
休むことは、前に進むこと
〜馬と海辺を歩いて考えた、有給休暇のこと〜
九十九里浜で、地球の丸さを感じた話
年に一度は仕事を休んで、乗馬を楽しむことにしています。
今年は九十九里浜で乗馬をしてきました。あいにくの曇り空でしたが、海辺を馬と一緒に歩くと、風を切る感覚がとても心地よく感じられました。
馬の上から水平線を眺めながら「あ、地球って本当に丸いんだ」と。海の向こうに地球の弧が見えたような気がして、急に自分がちっぽけに思えたというか。
「ああ、まあ、いろいろあるけど大丈夫か」と思えて、不思議と気持ちは軽くなりました。
ただ、乗馬は気持ちいいことばかりではありません(笑)。
軽速歩という、馬のリズムに合わせて上下する動きがあるのですが、タイミングが合わないと、お尻がかなり痛くなります。
なんとか自分の力で合わせようとしても、うまくいかない。
馬の動きを感じながら、こちらがリズムを合わせていくことが大切なんです。
馬と向き合う時間には、普段の仕事では得られない気づきがあります。
馬はとても正直な動物です。人間の緊張や焦り、感情の状態を、体の力み、呼吸の浅さ、手綱の握り方や乗り方から瞬時に感じ取ります。
うまく乗ろうと力めば力むほど、馬も硬くなる。焦っているときほど、馬は落ち着かない。逆に、こちらが呼吸を整えてリラックスすると、馬もふっとゆるむ。
「今日は馬の機嫌が悪い」と思う日は、実は自分が焦っているだけだったり。馬は自分の状態を映し出す鏡のような存在だと感じます。
相手のリズムを無視して力でねじ込もうとしても、うまくいかない。
これは職場のコミュニケーションにも似ていると思います。

上司が暇にしていることが大事
以前、ある研修で聞いた言葉が、ずっと印象に残っています。
「上司が暇にしていることが大事」
最初に聞いたときは、「暇にしているって、どういうこと?」と思いました。でも、話を聞いていくと、なるほどなと。
上司がいつも忙しそうにしていると、部下は相談したくても「今、話しかけていいかな」と遠慮してしまいます。
一方で、上司に少し余裕があれば、「ちょっと相談してもいいですか?」と声をかけやすい。
そうすると、仕事の進み具合や困っていることも、自然と共有されやすくなります。
もちろん、上司が何もせずに暇を持て余している、という意味ではありません。
部下の話を聞く余裕があること。
チーム全体を見る時間があること。
必要なときに、すぐに手を差し伸べられる状態でいること。
それも、上司の大切な仕事なのだと思います。
ドラマ『わたし、定時で帰ります。』では、吉高由里子さん演じる主人公・東山結衣は、残業ゼロ、定時で帰ることをモットーに働いています。
一方で、仕事にのめり込んでしまう人、会社に居場所を求めてしまう人、頑張っているのに空回りしてしまう人など、さまざまな働き方や仕事に対する考え方が描かれています。
単に「残業を減らそう」という話ではなく、そもそも何のために働くのか、自分や周りの人を大切にできているかを考えさせられるドラマです。
作中で、主人公が新人研修のときに社長から言われた言葉が印象に残っています。
「会社だけの人間になるな。人生を楽しめ。色んな人に会え。世界を広げろ。」
仕事だけが人生になってしまうと、周りが見えなくなったり、自分自身の余裕がなくなったりすることもある、と。
馬と一緒に海辺を歩いたときのことを思い出しました。馬は、こちらが焦っていたり、体に力が入っていたりすると、その状態を感じ取ります。
職場でも、上司の余裕や焦りは、言葉以上に周りに伝わるのかもしれません。
上司が「休まず頑張る」姿を見せ続けることが、本当にチームのためになっているのか。
仕事以外の時間を持つことも、良い仕事をするために大切なのだと思います。
……とはいえ、私自身、暇になんてできていないし、余裕のないところも見せちゃっていますけどね(笑)。
まだまだ理想には程遠いですが、いつかそんな上司になれたらいいなと思っています。
有休取得率66.9%!過去最高を更新
2024年の年次有給休暇取得率は66.9%。1984年以降で過去最高となりました(厚生労働省「就労条件総合調査」)。
10年前と比べても、取得率は着実に上がっています。これは喜ばしいことです。
ただ、取得率66.9%というのは、付与された有給休暇のうち、実際に取得された日数の割合です。まだ約3分の1の日数が取得されていない、という見方もできます。
政府は「2025年までに取得率70%」という目標を掲げていましたが、66.9%にとどまりました。
業種による差もあります。宿泊業・飲食サービス業の取得率は50.7%。一方、電気・ガス・熱供給・水道業は75.2%でした。業種によって、休みやすさに大きな差があるのが現状です。
また、2019年4月からは、年次有給休暇が10日以上付与される労働者について、会社は、付与日から1年以内に5日を取得させる義務があります。(労働者が自ら取得した日数や、計画年休で取得した日数も含めて5日です。)
ただ、「法律で決まっているから5日取らせればいい」という考え方だけでは、本当の意味で休みやすい職場にはならないのではないでしょうか。
大切なのは、必要なときに気兼ねなく休めること。
そして、上司も部下も、安心して休める職場の雰囲気をつくること。
取得率の数字だけでは見えない、「休みやすさ」にも目を向けていきたいと思います。
有休は「取らない」のではなく「取れない」?
有給休暇の制度は整っているのに、なかなか取得が進まない。そんな職場は、まだ少なくないのではないでしょうか。
「自分が休むと迷惑をかける」
「上司が休んでいないのに、自分だけ休むのは気が引ける」
「休んでいる間に仕事が溜まりそう」
こうした気持ちが、休暇の取得を遠ざけてしまうことがあります。有休を「取らない」ではなく、「取れない」環境になっているのかもしれません。
一方で、退職時に残っている有給休暇をまとめて取得するケースもあります。
普段はなかなか休めなかったのに、退職するときに初めてまとまった休暇を取る。
そんな状況を見ると、「有給休暇の本来の趣旨は、少し違うところにあるのではないか」と思うこともあります。
日々の疲れを癒やしたり、家族との時間を過ごしたり、自分の好きなことを楽しんだり。
有給休暇は、これからも働き続けるために、必要な休息を取るためのものでもあると思います。
仕事を頑張ることは大切です。でも、頑張り続けるためには、休むことも必要です。
だからこそ、従業員が「休んでも大丈夫」と思える職場であることが大切なのだと思います。
休みたいときに気兼ねなく「休みます」と言える環境をつくることが、会社に求められているのではないでしょうか。

会社としてできる具体的な取り組み
有休取得を促進するために、会社としてできることはいくつかあります。
一つ目は計画的付与制度の活用です。
年次有給休暇のうち、労働者が自由に取得できる5日を残したうえで、それを超える部分について、労使協定により取得日を計画的に定める制度です。
夏季休暇や年末年始と組み合わせることで、休みやすい仕組みをつくることができます。
二つ目は1on1での確認です。
上司が部下に「今年の有休、どのくらい消化できてる?」と個別に声をかけるだけで、取得率は大きく変わります。
制度として義務化するより、日常の会話の中でさりげなく確認する方が、部下も動きやすくなります。
三つ目は、管理者自身が率先して有休を取ることです。
「言うだけ言って自分は取らない」では、部下には伝わりません。
上司が実際に休んでいる姿を見せることが、職場文化を変える一番の近道です。
休むことは、サボりじゃない
ユダヤ教の「シャバット」という習慣を以前知って、印象に残っています。
シャバットとは、週に一度の安息日のこと。ユダヤ教では、金曜日の日没から土曜日の日没まで、仕事から離れ、家族と過ごしたり、祈りや学びの時間を持ったりするそうです。
「仕事が落ち着いたら休もう」「やることが終わったら休もう」と考えていると、仕事はいつまでも終わりません。
だからこそ、あらかじめ休む時間を決めておく。休むことを、生活の一部にしてしまう。
この考え方は、私たちの働き方にも取り入れられるのではないでしょうか。
仕事から離れる時間を意識的につくることは、心身を回復させ、再び仕事に向き合うための土台になるのだと思います。
最後に、これだけは言わせてください。
休むことは、サボりではありません。
有給休暇は、働く人の守られるべき大切な権利です。
仕事を頑張ることは大切ですが、頑張り続けるためには、休むことも必要です。
九十九里浜で馬と歩いている間、私はしばらく仕事のことを忘れていました。
海の音を聞いて、馬の温もりを感じて、ただその時間を楽しむ。そんな時間があるからこそ、また仕事を頑張ろうと思えるのだと思います。
ずっと走り続けていると、自分がどこに向かっているのか分からなくなることがあります。
だからこそ、時には立ち止まることも必要です。
「何もしない日」をつくること。仕事から離れ、自分自身を整える時間を持つこと。
それは、長く良い仕事を続けていくために、決して無駄なことではありません。
休みながら働く。それを当たり前にできる職場を、社労士として支援していきたいと思っています。
みなさんも、今年の有給休暇を、ぜひ年内に使ってみてくださいね。

母である社会保険労務士・奥村広美とともに法人を運営。約8年の社労士実務経験を持ち、人事労務セミナー講師、労務DD、IPO支援などを手がける。2026年4月には「一般社団法人士進会」を設立し、代表理事に就任。
2024年12月には電子書籍『20代開業社労士~人生を変えた社会保険労務士として生きる道~』を出版。「迅速かつ丁寧な対応」をモットーに、社労士業界の活性化に取り組んでいる。