この記事でわかること
- 年度更新の全体の流れ
- 各種書類の入手先と作成方法
- 年度更新における注意点
この記事でわかること
労働保険料は、次年度一年分の保険料を仮払いします。そのため、実際の保険料と仮払いした保険料差が生じることがあり、この過不足を精算することが必要です。
保険料の過不足精算をおこなうことが「年度更新」といい、また年度更新では新たに次年度の保険料の仮払いもおこないます。年度更新の期間は6月1日~7月10日の間です。今回は労働保険料の年度更新(継続事業:一般の業種)について、解説します。
目次
年度更新とは、事業主が前年度の保険料を精算するためにおこなう手続きのことをいいます。手続きには「確定保険料の申告・納付」「新年度の概算保険料を納付するための申告・納付」が必要です。
労働保険料の申告は、所管の労働局から事業主宛に労働保険料申告書が送付された際に、前払いした労働保険料に過不足がないかの確認から始まります。
年度更新の主な流れ
賃金集計表(確定保険料算定基礎賃金集計表)とは、労働保険の確定保険料を求めるために必要となる賃金総額の集計表です。集計表の提出は必要ありませんが、申告書を作成する際の根拠となるため、年度更新申告関連書類として事業所にて保管します。
また賃金集計をおこなう際は、厚生労働省の「年度更新申告書支援ツール」を使用すると便利です。
通常、毎年5〜6月頃に労働基準監督署から事業所宛に「申告書類」が届きます。申告書類が届いたら内容物を確認し、
を確認します。賃金集計表をもとに、労災保険と雇用保険のそれぞれの金額と保険料率を記載します。
書類が完成したら、雇用保険と労災保険の加入対象者に、前年度1年間に支払った賃金総額を記入した労働保険料申告書を提出します。
提出方法 | ・窓口 ・郵送 ・電子申請 |
---|---|
提出先 | ・金融機関 ・労働基準監督署 ・労働局 ・社会保険・労働保険徴収事務センター |
提出期限 | 7月10日まで |
提出方法は、窓口、郵送、電子申請のいずれかの方法により、提出期限は原則7月10日までです。申告書の提出先は、事業の種類が「一元適用事業」か「二元適用事業」かによって異なります。
一元適用事業とは、労災保険と雇用保険の両保険料の申告および納付を一元的に取り扱う事業で、一般的に多くの事業が一元適用事業に該当します。
二元適用事業とは、労災保険と雇用保険の適用を区別する必要があるため、保険料の申告および納付を個別に取り扱う事業で、主に農林水産業や建設業などが二元適用事業に該当します。
一元適用事業の提出先は、所轄の労働基準監督署です。二元適用事業の提出先は、労災保険については所轄の労働基準監督署、雇用保険については所轄の労働局となります。
年度更新で必要な書類
労働保険概算保険料申告書は、その年度に労働者に支払う見込みの賃金総額を記入します。加入条件を満たす被保険者の見込み賃金を算出し、労災保険料率、雇用保険料率に従って、各保険料を算出し記入します。
労働保険概算保険料申告書の記入項目
初めて年度更新手続きをおこなう場合「保険関係成立届」を提出します。
次年度1年分の労働保険料を前払いで支払う保険料のことを指します。事業が開始時や年度の初めに、保険年度内に支払われる賃金総額の見込額に、保険料率をかけて算定する保険料です。
保険年度中に支払われる賃金総額の見込額とは、前年度中の賃金総額から算出されます。ただし、前年度の賃金総額から算出する際に、保険料率に変更があると、確定保険料と概算保険料の額が異なります。
企業が労働者に対して賃金・手当・賞与など、労働の対償としての支払いで、税金、社会保険料等を控除する前の支払総額のこと。
3月31日の保険年度末までに確定している賃金(支払いがすでに確定している賃金も含む)。
確定保険料算定基礎賃金集計表には、前年度の賃金台帳(パートタイム・アルバイトを含むすべての労働者)が必要です。
▼確定保険料算定基礎賃金集計表
確定保険料算定基礎賃金集計表を利用することで、簡単に労働保険料の算出が可能です。確定保険料算定基礎賃金集計表を作成する手順は、以下のとおりです。
確定保険料算定基礎賃金集計表の
作成手順
確定保険料は、前年度(前年4月〜今年3月)に支払った賃金総額に保険料率(労災保険料立・雇用保険料率・一般拠出金料率)をかけて算出します。
労働保険料(労災保険・雇用保険)ともに、一括で納付します。労働保険概算保険料申告書・確定保険料申告書は、所管の労働基準監督署などに提出します。提出期限は6月1日~7月10日までです。
特例で期限が延びる場合があります。
提出後、納付書により最寄りの金融機関から労働保険料を納付して完了です。
納付料が40万円以上、または労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合、7月、10月、1月の分納が可能です。
労働保険料は、一定の条件を満たした場合、延納(分納)が認められています。
労働保険の概算保険料額が、40万円※以上の場合、または労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合は、労働保険料の納付を最大3回に分けて延納が可能です。延納可能回数は、労働保険関係の成立時期によって決定されます。
労災保険か雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は20万円
労働保険の年度更新は、電子申請によりおこなうことも可能です。
電子申請は、インターネット環境が整った場所であれば申請が可能であるため、提出のために出向く必要がありません。
また、24時間いつでも申請が可能なため、移動時間や拘束時間に縛られることなく効率的に申請がおこなえます。電子申請をおこなう場合、保険料も電子納付によって納めることが可能です。
電子申請は、e-Gov(電子政府の総合窓口)を利用しておこない、PCと電子証明書が必要となります。PCは、e-Govの動作環境を満たしたブラウザとe-Gov電子申請アプリケーションのインストールが必要です。
電子証明書は事前の取得が必要であり、マイナンバーカードを利用する場合は、ICカードリーダーも必要となります。
電子申請の主な流れは以下のとおりです。
電子申請の進め方
2023年(令和5年)の労災保険料率は、2022年度(令和4年)と変更ありません。
しかし雇用保険料率は、2023年(令和5年)4月から料率が変更されています。
業種 | 雇用保険料率 |
林業 | 60/1,000 |
---|---|
漁業(海面漁業) | 18/1,000 |
建設事業(道路新設事業) | 11/1,000 |
食料品製造業 | 6/1,000 |
化学工業 | 4.5/1,000 |
金属材料品製造業 | 5.5/1,000 |
その他の製造業 | 6.5/1,000 |
交通運輸事業 | 4/1,000 |
電気・ガス・水道 | 3/1,000 |
一部抜粋
2023年4月1日から2024年3月31日の雇用保険料率は以下となります。
(1)労働者負担 | (2)事業主負担 | (1)+(2)の雇用保険料率 | |
一般事業 | 6/1,000 | 9.5/1,000 | 15.5/1,000 |
---|---|---|---|
農林水産・清酒製造の事業 | 7/1,000 | 10.5/1,000 | 17.5/1,000 |
建設事業 | 7/1,000 | 11.5/1,000 | 18.5/1,000 |
(1)失業等給付の保険料率 | (2)雇用保険二事業の保険料率 | (1)+(2)事業主負担 | |
一般事業 | 6/1,000 | 3.5/1,000 | 9.5/1,000 |
---|---|---|---|
農林水産・清酒製造の事業 | 7/1,000 | 3.5/1,000 | 10.5/1,000 |
建設事業 | 7/1,000 | 4.5/1,000 | 11.5/1,000 |
労働保険の年度更新をおこなう際は、以下の点に注意しましょう。
年度更新の申請書類を作成する際は、複雑な計算が必要です。特に、保険料率の改定がおこなわれた年の計算は、正しい料率で計算するように注意しましょう。
労働保険対象賃金には基本賃金のほか、賞与や通勤手当などが含まれます。一方で傷病手当、出張にかかる旅費などは含まれません。どのような賃金・手当・賞与が対象となるかを確認しましょう。
事業主が保険料を正しく申告しない場合、懲罰的金銭として追徴金が科せられる場合があります。追徴金は、確定保険料の額またはその不足額に対して10%の割合で徴収されます。
労働保険の年度更新は毎年おこなう定型労務業務のひとつです。その年度で設定された雇用保険料率と労災保険料率、対象となる雇用している労働者数を把握して、期限内までに報告・納付しなければなりません。
社会保険労務士の中でも、10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛ける特定社会保険労務士/ワークスタイルコーディネーター。なんば社会保険労務士事務所の所長。
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