従業員の労働時間を把握する大切な記録であるタイムカード。
2020年4月の労働基準法改正で、保管期間が5年間に変更されました。
2023年までは経過措置がありますが、今後の新保管期間への効率的な対応などを、わかりやすく解説します。
目次
タイムカードは、従業員の労働時間を把握する大切な記録です。
タイムカードを保管する理由は、
・法的な義務に基づく保管
・経営に活用する資料としての保管
の2つです。
タイムカードは、労働基準法により記録と保管が義務づけられています。
また労働基準監督署の調査の際に、タイムカードや時間外労働時間に関する資料の提出が求められます。
従業員ごとの労働時間を把握することで、
・従業員の健康管理に活用する
・増員が必要な部署を把握する
・従業員との雇用トラブル(給与や残業代の未払い訴訟など)時の客観的な資料とする
・雇用調整助成金などの補助金申請時の必要資料とする(申請時に不要でも、申請後の調査で提出を求められるケースもあります)
などに活用できます。
保管が必要なタイムカードとは、従業員の出退勤時刻を記録したものです。
公的には、『使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を使用者が確認し、これを記録する』書類となります。
つまり、単に1日何時間働いたか、ではなく、
・従業員ごとに、毎日の出勤時刻や退勤時刻を
・使用者が確認・記録
したタイムカードが必要となります。
労働基準法で作成と保管が義務づけられている労働関係書類として、「法定3帳簿」があります。
法定3帳簿とは、「労働者名簿」、「賃金台帳」、「出勤簿」の3つです。
タイムカードは、この3つのうちの出勤簿に該当するとされています。
法定3帳簿の法的な根拠は、次のとおりです。
帳簿の名称 | 労働基準法での明記 | 根拠条文 |
労働者名簿 | 明記あり | 労働基準法第107条 |
賃金台帳 | 明記あり | 労働基準法第108条 |
出勤簿 | 明記なし | 労働基準法第109条「その他労働関係に関する重要な書類」に含まれる(2017年1月20日厚生労働省策定『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』4 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置(5)労働時間の記録に関する書類の保存)及び労働基準法施行規則第54条 |
出勤簿については、労働基準法にその書類の名称が明示されていないため、労働基準法施行規則第54条に定められている書類として取り扱われていました。
2017年1月厚生労働省策定の『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』によって、労働基準法第109条に基づく保管が必要であることが明記されました。
タイムカードは、従業員の出勤・退勤時刻の記録です。
使用者が出勤・退勤時刻を確認し記録する方法としては、紙や電子的データなどの形態を問いません。
厚生労働省の例示としては、タイムカード、ICカード、PCの使用時間などがあげられています。
労働基準法では、タイムカードを含む労働関係重要書類の保管を怠った場合の罰則が定められています。
タイムカードを誤って紛失した場合や、保管期間を守らずに誤って廃棄した場合、労働関係の重要書類における保存義務に違反したこととされ、30万円以下の罰金が科されることがあります。
タイムカードは、労働基準法第109条による保管が必要な書類と明確化されているため、保管期間に違反した場合は、同法120条に該当することとなります。
紛失などの場合は、労働基準監督署からの行政指導である是正勧告で済むこともあります。しかしながら、是正勧告であっても、程度によっては社名が公表されることもあり、社会的な信用を失う可能性もあります。
また、労働基準監督署の調査の際に、タイムカードなどを提出できないと、経営上の管理能力に疑問をもたれます。
従業員との給与トラブルの発生時にも、タイムカードがなければ、適正な賃金を支払った根拠が証明できないこともあります。
経営上の不利益につながってくるため、タイムカードは適正に作成、保管することが必要です。
2017年1月20日厚生労働省策定の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によると、次のとおりです。
対象となる職場は、『労働基準法のうち労働時間にかかる規定(労働基準法第4章)が適用されるすべて事業場』です。
対象となる労働者は、『労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除くすべての労働者』です。
つまり、すべての従業員が対象となります。
アルバイトやパートタイムなどについても、労働基準法第4章が適用されるため、タイムカードを保管する必要があります。
派遣社員についても、派遣先におけるタイムカードの作成と保管が必要です。
派遣社員は、派遣先の職場で指揮命令を受けるため、派遣先企業が管理する必要があります。
また、派遣元が派遣社員に賃金を支払うために、派遣元も派遣社員の勤怠情報を記録する必要があります。
退職者についても、賃金請求債権の時効との関係で、タイムカードの保管が必要です。
タイムカードの保管義務の例外として、管理職などの管理監督者や、裁量労働制の従業員があります。
労働基準法において、使用者側で労働時間を管理しなければならない従業員とは、「管理監督者に該当する労働者とみなし労働時間制適用者以外」とされているためです。
しかしながら、管理職やみなし労働時間制の従業員でも、使用者側には勤怠管理義務があるため、タイムカードの保管義務がなくとも、雇用トラブルの発生時に備えて、一定期間は保管しておくことがおすすめです。
2020年4月の労働基準法改正により、保管期間の起算日が「最後に記入をした日」と明確化されています。
タイムカードを「最後に記入した日」とは「タイムカードを使用して賃金の計算をおこない支払が完了した日」です。
タイムカードにおける保管年数の起算日は、労働基準法施行規則の改正(2023年4月1日施行)により、
・記録の完結日
・賃金の支払日
のどちらかの遅い日と明確化されました。
たとえば、3月31日がタイムカードの最終記録日でも、賃金の支払い日が翌4月30日であれば、保管年数の起算日はどちらか遅いほうである4月30日となります。
なお、この改正の対象は、2020年4月以降に賃金支払義務が発生した分からです。
2020年3月分の給料であっても、3月分の給料支給日が2020年4月30日であれば、改正後の保管期間の起算日は4月30日となり、改正後の保管期間が適用されることに注意が必要です。
派遣社員の起算日は、最後に打刻した日ではなく、派遣契約終了日です。
派遣社員の勤怠管理は、派遣元で作成する派遣元管理台帳において管理され、最後の記録は派遣契約終了日となります。そのため、派遣社員のタイムカードの起算日は、派遣契約終了日とされます。
2020年4月の労働基準法改正と経過期間の定めにより、タイムカードの保管期間は、3年間(5年間が望ましい)、7年間となります。
2020年4月の労働基準法改正で、賃金支払日を起算日として、賃金請求権の消滅時効や付加金の請求期間、および、書類の保管期間が5年に延長されました。
今回は経過措置が設けられており、当分の間は保管期間3年でよいこととなっています。
そのため、2022年現在のタイムカードの保管期間は、改正前と同じ3年でも問題ありません。
2020年4月の改正労働基準法の経過措置により、当分の間は保管期間3年でも問題ありませんが、できれば5年間の保管が望ましいです。
今回の労働基準法改正時に、賃金請求権の消滅時効が5年間となっています。
退職金や給与の請求権が5年間残るため、記録となるタイムカードの保管についても5年間の保管が望ましいです。
賃金台帳が源泉徴収簿を兼ねている場合は、国税通則法により、タイムカードなどの勤務時間を証明する書類を含めて、確定申告期限(法定申告期限)の翌日から7年間が保管期間となります。
賃金台帳には労働時間数の記載が必要で、タイムカードは労働時間を証明する根拠書類とみなされる可能性があるからです。
賃金台帳を源泉徴収簿と兼ねる社内運用になっている場合は、注意が必要です。
タイムカードは労働時間を記録する重要な書類ですが、長期にわたる保管には、次のようにな管理コストが負担となります。
保管スペースが必要で、適切に管理する必要があるタイムカードは、勤怠管理アプリの導入などで、効率的に保管することができます。
勤怠管理システムの導入によって、次のようなメリットもあります。
勤怠管理などの労務管理改善のためのシステム投資はコストがかかりますが、公的な補助金制度があります。
タイムカードは従業員の勤務時間を記録する重要な書類であるとともに、さまざまな活用が可能ですが、運用や管理には負担がかかります。
タイムカードをシステム化し、給与計算と連動させることで、勤怠管理と給与計算のコスト削減と効率化を図ることができます。
適正な労務管理は、今後も重要な経営上のテーマの1つとなります。
バックオフィス業務のシステム化による、労務管理のコスト削減と効率化を同時に検討してみてはいかがでしょうか。
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