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インタビュー2024年4月現在、民間企業の障がい者の法定雇用率は2.3%です。つまり、従業員を43.5人以上雇用している事業主は、障がい者を1人以上雇用しなければなりません。
さらに厚生労働省は、障がい者の雇用の促進と安定を図るために、2024年4月以降に法定雇用率を段階的に引き上げることを決定しています。
しかし障がい者雇用にはさまざまな課題があり、法定雇用率を達成していない企業も少なくありません。そこで今回は、株式会社うるるの執行役員を務める野坂枝美さんに、障がい者雇用の現状や促進方法などについてお話をうかがいました。
目次
―まずは株式会社うるるBPOについて、事業内容などを教えてください。
野坂さん
労働力不足解決のリーディングカンパニーとして、複数のSaaSを展開する株式会社うるるの100%子会社で、アウトソーシング事業を展開する会社です。自社で保有するクラウドワーカーを強みに、データ入力・データスキャンをはじめ、DM発送・システム開発などの業務を承っています。
▼うるるBPOビジネスモデル
―社内で人事や労務を担当されている方の人数や構成、業務内容、従業員数について教えてください。
野坂さん
うるるBPOの人事・労務は、弊社グループのうるる株式会社が一括しておこなっております。人事部は計13名で、採用・組織開発担当と労務管理担当に分かれています。
―御社は、2021年に障がい者雇用トータル支援サービス「eas next」の提供を開始していますよね。
野坂さん
もともとうるるBPOは、クラウドワーカーをはじめとした「人力」とAI-OCRの協働により、スピーディー且つ高い精度でデータ化をおこなえるAI-OCRサービス「eas(イース)」を提供しており、幅広い業界で導入・活用いただいております。
「eas」に導入企業が雇用する障がい者を作業者として加えることで、障がい者の労働力を企業活動の中で戦力にできる、障がい者雇用トータル支援サービス「eas next(イース ネクスト)」を2021年11月より提供開始し、企業の障がい者雇用をサポートしております。
―障がい者雇用において、現場で実際に起きている問題や企業が直面する問題はどのようなものがあると思いますか。
野坂さん
障がい者雇用の促進等に関する法律においては、企業等の組織における障がい者雇用の人数を増加していくように定められております。その割合が「法定雇用率」といわれていますが、2023年度は2.3%、2024年度から2.5%、2026年度からは2.7%と徐々に引き上げられていく方針が厚生労働省より発表されています。
企業は自社の障がい者雇用を促進していく必要がありますが、実際はさまざまな課題があります。
―さまざまな課題とは具体的に何が挙げられますでしょうか。
野坂さん
まず、障がい者の方々の勤務は短時間で設計されることが一般的です。そして、さまざまな障がい特性から勤務が安定しないことも多くあります。
そのため、自社で障がい者を雇用できた場合でも時間的制限や緊急性のない業務、本業に関わりのない業務を担当することが多く、障がい者本人にとってはロイヤリティが生まれにくい、企業にとっては本業にプラスにならない雇用に陥ってしまうケースが多くなっています。
加えて、マネジメントをおこなう側においても専門的知識がなく健康状態が安定しにくい障がい者を実業務で長期にわたって成長させ、活躍してもらうように促すことは容易ではありません。そのため、多くの企業は障がい者雇用に消極的になってしまうのですが、法定雇用率は満たさなければいけないというジレンマに陥り、本質的な雇用とは言い難い、数合わせの「障がい者雇用」になってしまっています。
―御社でも同様の課題を抱えていましたか。
野坂さん
ご存じの方も多いと思いますが、BPOサービスと障がい者雇用は昔から親和性が高く、障がい者の方々が職業訓練をおこなえる就労移行支援事業所などでは、企業からBPO業務を受託して業務をおこなっていることもあります。
弊社にも、そのような事業所の方々から、弊社の業務委託先として契約を希望するご連絡をいただくこともありました。しかしながら、我々が取り扱うBPO業務は短納期かつボリュームが多く、限られた人数で運営されている短時間労働が基本の就労支援事業所には、依頼できる業務がなかなか無かったのも事実です。
難しい業務依頼でも業務設計次第では、細かなタスク業務に落とし込めるにもかかわらず、作業時間がかかりすぎて依頼ができない、そんなジレンマがありました。個々の企業で抱えている障がい者雇用における課題とまったく同様です。
―そのようなジレンマを解決するには、どのような取り組みをすべきでしょうか。
野坂さん
障がい者雇用を実現するには、障がい者の方々と共に働く環境を整えることが重要だと考えます。障がい特性や健康状態もさまざまですから、被雇用者がどのような障がい特性を持っているのかを把握し、彼らが担当できる業務を設計し作り出す必要があると考えます。
しかしながら、不要な仕事を作り出すのは本末転倒ですし、業務の設計をやり直して誰でもできる仕事を作り出すのは容易ではありません。
そのため弊社が提供している障がい者雇用トータル支援サービス「eas next」は、どの企業でも発生するデータ化業務について、AI-OCRと障がい者の協働作業により、効率よくスピーディーにデータ化をおこなえるようにサービスを開発しました。
▼「eas next」の特徴
―「eas next」を使うことで、障がい者の方々が働きやすい環境を素早く整えられるのですね。データ化サービスとしては、どのような特徴がありますでしょうか。
野坂さん
お伝えいたしましたとおり、弊社は創業時から「データ入力」をBPOサービスとして提供してまいりました。昔は単純な名刺や名簿、申込書やはがきなどの単純なデータ化業務の依頼が多かったのですが、昨今は判断が必要なものやデータクリーニングを伴うものなど、弊社への依頼は複雑化しております。
その背景にはペーパーレス化とOCRの発展があります。ペーパーレスに関しては言わずもがなというところですが、OCRは、2017年ごろにAIによる文字認識技術が向上した「AI-OCR」が登場することによって大きく発展・普及いたしました。今では、データ化を依頼する際に「AI-OCRで安く早くできないか」と考えるご担当者が多いのではないでしょうか。
しかしながら、このAI-OCRにも欠点があり、手書きの書類や記載箇所が統一されていない書類など、判断を伴う場合は正しくデータ化ができないケースがあります。ペーパーレスを実現するためにシステム化されるような単純な書類は、AI-OCRで簡単にデータ化ができます。ただし現在もデータ化されずに残ってしまった書類には、何かしらの課題感が残っているケースが多いのです。それらはAI-OCRでも太刀打ちできません。
そこで、創業時からのノウハウを踏襲し、AI-OCR✕人のチカラによってデータ化をおこなえるSaaS「eas」の活用により、これからの課題を解決できます。
▼「eas」を活用した業務フロー
―「eas」を活用してあらゆる書類のデータ化を実現することで、入力業務が大幅に効率化されそうですね。
野坂さん
「eas」は、現代においても残っている紙やペーパーレス化によって増加してしまった加工を重ねたドキュメントのデータ化を、AIと人の得意分野を書類の特性に最適化させることで正確におこなえます。そして人の作業も、小さなタスクに切り分けて設計することができ単純業務を作り出すことが可能です。
これらのAIとの協働業務を自社の雇用する障がい者が担えるため、「eas next」は自社の本業にプラスになる業務に従事することができるのです。
―「eas next」についてもう少し詳しく聞かせてください。「eas next」は現場の声から生まれたのでしょうか。
野坂さん
「eas next」の原点となるサービス「eas」において、AI-OCRと協働する「人」はクラウドオペレーターで設計されています。
もちろんクラウドオペレーターで成り立つサービスも継続して提供しておりますが、弊社グループは「労働力不足の解決」をビジョンに掲げており、ITのチカラで生産性を向上させ、減っていく労働力を補っていくことや、世の中で活用しきれていない労働力を活用することで日本が抱える深刻な社会問題を解決していくことを目指しております。
そういった観点において、クラウドオペレーターだけでなく、年々上がっていく法定雇用率の充足や障がい者の方が新たな労働力として活躍できる世の中をつくっていきたいと考え、サービスとしてリリースいたしました。
―「eas next」の導入時に、多くの企業がつまずくポイントはありますか。
野坂さん
はい、上記の業務はブラウザ上でおこなうタスク業務として切り出せますので在宅勤務も可能ですが、障がい者雇用においては体調不良による欠勤や短時間勤務が発生しがちです。
本業にプラスになる重要な業務を依頼したにもかかわらず、欠勤続きで作業をおこなう人がいないと仕事に穴が空いてしまいます。そのため、もし障がい者の方のマンパワーだけで足りない場合は、弊社のクラウドワーカーがバックアップに入る仕組みも整えております。
▼就業の安定をサポートする「eas next」の強み
―障がい者の方も働きやすい環境になっているのですね。では障がい者雇用をうまく進められるのは、どのような企業だと思いますか。
野坂さん
障がい者雇用は、トップの意思がかなり濃く反映される傾向があります。経営層が一丸となって取り組みができれば現場も障がい者雇用に前向きになり、企業内で必要な業務を見つけられます。
しかしながら、非協力的な企業の場合は総務や労務人事に任せきりになり、本業にプラスになるどころか不要な業務を担当してもらうことになってしまいます。また、長期の定着が難しくせっかく取り組んだにもかかわらず、うまく軌道に乗せられないという事態になりかねません。
”企業トップの考えが障がい者雇用の明暗を分ける”といっても過言ではないといえます。
―「eas next」を導入した企業は、どのような効果を実感されていますか。
野坂さん
重ねての回答になりますが、企業にとってプラスになる障がい者雇用を実現でき、障がい者の方も企業に対してロイヤリティを持つことができます。
雇用がスタートしても、自分の担当している仕事が「やってもやらなくてもどちらでも良い仕事」だった場合、どう思うでしょうか。目標意識も持てなくなってしまいますし、仕事に対する意欲がわきません。本業に近いところ、関わりのある業務に携わることによって企業の一員である実感が得られ、就業意欲が高まっていくと考えます。
また、障がい者の方の欠勤や遅刻などの体調不良時においてもバックアップ要員がいることによって精神的負担も軽減されますし、インターネット環境さえ整えられれば在宅勤務が可能となります。これらは被雇用者にとって非常に有益ですし、法定雇用率が引き上げられている現代においても企業の競争力につながると考えております。
―「eas next」について、具体的な成功導入事例や利用者の声を教えてください。
野坂さん
もともと「eas」を導入いただいていたお客様が、自社で雇用していた障がい者の方を作業者に加えたいと「eas next」に切り替えたケースがございます。お客様の事業において根幹となる証憑のデータ化業務で、現在も自社で雇用した障がい者の方が活躍されており日々運用されています。
―今後、障がい雇用に関して企業はどのように取り組むべきだと思いますか。
野坂さん
人事労務業務において、障がい者雇用は大きな課題となっているケースが散見されます。本業に関わりのない業務に従事した数合わせの雇用や、他部署の協力が得られず人事労務部内で本来不要な業務を作り出さなければいけないなど、消極的な取り組みのケースが多いようです。
お伝えしたとおり、厚生労働省は企業が数年掛けて計画的に障がい者雇用に対する取り組みができるよう、企業が満たさなければいけない法定雇用率を段階的に引き上げる方針を発表しています。障がい者雇用に関しては、人事労務担当者だけが取り組むには、乗り越えなければいけない課題が大き過ぎます。
ぜひ経営トップ層を巻き込んで会社全体で取り組んでいけるように、人事労務部署が牽引していただきたいと考えています。
―最後に御社が人事や労務において「これからやりたいこと」がありましたら教えてください。
野坂さん
もちろん弊社も障がい者雇用に取り組んでおりますが、弊社も他社様と同様の課題感を持っております。より長期の雇用を見越して成長してもらえるように、マネジメントを強化していきたいと考えております。
労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
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