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「あの人だけ特別?」<br>〜芸能界で見たえこひいきと、公平な評価制度の作り方〜

「あの人だけ特別?」
〜芸能界で見たえこひいきと、公平な評価制度の作り方〜

「上司受けのいいキャラ」が評価される?

社労士として多くの職場を見てきた中で感じるのは、評価される人と実際に能力が高い人が必ずしも一致しない、ということです。
 
上司受けのいいキャラというのは、確かに存在します。愛嬌があって、飲み会に参加して、うまく立ち回れる人。
そういう人が評価されやすい職場は実際に多い。
でもそれは、本来の仕事の能力とはまた別の話です。

年功序列も、今の時代の流れには合わないと感じる場面が増えてきています。
長く在籍しているだけで評価が上がる仕組みは、若い世代には特に不公平感を生みやすい。
「頑張った分だけ認められたい」という感覚は、ごく自然なことだと思います。

では、どうすれば「納得感のある評価」に近づけるのか。
ここが、評価制度を考えるときの出発点です。

芸能界には「香盤表」があった

芸能界には「香盤表」というものがあります。
出演者全員の名前とスケジュールが書かれた表で、名前の順番が役の大きさ順になっています。
現場に入ると、自分が今回どの位置にいるかが一目でわかる。

私はそれを見て、悔しいとか不満だとか思ったことはあまりありませんでした。
今回の台本での自分の役割はここ、それだけのことだと割り切っていました。
役の大きさに応じた扱いの差は、ある意味わかりやすい基準でもありました。

ただ、現場での「扱いの差」は香盤表だけにとどまりません。
あるドラマの撮影で、某アイドル事務所の俳優とキスシーンがありました。
撮影が終わると、メイクさんがその俳優にウエットティッシュをさっと渡して唇を拭かせていました。
同じシーンに出ていた私には特に何もなく(笑)細かなところに差が出るのが現場というものでした。

もっとわかりやすかったのがCM撮影のときです。
大手企業のCMにメインで出演させてもらえることになり、現場にはテストのときだけ私の代わりに立ってくれるスタンドイン(代役)の方がいました。
カメラやライティングの調整など、本番前の準備をすべてその方が担ってくれて、私は本番だけ登場すればいい。

当時は「この差はなんだろう」と思っていました。
でも冷静に考えれば、メイクさんも衣装さんも、次の仕事につなげたいのであれば売れている人を大切にするのは自然なことです。
感情ではなく、利害関係として動いている。職場の「えこひいき」に見えるものの多くも、実は似たような構造があると思っています。

でも職場はそう単純ではありません。「あの人だけ特別?」という声が出るとき、その背景には何があるのでしょうか。

上司は「好み」で判断してはいけない

評価の話をするとき、避けて通れないのが「上司の主観」の問題です。
感じがいい、言い方がうまい、愛嬌がある、そういった印象で評価が左右されることは、実際の職場でよく起きています。
上司も人間ですから、好みや相性が判断に入り込んでしまうのはある意味自然なことです。
でもそれをそのままにしておくと、「感じはいいけど仕事はイマイチな人」が高く評価されて、「感じはそこまでよくないけど仕事はできる人」が報われないという歪みが生まれます。

だからこそ、上司は意識して「好みで判断しない」ことが求められます。
感じのよさや言い方の上手さは、仕事の能力とは別の話です。
評価のときにそこを混同しないための仕組みを作ることが、公平な評価制度の根幹になります。

ただ、ここで一つ言わせてください。
「感じのいい人」が職場に必要ないとは、私は思っていません。
職場の空気を和らげる存在、場をつなぐ人、緩和剤のような役割を果たしてくれる人、そういう人も、チームには必要です。

仕事のできる人と、場をまとめる人、両方いてこそ職場は機能する。
大切なのは、その「感じのよさ」を正式な評価項目として言語化できているかどうかだと思っています。

評価制度を作る前に、やるべきことがある

評価制度を作りたいというご相談をいただくとき、私が必ずやることがあります。

まず、数字に表れない能力の洗い出しです。
売上や件数といった定量的な指標だけでなく、チームへの貢献、後輩へのフォロー、顧客との関係構築力――こういった「見えにくいけれど大切な力」を言語化することが、公平な評価制度の土台になります。

次に、その会社の業務を全部洗い出すことです。
どんな仕事があって、誰が何を担っているか。これを整理しないまま評価制度だけ作っても、現場の実態と合わない制度になってしまいます。

そして一番大切なのが、経営者が本当に何を必要としているかを引き出すことです。
「評価制度を作りたい」という言葉の裏に、どんな課題があるのか。優秀な人材を引き止めたいのか、頑張っている社員をきちんと報いたいのか、それとも別の課題があるのか。
ここをちゃんと聞かずに制度だけ作っても、機能しません。

実は、自社でも賞与の支給金額の計算基準となる評価基準を作ったことがあります。
そのとき実感したのは、基準を出したとたんに社員が動き始めた、ということです。
「何を頑張ればいいか」が明確になると、人はそこに向かって動けます。

人事評価制度規程

評価制度がいらない会社もある

実は、「評価制度は作らないほうがいい」とお伝えすることもあります。

以前、何店舗も経営されている飲食店のクライアントから相談を受けました。社員は皆まじめで、責任感が強く、問題なく働いてくれている。
そこに評価制度を入れることで、逆に余計なひずみを生む可能性があると感じました。
評価されることで生まれるプレッシャー、同僚との比較意識、「こんなに頑張ったのにこの評価か」という感情、こういった不満は制度がなかったときには存在しなかったものです。
制度を入れることで新たな不満が生まれることがあります。

その会社に必要だったのは制度ではなく、月に一度、一人ひとりと1on1で話す時間でした。
「最近どう?」「何か困っていることない?」そういう対話の積み重ねが、評価制度よりもよほど従業員のモチベーションにつながることがあるのです。

評価制度は、社員のモチベーションを上げるための道具です。
作ること自体が目的ではなく、「その制度が会社と社員の両方にとってプラスになるか」が問われます。
「あの人だけ特別?」という声が職場で聞こえてきたら、まず「何がどう評価されるのか」を言葉にして伝えることから始めてみてはいかがでしょうか?

 

奥村 優希
SAKURAOFFICE社会保険労務士法人 https://saku-sr.com/ 代表社員(港オフィス)

奥村 優希

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岐阜県出身。9歳でミュージカル『アニー』のケイト役として子役デビューし、約20年間芸能活動を行う。

母である社会保険労務士・奥村広美とともに法人を運営。約8年の社労士実務経験を持ち、人事労務セミナー講師、労務DD、IPO支援などを手がける。2026年4月には「一般社団法人士進会」を設立し、代表理事に就任。

2024年12月には電子書籍『20代開業社労士~人生を変えた社会保険労務士として生きる道~』を出版。「迅速かつ丁寧な対応」をモットーに、社労士業界の活性化に取り組んでいる。
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