一億総活躍社会の実現のため、女性や高年齢者の社会進出を促す政策が推進されています。今後、60歳以上の高年齢者雇用を実施するうえで雇用対策や60歳以上の離職票、退職手続き、雇用保険の扱い、高年齢雇用継続給付の見直しを中心にご紹介します。
目次
65歳以上の労働者は「高年齢被保険者」として扱い、雇用保険が適用されます。そのため、60歳以上65歳未満の労働者と65歳以上の高年齢労働者を区別して、対応しなければなりません。
65歳未満の従業員は高年齢被保険者として扱われません。そのため、雇用保険の扱いは65歳以上がひとつの判断軸となります。いずれにしても従業員を雇用した際は、雇用した月の翌月10日までに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出しなければなりません。
雇用保険被保険者資格取得届のほかにも、以下の関連書類が必要です。
事業主は毎年6月1日に、高年齢者雇用の実態を記した高年齢者雇用状況報告書をハローワークに提出しなければなりません。
報告時期になれば、従業員20人以上の事業主に報告用紙が送付されます。高年齢者雇用状況報告書は郵送または電子申請でおこなえます。
高年齢被保険者の退職手続きは、雇用と同様に特別な手続きはありません。
65歳以上の高年齢者が離職、もしくは死亡などによって被保険者の資格を喪失した場合は「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」を提出します。
また添付資料として、以下の書類が必要です。
ただし、59歳以上を除いて、退職者の希望により離職票を不要とした場合、離職証明書提出する必要はありません。
厚生年金保険において、加入者が老齢基礎年金を受け取れる年齢が原則65歳に引き上げられたことにより、64歳未満の退職者のなかにはそのほかの企業に再就職を希望する場合が考えられます。
65歳以上の労働者も雇用保険の適用範囲に含まれるため、定年退職者も各給付金(高年齢求職者給付金や育児休業給付金、介護休業給付金、教育訓練給付金)を受給できます。そのため、本人の希望にかかわらず離職票を発行しましょう。
高年齢雇用継続給付とは、雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者を雇用する場合、60歳時点の賃金額が75%未満に減額された場合に最高で賃金額の15%に相当する額を支給する制度です。
令和7年度から、新たに60歳となる労働者への高年齢雇用継続給付の給付率が10%に変更されます。
現在、令和7年4月1日施行に向けて、65歳以上の高年齢者の70歳までの就業確保措置に対する支援を雇用安定事業に位置づけられています。
令和7年度の高年齢雇用継続給付の法改正 | ||
現行 | 令和7年4月1日以降 | |
給付率 | 賃金の原則15% | 賃金の原則10% |
高年齢雇用継続給付金は、事業所を管轄するハローワークに支給申請することで受給できます。
また、高年齢雇用継続給付には2種類あります。
両者には以下の違いがあります。
高年齢雇用継続給付 | ||
種類 | 対象者 | |
高年齢雇用継続基本給付金 | 雇用保険を受給していない従業員 | |
高年齢再就職給付金 | 雇用保険の受給中に再就職した従業員 |
高年齢雇用継続給付は、原則として事業主が手続きをおこないます。ただし、被保険者本人が希望する場合は本人の申請が認められます。
初回の高年齢雇用継続給付手続きには、以下の書類を提出します。
2回目以降の高年齢雇用継続給付申請では、以下の書類が必要です。
初回の支給申請手続き後にハローワークから交付される書類
初回の申請書に記載した支給対象月に支払われた賃金の額および賃金の支払い状況などを確認できる書類
詳細は、厚生労働省が公表しているQ&A~高年齢雇用継続給付~をご確認ください。
少子高齢化による人口減少や深刻な人手不足の解消に向けて、高年齢者の積極的な労働参加が求められています。そのため、今後、事業主には以下の対応が求められます。
高年齢者雇用安定法の改正により、定年年齢を65歳未満と設定している事業主は
のいずれかの実施が義務化されました。そのため、事業主は高年齢者の雇用を積極的におこなわなければなりません。
解雇・離職を予定している45歳以上65歳未満の従業員が本人の再就職援助を希望した場合、事業主は援助に必要な措置の実施に努力しなければなりません。また、その際に「求職活動支援書」を本人に交付する必要があります。
今後、高年齢労働者が増えるにつれて、事業主には以下の2点が求められています。
高年齢者の働きやすい職場づくりには、作業設備の改善や高年齢者の職域拡大、短時間勤務などの雇用形態の多様化、雇用管理制度の改善があたります。
高年齢者雇用を推進するために、政府はさまざまな支援策を用意しています。
特定求職者雇用開発助成金とは、ハローワークなどの紹介を経由して、60歳以上の就職困難者を採用した事業主に支給される助成金です。60万円から最大240万円までの助成金を受け取れます。
特定求職者雇用開発助成金とは、ハローワークなどの紹介を経由して、60歳以上の高年齢者を採用した場合に支給される助成金です。50万円から70万円までの助成金を受け取れます。
65歳超雇用推進助成金とは、60歳以上の労働者の継続雇用促進や高年齢者評価制度等雇用管理改善、高年齢者無期雇用転換といった高年齢雇用を促進する取り組みを実施した際に受け取れる助成金です。
高年齢者雇用の手続きには、65歳以上の労働者は「高年齢被保険者」として扱い、雇用保険の加入手続きをおこなわなければなりません。また、事業主は高年齢者雇用の実態を記した高年齢者雇用状況報告書を期限までにハローワークへの提出が必要です。
高年齢者の退職手続きでは、65歳以上の労働者も通常の労働者と同様の退職手続きをおこないましょう。ただし、59歳以上の退職者における継続雇用促進の観点から対象者の希望にかかわらず、離職票を発行することが望ましいといえます。
高年齢雇用継続給付とは、雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者を雇用する場合、60歳時点の賃金額が75%未満に減額された場合に最高で賃金額の15%に相当する額を支給する制度です。(令和7年度より給付率10%に改正)。
今後、高年齢者雇用が拡大されるなか、事業主には65歳未満の労働者を対象とした雇用機会の確保や支援措置の実施、労働環境の整備が求められます。
1984年生まれ。社会保険労務士。
都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談(病院側・労働者側双方)や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名以上。独立後は年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。
詳しいプロフィールはこちら