この記事でわかること
- 上司からの指導不足に対する従業員の受け止め
- 受け入れやすいフィードバックと、ハラスメントに近いと感じやすい言動
- 育成キャンセルを防ぐため企業が整えたい指導基準・研修・相談体制

この記事でわかること
「厳しく言うとハラスメントと思われるかもしれない」などの不安から、必要な指導やフィードバックまで控えてしまう状態が「育成キャンセル」と呼ばれています。
では、指導を受ける側は本当に「何も言われないほうがよい」と感じているのでしょうか。今回の調査では、十分な指摘を受けられなかった経験について、「よくある」「ときどきある」と答えた人は6割以上でした。一方、改善点を指摘されること自体を「できれば避けたい」と答えた人は4.0%にとどまっています。
回答を見ると、指導が少ないことに働きやすさを感じる面がある一方で、改善点や評価基準が見えにくいという不安もあります。求められているのは、厳しく叱ることでも、何も伝えないことでもなく、内容や伝え方に配慮した具体的なフィードバックだと考えられます。
この記事では、「育成キャンセル」に関するアンケート結果から、指導を受ける側の本音や受け入れやすい伝え方を確認し、企業が整えたい指導基準・研修・相談体制について解説します。
まずは、日頃の仕事で上司から指導やフィードバックがどの程度届いているのかを見ていきます。
上司から十分な指導やフィードバックを受けていると感じるか聞いたところ、最も多かったのは「ある程度受けている」で52.7%でした。また「十分に受けている」は7.3%となっています。
一方、「あまり受けていない」は34.7%、「ほとんど受けていない」は5.3%で、合わせると40.0%です。半数以上が十分な指導を受けていると感じている一方で、指導やフィードバックが十分ではないと感じる人も一定数いることがわかります。
人事労務担当者は、部署や上司によって指導やフィードバックの機会に差がないか確認したいところです。面談や1on1が制度としてあっても、改善点や期待する行動が伝わっていなければ、本人は「指導を受けていない」と感じているかもしれません。
仕事でミスや改善点があったとき、十分に指摘されないまま終わったと感じたことがあるか聞いたところ、「ときどきある」が52.3%で最多でした。「よくある」は10.3%で、2つを合わせると62.6%です。部下側の体感として「十分な指摘がないまま終わった」と感じる場面があることが読み取れます。
ミスをその場で正すだけで終わると、本人には「何が問題だったのか」「次はどうすればよいのか」が伝わらない場合があります。業務上必要な指摘を育成につなげるには、改善点と次の行動まで伝える機会をつくることが大切です。
指導の不足感が見られる一方で、部下側は率直な指摘をどのように受け止めているのでしょうか。ここでは、改善点を指摘されることへの本音と、受け入れやすい伝え方を見ていきます。
上司から指摘されることについて、最も多かったのは「言い方や内容によってはしてほしい」で50.7%でした。次いで「できればやわらかく伝えてほしい」が26.3%、「成長につながるので積極的にしてほしい」が17.0%となっています。
一方、「指摘されるのはできれば避けたい」は4.0%でした。この結果からは、指摘そのものを一律に拒むというより、何をどのように伝えられるかを重視する人が多いことがうかがえます。
人事労務担当者は、管理職に「厳しく伝えるか、何も言わないか」の二択を求めるのではなく、仕事上必要なフィードバックを、相手が受け取りやすい形で伝える方法を共有することが重要です。
受け入れやすい指導の伝え方を複数回答で聞いたところ、最も多かったのは「改善点を具体的に伝えてくれる」で59.3%でした。次いで「感情的にならず冷静に伝えてくれる」が50.7%、「人前ではなく個別に伝えてくれる」が45.3%と続きます。
また、「次にどうすればよいかまで示してくれる」「できている点もあわせて伝えてくれる」はともに39.7%でした。回答からは、指導の強さよりも、具体性や冷静さ、伝える場所、次の行動が分かることなどが受け入れやすさにつながることがわかります。
指導や注意が少ない職場には、働きやすいと感じる面もあります。一方で、改善点が分からないなどの不安もあります。ここでは、指導が少ないことで感じる働きやすさと、不安・困りごとの両面を見ていきます。
指導や注意が少ないことで「よかった」と感じることを複数回答で聞いたところ、「萎縮せずに働きやすい」が48.0%で最も多く、「精神的に楽だと感じる」が46.0%、「自分のペースで仕事を進めやすい」が41.7%と続きました。
指導が少ないことを、働きやすさや気持ちの負担の軽さとして受け止める人もいることがわかります。必要以上に細かく指示したり、強い言い方をしたりしないことが、本人の動きやすさにつながる場面もあるでしょう。
指導や注意が少ないことで感じる不安や困りごとでは、「ミスや課題に気づきにくい」が43.0%で最も多くなりました。次いで「何を改善すればよいかわからない」が40.3%、「評価基準がわからない」が37.0%です。
指導が少ない状態には働きやすさを感じる面がある一方で、改善すべき点や評価の基準をつかみにくいと感じる人もいます。上司が配慮のつもりで指摘を控えても、本人にとっては「このままでよいのか」がわかりにくくなる場合があります。
人事労務担当者としては、改善点や期待する役割を伝えられる仕組みを整える必要があるでしょう。
必要な指導は行うとしても、伝え方によっては部下がハラスメントに近いと感じることもあります。アンケートでは、上司からの指導で「ハラスメントに近い」と感じやすい言動を複数回答で聞きました。
最も多かったのは「人格を否定される」と「大声で叱責される」で、ともに69.3%でした。続いて「人前で責められる」が61.0%、「ミスと関係ないことまで言われる」が58.7%、「威圧的な態度で従わせようとされる」が56.3%となっています。また、「具体的な改善点がないまま否定される」も41.0%でした。仕事上の改善点ではなく人格に話が広がることや、感情的・威圧的な伝え方は、指導として受け止められにくくなる可能性があります。
なお、この設問は回答者が「ハラスメントに近い」と感じやすい言動を尋ねたもので、個々の行為が法的にパワーハラスメントへ該当するかを示すものではありません。実際の判断では、言動の内容や目的、状況などを踏まえる必要があります。
では、育成キャンセルを防ぐために、従業員は会社へどのような対応を求めているのでしょうか。アンケートでは、会社に必要だと思う取り組みを複数回答で聞きました。
最も多かったのは「ハラスメントに当たる指導・当たらない指導の基準を示す」で56.0%でした。次いで「上司向けに指導・フィードバック研修をおこなう」が55.0%となっています。
そのほか、「人事や第三者に相談できる窓口を整える」が39.7%、「評価基準や期待役割を明確にする」が35.7%でした。回答からは、指導を上司個人の経験や感覚だけに任せるのではなく、会社として基準を示し、指導方法を学ぶ機会や相談先を用意してほしいというニーズがうかがえます。
なお、職場のパワーハラスメントについては、事業主に対して相談窓口をあらかじめ定め、労働者へ周知するなどの措置が義務付けられています。
ここまでの結果を踏まえ、次の章では育成キャンセルを防ぐために企業が確認したい実務上のポイントを見ていきます。
アンケート結果を見ると、必要なのは「厳しく指導すること」でも「指導を控えること」でもありません。管理職が業務上必要なフィードバックを安心して伝えられ、部下側も相談できる環境を会社として整えることが重要です。
まず確認したいのが、業務上必要な指導と、ハラスメントにつながる言動の違いです。厚生労働省の指針では、職場のパワーハラスメントを「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「労働者の就業環境が害されるもの」の3要素をすべて満たすものとしています。客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲でおこなわれる適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントには該当しません。
そのため、管理職へ「ハラスメントにならないよう気をつけてください」とだけ伝えるのではなく、人格否定や大声での叱責、人前で責めるなどの避けたい言動と、業務上必要な改善点の伝え方を具体的に示すことが大切です。判断に迷ったときに人事へ相談できるルートも決めておくと、必要な指導まで控えてしまうことを防ぎやすくなります。
今回の調査では、指摘そのものを避けたいという回答は少数で、受け入れやすい伝え方を求める回答が上位でした。そこで、管理職研修や社内ガイドラインでは、フィードバックの基本的な型を共有しておくと実践しやすくなります。
すべての場面で同じ伝え方が正解というわけではありませんが、上司が感覚だけで指導するよりも、会社として共通の考え方を共有しておくことで、管理職が指導方法を判断しやすくなります。
育成キャンセルを防ぐには、上司本人の裁量だけに頼らないことも大切です。1on1や面談の機会、評価基準や期待役割の明確化、人事や第三者に相談できる窓口など、複数の仕組みで育成を支えましょう。
また、部下側にもフィードバックの受け止め方や、わからない点を確認する方法を学ぶ機会があると、指導を上司から部下へ一方的に伝えるだけのもので終わらせず、対話につなげやすくなります。上司にとって「何も言わないほうが安全」、部下にとって「何を直せばよいかわからない」という状態を避けるには、安心して指導・相談できる環境を会社全体でつくることが重要です。
今回の調査では、上司からの指導やフィードバックが十分ではないと感じる人が一定数いることがわかり、また改善点の指摘そのものを避けたい人も少数でした。
また、指導が少ないことには「萎縮せずに働きやすい」「精神的に楽」といった面がある一方、ミスや課題、改善点、評価基準が見えにくいという不安も見られました。
育成キャンセルを防ぐには、管理職の裁量だけに任せず、会社として指導とハラスメントの考え方を共有し、フィードバック研修や相談体制、1on1などの仕組みを整えることが重要です。
| 調査名 | 育成キャンセルに関するアンケート |
|---|---|
| 調査対象 | 企業で働く一般社員300名 |
| 調査期間 | 2026年09月13日〜2026年09月27日 |
| 調査方法 | インターネット調査 |

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