転居をともなう転勤は、労働者の生活を一時的にせよ不安定にしかねないという点で、慎重に行うべきものです。労働契約や就業規則等により、転勤命令を発することができると解されていますが、はたしてどのようなケースでも通用するのでしょうか。
また、転居には諸々の費用がつきものです。会社負担か本人負担か、負担の配分がどの程度が妥当なのか。国内の現状をふまえながら明らかにしていきます。
目次
まず転勤(配転)命令として認められるケースと、権利濫用として否定される3要件について説明していきます。
長期雇用の多い日本では、より良い人材の育成を図るために配転が多いと言われています。
以下の場合には、労働者の同意なく配転を命じることができます。これらの場合、労働者側は基本的に配転(転勤)命令を拒否できません。
ただし配転命令で以下の場合は、権利濫用とされ無効になります。
使用者側が配転命令権を有する場合でも、権利濫用とみなされるケースもあります。配転命令が権利の濫用になるかどうかは、業務での必要性の有無による部分が大きいです。
また、配転になる社員の生活上の利益に及ぼす影響がどの程度か、配転を命じる動機・目的など、それらの内容から判断されます。実際、権利濫用だとして配転命令が認められなかった以下のような例が存在します。
これに反し、権利濫用にあたる不当な配転とは認められなかった事例もあります。
現地採用の職員や、転勤には応じられないということを初めに明確にしていた社員については、勤務地限定の合意が認められ、勤務場所を変更する場合は労働者の同意なく転勤を命じることはできません。
そして、当該企業で長期的にキャリアを形成していく雇用の場合は、勤務地は特定されていないと判断されるケースが多くなっています。これについては、以下のような事例があります。
「新日本製鐵事件」では、八幡製鉄所で採用された工員に対して遠隔の君津製鉄所に配転の命令を出された。裁判において、当該労働者は「現地採用された現場労働者であることから、特約のない限りは労働契約の内容として、勤務場所は八幡製鉄所と解すべき」であり、本件の転勤命令は労働契約の範囲を逸脱した無効なものとされた。
転勤費用については、独立行政法人労働政策研究・研修機構の「『企業における転勤の実態に関する調査』調査結果の概要」より、以下のような結果が出ています。
【内訳】
「転勤に関わる手当等はない」は「無回答」と併せても全体(n=1,852)の20%程度しかありませんでした。つまり、多くの企業が何らかの転勤費用を負担しているということになります。企業は、転勤に伴う費用、赴任時の一時的な費用や赴任期間中に継続的に発生する費用等を負担しているところがほとんどのようです。
また、同機構の別の調査(「企業における転勤の実態に関するヒアリング調査」)では、企業の転勤に伴う費用は増加傾向にあり、従業員のなかには、地域にかかわらず転勤をしたくないと考える者が相当数居るということも判明しています。
前述のような従業員の転勤に対する意識は、家族構成の変化や転勤に伴う私生活での摩擦などが考えられます。そういった事柄を解消して、勤務地を限定する制度やコース別人事管理制度等の導入を図る企業も増えつつあります。このような見直しを行うということが、今後の転勤に対する意識を変える重要なポイントになるでしょう。
人事異動の費用や転勤命令の法的根拠などについてご紹介しました。転居には様々な費用がかかってきますが、その費用を転勤する本人負担なのか、会社負担なのかということも重要になってきます。
転勤の可能性のある社員がいる場合は、そうした費用面のことも予め話しておくと良いかもしれません。
社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー 代表社会保険労務士:
楚山 和司(そやま かずし) 千葉県出身
株式会社日本保育サービス 入社・転籍
株式会社JPホールディングス<東証一部上場> 退職
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