社会保険労務士法人岡佳伸事務所 代表 特定社会保険労務士
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開業社会保険労務士として活躍。各種講演会(東京商工会議所練馬支部、中央支部、公益社団法人東京ビルメンテナンス協会)講師及び各種WEB記事執筆、日経新聞、女性セブン等に取材記事掲載、NHKあさイチ2020年12月21日、2021年3月10日にTVスタジオ出演。
特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
従業員が急に退職したら、どの様な手続きが必要かご存知でしょうか?何かの拍子で「今日付で退職します。明日から出社しません」と言われて、退職願も提出されず、保険証も回収できなかったとしたら…。
そのようなときにも慌てずに手続きができるように、年金事務所への手続きのポイント、退職の意思は口頭のみで良いのかどうか、従業員から未払い分の給与の請求があった際の対応方法等を解説して行きます。
目次
退職願を提出せずに口頭のみの意思表示でも法律上は有効となります。しかし、ここで問題なのは、後に退職の有無についてトラブルが発生する可能性があることです。退職の意思は必ず書面に残してもらいましょう。
退職の意思表示を口頭で伝えられた場合、会社側は以下の二つの方法で対処します。
口頭で退職の意思表示がされた後、退職願を提出してほしいと伝えても本人が書面での提出に応じない場合もあるでしょう。そんなときは、口頭で退職の申し出がされた日に、本人より退職の意思表示がなされたものとして企業側が処理しても特に問題はありませんので、臨機応変に対応しましょう。
退職者から保険証を回収できない場合には以下の方法があります。
これは、資格喪失日から5日以内に届け出る必要があります。
「被保険者証回収不能届」や「被保険者証滅失届」も一緒に提出します。
このときに、なぜ回収できないのか、回収を催促した状況などを詳しく記入する「被保険者証回収不能届」も添付しましょう。その他、退職する者が保険証を無くしてしまっている場合は、「被保険者証滅失届」を資格喪失届に添付して提出します。
資格のなくなった健康保険証は使用できません。資格を喪失したときは必ず健康保険証を返却しなくてはいけない決まりになっています。70歳~74歳の方は、高齢受給者証も返却します。保険証は、退職する事業主へ返却することが義務付けられています。
離職票を作る際に、退職者からの署名と捺印がもらえない場合、どうすれば良いのか悩みますよね。退職する社員が離職票の記載内容を確認して押印するのが一番の方法です。退職者と、退職後も連絡を取ることができれば問題ないのですが、必ずしも連絡が取れるとは限りません。そんなときは代表者の印などいつも使っている事業主印で代印して提出可能です。
退職者本人の署名や捺印もなく、事業主印も捺印されていない書類は無効となりますので、注意してください。退職者の自己都合で退職する際は特に何の問題も生じないでしょう。
受領印は、通常、離職票発行の際に押印しますが、郵送による手続などの場合はあらかじめ押印しておくとスムーズでしょう。そして、離職理由ですが、基本手当が受給できる日数に影響してくる大切な記入箇所となりますので、後々何かしらのトラブルになるのを避けるためにも、「退職届・退職願」は必ず提出してもらいたいものですね。
退職者から賃金の給与の未払い請求の「内容証明」が届いた場合、これは法律的にも効力のある書類になり、会社側は未払いを認めなければなりませんので、その内容証明に不備がなければ早急に支払いを進めることが重要です。
退職者が労働基準監督署に申告した場合、裁判沙汰にまで進展してしまいます。その場合、未払い分だけでなく「損害遅延金」や「付加金」も同時に請求されます。スムーズな対応を心がけましょう。
労働基準法115条によると、給与や残業代は、請求できるときから2年間が経過すると請求権が無くなります。退職者が未払い給与を請求できるときから2年以上が経過していないかなども確認しておきましょう。
この2年間という時効が成立すれば未払い分の給料を支払う必要はなくなります。しかし、労働基準監督署の調査などが入った場合には、それも通用しません。他と同様に支払いをすることを迫られる場合もありますので注意しましょう。これは保険料を徴収する権利が2年間で時効となってしまうために強いられるものです。
急な退職者が出ると人事労務の担当者として戸惑うことも多いかと思います。しかし、退職の事実を確認して、年金事務所の手続きや未払い給与の清算等、一つ一つの手続きを順番に行って行きましょう。
多いトラブル事例としては退職者が新しい会社に就職したときに、前の会社の退職手続きが完了しておらず、新しい会社の資格取得手続きができないことがあります。法律で決められた期限までに着実にこなして行きましょう。