
仕事と家事のリアルから、残業とのちょうどいい付き合い方を考える
〜固定残業代の仕組みと、正しい付き合い方〜
家事と仕事を両立しながら「自分、えらい」
クライアントとの打ち合わせが一日中続くような日は、帰宅したときにはかなりのエネルギーを使い果たしています。
そういう日に限って、帰ったら夕飯の支度や洗濯が待っている。
「今日はもう無理…」と思いながらも、やらなきゃいけないことはやらなきゃいけない。
働きながら家事もこなしているみなさんには、共感してもらえると思います。
私がたどり着いた解決策は、週末の作り置きです。土日に時間があるときまとめて作っておくと、平日はレンジで温めるだけで済む。
ほかにも、主菜と副菜を一つのフライパンで完結させて洗い物を減らす。具だくさんの汁物を作って一品で満足感を出す。ハンバーグは、ボウルを使わずフライパンの上でこねます。これだけで洗い物がぐっと減るんです(笑)。
こういう小さな工夫の積み重ねが、平日の自分を助けてくれています。

職場の仲間や友達に「家で何作ってる?」と聞くと、新しい時短レシピが増えます。
Instagramのレシピ動画も参考にしていて、「何作ろうかな」とワクワクする時間も楽しいです。
家事と仕事を両立しながら「自分、えらい」と思える瞬間を大切にしながら、毎日をなんとか回しています(笑)。
なぜ固定残業代という制度が生まれたのか
仕事と生活を両立する上で、切っても切り離せないのが「残業」の問題です。
定時で帰ろうと思っていても、気づけば残業していた、という経験は多くの方があると思います。
今回は「固定残業代(みなし残業代)」についてお話しします。この制度、実はそれほど古い歴史があるわけではありません。
2000年代以降、IT企業やベンチャー企業が急速に増える中で、「毎月残業時間が変わるたびに給与計算が大変」「採用募集で給与をシンプルに見せたい」というニーズが高まり、広まっていきました。
ただ同時期に、長時間労働や残業代の未払いが社会問題化します。
「残業代込みの給料です」という名目で、実質的にサービス残業を強いるブラック企業問題が表面化したのもこの頃です。
その反省から、固定残業代の有効性に関する裁判例が積み重なり、今日のような「明示・区分・超過払い」という要件が整備されてきました。
固定残業代は、残業しなくてももらえる?
よくある疑問から答えると、残業しなくても固定残業代はもらえます。
「〇時間分の残業代として月〇円を支払う」という取り決めなので、実際の残業時間がその時間に満たなくても、契約通りの金額が支給されます。

ただし、固定残業代が有効と認められるには条件があります。
基本給と固定残業代の内訳が雇用契約書や給与明細で明確に区分されていること、何時間分の時間外労働に相当するかが明示されていること、そして実際の残業時間がその時間を超えた場合に差額を追加で支払うこと。
この3つが揃っていないと、会社が追加で残業代の支払いを命じられる裁判例もあります。
40時間の固定残業で、本当に大丈夫ですか?
固定残業代を設計するとき、私がよくお伝えすることがあります。
固定残業を40時間に設定するなら、実際に40時間を超えた実績があった方がよいということです。
「うちは固定残業40時間にしているけど、実態はほとんど残業していない」という会社は、万が一のときに設計の合理性を問われるリスクがあります。実態に合った時間数を設定することが、会社を守ることにもつながります。
そして一番大切なのは、基本給と固定残業代をしっかり分けて明示することです。
「残業代込みで月30万円」という曖昧な設定は、固定残業代として認められないケースがあります。
何時間分の残業代が、いくら含まれているのか。ここを明確にすることが全ての基本です。
求人票で固定残業代を見かけたら、「何時間分か」「超過した場合は別途支給されるか」この2点を必ず確認してください。自社の求人でも、この2点が明示されていないと応募者に不信感を与えます。
固定残業40時間=40時間残業しろ、ではない
求人票に「固定残業代40時間分含む」と書いてあると、「毎月40時間残業させられるのか…」と身構える方も多いです。でも、必ずしもそういう意味ではありません。
固定残業代を設定している会社の中には、所得保障の観点からプラスの気持ちでつけているところも多くあります。
「実際の残業が少なくても、毎月安定した収入を保障したい」という会社の意図があるわけです。私のクライアントにもそういう会社があります。
たとえ実際の残業が1時間だったとしても、40時間分の固定残業代はそのまま支給されます。これは従業員にとって、収入が安定するというメリットになります。
一方で、評価されたい・成果を出したいと思うなら、めいっぱい働くのもありだと思います。それが正当に評価される環境かどうかを、入社前に見極めることが大切です。
インセンティブ手当との組み合わせには要注意
もう一つ、現場でよく見落とされているポイントがあります。
固定残業代と一緒に、インセンティブ手当(成果給)を支給している会社があります。ここに落とし穴があります。
割増賃金(残業代)の計算基礎となる賃金は、毎月変動する手当を含む場合、月ごとに金額が変わります。つまりインセンティブ手当が毎月変動すると、割増賃金の基礎も毎月変わるため、「固定」の残業代として成立しにくくなるのです。
たとえば、基本給20万円+インセンティブ手当(月によって3万円〜10万円)+固定残業手当5万円、という設計の場合。インセンティブが変動するため、固定残業手当の計算基礎も毎月変わってしまいます。これでは「固定」の残業代として認められないリスクがあります。
こういった場合は、インセンティブ手当と固定残業手当を切り離して設計することをお勧めします。
また、固定残業手当そのものが割増賃金の計算基礎に含まれる点も見落とされがちです。「固定残業代を払っているから大丈夫」と思っていても、設計が甘いと後から追加請求されるリスクがあります。
固定残業代があると、生産性が上がる?
ここで少し視点を変えてみます。固定残業代がついている場合、残業しない方が「得」になります。
たとえば固定残業代が40時間分ついていて、実際の残業が10時間で済めば、その差分の時間を自分のために使えます。
早く帰れた分だけ、生活が豊かになる。だから「いかに効率よく仕事を終わらせるか」を自然と考えるようになる。
固定残業代は、使い方次第で生産性向上のきっかけになるのです。本人次第ではありますが、時間に余裕が生まれ、自由度が上がります。
一方、固定残業代がない場合は、所定時間を少しでも超えれば残業代が発生します。すると「少し残って稼ごう」という、いわゆる生活残業が生まれやすくなります。
その気持ちは理解できますが、会社としてはコストが読みにくくなるというデメリットがあります。
どちらが正解というわけではありません。会社の文化や業種、働き方によって向き不向きがあります。
大切なのは、制度の意味を理解した上で、自社に合った設計をすることです。
会社と社員、双方を守るための制度設計を
最後に言わせてください。
固定残業代は、うまく活用すれば会社にとっても社員にとっても合理的な制度です。
でも「なんとなく入れている」「昔からそうだった」という運用では、いつかトラブルの火種になります。
制度の意味を理解したうえで、自社に合った設計をすること。それが会社と社員、双方を守ることにつながります。
エネルギーを使い果たした日も、作り置きのおかずが冷蔵庫にある安心感があれば、なんとか乗り越えられます。仕事も家事も、仕組みを整えることが一番の近道だと、日々実感しています。
社員の立場でも、自分の給与明細を見て固定残業代が何時間分含まれているかを一度確認してみてください。
「思っていたのと違った」を防ぐためにも、雇用契約書と給与明細の内容はしっかり把握しておくことが大切です。自社の設計に少しでも不安があれば、ぜひご相談ください。一緒に考えます。

母である社会保険労務士・奥村広美とともに法人を運営。約8年の社労士実務経験を持ち、人事労務セミナー講師、労務DD、IPO支援などを手がける。2026年4月には「一般社団法人士進会」を設立し、代表理事に就任。
2024年12月には電子書籍『20代開業社労士~人生を変えた社会保険労務士として生きる道~』を出版。「迅速かつ丁寧な対応」をモットーに、社労士業界の活性化に取り組んでいる。