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インタビュー少子高齢化や働き方の多様化が進む現代、企業は持続的な成長を目指すうえで「人と組織の成長」をどのように支えるかが重要なテーマとなっています。
そこで今回は、多くの企業の組織開発・人材育成を支援しているALL DIFFERENT株式会社さんに、今の時代、企業が直面している課題や、人材育成の取り組み方、人材育成の効果測定方法などについてお話を伺いました。離職率やエンゲージメントを改善し、企業の成長を実現する具体的な施策を知りたい人事・労務担当者は、必見の内容です。
目次
—まずは、御社について事業内容などを教えてください。
当社は、「人と組織の未来創りをイノベーションする」という企業理念を掲げ、人材育成から人事制度の構築、経営計画の策定、人材採用に至るまでの組織開発・人材育成の全領域においてご支援しているコンサルティング企業です。
—人材育成や組織開発について、近年はどのような課題を抱える企業が多いでしょうか。
日本は少子高齢化の進行により、労働力の不足、経済規模の縮小など、経済的課題が深刻化しています。将来の見通しが非常に困難な中、働き方の多様化も進み、これまで以上に変化への速いスピード感が求められるようになっております。このような外部環境の変化に伴い、仕事は昔に比べ、はるかに高度化しているとも言われています。
—確かに、企業が求める人材像は、時代とともに変化しているように感じます。
実際、当社の調査でも「10年前と比べて、一般社員に期待されることは変化した」「10年前と比べて、求められる管理職像は変化した」と回答した割合はともに半数以上となりました。特に一般社員は「非定型・プロジェクト型業務で役割を遂行すること」、管理職は「コンプライアンスやモラルの重視」「時間内で効率的に終わらせる」「部下には自分と異なる強みの発揮を求める」などが、いずれも50~70ポイントほど高まっていました。
多くの企業は、このように求められる役割を自律的に果たすことのできる人材の創出を目指し、新たな知識の獲得やスキルの開発、優秀な人材の定着に取り組まれております。
—「組織開発・人材育成」への課題を抱えているのは、どのような企業に多いと感じますか。また、企業規模や業種によって課題の現れ方に違いがあるのでしょうか。
同規模同業種においても、課題や解決策は百社百様のため一概にはお伝えできかねますが、近年は新型コロナウィルスの感染拡大に大きな影響を受けた製造業や卸・小売業において、人手不足や技術継承による問題、システムのレガシー化、DXへの遅れなどが生じていることから、社員のスキル開発が喫緊の課題と感じる企業が多いようです。
また、情報通信業界では、AIの発達におけるIT技術の高度化など、新しいビジネスの担い手となるIT人材の不足により、優秀な人材の獲得・定着が大きな課題となっています。
—人材育成や組織開発の見直しを検討する際、何から手を付けてよいかわからない企業も多いかと思います。そのような企業は、どのような手順で進めていくことが望ましいでしょうか。
何から手を付けたらよいかわからない企業や、会社として喫緊で解消すべき課題がある企業は、まずは目下の課題から取り組むとよいでしょう。たとえば、コンプライアンス遵守、ハラスメントなどの法令に関する研修や、新入社員研修などがあります。
—すでに人材育成の取り組みをおこなっている企業が、いま一度確認すべきポイントはありますか。
すでに育成の取り組みをされている企業の場合は、経営理念を実現(体現)するためには、どのような人材が必要なのかという目指すべき人材像を定め、実際の社員の現状と比較し、成長に必要なものや不足している知識・スキルを明確にすることが重要です。そのうえで社員のキャリア形成に必要なことを育成計画に落とし込み、研修や経験を通じて学びを深めていくことが望ましいでしょう。
特に、300名以下の企業では「現場社員の忙しさ」が育成の大きな障壁となっています。育成の時間を確保できないことにより、将来的に人と組織の成長が鈍化するだけでなく、キャリアに対する不安から社員の離職に繋がる可能性があります。経営陣を巻き込み、全社的な意識改革を進め、育成の重要性を全社員に共有することが効果的でしょう。
—人材育成の取り組みを実施するには、経営層からの理解が必須そうですね。社内での理解と合意を得るためには、どのように進めるべきでしょうか。
まずは、経営陣を巻き込み、上位層の方に経営方針・経営戦略と結び付けて「育成の重要性」を理解していただくことが重要です。経営陣が掲げているビジョンや方針、戦略を実現するために、目指すべき姿と現在にどのようなギャップがあるのか、そのギャップをどのように縮めていくかという方向性を示すことで、合意が得やすくなります。
また、組織として人材育成に取り組むためには、各部門との協力も欠かせません。経営トップや役員から組織や各部門の管理職に対し、会社として育成を推進することと、育成を推進するためには経営層・管理職から変わっていく必要があるメッセージを発信することで、各部門の管理職からの協力などを得やすくなります。
さらに、育成の重要性をお伝えするためには、育成効果の提示も必要です。たとえば、同業他社の事例などを情報収集し、稟議に上げる際の参考資料として提示するとよいかと思います。
—育成効果は、どのような指標や方法を用いて測定するのが効果的でしょうか。
人材育成の効果測定では、教育プログラムをおこなうだけではなく、それがどのような効果をもたらしたかまで確認することが重要です。まずは、受講者アンケートなどを用いて、満足の高い学びが得られたかどうか、受講者の反応を測定するとよいでしょう。
次に、学んだ内容が身についているかどうかテストなどを用いて達成度を測定することを推奨します。当社では、職種・業種・役職問わず共通して必要になるビジネススキル・知識を網羅的に診断することができるアセスメントサービスをご提供しており、多くの企業が自己認識を醸成するために使用しています。
さらに、学んだ内容が実際に現場で使用されているかどうかも大切なポイントです。受講者だけでなく、上司や同僚、部下に対してインタビューやアンケートなどを用い、360度評価を実施し、仕事の場面で実践できているかどうか確認します。また、それらの行動変容により、どのように組織に貢献したか、現場で測定可能な指標(たとえば、ミス発生数、顧客アプローチ数、また人材定着率など)も測定しておくこともおすすめです。
—予算が限られていて外部サービスの導入が難しい企業もあるかと思います。そのような企業でも実践できる工夫や取り組みはありますか。
まずは、経営方針に沿って、会社が求める人材の姿を言語化することと、自社の社員の状況(たとえば、定着・離職率など)を正しく把握することからスタートしてみるとよいでしょう。
必ずしも外部の支援サービスを使わなければならないことはありません。重要なことは、経営理念を実現するために、どのような人材が必要であるか、またそれに向かうために必要な要素を社員と共有することで、創発的に学ぶことが進む風土を作ることが重要です。
—外部のサービスに依存するのではなく、社内での共通理解と自主的に学ぶ環境づくりが重要そうですね。
体系的な知識のインプットは本来的には重要ではありますが、目指す状態が明確に可視化されていれば、日々のコミュニケーションの中でも成長は十分に臨むことはできます。
—御社に問い合わせされる企業からは、具体的にどのような相談が多いでしょうか。実際に聞く生の声を教えてください。
企業規模や育成対象により、寄せられる課題の傾向が異なります。たとえば、300名以下の企業の人事担当者からは、
といったお悩みが寄せられます。一方、301名以上の企業では、
などのお悩みが寄せられることが多いです。また、知識獲得・スキル開発をした結果をどのように個々のキャリアや、会社の業績向上に繋がるエンゲージメントと結び付けていくのか、「キャリア開発」や「エンゲージメント向上」に関する取り組みへも注力される企業も多いです。
—御社にご相談された企業の中で、人材育成や組織開発の改善に成功した企業の事例を教えていただけますか。
歴史ある製造業の企業様の事例ですが、この企業様は、当社がご支援させていただく以前は、各部門はそれぞれの課題に懸命に取り組んでいるものの、全社のビジョン・戦略をチーム一丸となり達成しようという意識が弱いという課題がありました。
そうした課題を踏まえ、一人ひとりの強みを生かし、チーム一丸となり成果創出を実現するため、管理職、特にファーストラインマネジャーのマネジメント能力の向上に取り組まれました。
—具体的にどのような取り組みをおこなったのでしょうか。
具体的には、管理職の各役職の役割定義を改め、1on1研修からスタートされました。一般的な1on1研修は、どのようなアジェンダで進めるべきか、どのようなコーチングスキルを身につけて部下の本音を引き出すのか、といった手法やスキルについて学ぶことが多いのですが、この企業様は、部下の力を引き出し、チームで成果を達成するために1on1をどのように活用するのかという目的・ゴールを考える機会を提供するための研修を設計されました。
その後、1on1のフォローアップ研修、ビジョン設定・浸透スキルアップ研修、管理職層向けマネジメント・リーダーシップ診断テスト「Biz SCORE for Managers」の導入、管理職向け選択型研修などについて取り組んできました。
そうした取り組みの結果、長年横ばいだったエンゲージメント数値が全体で大幅に向上し、管理職との関わりに関するスコアも向上しました。また、行動面では、管理職が部下に研修受講を促すようになどの変化が見受けられるようになりました。
—この企業が成功したポイントはどこにあると考えますか。
この企業様が育成の文化の醸成に成功されたポイントは、最初から取り組み計画をガチガチに固めるのでなく、スモールステップで取り組み始め、数年かけてその企業に合った形を作り上げてきた点にあると言えます。
育成の取り組みはすぐに効果が出るものではありません。対象となる管理職やその周囲の社員が小さな変化を実感できるような身近なテーマから始め、「次に学ぶべき課題は何か」「もっと受講率を上げるためには、どうすればよいか」と一つひとつ検討し、ステップアップすることで、社内に育成が「文化」として根付き、組織全体へと影響を及ぼすことができた事例です。
—組織開発・人材育成を支援するサービスの導入を検討する際や導入後の運用時において、よくある障壁はありますか。
サービス導入を検討する際の障壁には、「人材育成への優先度が低く、予算がかけられない」「経営陣が育成への重要性を理解してくれない」という障壁がよく挙がります。また、「サービスの導入を検討したいが、何から始めたらよいかわからない」という声も上がることがあります。経営層への理解の促進と、会社の方針に沿った目的の設定がポイントとなるでしょう。
また、サービス導入後の障壁としてよく挙がるのは、運用の形骸化です。サービスを導入したものの、「社員が自発的、定期的に研修を受けてくれない」「社員からやらされ感を感じるとの声が上がっている」などのご相談をいただくケースがあります。
—せっかく導入したのにうまく活用できないケースは多くの企業で起こりそうです。そのような問題はどのようにして解決すべきでしょうか。
より現場で効果的にご活用いただくためには、まずは現場の管理職を巻き込み、サービス導入の目的・意義を理解してもらい、管理職から社員に対してレディネスを形成すること、つまり、なぜ学ぶのか目的意識を醸成することが、非常に大切なポイントと言えるでしょう。
—御社のサービスを導入した企業の中には、具体的にどのような変化が見られた事例がありますか。
当社では、単にサービスの提供だけにとどまらず、お客様の課題や状況に合わせたコンサルティング支援をおこなっており、経営にコミットした成果をご支援しています。その中で、以前、介護事業を展開している企業様の新入社員の中長期的な育成計画をサポートしたことがあります。
介護業界は特に人材の確保・定着が最も難しい業界の一つです。この企業様は、当社の定額制定額制オンライン研修 ライブ配信型『Biz CAMPUS Live』をご利用いただいていましたが、2018~2020年に入社した若手社員の定着率が50%と低い状況でした。
入社1~3年の若手社員が早期に離職してしまう背景として、成長実感をつかむ経験が乏しく、自社で成長していく姿が描けていないため、不安を感じているのではないかという仮説を立てられました。そして、若手社員の中長期的な成長を組織的に支援する仕組みづくりに当社が伴走させていただきました。
—若手社員の定着率の向上のために、組織全体で成長支援に取り組んだのですね。その仕組みづくりはどのように進めたのでしょうか。
具体的には、会社の求める人材像から必要なスキルを洗い出して、3年間の教育計画を作成し、自由受講だった『Biz CAMPUS Live』の受講を必須受講とし、評価の要素に入れ込むことでより実効性のあるものに変革されました。
そして、受講計画に則り、『Biz CAMPUS Live』を受講した後は、直属の上司に「どのような学びを得たか」「その内容をどのように業務に活かすか」を記入した事後課題シートを提出。さらにその1カ月後に、実践結果を記載した報告書を提出し、人事と受講者で面談をおこない、さまざまな不安を解消する場を設けました。
—オンライン研修の受講後に報告書の提出や面談を実施することで、受講者にとっても学びを業務に活かしやすくなりそうです。
人事とマネージャーが密な連携をとることにより、新卒社員が配属先の環境に左右されることがなく、成長スピードがアップし、早期戦力として活躍できるようになったと効果を実感していただきました。さらに、2021~2023年の3年間に入社した若手社員の定着率が90%に向上しました。
—そのように御社のサービスをより効果的に活用するために、企業側で工夫できることはありますか。
育成サービスを実際に運用・活用していただくためには、組織全体での学ぶ組織風土・仕組みづくりが大切です。効果的に活用するために、当社では「学びの習慣化サイクル」を実現することが重要と考えております。
学びの習慣化サイクルとは、「気づく」「学ぶ」「できる・変わる」そして、「続ける」のサイクルを指します。このサイクルを意識した育成計画を構築することで、当社のサービスの効果を最大化して活用することができます。
—今後、企業は人材育成や社員研修に関してどのように対応していくべきだと思いますか。
少子高齢化の加速する日本社会においては、より一層、労働力不足が深刻化していくと言われています。そんな中、日本企業においては、今ある人材の価値を最大限に引き出すことこそ、経営において重要テーマの一つとして取り組んでいく必要があるでしょう。従来のやり方に固執せず、時代に合わせた組織開発・人材育成の取り組みが必要不可欠です。
当社では、人材育成から人事制度の構築、経営計画の策定、そして人材採用に至るまでの組織開発・人材育成の全領域において、今後も業界初の革新的なサービスを開発し続け、1社1社の企業と伴走しながら、人と組織の未来創りに深く長く貢献してまいりたいと思います。
—最後に、より良い人材育成の実現を目指す企業に向けて、アドバイスをいただけますか。
さまざまな外部環境の変化に伴い、多くの企業の皆様が人材の獲得・定着や、スキルの高度化への対応など、より良い人材育成の実現を目指して試行錯誤されているかと思います。
組織開発・人材育成はすぐに効果が表れるものではなく、また取り組み内容と効果の因果関係が証明しにくいものではありますが、成功すればこれほど企業の長期的な成長に寄与するものはありません。企業は人で成り立ち、人材の価値を最大化することは、組織を成長させるためには必要不可欠です。しかし、人材育成は一筋縄にはいかない領域で、組織開発・人材育成を事業にしている私たちでさえも、時に立ちすくむ深遠なテーマでもあります。
企業の本質的な課題はどこにあるのか、どのようにして解決をしていくべきかというアプローチにおいては、企業の皆さまの育成に対する想いだけではなく、学術理論やエビデンス、同業他社の事例などさまざまな情報を持つ、組織開発・人材育成の専門家による課題の整理などが助けになるでしょう。
当社は、お客様の目指す姿の実現のために伴走をしながら、必要不可欠な存在になるべく努力を続けてまいる所存です。お気軽にご相談ください。
労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
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