3歳未満の子どもを持つ労働者)は何度も請求が可能です。
ただし時短勤務の請求はすべての労働者が対象ではなく、下記の労働者は労使協定の締結により時短勤務の対象外となります。
時間外労働時間とは、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を基準にした残業時間の累積の残業時間です。時短勤務では残業(時間外労働)も制限の対象となり、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が適用範囲となります。
条件を満たす労働者が子どもの養育を目的に時短勤務を請求した場合は、事業主は1カ月につき24時間、1年につき150時間を超える時間外労働を指示してはいけません。時間外労働の制限は、労働者は1回の請求につき1カ月以上1年以内の期間を指定できます。請求方法・対象期間・対象外の労働者は、所定外労働時間と同じです。
しかし、残業時間(時間外労働)の制限が事業の正常な運営が難しい場合に限り、時短勤務の請求にかかわらず、時間外労働が認められます。
ほとんどの場合、時短勤務の例外適用はされません。
時短勤務では、深夜労働も制限されます。小学校就学の始期に達するまでの子どもを養育する労働者が時短勤務を請求した場合、午後10時から午前5時までの深夜残業が制限されます。
深夜残業の制限請求は、1カ月前までに請求をおこない、1回につき1カ月以上6カ月以内の期間何度でも請求できます。ただし以下の労働者は対象となりません。
また、事業の正常な運営を難しい場合は制限適用の例外として認められます。
残業時間の制限について | ||||
---|---|---|---|---|
種類 | 請求方法 | 期間 | 請求 上限 |
対象外となる労働者 |
所定外労働時間 時間外労働時間 |
制限開始から 1カ月までに請求 |
1回の請求につき 1カ月以上1年以内 |
なし | 日雇い労働者、請求時点で継続雇用期間が1年に満たない労働者、 1日の所定労働日数が2日以下の労働者 |
深夜残業 | 制限開始から 1カ月までに請求 |
1回の請求につき 1カ月以上6カ月以内 |
なし | 日雇い労働者、事業主に継続して雇用された期間が1年に満たない労働者、 深夜においてその子を常態として保育できる同居の家族がいる労働者、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者 |
時短勤務では所定労働時間も対象となります。条件を満たす労働者が所定労働時間の短縮を希望した場合、事業主は育児と仕事を両立できる時短勤務、またはそれに代わる措置を講じなければいけません。
所定労働時間を短縮する場合、1日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含む時短勤務制度を導入します。ただし、条件を満たすすべての労働者に適用させる必要はなく、
は対象外となります。「労使協定上で適用対象外となる労働者」とは、以下の条件に当てはまる労働者です。
時短勤務制度の導入が難しい事業主の場合、以下の代替措置の実施が認められています。
上記の代替策は法律を順守した上で、従業員の意見を聞きながら、実施していくことが重要です。
時短勤務制度は以下の点に注意しながら、導入しましょう。
時短勤務制度は時短勤務を希望する労働者の仕事の効率化と周囲の理解が不可欠です。ITツールの導入や、チームでの相互支援が可能となるように業務の見直しを行い、時短勤務者の業務負担を軽減します。
また、上司や同僚の時短勤務への理解も必要です。事業主が時短勤務制度の必要性(働きやすい環境の整備や育児に関するトラブル)を事前に周知し、理解を促す取り組みを行わなければいけません。
時短勤務の実施は労働者からの請求が前提となります。また、時短勤務制度の適用手続きは事業主が自由に設定できますが、煩雑な手続き方法では時短勤務を希望する労働者が減るため、適切な手続き方法を考えなければいけません。
改正された育児・介護休業法では、時短勤務や育児休業を希望する労働者に対するハラスメントを防止する措置が事業主に義務付けられています。そのため、時短勤務を導入する際は正規雇用・非正規雇用を含むすべての労働者を対象にしたハラスメント防止対策を講じなければいけません。
また、時短勤務を希望した労働者が解雇や減給といった不利益を講じる行為は法律で禁止されています。
大学卒業後、日本通運株式会社にて30年間勤続後、社会保険労務士として独立。えがお社労士オフィスおよび合同会社油原コンサルティングの代表。
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