2019年7月19日 社会保険システム連絡協議会主催の「電子手続き推進フォーラム- デジタルファースト時代対応に向けて -」が開催されました。
そのなかで行われたソフトウェアベンダー3社によるパネルディスカッション「生産性を向上させるデジタル時代のバックオフィス」の内容をお届けいたします。
■モデレーター
ラクラス株式会社 代表取締役 北原 佳郎 氏
■パネラー
株式会社 SmartHR 取締役副社長・CIO(最高情報責任者) 内藤 研介 氏
エフアンドエムネット株式会社 代表取締役社長 上枝 康弘 氏
社会保険労務士法人セルズ 代表社員 加藤 雅也 氏
内藤
「まずはApple社がマイナンバーを読み取れるという問題について。
電子証明書はエンジニア目線だと扱いづらいものの、アンドロイドとiPhoneが対応できたので、電子証明書普及の一つの課題が解決できそうだなと思ってワクワクしています。」
上枝
「わたしたちはBPO業務(クライアントのコアビジネス以外の業務プロセス、または業務を請け負う)をやっているので、申請だけではなく手元に書類をどう残すかなど、書類の回収が不要になるということでマイナポータルのAPIさえ保険会社や金融機関が導入すれば、そこ(書類の保存)がなくなるのは便利になることなので期待している。
ただ、便利さと安全性は相反するところがあり、いかに便利さのなかでセキュリティを担保するかというところが重要になります。」
加藤
「昨日、会社見学にきた4人にマイナポータルの認知度を聞いたものの誰も知らなかった。そこの周知活動が非常に重要だと思いました。」
– 北原
「政府の対応も随分変わってきましたね。最近の政府の対応にひとことお願いします。」
加藤
「確かに電子化は進んできている。しかし、現場にはまだまだ浸透していません。」
内藤
「行政窓口はあくまで紙の方がわかりやすく、手続きがしやすいこともあるが、あえて(電子化を)優先しているということで浸透してきたのかな…という気もします。」
加藤
「でも、地域差はまだまだあるかなと思います。」
内藤
「せっかく電子化は進んでいるのに、PDFで取り込んで添付するというやり方は、まだまだアナログだと思う。」
上枝
「紙でないとどうしてもダメなものがあるのは理解している。健保(※)がどうしても紙となると、結局すべて紙になってしまう。
それこそ担当者ベースでも話が変わる。そのあたりの統一感を、どうマイナポータルがとっていくかが重要です。」
健康保険組合。
加藤
「実際自分も電子申請で子どもが生まれたことを申請したけど、マイナンバーがないと返礼されてしまいました。デジタルデータとして扱えるものとそうでないものの差があると、なかなか揃えてやることは難しいです。」
– 北原
「紙から電子申請に変えるシンプルさには良さがあるけれど、現場が追いついていない現状がありますね。」
上枝
「効率化がうまい企業は、“100%できないとやらない”ではなくて、できるところから始めようということでスタートを切っているので、電子化が進んでいる印象はあります。」
– 北原
「企業規模による差や業種による差はありますか。」
加藤
「電子証明書の取り扱い問題が大企業は大きい。気軽に総務の人たちが使えるものではないので、社労士も顧問先の数が多すぎると厳しい。」
内藤
「小規模すぎると、電子証明書のコストがかかるので導入しないということが多い。」
– 北原
「コストはだいたいどれくらいでしょうか?」
加藤
「2〜3万円くらいかな。」
内藤
「でも金額よりも、手間のほうが大きいかな。」
– 北原
「私の対象企業は大企業なので、電子申請はデータさえ作れば(データを作るのも大変ですけど)ダイレクトに手間は削減されます。国も大企業に利用して欲しいでしょうね。」
上枝
「電子証明書については取得方法がわからないというケースが多いと思います。ホームページにも掲載していませんしね。うちでは電子証明書取得マニュアルを作っているので、それをお渡ししています。一度法務局にいけば解決しますからね。小さい企業こそ、一人でたくさんの業務を対応していると思うので、やって欲しいですね。
加藤
「GビズID(一つのアカウントで複数の行政サービスにアクセスできる認証システム)の取得が必要になってくるのかなと思います。
サイトから登録して、印鑑証明書を送って、そこで割とすぐIDを作成できるので、マイナポータルを使うのに必要になってくることを伝えていかないといけないでしょう。」
内藤
「電子証明書を使うのがベースであれば、マイナンバーを使って署名するという未来もあるのかな。」
上枝
「電子申請をすることのメリット、たとえばPayPayで決済するとポイントがつくみたいな。地方では電子申請だと受領に時間がかかるけど、役所に持っていけば即日対応してくれる。
窓口の人数を減らして10人しか受け付けないとか、電子申請だと即日対応にするとか、そうすれば電子申請をするようになるんじゃないかな。
アメリカだと、年末調整がなくて、確定申告を国民がすべてしている。1万円くらいで委託しているんですよ。
それは国が“窓口にきても相手にしませんよ”ということで浸透したそうです。そういう荒療治も必要じゃないかな。」
加藤
「マイナンバーにメリットがないとまだまだ進まないですよね。」
– 北原
「手続き業務から解放されれば、付加価値のある業務に力を入れられるのではないでしょうか。」
内藤
「今までの定型業務はロボットにまかせたり自動化したりして、人事制度を変えるなど、生産性をあげていくというところが大事。」
上枝
「生産性に関していうと、手続きが重要であることは間違いない。電子申請の分野ではないんですが、労災の手続きはうちのシステムをよく使ってくださっています。
大事なのは(申請手続きより)労働災害発生の防止のはずで、十分な人員配置がさせられているのであれば再発防止に取り組んだりできるが、直接部門への投資と違って内部部門だとなかなか投資してもらえないという実情がある。
今まで労災担当だった人が関連書類作成に取り組む時間は削減できて、労働災害の再発防止に費やす時間を割くなど、よりよい環境作りに時間を使ってほしいですね。」
加藤
「労務管理とは労使の信頼関係のために行うものです。たとえば退職の手続きに時間がかかってしまって、離職票の発行が遅れると信用にかかわる。どれだけ先進的なビジネスをしていても、労務管理で信頼を失ってしまう。
どれだけ自動化してもチェックする仕組みは必要だと思います。社労士の先生にしっかり入ってもらって労使関係の仕組みをつくることが大事。」
上枝
「今の加藤さんの話では、デジタルについていけない人はどうしたらいいのかが問題で、電子申請サポーターみたいな人は絶対必要だと思っています。なかなかできない人たちのために申請ができるようになるために社労士の先生たちが支援して欲しい。特に中小企業にはこの“伴奏”が必要。」
– 北原
「1980年代後半にアメリカに住んでいて、ある時から英語を喋れるようになりました。アメリカの人事部長と話して、アメリカにとって人事とはアトラクションアンドリテンションだと言われました。
アトラクションとは人を惹きつけること、リテンションとは良い社員を辞めさせないこと、この二つがとても大事。
人事部門の役割はその人のモチベーションを高くはたらいてもらうために配置を考えること、評価を変えるということが重要です。でもなぜそれができないかというと、手続き(定型業務)が多いからです。」
内藤
「どうやったら従業員が喜んで働いてくれるかに時間を割いています。弊社ではリファラル採用を取り入れているが従業員が満足していないと応募者を呼んでくれないのでそこは重要です。」
– 北原
「これから先どのようにユーザーに価値を提供していきますか?」
内藤
「今後、マイナポータルがAPI対応してくる。今からどのように対応していこうか考えているユーザーにとっては新しい価値を提供するというところはワクワクしています。」
上枝
「BPOをやっていると一つの業務がよくなっても全体の工数が減っているかというとそうでもないということは多い。
弊社ではかつて花とメッセージを届ける代行業務を行っていました。そのときのお客様には生命保険の外交員の方が多くて、何かお困りがないかと聞くと記帳代行で困っていたことから、記帳代行サービスが始まりました。
そういった経緯から当グループ(エフアンドエム(F&M))のフィロソフィーも“フラワー&メッセージ”からファイナンス&マネジメントに変わっていきました。
今お付き合いいただいているお客様が何で困っているかを聞いて、それを解決することで事業を展開していきました。
現在もこれからも、お客様のご意見を聞いて、システムの開発に反映させたいと考えています。」
加藤
「社労士向けにサービスを展開しているのですが、まだまだクラウド化して有益な情報を社労士の皆様に提供してければと思います。」
– 北原
「ありがとうございました。ご意見、ご要望、ご質問がありますか」
– 質問者
「中小企業も経理関連のシステムは導入が進んでいます。その延長で電子申請ができたら良いなという考えはあり、現在のシステムからAPIを活用して社会保険関連も対応ができるとい良いという話はありますが、APIの仕様や使い勝手に関して要望を出しておくべきではないでしょうか。」
内藤
「行政側も認識しているので“ワンストップ”というキーワードが出てきたのではないでしょうか。制度変更で一か所(一つのシステムや1回の手続き)で良くなる未来もあるのかなと思います。」
上枝
「今は割と国にも意見を聞く機会は持っていただけていて、意見交換ができていますが、国が対応できなければ自分たちでやる覚悟もあります。
自分たちは自分たちでAPIに対してテクノロジーで解決できる部分もあるので、そこは努力していきたい。」
加藤
「行政と意見交換できる場所で地道に現場の声を届けていくしかない。」
– 北原
「社会保険システム連絡協議会は誰でも入れる団体なので、是非ともご加入いただいて、行政やベンダーにご意見をください!」
2020年はまさに電子化元年と言われていますが、最先端にいる3社のベンダーの方のお話では、システム以上に行政や企業の足並みがそろうことや情報共有、意識共有が必要とのお話がありました。
電子申請義務化が差し迫るなか、準備をしっかり行っていく必要があると感じさせられました。
エフアンドエムネット株式会社/代表取締役社長 | 上枝 康弘