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労災リスクへの備えは十分?事業主が知っておくべき対策事例と災害統計

労災事故とは?実際に起きた6つの事例と再発防止策を紹介

監修者: 社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー
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労働災害(以下、労災)のリスクは、安全装置や保護具による物理的な対策のほか、職制の見直しや従業員の適切な健康管理によって、一定の程度まで低減することが可能です。

しかしながら、その可能性に気がつかず発生してしまう事故までも防止することは困難です。そこでこの記事で、過去の労災事故の事例や災害統計を知り、あらためて潜在的な労災リスクを見直し、現状の備えが同業内でどの程度の水準なのかチェックしてみましょう。

「物」が主な発生要因となった労災事故の事例

最初に紹介するのは物による負傷や疾病の事例です。ほとんどの仕事において何かしらの物を使って作業をしている場合が多いことから、誰にでも起こる可能性があるものといえます。

例① ドライクリーニング工場の火災で従業員が負傷

ドライクリーニング工場において、洗濯機の稼働中に発生した静電気による火花が、石油系の溶剤に引火したことで火災が起こり、労働者3名が負傷したという事例があります。

また、この火災につながった原因は、石油系の溶剤に静電気除去剤を適正な割合で添加していなかったこととしており、3名の負傷者を出してしまった原因として、洗濯機に内蔵されている静電気を感知するセンサーが作動しなかったこと、あらかじめ緊急災害時の措置を工場が定めていなかったこと等が挙げられています。

この事例には次のような対策の徹底がなされました。

  • 使用する有機溶剤、化学物質等についての安全データシート(SDS)を入手し、物性等を把握するとともに、把握した内容に基づき適切に使用する
  • 使用する機械設備の付属品である安全装置や警報装置も含め、点検マニュアルを作成するとともに、作成したマニュアルに基づいて点検を確実に実施し、常に正常に作動するよう保守管理をする
  • 火災発生時に備えた初期消火や、避難方法等の対応についてのマニュアルを作成するとともに、災害発生を想定した避難訓練を定期的に行い、緊急時の措置を労働者に周知徹底する

以上のような負傷以外にも、物によって疾病になってしまった事例もあります。

例② 高齢者施設の従業員が腰椎捻挫に

高齢者施設に勤めている労働者が、入居者を抱きかかえようとしたときに、腰部に痛みを感じたため病院で受診したところ、腰椎捻挫と診断された事例があります。

疾病の原因としては、前屈み、中腰といった介護の仕事でよく見られる動作が何度も行われていたことに加え、リフトなどの機器を有効に使わなかったこと等が挙げられています。

この事例には次のような対策の徹底がなされました。

  • 設置式リフト、吊り具(スリング)シート、スタンディングマシーン、持ち手付き補助ベルト、スライディングボード(シート)等の介助者の状態や用途に応じて、適切な福祉機器や補助具等を活用すること
  • 抱きかかえの動作をするときは、腰椎の生理的な前弯(最大に腰椎を反った状態から少し戻し、前弯が残っている状態)を保つこと
  • 介護作業を行うにあたり、被介助者の状態や職場で活用可能な福祉機器や補助具の状況、介護作業に要する時間等に応じて、職場ごとの作業標準を策定すること。この作業標準は最も腰痛発生リスクの高い介助者に配慮したものとする
  • 作業しやすい衣服、耐滑性があり、足に適合した靴、腰部保護ベルト等の補装具を着用すること
  • 職場の作業環境に腰痛の発症や症状の悪化に関連する要因がある場合、適正な作業環境の管理を実施すること

「人」が主な発生要因となった労災事故の例

人による負傷や疾病の事例を、こちらも負傷と疾病に分けてご紹介します。人はすべての仕事を進める上で欠かせない要素であるため、あらためて見直すことの重要性が比較的高いといえます。

例① 配達員が配達中に転んで負傷

雨のなか、荷物を配達しているときに階段で足を滑らせ転んでしまい、尻もちをついて負傷してしまった事例があります。これは配達を急ぐあまり足元への注意や、雨に対する注意を怠っていたことのほか、事業所における安全衛生活動が十分に行われていなかったことが原因だといわれています。

この事例には次のような対策の徹底がなされました。

  • 配達を行う際は降雨や降雪、路面凍結等の天候に留意し、足元を十分に警戒して行うこと
  • 事業所において安全衛生活動を行う者を選任し、危険予知の実施や配達区域における危険マップを作成するほか、安全意識の高揚を図って効果的な安全衛生活動を実施すること

例② 誤った洗剤の取り扱いにより清掃員が塩素ガス中毒に

トイレの清掃作業中に使用していた洗剤を別の洗剤が入っている容器に入れてしまい、強い異臭が発生しました。ただちに液体を流し捨て換気を行いましたが、その後具合が悪くなり病院へ受診したところ、塩素が発生したことによる塩素ガス中毒と診断され入院することとなった事例があります。

これは洗剤を混ぜることによる危険性の認識不足や、安全衛生管理体制が整っていなかったことが事故原因としてあげられています。

この事例には次のような対策の徹底がなされました。

  • 内容物の表示を徹底し、使用容器には表示内容物の違う洗剤等は入れないこと
  • 洗剤は使いきりを原則とし、継ぎ足し等の行為を禁止することが望ましい
  • 洗剤の特性と危険性を関係労働者に教育を図るとともに、周知徹底すること
  • 安全衛生管理体制を確立すること

「管理」が主な発生要因となった労災事故の例

最後に、危険に対する管理が不足したために発生した負傷、疾病の事例を紹介します。

例① 簡易リフトの故障により作業員が負傷

簡易リフトでダンボールを搬送していた際にリフトを吊っているワイヤーが切れ、リフトが作業者と共に墜落し、作業者が腕を切断したという事例があります。事故原因として考えられるのが、人が簡易リフトに乗ったまま作業をしていたこと、規格に合わない簡易リフトを設置していたことです。

そのほか、簡易リフトの点検や整備が不足していたこと、作業者に簡易リフトの注意事項などを周知徹底させることができていなかったことなど管理不足が原因であるとも考えられます。

この事例には次のような対策の徹底がなされました。

  • 簡易リフトを新たに設置する、あるいは既設リフトに改造を施す場合は簡易リフト構造規格に適合したものとすること
  • リフトに積載荷重を越える荷重をかけて使用しないこと
  • 簡易リフトを通常の作業で労働者を搭乗させる等、用途以外に使用しないこと
  • 作業開始前の点検と定期自主検査(年次、月例)を確実に実施すること
  • 作業者、労働者に対して簡易リフトの安全な操作方法と注意事項についての周知徹底を図ること

例② 換気不足で調理員が一酸化炭素中毒に

福祉施設で調理作業中に、調理員のひとりが一酸化炭素中毒にかかったという事例があります。原因は調理場の換気が不十分であったことに加え、調理場の設計や一酸化炭素が多く発生する燃料を使用する危険性への配慮不足、作業者に対する安全教育が不十分であったことなど管理面での問題があげられます。

この事例には次のような対策の徹底がなされました。

  • 燃料の種類と使用量、それに応じた調理室の換気設備の能力や設置状況、火気の使用方法等について安全アセスメントを行い、設備の安全化を図るとともに、安全な調理作業手順を定めて関係作業者に周知徹底すること
  • 換気扇はガスに点火すると自動的に電源の入る構造とすること

労災事故の発生傾向は?調査結果から分析

次に、労災について統計の面から紹介します。統計の面から確認するうえで大切なのが「度数率」と「強度率」です。

度数率・強度率とは?

度数率とは災害の発生頻度を表す数字のことで、強度率は災害の重さの程度を表す数字です。

これをふまえて、厚生労働省で行われた「労働災害動向調査」の結果をみてみましょう。

度数率と強度率について調べていて、2016年の調査では度数率がすべての産業を合わせて1.63、強度率が0.10となっています。2006年の度数率では1.90、強度率が0.12となっているので、この10年で重度の災害こそ一定数あるものの、発生頻度は減っていることがわかります。

産業別に見てみると平均値を下回る産業が見られる一方で、農業・林業は2016年に度数率4.31、強度率0.13、運輸業・郵便業は2016年に度数率2.97、強度率0.14と、平均値を上回っている産業も見られます。しかし、これらの業種に関しても推移を見てみると概ね減少傾向にあり、労災が少しずつ減っていっていることがうかがえます。

鉱業、採石業、砂利採取業は度数率が2016年は0.64と、平均値と比べて低い数値を示していますが、推移を見てみると2014年に 0.33、2015年度は1.08と、数値が安定しておらず、産業全体として労災対策が順調に行われていない可能性が考えられます。

以上のことから、数値が減っているからといって安心することなく、労災を少なくするためにも継続して注意喚起など安全教育を行っていく必要があることが分かります。

まとめ

ここまで労災の事例とその原因、統計について紹介してきました。

物や人、管理など労災が発生する要因はさまざまですが、今回紹介した事例をはじめ、その多くは防ぐことができたものであり、労災は個人の注意不足によるものや点検不足、安全教育不足などで引き起こされます。労災をなくすためにも、各企業は安全教育や注意喚起を徹底しなければいけません。

また、そういった取り組みは一時的なものでは意味がないので、継続して行うことが求められます。

監修者 社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー

社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー 代表社会保険労務士:
楚山 和司(そやま かずし) 千葉県出身
株式会社日本保育サービス 入社・転籍
株式会社JPホールディングス<東証一部上場> 退職
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