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2023年4月から雇用保険料引き上げ!計算方法や変更点を解説

2023年4月から雇用保険料引き上げ!計算方法や改定理由を解説

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雇用保険の被保険者が支払う雇用保険料は「賃金」と「雇用保険料率」を掛けて決まります。

雇用保険料率は毎年4月1日から改定されることが一般的ですが、2022年は例外的に4月と10月に段階的に雇用保険料率の引き上げが実施されました。

そして2023年4月1日からも、雇用保険料率の引き上げがおこなわれています。今回はそんな雇用保険料率に引き上げについて、引き上げの背景や理由、2023年現在の雇用保険料率、雇用保険料の計算方法などについて解説します。

この記事でわかること

  • 2022年と2023年の雇用保険料率の引き上げについて
  • 雇用保険料率の計算方法
監修者
難波 聡明

なんば社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士
https://www.namba-office.osaka.jp/

ワークスタイルコーディネーター。社会保険労務士
社会保険労務士の中でも10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛けるの社会保険労務士。

雇用保険料・雇用保険料率とは?

雇用保険とは、労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進のために、失業された方や教育訓練を受けられる方等に対して

  • 失業等給付の支給
  • 失業の予防
  • 雇用状態の是正及び雇用機会の増大
  • 労働者の能力の開発及び向上
  • その他労働者の福祉の増進等

をはかる保険制度です。労働者を1人でも雇用する事業(適用事業)、および適用事業に雇用され加入条件を満たす全ての労働者は、原則として強制的に雇用保険に加入しなければいけません。

そして雇用保険に加入する者は、雇用保険の掛け金である「雇用保険料」を支払います。雇用保険料は事業主(会社)と労働者の双方が負担をし、労働者側は給与から天引きされる形で納付します。

雇用保険料率とは

雇用保険料を算出するために用いる割合が「雇用保険料率」です。労働者に支払う賃金と雇用保険料率を掛けて、雇用保険料を計算します。

なお雇用保険料率は、事業主側が高く設定されています。

2022年・2023年に雇用保険料率が引き上げに!

2022年は4月と10月に段階的な引き上げを実施

雇用保険料率は毎年4月に改定されます。そのたびに給与計算の担当者は、雇用保険料の計算を見直す必要があるでしょう。

2022年3月には国会で「雇用保険法等の一部を改正する法律案」が成立し、同年4月から第1段階の引き上げ、同年10月から第2段階の引き上げが実施されました。引き上げの背景は、雇用調整助成金の大規模支出によるものだと言われています。

そして今年(2023年)の4月1日からも、雇用保険料率のさらなる引き上げがおこなわれています。2022年10月からの雇用保険料率の引き上げの推移は、以下のとおりです。

雇用保険料率
2022年10月~
2023年3月
1.35%
2023年4月~
2024年3月
1.55%

2023年4月1日~の雇用保険料率の引き上げのポイント

では、2023年4月1日から雇用保険料率はどう変わったのでしょうか。以下に、今回の引き上げのポイントをまとめてみました。詳しい雇用保険料率については、後述します。

雇用保険料率が引き上げられる背景・理由

雇用保険料率が引き上げられる背景・理由は、主に以下の2点が挙げられます。

雇用調整助成金とは、休業する従業員に対する手当を支払う際に利用できる助成金です。雇用調整助成金は新型コロナウイルス蔓延の影響で、2020年より助成率と上限額を引き上げる措置が設けられています。

新型コロナウイルスによる休業を余儀なくされた企業は数多く、雇用調整助成金の申請数も増加し続けた結果、2021年12月時点で支給総額が5兆円を超え、雇用保険財政が急激に悪化しました。政府は、財政状況改善のため雇用保険料率の引き上げをおこなったこととなります。

失業手当に関しても、新型コロナウイルスの影響で失業者が増加したことで支給数が増えており、財政悪化から雇用保険料率引き上げによる財源確保が求められています。

引き上げ後の雇用保険料率は何%?2022年と2023年を比較

2023年4月1日~2024年3月31日の雇用保険料率

雇用保険料率は、事業所の業種によって異なります。2023年現在適用されている業種ごとの雇用保険料率は、以下のとおりです。

業種 (1)労働者負担 (2)事業主負担 (1)+(2)の雇用保険料率
一般事業 0.6% 0.95% 1.55%
農林水産・清酒製造の事業 0.7% 1.05% 1.75%
建設事業 0.7% 1.15% 1.85%

なお事業主負担の雇用保険料率は、

  • 失業等給付の保険料率
  • 雇用保険二事業の保険料率

に分けられます。各業種ごとの事業主負担の保険料率は、以下のとおりです。

業種 (1)失業等給付
の保険料率
(2)雇用保険二事業の保険料率 (1)+(2)の
事業主負担
一般事業 0.6% 0.35% 0.95%
農林水産・
清酒製造の事業
0.7% 0.35% 1.05%
建設事業 0.7% 0.45% 1.15%

2022年の雇用保険料率の推移

前述のとおり2022年には、段階的に雇用保険料率の引き上げが実施されました。2022年4月~9月と2022年10月~2023年3月で、どのように推移していったかは下記の表を参考にしてください。

2022年4月1日から2022年9月30日の雇用保険料率

業種 (1)労働者負担 (2)事業主負担 (1)+(2)の
雇用保険料率
一般事業 0.3% 0.65% 0.95%
農林水産・
清酒製造の事業
0.4% 0.75% 1.15%
建設事業 0.4% 0.85% 1.25%

事業主負担については、以下のとおりです。

業種 (1)失業等給付
の保険料率
(2)雇用保険二事業の保険料率 (1)+(2)の
事業主負担
一般事業 0.3% 0.35% 0.65%
農林水産・
清酒製造の事業
0.4% 0.35% 0.75%
建設事業 0.4% 0.45% 0.85%

2022年10月1日から2023年3月31日の雇用保険料率

業種 (1)労働者負担 (2)事業主負担 (1)+(2)の
雇用保険料率
一般事業 0.5% 0.85% 1.35%
農林水産・
清酒製造の事業
0.6% 0.95% 1.55%
建設事業 0.6% 1.05% 1.65%

事業主負担については、以下のとおりです。

業種 (1)失業等給付
の保険料率
(2)雇用保険二事業の保険料率 (1)+(2)の
事業主負担
一般事業 0.5% 0.35% 0.85%
農林水産・
清酒製造の事業
0.6% 0.35% 0.95%
建設事業 0.6% 0.45% 1.05%

雇用保険料率の引き上げが与える影響

雇用保険料率の引き上げによる影響は、保険料率が高い事業主側だけではありません。従業員側にも影響が出る可能性があります。

企業側に与える影響

雇用保険料率引き上げが企業側に与える影響は、主に以下の2点です。

まず、雇用保険料率が引き上げられれば、当然企業が支払う雇用保険料も増えます

例)月収20万円の従業員を雇っている場合

2023年4月1日から企業が支払う雇用保険料は月々1,900円です。2023年3月31日までの雇用保険料は月々700円だったため、1,200円の増額となります。

1名あたりの金額は少なくとも、多くの従業員を雇っていればそれだけ支払う保険料負担も大きくなります。今後も雇用保険料が増加する可能性もあるため、企業の経営に大きな影響を与えるでしょう。

また、企業は支払う雇用保険料を下げるため、雇用保険に加入しなければならない正規雇用の労働者を減らさざるを得ない可能性もあります。

従業員側に与える影響

雇用保険料率引き上げが従業員に与える影響は、主に以下の2点です。

企業側と同様、正規雇用の従業員も雇用保険の加入義務があるため、支払う雇用保険料が増額します。雇用保険の加入対象者について詳しく知りたい方は「雇用保険の加入条件は?」の記事を参考にしてください。

雇用保険料の支払いが増えれば、それだけ手元に残る収入は少なくなるでしょう。雇用保険料率がこのまま上昇すれば、家計のやりくりもこれまで以上に厳しいものとなります。

雇用保険料の計算方法のポイント

賞与が発生する月は給与とは別に雇用保険料を計算する

給与だけでなく、賞与にも雇用保険料が発生します。賞与にかける雇用保険料率は毎月の給与と同じです。しかし、雇用保険料の計算は給与と賞与それぞれでおこなわなければならないため、賞与が発生する月は注意しましょう。

賞与が発生した月の雇用保険料の計算

誤:(毎月の給与+賞与)× 雇用保険料率
正:(毎月の給与 × 雇用保険料)+(賞与 × 雇用保険料率)

端数が生じる際の端数処理方法に注意

雇用保険料は「賃金総額×雇用保険料率」で求めます。その際に端数が出てしまうことがあるでしょう。1円未満の端数が生じた際の取扱いについては、下記のとおり端数処理をおこないます。

端数処理とは

算出した賃金総額は千円未満を切り捨てる、保険料は1円未満を切り捨てる処理を指します。

50銭以下 50銭1厘以上
被保険者負担分を賃金から源泉控除する場合 切り捨て 切り上げ
50銭未満 50銭以上
被保険者負担分を被保険者が事業主へ現金で払う場合 切り捨て 切り上げ

ただし、慣習的な取扱いなどの特約がある場合はそれに応じた処理が可能です。

端数処理は、雇用保険料の徴収方法によって異なる点に注意をしましょう。

まとめ

雇用保険は強制保険制度であり、労働者を雇用する事業(会社)および要件を満たす労働者には雇用保険の加入義務が発生します。基本雇用保険料率は毎年4月に改定されるため、年度更新のタイミングで確認しましょう。

給与計算の担当者は、雇用保険料率の改定後に雇用保険料の計算方法を見直す必要があるため、注意が必要です。

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