この記事でわかること・結論
- ウェルビーイングの意味と職場・経営における考え方
- 大人の発達障害への配慮と働きやすい職場づくりのポイント
- 障害者雇用・合理的配慮とウェルビーイングの関係

この記事でわかること・結論
働きやすい職場を考えるうえで、「ウェルビーイング」という言葉を目にする機会が増えています。
ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態を幅広く捉える考え方です。職場においては、従業員が健康であることだけでなく、安心して働ける環境、人間関係、仕事への納得感、自分らしく働けることなども関係します。
また、働きやすさの感じ方は一人ひとり異なります。たとえば、大人の発達障害のある従業員は、曖昧な指示や急な予定変更、音や光などの刺激に困りごとを感じる場合があります。では、発達障害の当事者だけではなく、多様な従業員が働きやすい職場づくりのために必要な取り組みとはどのようなものでしょうか。
この記事では、ウェルビーイングの考え方や職場での具体例を整理したうえで、大人の発達障害への配慮、合理的配慮、障害者雇用制度との関係を人事労務の視点からわかりやすく解説します。
この記事の目次
ウェルビーイングは、英語の「Well-being」に由来し、「よい状態」「満たされた状態」といった意味で使われます。人事労務の文脈では、従業員が心身ともに健康で、周囲との関係性や仕事への納得感も含めて、よりよく働けている状態を考える際に使われます。
ウェルビーイングは、単に「病気ではない」「不調がない」という意味にとどまりません。WHO憲章では、健康を身体的・精神的・社会的に良好な状態とし、単に病気や虚弱がないことにとどまらないと定義しています。
職場のウェルビーイングは、健康管理だけで完結するものではありません。安心して相談できること、役割が明確であること、尊重されていると感じられることなどを含めて、従業員が安心して力を発揮できる状態を考える視点が重要です。
ウェルビーイングは、ウェルネスや健康経営と近い考え方ですが、着目する範囲が異なります。
| 用語 | 主な意味 | 職場での見方 |
|---|---|---|
| ウェルビーイング | 身体面・精神面・社会面を含めた良好な状態 | 働きやすさ、安心感、納得感、人間関係なども含めて考える |
| ウェルネス | 健康づくりや心身の健康維持に関する考え方 | 運動、睡眠、食事、メンタルヘルスなどの施策と結びつきやすい |
| 健康経営 | 従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること | 健康施策を経営課題や人材戦略と結びつけて進める |
ウェルビーイングは、健康や仕事への熱意だけを指す言葉ではありません。ウェルネスや健康経営の取り組みは、ウェルビーイングを支える手段の一つと捉えると整理しやすくなります。
ウェルビーイング経営とは、従業員のウェルビーイングを意識しながら、制度や職場環境、働き方を整える経営の考え方です。健康管理、柔軟な働き方、コミュニケーション改善、キャリア支援、ダイバーシティ推進など、複数の取り組みが関係します。
従業員のウェルビーイングを考える際は、心身の健康だけでなく、職場での働きやすさや人間関係まで含めて確認する必要があります。福利厚生を増やすことも選択肢の一つですが、それだけでウェルビーイングが高まるとは限りません。制度があっても利用しづらい、相談窓口があっても安心して相談できない状態であれば、働きやすい職場とは言いにくいでしょう。
ウェルビーイング施策は、導入すれば必ず生産性が上がる、離職率が下がるといった取り組みではありません。自社の従業員が何に困っているのかを把握したうえで、目的に合った取り組みを選ぶことが重要です。
従業員のウェルビーイングを高めるためには、特定の制度を導入するだけでなく、職場で起きている困りごとを把握し、日々の業務やコミュニケーションを見直すことが欠かせません。
面談、1on1、従業員アンケート、相談窓口などを通じて、業務量、人間関係、指示のわかりやすさ、休暇の取りやすさ、心理的な安心感などを確認します。職種や働き方によって困りごとが異なる可能性も踏まえることが大切です。
役割分担、期限、判断基準、報告ルールが曖昧なままだと、従業員は不安を抱えやすくなります。マニュアルを整備する、指示を文字で残す、業務の優先順位を共有するなど、情報を整理する仕組みをつくることが重要です。
配慮が必要な従業員がいても、相談しづらい職場では困りごとが表面化しにくくなります。相談先を明確にし、相談内容を誰にどの範囲で共有するのかを本人と確認しながら、プライバシーに配慮した運用をおこないます。
柔軟な働き方を認める制度があっても、利用しづらい雰囲気があれば十分に機能しません。ハラスメント防止、多様性への理解、相談しやすい上司の育成など、日常のコミュニケーションも含めて見直すことが重要です。
ウェルビーイングな職場づくりは、特別な制度を増やすことだけではありません。従業員の困りごとを把握し、業務やコミュニケーションをわかりやすくし、必要な配慮を相談できる環境を整えることが出発点になります。
ウェルビーイングな職場づくりでは、すべての従業員に同じ制度や環境を提供するだけでは不十分な場合があります。働きやすい環境は、人によって異なるためです。
たとえば、口頭の説明が理解しやすい人もいれば、文字や図で示されたほうが安心して業務を進められる人もいます。雑談しやすい職場を好む人もいる一方で、静かに集中できる環境のほうが働きやすい人もいます。こうした違いは、能力の高低ではなく、得意・不得意や情報の受け取り方の違いとして捉えることが大切です。
その際に参考になるのが、ユニバーサルデザインの考え方です。ユニバーサルデザインとは、特定の人だけに特別な対応をするのではなく、できるだけ多くの人にとって利用しやすい環境や仕組みをあらかじめ整えるという考え方です。
「大人の発達障害」への配慮は、「多様な働きやすさ」を考えるうえでの具体的なテーマの一つです。発達障害の当事者だけではなく、多様な従業員が働きやすい職場をつくるためのウェルビーイング施策として位置づけると整理しやすくなります。
発達障害の特性によって、指示の受け取り方や予定変更への対応、周囲の音や光などに困りごとが生じる場合があるため、まずはどのような特徴があり、職場でどのような場面が負担になりやすいのかを理解しておきましょう。
「大人の発達障害」は、大人になって突然発症するという意味ではありません。発達障害の特性は通常、低年齢のうちに現れるものとされていますが、成人後に仕事上のつまずきや周囲とのずれをきっかけに気づく場合があります。
発達障害には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)などがあります。
ただし、同じ診断名でも特性の現れ方や困りごとは一人ひとり異なります。「ASDだからこう対応すべき」と決めつけるのではなく、本人が働きやすい条件を個別に確認することが重要です。
人事労務担当者は、本人を診断する立場ではありません。必要なのは、医療的な判断ではなく、仕事上の困りごとを整理し、職場として可能な調整を検討することです。
こうした困りごとは、本人だけの問題ではなく、業務設計や伝え方、職場環境との組み合わせで生じることがあります。職場側が指示や業務フローを見直すことで、周囲の従業員にとっても働きやすい環境に近づけることができます。
| 職場での困りごとの例 | 配慮・調整の例 |
|---|---|
| 曖昧な指示を理解しづらい | 期限・優先順位・完成イメージを具体的に伝える |
| 口頭指示を整理しづらい | メールやチャット、手順書等で伝える |
| 急な予定変更で混乱しやすい | 可能な範囲で事前に伝え、変更理由と新しい優先順位を示す |
| 音や光などの刺激が負担になる | 座席配置、休憩場所、耳栓等の使用について検討する |
| 複数業務の同時進行が難しい | タスクを分割し、優先順位と完了条件を明確にする |
発達障害のある従業員への対応を考える際は、職場のウェルビーイングだけでなく、障害者雇用促進法や合理的配慮の考え方も確認しておく必要があります。
雇用分野では、障害者雇用促進法により、障害者に対する差別の禁止と合理的配慮の提供が事業主に求められています。合理的配慮とは、障害のある人が均等な機会や待遇を確保し、能力を発揮するうえで支障となっている事情を改善するため、必要な措置を講じることです。
具体的には障害者と障害者でない人との均等な機会・待遇の確保や、障害者の能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、障害の特性に配慮することなどが挙げられます。
合理的配慮は、本人の希望どおりにすべて対応するという意味ではありません。事業主に過重な負担を及ぼす場合まで求められるものではないため、本人の希望、業務上の必要性、実施可能性を踏まえて対話することが重要です。
発達障害があることと、障害者雇用率の算定対象になることは同じではありません。厚生労働省は、障害者雇用率制度上の実雇用率の算定対象について、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の所有者としています。
ただし、障害者手帳を持っていない人でも、障害者雇用促進法上の「障害者」に該当する場合は、合理的配慮の対象となり得ます。したがって、人事労務担当者は「手帳がないから配慮は不要」と判断しないよう注意が必要です。
発達障害の診断があるだけで、必ず障害者雇用率にカウントされるわけではありません。人事労務担当者は、「発達障害のある従業員への配慮」と「障害者雇用率の算定対象になるか」を分けて整理する必要があります。
2026年7月1日以降、民間企業の法定雇用率は2.7%です。常時雇用する労働者を制度上の方法で算定して37.5人以上となる事業主には、雇用する対象障害者の算定数が、法定雇用率から算定される法定雇用障害者数以上となるようにする義務があります。
37.5人規模で必要な算定数は1.0ですが、必要な算定数は労働者数に応じて増えます。ここでいう常時雇用する労働者は、原則として週所定労働時間が20時間以上で、1年を超えて雇用される見込みがあるか、すでに1年を超えて雇用されている人を指します。週20時間以上30時間未満の短時間労働者は、事業主側の労働者数を算定する際に0.5人として扱われます。
ウェルビーイングの観点からも、障害者雇用や合理的配慮を単なる法令対応として扱うのではなく、多様な従業員が働きやすい職場づくりの一部として位置づけることが望まれます。
ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態を幅広く捉える考え方です。職場においては、健康管理だけでなく、安心して働ける環境、人間関係、仕事への納得感、自分らしく働けることなども関係します。
また、働きやすさは一人ひとり異なります。大人の発達障害への配慮を考えることは、ウェルビーイングな職場づくりにおける具体的な視点の一つです。診断名だけで対応を決めるのではなく、本人の得意・不得意や仕事上の困りごとを確認し、必要な調整を検討することが重要です。
企業は、合理的配慮や障害者雇用制度などの法律上のルールも踏まえながら、制度と職場風土の両面を見直す必要があります。多様な従業員が安心して力を発揮できる環境を整えることが、職場のウェルビーイングにつながります。

社会保険労務士法人|岡佳伸事務所の代表、開業社会保険労務士として活躍。各種講演会の講師および各種WEB記事執筆。日本経済新聞、女性セブン等に取材記事掲載。2020年12月21日、2021年3月10日にあさイチ(NHK)にも出演。
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