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株式会社メディヴァ様インタビュー

健康診断じゃ企業は守れない?企業を変える「機能する産業保健」の始め方

監修者:労務SEARCH 編集部
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企業の経営戦略が多様化しているいまの時代、産業保健や健康経営といった従業員の健康管理も、企業の持続的成長や人材戦略に深く関わる重要な経営課題となっています。

しかし「制度を整えても現場でうまく機能しない」「コスト対効果が見えにくく投資に踏み切れない」といった悩みを抱える企業も少なくありません。

そこで今回は、株式会社メディヴァ 保健事業部産業保健チームの永尾さん・小西さん・澤井さんに、産業保健領域の課題や最新トレンド、そして同社が支援を通して実感した"本当に機能する健康経営"の仕組みなどについてお話を伺いました。

産業医がいても万全じゃない?いま企業が抱える産業保健の課題とは

—企業の働き方や人材戦略が多様化するなかで、産業保健や健康経営の重要性が再注目されています。貴社が考える、現代の企業が抱える産業保健領域の最大の課題はなんでしょうか?

永尾さん
企業の経営課題に対応できるように、産業保健実務を運用することです。これまで産業保健は労働安全衛生法を背景として法に定められたことを実施していればよかったのですが、働く人々の価値観の多様化、労働人口の減少、急速な技術革新など、企業を取り巻く経営環境は大きく変化するなかで、経営観点での産業保健への期待値は、従来の法令遵守型の健康管理だけでは対応しきれなくなっています。

また、労働人口減少に伴い人材の確保・定着が重要課題となるなか、メンタルヘルス対策を含めた包括的な健康支援が求められています。企業規模や業種によって健康課題は異なりますが、産業保健を経営戦略として位置づけ、いかに効果的・効率的に運用していくかが重要です。

—企業規模や業種によって産業保健・健康経営の課題や取り組み方に違いはありますか?

小西さん
はい、大きな違いがあります。大企業では、専属の産業医や保健師を配置した健康管理室の設置など、体制面では充実していることが多いものの、多拠点展開している場合、本社と地方拠点での健康管理レベルの格差が生じやすいという課題があり、健康経営の推進によって格差が明確となる事例が増えています。

なかには、従業員規模でみると大企業にカテゴライズされるが、各拠点の従業員数は50人未満のことが多く、同じ従業員規模の単一拠点企業と比較した際に、健康管理体制に大きな差が発生していることもあります。また、専門職の人材確保や育成、管理体制の標準化などが課題となっています。

—体制面での充実と実際の運用には差があるということですね。中小企業の場合、また違った課題があるのでしょうか?

小西さん
中小企業では、法令順守のための最低限の対応にとどまりがちで、人材やコスト面での制約から、充実した健康管理体制を構築することが難しく、公的なサービスも十分とは言えないなか、経営者や担当者にとって大きな負担となっているケースが多く見られます。

しかし、経営者の決断が早く、健康経営への理解が得られれば、スピーディーな施策展開が可能という利点もあります。

産業保健・健康経営の三大トレンドは「データ活用×リモート支援×メンタルヘルスケア」

—健康経営やウェルビーイングの文脈で、最近注目されている業界動向やトレンドがあれば教えてください。

澤井さん
足元の産業保健、健康経営ではデータ利活用、リモート支援、メンタルヘルスケアの領域が注目されています。まず、データ活用による健康管理の高度化が進んでいます。健康診断結果や生活習慣データを蓄積・分析できる健康管理システムの導入が増えており、健康課題の可視化や効果測定が容易になっています。

次に、デジタル技術を活用したリモートでの健康支援の拡大です。コロナ禍を期にオンラインでの面談環境が整備され、特定保健指導や遠隔診療だけではなく、産業保健領域における面談にも多く利用されています。

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さらに、メンタルヘルスケアの重要性が高まっており、予防的アプローチへの関心が強まっています。ストレスチェックの実施だけでなく、その結果を活かした組織改善や、早期からのセルフケア・ラインケア教育が広がっています。

—データを単に収集するだけでなく、それを組織運営に活かすという視点が重要なんですね。

澤井さん
特に大企業では健康の側面のみならず、タレントマネジメントの観点で、戦略的な人材獲得・人材計画、従業員エンゲージメントやキャリアマネジメントがキーワードになっていると感じています。

—日本と海外での産業保健・健康経営の取り組みに違いはありますか?海外事例などを参考にされている点があればお聞かせください。

永尾さん
最も大きな違いは、日本では健康診断の実施が法令で定められていることです。このため労働者の健康診断受診率は非常に高い水準にあり、そのデータの利活用を健康経営に活かすことが期待されています。海外におけるDXの取り組み、特にPHRの観点はヘルスリテラシー向上においては、参考にすべきところが多いと考えています。

また、海外においては予防と医療の連携が密になされており、これから日本でも重要視される治療と仕事の両立支援への取り組みに参考になっています。逆に“健康経営の概念”については、日本の健康経営の考え方が海外でも導入できないか、産学で取り組みをしています。

このように、特に産業保健は背景となる法律が非常に異なるところはありますが、PHRの考え方など、参考になるところは取り入れております。

離職率5%減を達成!“形だけ健康経営”を脱した企業の実践例

—御社サービスを導入して特に大きな成果が得られた企業事例について、具体的な課題、施策内容、改善効果を教えてください。

小西さん
大手企業の事例を挙げますと、とある製造業の企業様は健康経営を推進するなかで、本社と全国拠点での健康管理体制の格差是正が課題となっていました。このため、弊社の産業保健コンサルティングおよび実行支援サービスを導入いただき、各地方エリアに保健師を配置しました。

その結果、本社および全国事業所拠点管理部門との連携体制を構築し、管理部連携型体制のもと保健師による健康管理と事業所拠点との親和性の高い健康教育の展開などの施策を展開し、健康経営銘柄に貢献することができました。

そのほかにも、都内に3事業所、総従業員数150人を抱える社会福祉法人様では、最低限の法令対応は実施していましたが、従業員の離職が続いていました。そこで離職対策としての健康管理の充実化を目的として、弊社のオンライン健康管理室ウェラボを導入し、現任の嘱託産業医と健康管理室保健師が連携する体制を構築。新入職者面談や健康相談を積極的に実施した結果、離職率5%減を達成されました。

—離職率5%減というのは非常に大きな改善ですね。より小規模な企業における印象的な事例はありますか?

小西さん
とある中小企業では、従業員のメンタル不調を始めとする体調不良が相次ぎ、オンライン健康管理室ウェラボを導入していただきました。健康管理をすべてお任せいただき、健康診断事後措置、ストレスチェック、不調者、休復職者面談などを弊社で運用するようにしました。さらに、経営者と協議をおこない、健康づくり施策をおこなうことで銀の認定を取得し、今年度の健康経営優良法人取得を目指されています。

—これまでの導入企業から寄せられた声や、印象的だったフィードバックがあればエピソードとともにお聞かせください。

澤井さん
企業規模や業種を問わず「安心して運用を任せることができる」、「健康情報や組織の状態がわかりやすく可視化された」という声をいただくことが多いです。

特に印象的なものでは「これまでストレスチェックを他社で実施してきたが、集団分析がわかりにくく、結果として活用することができていなかったが、御社に変更してからは丁寧な説明会とわかりやすい分析で職場環境改善につながっている。高ストレス者面談希望も一気に増え、やり方一つでここまで変わることを実感した。」というものであり、弊社のコンセプトである『機能する産業保健』を実現できた一例であると実感しています。

—導入効果に関して、業種によって見られる傾向や特徴の違いはありますか?

永尾さん
すべての業界に当てはまることではありますが、特に医療・福祉業では深刻な人手不足に悩まされています。また大手企業と比較して人事機能が十分でないことも多く、健康管理が行き届いているとは言えない事例を多く経験してきました。

オンライン健康管理室のような仕組みを入れることで、健康相談の充実や職場環境改善の取り組みによって、人材定着などの経営課題に一定の効果を得やすい業種と考えています。

—医療・福祉業界は特に人手不足が深刻ですからね。地域によっても違いはあるのでしょうか?

永尾さん
都心部と比較して地方では健康管理を担う産業保健職が不足しており、法令の要件を満たすことができない、担当産業医や保健師が企業が求めるだけの工数を割くことができないといった事例が発生しています。

都心部に本社がある場合は、本社機能を充実させてオンラインで地方エリアを担当する、地方事業所のみの場合はオンライン健康管理室を導入していただき、選任されている産業医の先生と連携することで体制を強化するといった工夫をするようにしています。

導入初期の障壁を超えた企業の共通点とは

—サービス導入に際して、企業側がよく直面する障壁やつまずきやすいポイントはどこにありますか?

小西さん
最も大きな課題は経営層の理解と支援の獲得です。産業保健や健康経営への投資効果が見えにくく、短期的なコスト増と捉えられがちです。コストだけで他社サービスを選んだ結果、十分な効果を得ることができず、一周回って弊社に再度ご依頼をいただくというケースまでございます。

—コストだけでの判断がかえって非効率になってしまうケースもあるということですね。現場レベルでの課題もありそうですが、いかがですか?

小西さん
特に大企業で多いのですが、社内の推進体制構築の難しさがあります。担当部署や担当者の明確化、関連部署(人事、総務、健保組合など)の連携体制づくりに苦慮する企業が多く見られます。責任と権限が不明確なまま進めると、結果的に取り組みが形骸化してしまいます。

データ収集・活用の難しさも障壁となります。まだまだアナログ管理で運用されている企業も多くありますし、部分的なデータ化にとどまっている企業もあります。専門職が潤沢であればそれでも可視化をすることは可能ですが、多くの場合はデータの利活用に十分な工数を割くことができていないことが現状です。

—そのような状況で、企業はどう対応していけばよいのでしょうか?

小西さん
これらの障壁を乗り越えるためには、段階的なアプローチが効果的です。まずは現状の課題を明確化し、優先順位をつけて取り組むこと、そして成功体験を積み重ねながらPDCAを回していくことが重要です。

目的の明確化が成功の第一歩、課題整理から始める費用対効果の最適化

―貴社のサービスを効果的に活用してもらうために、導入企業側でおさえておくべきノウハウや準備ポイントがあれば教えてください。

澤井さん
特にこれをしなければならない、これをおさえてほしいというものはありません。というのも我々は産業保健、健康経営の運用スタイルは100社100通りであると考えており、これをすれば必ず成功するといったキーファクターはないと考えています。

だからこそ弊社はコンサルタントと専門職がタッグを組んで運用する体制を常にご提案しており、専門職が現場課題を抽出し、コンサルタントと共同して優先順位をつけ、改善策の提案をしています。

それでも強いて一つ挙げるということであれば、導入後でも構わないので、なぜ産業保健や健康経営に取り組むのかどのような効果を期待するのかといったことを我々と一緒に考えていただけると良いのかなと思います。

—導入後の定着や運用フェーズにおいて、成果を最大化するための工夫や伴走支援のポイントを教えてください。

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永尾さん
導入後の成果を最大化するためには、伴走型の運用支援と課題の可視化が特に重要だと考えています。

伴走型の運用支援では顧客企業とゴールイメージを共有し、PDCAを回しながら着実に進めていくアプローチを重視しています。月1回程度の定例報告会を実施し、運用状況の確認や新たな課題への対応策を共に考えます。この際、単なる報告会ではなく、担当者様の悩みや現場の声をしっかりとヒアリングし、寄り添い型の支援を心がけています。

また、伴走型の運用においては課題、成果を丁寧に可視化することが重要です。最近ではアウトカム指標、アウトプット指標を明確にして、アウトカム指標の増減、アウトプット指標の増減で4象限に分けて施策や取り組みを評価することで、PDCAを回すようにしています。

―コストやリソースの制約がある企業でも、健康経営や産業保健を実践するうえでできる工夫やスモールスタートの方法はありますか?

小西さん
健康経営や産業保健を実践するうえでは、目指すところはどこなのか、目標を達成するうえで必要なことはなにか、社内リソースでできることはなにかを整理することから始めることだと思います。そのうえでどこになんのリソースを割くのか、コストをかけるのかを考えると良いです。

―限られた予算やリソースのなかでも、優先順位を明確にすれば効果的な取り組みができるということですね。

小西さん
たとえばメンタルヘルスケアが課題になるのであれば、セルフケアやラインケアについての動画や研修などから始めたり、社員参加型の職場環境改善活動をおこなうといったことが大きなコストをかけずに実施することができます。もちろん社内リソースだけですべての課題を解決できないことも多々ありますので、課題に優先順位をつけ優先順位の高いものにコストをかけることが費用対効果としても良いです。

またコストをかける際には、企業規模に適したサービス選択が重要です。当社では中小企業向けに「シェア型オンライン健康管理室ウェラボ」を提供しています。これは複数の企業で産業医・保健師サービスをシェアすることでコストを抑えながら、大企業並みの健康管理体制を実現するものです。経営者様・担当者様の負担を増やすことなく、健康管理をすべて委託することも可能です。

—導入にあたってROI(費用対効果)をどのように測るべきと考えますか?健康経営投資の判断基準について教えてください。

澤井さん
弊社のサービスは、健康経営の土台となる産業保健の実行支援が中心です。このため弊社サービスの導入にあたっては、短期的指標、中長期的指標に分けつつも健康経営戦略マップの最終アウトカムにどの程度貢献しているかを指標していただくのが良いと考えます。

戦略マップの最終アウトカムをどのように測定するのかを定めていただき、そのうえで導入いただく弊社サービスが戦略マップのどこに位置づけられるのかを定義します。多くは弊社サービスの導入根拠が短期的な指標となり、戦略マップの最終アウトカムが長期的な指標になります。

たとえば、人材の定着をアウトカムと設定して、その指標を離職率で測定します。サービスをオンライン健康管理室の導入とした場合のアウトプット指標として、健康相談件数、休復職者支援件数と設定します。健康相談件数や休復職者支援件数が増えており、かつ離職率が軽減していれば一定の投資効果があると考えられます。

健康経営を経営戦略に――産業保健から始まる社会課題解決への挑戦

—今後、産業保健・健康経営の領域において、御社が見据えるサービス進化やビジョンがあれば教えてください。

永尾さん
多面的なアプローチを通じて、時代の変化があっても働くすべての人々が活躍し続けられる社会の実現に貢献することが当社のビジョンです。

具体的には、単なる法令順守や健康管理にとどまらない、企業の経営課題解決に直結する産業保健の実現を目指しています。人材確保・定着、生産性向上、企業価値向上など、経営者が直面する課題と健康施策を戦略的に結びつけることで、投資対効果の高い健康経営モデルを構築していきます。

そのために、産業保健データと経営指標の相関分析や、業種別の成功モデル開発に取り組み、経営者の意思決定を支援する科学的根拠を提供していきます。

小西さん
特に対応が遅れがちな中小企業の産業保健の充実は、社会的課題であり当社の重要なミッションです。シェア型オンライン健康管理室「ウェラボ」のさらなる普及と機能強化を図り、限られた予算でも質の高い産業保健サービスを享受できる環境を整備します。

また、地域や業界団体と連携した共同利用モデルの開発や、業種特性に応じたパッケージサービスの展開など、中小企業の実情に合わせたソリューション提供を強化していきます。

澤井さん
最終的には「健康経営3.0」の実現、つまり企業活動を通じて社会全体の健康課題解決に貢献する仕組みづくりを支援していきます。企業が自社の従業員だけでなく、家族や取引先、地域社会の健康にも配慮し、社会的価値を創造する活動をサポートします。

具体的には、地域コミュニティとの連携モデルの構築や、サプライチェーン全体での健康経営の推進、社会課題解決型の健康プログラム開発などを通じて、企業の社会的責任と健康経営の融合を促進していきます。

監修者労務SEARCH 編集部

労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
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