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私が目指す上司像<br>〜部下を変える前に、上司ができること〜

私が目指す上司像
〜部下を変える前に、上司ができること〜

「善処します」という言葉

みなさんにとって、理想の上司は誰でしょうか?
ある調査では、男性は内村光良さん、女性は天海祐希さんが「理想の上司」として選ばれたそうです。
ちなみに、私にとっての理想の上司は、社会人になりたての頃にお世話になった Yさん と母です。
仕事の進め方だけでなく、「言葉の選び方」や「相手への伝わり方」まで丁寧に教えてくださいました。
その中でも、今でも忘れられない出来事があります。

社会人になりたての頃、取引先へのメールに「善処します」と書いてしまったことがあります。
「頑張ります!」という気持ちで使った言葉でした。
でも送信直後、CCに入っていた当時の上司のYさんから電話がかかってきました。
「善処しますって、どういう意味で使ったかな?」
純粋にがんばります、という気持ちで使ったと答えると、Yさんはこう言いました。
「善処しますって、不安な点はあるけれど頑張ってみます、というちょっとネガティブなニュアンスに聞こえるんだけど、僕が間違ってるかな?」

確かに、相手に不安感を与えかねない表現でした。すぐに取引先に電話して、言い方を変えてフォローしました。
あとから気づいたのですが、Yさんの伝え方には特徴がありました。「あなたが間違っている」ではなく、「僕が間違ってるかな?」という聞き方。
私が変なことをしていない前提で、そっと教えてくれていたのです。

無償の愛を感じる上司

Yさんはいつもニコニコしていて、私がミスをしても、頭ごなしに否定することは一度もありませんでした。
「あなたなら大丈夫」「何か理由があったんだよね」と、いつも私を信じることから始めてくれる人でした。
不思議なもので、人は信頼されると、その信頼に応えたくなります。
私もいつしか、「この人のために頑張りたい」と自然に思うようになっていました。

もう一つ、Yさんのことで忘れられない場面があります。
職場に、いわゆる「問題社員」と呼ばれるような人がいたときのことです。
周囲が対応に困る中、Yさんは怒ることも、遠ざけることもしませんでした。
「僕が面倒を見ます。」
温かく、静かに、そう言いました。すごいな、と思いました。

問題があると言われる人ほど、職場では敬遠されがちです。
でもYさんは、その人を「問題社員」という言葉だけで見なかった。面倒な人として遠ざけるのではなく、一人の人として向き合おうとしていました。
自分にとって都合がいい人だけを大切にするのではない。うまくできないときも、問題を抱えているときも、簡単に見放さない。
私は、そんなYさんの姿に、上司としての「無償の愛」のようなものを感じていました。

「無茶ぶりが人を育てる」

もう一人、私の上司像に大きな影響を与えた人がいます。母です。
母は、もともとあまり答えを教えない人でした。すぐに正解を与えるのではなく、問いかける。
私の負けず嫌いな性格もよく理解していて、「じゃあ、やってみたら?」と、うまく私をその気にさせる人でした。

そんな母の言葉で、今も忘れられないものがあります。
「無茶ぶりが人を育てる」。
一見、少し乱暴な言葉に聞こえるかもしれません。でも私は、この言葉の根底にあるのも「信頼」だと思っています。
「あなたならできる」と思っているから、あえて少し難しいことを任せる。できるかどうか分からなくても、「まずはやってみなさい」と背中を押す。

Yさんから教わった「信じて見守ること」と、母から教わった「信じて任せること」。
その二つは、今の私の仕事観、そして上司としての在り方に深く刻まれています。

信頼される側になって気づいたこと

今、私にも部下がいます。Yさんのことを改めて思い出したのは、自分が上司の立場になってからです。
もし部下が取引先に少し違和感のある表現を使っていたら、私はYさんのように自然に聞けるだろうか。頭ごなしに「それ、違うよ」と指摘してしまわないだろうか。

Yさんが教えてくれたのは、部下を動かすためのテクニックではありませんでした。「信頼している」という姿勢そのものが、相手の頑張る力になる。
私自身が部下を信頼しているからこそ、もし間違えたり、ミスをしたりしても、「きっと何か理由があったんだろう」と思えます。
普段できることができていないなら、私が仕事を振りすぎたのかもしれない。体調が悪いのかもしれない。何か言えない事情があるのかもしれない。
そして何より、上司としてまだまだ未熟な私についてきてくれていることに、日々、心から感謝しています。

そしてもう一つ、上司の大切な役目は、「失敗してもいい環境」をつくることだと思っています。
もちろん、実際に失敗してもいい環境をつくるのは簡単ではありません。お客様がいる仕事では、取り返しのつかないミスもありますし、上司として最終的な責任を負う覚悟も必要です。
だからこそ、いきなりすべてを任せるのではなく、どこまでなら挑戦してもらえるか、どこからは自分が支えるべきかを考える。失敗しても立て直せる範囲をつくり、その中で思いきり挑戦してもらう。

だから私は、部下には結構な「無茶ぶり」をします。それは、部下の力量を信じているからです。
私が母からしてもらったことを、今度は私が部下にしている。母から受け取った「相手の力量を信じて任せる」という姿勢が、少しずつ次につながっているのかもしれないと思いました。
以前、部下が「いろいろなことに挑戦させてもらえて感謝です」と言ってくれたことがあります。その言葉を聞いたとき、本当に嬉しかったです。

もし、信頼できない部下がいたとしたら

ここで一つ、正直に向き合いたいテーマがあります。
「どうしても信頼できない部下がいたら、どうするのか?」という問いです。
私は、それでもすぐにその人を「信頼できない人」と決めつけたくはないと思っています。
こんなことを書くと、「優希先生は部下に恵まれているから、そんなきれいごとが言えるんですよ!」と言われてしまうかもしれません。そう言われたら、元も子もないのですが(笑)
たしかに私は今、一緒に働くメンバーにとても恵まれています。だからこそ、こんなことが言えるのかもしれません。

私は、人は「鏡」だと思っています。
相手に対して強く感じる不満は、実は自分自身の至らない部分や、今の自分が向き合うべき課題を映していることがあります。
たとえば、パートナーに対して「最近、私の存在を当たり前だと思っていない?」「なんだかぞんざいに扱われている気がする」と不満を感じたとします。
でも、そんなときこそ少し考えてみる。
自分は本当に、相手を大切にできているだろうか。相手がいてくれることを当たり前だと思っていないだろうか。知らず知らずのうちに、自分も同じことをしていないだろうか、と。
私は、大体こういうとき、自分にも思い当たるところがある気がしています。

だから、部下に対して「なぜこの人はこうなんだろう」と思ったときも、相手ばかりに目を向けるのではなく、一度、自分にも目を向けてみたい。
私の伝え方は分かりやすかっただろうか。
期待していることを、きちんと言葉にしていただろうか。
相手の話を、ちゃんと聞けていただろうか。
そうやって自分自身を見つめ直してみると、「信頼できない」と思っていた相手の見え方が、少し変わることもあると思います。

もちろん、何でも許すことが信頼ではありません。必要な指導はする。守るべきルールは守ってもらう。仕事として向き合うべきことには、きちんと向き合う。
それでも、最初から「この人は信頼できない」と切り捨てるのではなく、まずは相手を知ろうとする。そして同時に、自分自身にも目を向けてみる。
信頼は、相手が完璧だから生まれるものではありません。自分だって完璧ではない。
それでも、お互いの足りないところを知り、補い合いながら関係をつくっていく。
私は、そんなところから信頼は始まるのかもしれないと思っています。

私はまだ、理想の上司にはなれていない

正直に言います。私はまだ、理想の上司には程遠いと思っています。
感情的になることもあるし、忙しさを理由に伝え方が雑になることもしょっちゅうある。後から「あの伝え方、よくなかったな」と反省することもあります。

それでも、目指している場所はあります。

信じて見守ること。部下の力量を信じて任せること。失敗できる環境をつくること。そして、会社の都合だけではなく、その人の人生や、その先まで考えること。

最後に、これだけは言わせてください!
信頼は、一朝一夕にはつくれません。でも、相手を信じようとすること、知ろうとすることは、今日からでも始められます。
いつか私も、誰かにとって「この人と働けてよかった」と思ってもらえる上司になれたら。そして私も「あなたと働けてよかった」と心から思える関係をつくっていきたい。
それが、今の私が目指す上司像です。

奥村 優希
SAKURAOFFICE社会保険労務士法人https://saku-sr.com/代表社員(港オフィス)

奥村 優希

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岐阜県出身。9歳でミュージカル『アニー』のケイト役として子役デビューし、約20年間芸能活動を行う。

母である社会保険労務士・奥村広美とともに法人を運営。約8年の社労士実務経験を持ち、人事労務セミナー講師、労務DD、IPO支援などを手がける。2026年4月には「一般社団法人士進会」を設立し、代表理事に就任。

2024年12月には電子書籍『20代開業社労士~人生を変えた社会保険労務士として生きる道~』を出版。「迅速かつ丁寧な対応」をモットーに、社労士業界の活性化に取り組んでいる。
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