近年は労働者の権利意識とともに企業側のコンプライアンスも向上し、長時間労働などの労働環境の悪習が見直され始めています。
しかし、それに伴い人事・労務担当者の業務上の悩みも増えていることでしょう。そこで今回は、「配転(従業員の配置変更)」のなかでも「単身赴任」と「単身赴任手当」に焦点を絞り、その法的根拠とともにご説明します。
日本大学卒業後、医療用医薬品メーカーにて営業(MR)を担当。 その後人事・労務コンサルタント会社を経て食品メーカーにて労務担当者として勤務。
目次
企業が労働者を配転するにあたり、問題となる点は「配転命令権の行使の権利の乱用になるかどうか」です。
企業における「配転」は多くの職場や仕事を経験させて人材育成を行う、あるいは企業内で人員配置を調整し、従業員の雇用を維持することを目的として行われます。
適法な配転を行うためには、次の2つの要件が必要です。
就業規則の整備などを行い、法的に従業員に配転を命じる権利を有することを意味します。
配転命令権の行使の濫用に当たるかどうかについては、判例法理で確立している3つのポイントをもとに判断します。
業務上必要な配転か
不当な動機や目的をもってなされた配転か
労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせているか
上記のうち1と2に関しては適正であれば問題ありませんが、3の「不利益」についてはその大きさについての考え方が判断のポイントとなります。
たとえば、単身赴任でその家族の介護や看護に影響を与えてしまう場合、権利濫用と判断されやすく、単身赴任になるという理由では権利濫用とはならない、という見方となります。
つまり配転については、最近特に注目されている仕事と家庭の両立、育児や介護等がかかわるケースで、特定の配慮が必要かどうかを慎重に判断しなければならないということになります。
単身赴任時の代表的な手当は3つあります。まずは「単身赴任手当」について説明します。
<単身赴任手当とは?>
一般的に知られている単身赴任時の手当で「別居手当」とも言います。これは「転勤によりやむを得ず家族と別居しなければならなくなったため」という理由で支給されます。たとえば、子供の学校や受験、持ち家の管理、老親や病人の介護などが理由で家族と別居を余儀なくされるケースなどが当てはまります。
またその金額については、一律定額とする方法や転勤先、家族が住む住居との距離、役職などから決める方法など、会社によってさまざまです。
単身赴任先の土地では、労働者が新たに住居を借りて住むことになります。そのとき、会社が出す手当が「家賃補助」です。
<家賃補助とは?>
いわゆる「住居手当」と呼ばれるもので会社により名称はさまざまです。一般的には住居を借りた家賃の一部を会社が負担するという形になりますが、負担方法には大きくわけて2つの方法があります。
・社員自らが借りた物件の家賃を補助する
・会社が借りた社宅に住まわせる
なお、この際の家賃設定により事実上非課税とする方法もあります。詳しくは国税庁のホームページをご覧ください。
単身赴任者には「帰省手当」も支給されます。
<帰省手当とは?>
単身赴任後に自宅に帰るための交通費のことです。その支給方法は大きく分けて2つあります。
・定額を支給する
・領収書にもとづき実費を支給する
いずれの方法も、会社の就業規則にもとづき、該当者に手当を支給する形となります。
上記3種類の手当のほか、会社の就業規則に規定されることが多い手当の項目として、引っ越しに係る一時金としての手当や光熱費に対する手当に加え、家族構成等をもとにする家族手当などがあります。
最後に単身赴任時に支給する手当の金額の参考として、国家公務員のケースをご紹介します。
国家公務員の場合、単身赴任手当は月額30,000円ですが配偶者の住居と赴任先住居の距離に応じて加算されています。また、住居に関しては27,000円を上限に住居手当が支給され、これに配偶者等が引き続き家賃を支払う必要がある場合は13,500円を上限として手当が加算されます。
また単身赴任手当のところでも説明したように、赴任先によっては地域手当などを支給します。
「配転」自体については一定の規制や配慮が求められますが、それに対する手当の支給はその項目や金額については任意となります。
一般的に、単身赴任する労働者には何らかの手当を支給する企業が多く見られます。
しかし他方で、単身赴任手当の規定そのものがない企業が存在することも事実です。とはいえ、各企業の支給可能な金額を考慮したうえで、単身赴任を必要とする仕事の重要性や、単身赴任者のモチベーション維持・向上に必要な対価を払うことについても考慮されるべきではないでしょうか?