新たに会社を設立したり、廃止したりすると、そのたびにさまざまな手続きが必要になります。とりわけ、社会保険に関する手続きはしっかりと行っておかないと、後々従業員とのトラブルにもなりかねません。
特に年度末は事業所の新設や休廃止などが起こりやすい時期でもあるため、必要な手続きはしっかりと確認しておきたいものです。今回は会社の新設・廃止したときの社会保険の手続き方法と必要書類について説明していきます。
目次
社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、原則として事業所単位で加入することが義務づけられており、そこで働く一定の従業員も自動的(強制的)に被保険者として扱われます。
しかし実は事業所の規模によっては、それらの保険が任意加入となる場合もあります。「強制適用事業所」と「任意適用事業所」に分けられますが、それぞれどのような事業所が強制・任意適用になるのでしょうか。
どちらになるかで事業所の新設・廃止時の手続き方法も異なるため、事前に確認しておきましょう。
事業所が以下のいずれかの要件を満たしている場合、その事業所は「強制適用事業所」となり、社会保険への加入が事業所単位で義務づけられます。
製造業 / 物品販売業 / 金融保険業 / 医療保健業 / 通信報道業 / 電気ガス事業 / 教育研究調査業 / 保管賃貸業 / 集金案内広告業 / 媒介周旋業 / 土木建築業 / 鉱業 / 運送業 / 清掃業など
反対に常時使用する従業員が5人未満かつ個人事業の場合、または非適用業種の個人事業の事業所の場合は、適用除外に該当する場合を除いて、健康保険や厚生年金保険の加入は強制ではなく任意となります。
そのため「任意適用事業所」と呼ばれているのですが、もし事業所単位での加入を希望する場合は、そこで働く従業員の半分以上が保険への加入に同意しているという条件を満たした後、事業主が年金事務所へ申請を行って日本年金機構の認可を受ければ、適用事業所となることも可能です。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)が強制適用されるような規模の事業所を新設・廃止する場合、さまざまな書類の提出が必要になります。事業所に関するものだけではなく、従業員に関する書類も多くありますので、きちんと確認をしておきましょう。
事業所を新設する場合、社会保険を適用するために「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を提出する必要があります。新設してから5日以内に、その地域を管轄する年金事務所へ提出しましょう。
加えて事業所が法人の場合は「法人(商業)登記簿謄本」を用意してください。個人事業所でも従業員が5人以上で、上記の事業を行う場合は強制適用になりますので、事業主の世帯全員の住民票が必要です。こちらはコピー不可なので注意してください。
反対に事業所を廃止する場合は「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」を、廃止の事実があってから5日以内に、年金事務所へと提出します。
それらに加えて、解散登記の記入を済ませた「法人登記簿謄本」のコピー、または「雇用保険適用事業所廃止届(事業主控)」のコピーが必要となりますので、あわせて用意しておきましょう。
もし強制適用ではない事業所が社会保険の適用を申請する場合は、「健康保険・厚生年金保険新規適用届」および「任意適用申請書」を年金事務所へと提出します。こちらは従業員の半数以上の同意を得た後、速やかに提出してください。
加えて、
が必要になります。住民票はコピー不可・個人番号の記載がないもので、領収証はコピー可・公租公課の領収証について不明な点があれば年金事務所にお尋ねください。
反対に適用を事業所廃止とともに取り消してもらうには、
を添付し、廃止の事実があってから5日以内に年金事務所へと提出してください。ただし、廃止のための同意書は適用時と違い、従業員の半数ではなく4分の3以上の同意が必要になります。
事業所の規模が大きくなって、本社以外にもたくさんの支社があるという場合、事業所を新設するたびに届け出を提出しなければならず、非常に手間がかかります。
一括適用を行うためには、
などの条件が必要になりますが、承認されれば人事異動の際の諸手続き(被保険者の資格取得届・喪失届の提出)も不要になるので、効率的な運営が可能となります。
一括適用の申請を行うには「一括適用承認申請書」だけではなく、それ以外に会社の人事管理のフローチャートを書類にまとめ、年金事務所へと提出する必要があります。
このチャートは、
の6種類分を用意しなければなりません。ただし、すべての書類がすべて同じチャートで作成・管理されている場合は、1枚にまとめてもかまいません。
また同様に被保険者の資格の確認および保険証の交付の処理過程をチャートにまとめたものも提出してください。提出後、一括適用が承認されるまでは3ヶ月ほどかかりますが、承認されればかなり効率的に事業所の運用が可能となります。
社会保険関連の書類に不備があると、その事業所の社会的信用に響くだけでなく、従業員とのトラブルにも発展しかねません。それは、法人の事業所でも個人の事務所でも同様です。
個人事業所の中には、身内だけで経営しているところもあるかもしれませんが、その場合でもこのような手続きはしっかりと行っておきましょう。従業員が安心して働くことができる環境をつくるのも、事業主としての努めです。
社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー 代表社会保険労務士:
楚山 和司(そやま かずし) 千葉県出身
株式会社日本保育サービス 入社・転籍
株式会社JPホールディングス<東証一部上場> 退職
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