この記事でわかること・結論
- 労使協定とは、企業と社員の間で業務遂行における労働環境や労働の内容に関する取り決めを交わす契約
- 労使協定の中でも多くの企業が締結する36協定の罰則は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
この記事でわかること・結論
労使協定は、企業と社員の間で労働基準法の枠を超えた条件を合意するために締結する契約です。労使協定を締結しない場合、罰則を受ける恐れがあります。また、労使協定の締結後、労働基準監督署への届出が必要なケースと不要なケースがあることにも留意が必要です。
本記事では、労使協定の役割や労働基準監督署への届出、違反した場合の罰則などについて詳しく解説します。
目次
労使協定とは、企業と社員の間で業務遂行における労働環境や労働の内容に関する取り決めを交わす契約のことです。
労働基準法に違反しない範囲内で、双方合意のもとで労働環境や労働の内容を変更することを目的としています。労使協定にはさまざまな種類があり、その中でも多くの企業と社員の間で結ばれるのが「36協定」です。
法定時間外労働や休日出勤数などの上限を上げることで、業務内容に即した労働時間を確保できます。ただし、労使協定を締結すれば、どのような労働条件でも認められるわけではありません。
労使協定と混同されやすいものに、就業規則と労働協約があります。それぞれの違いについて詳しく見ていきましょう。
就業規則とは、会社の労働条件を記した規定のことです。10人以上の労働者を常時雇用する場合、就業規則を作成して労働基準監督署へ届け出る必要があります。
就業規則と労使協定の違いは以下のとおりです。
項目 | 就業規則 | 労使協定 |
---|---|---|
締結の方法 | 雇用主が単独で作成し、従業員に周知 | 労働者と雇用主の間で合意形成する |
法的拘束力 | あり | あり |
範囲と内容 | 事業所内の労働条件や規則に焦点を当てている | 組合員全体や職種にわたる広範囲に及ぶ |
変更の手続き | 雇用主が定めた手続きに基づく | 労働者と雇用主で話し合いが必要 |
労働協約とは、労働組合と労働者との間で取り交わす契約のことです。労働組合に加入することで、会社に対して持つ権利の恩恵を得ることができます。
労働組合は労働者保護を目的としており、社内の労働組合や外部の労働組合(ユニオン)があります。労働環境や賃金など、企業と社員の間で取り決める事項について契約を取り決め、労働組合に加入している労働者と会社間での契約にそれを反映させます。
たとえば、労働基準法では1日の労働時間は8時間以内ですが、労働組合と会社の間で1日の労働時間を6時間と定めた場合、労働組合に加入した社員はその定めに従うことになります。ただし、労働基準法の枠を超えた契約内容は無効です。
労使協定と労働協約の違いについては、以下のとおりです。
項目 | 労使協定 | 労働協約 |
---|---|---|
締結の方法 | 労働者と雇用主の合意に基づく | 労働組合と雇用主の合意に基づく |
法的拘束力 | あり | あり |
範囲と内容 | 労働条件や労使関係に関する具体的な取り決め | 労働条件、待遇、権利の保護など |
変更の手続き | 労働者と雇用主で話し合いが必要 | 労働組合と雇用主で話し合いが必要 |
労使協定には、労働基準監督署への届出が必要なものと不要なものがあります。ただし、届出は不要でも周知しなければなりません。労働基準監督署への届出が必要な労使協定は以下のとおりです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
労働基準法では、1日の労働時間が8時間、週の労働時間を合計40時間と定めています。これを超える時間の労働をさせる場合には、36協定と呼ばれる労使協定を締結する必要があります。
変形労働時間制は、閑散期と繁忙期の労働時間を調整し、労働のタイミングを最適化することで労働時間の短縮を図る制度です。
1日8時間、週40時間の法律を守ると、仕事量に並がある場合に出勤しているのに仕事がない状況になるケースがあります。
そうなれば、人件費を無駄に消費することになりかねません。この場合は、年単位・月単位・週単位のいずれかにおいて、変形労働時間制を定めることで人件費を最適化できます。なお、月単位の場合、就業規則に変形労働時間制について定めることで労働基準監督署への届出が不要になります。
裁量労働制とは、労働者の裁量のもとで業務の進め方や時間配分を決め、あらかじめ定めた労働時間分の労働をしたみなす仕組みのことです。
裁量労働制には、専門業務型と企画業務型があり、いずれにおいても労使協定の締結が必要です。
事業場外のみなし労働制は、所定労働時間を超える労働が事業場以外の場所で行われる場合、あらかじめ定めた労働時間分を働いたとみなす制度です。
オフィス外での業務は労働時間の正確な把握が難しいことから、事業場外のみなし労働制を導入するケースがあります。
企業は、社員から委託を受けることで貯蓄金を管理できます。この場合、労働組合か社員との間で労使協定を締結する必要があります。
企業が社員の許可なく給与を強制的に貯金することは法律で禁止されています。また、厚生労働省が定める利率を超える利子の付与が義務づけられています。さらに、社員が貯蓄金の返還を求めた場合は、遅滞なく返還する必要があります。
次の労使協定は、労働基準監督署への届出は不要です。
労働基準監督署への届出が不要な労使協定においても、社員へ周知する必要があります。周知の方法は、事業場の見やすい場所への掲示、メールや書面での配付などです。労使協定の内容を社員に見せない場合、その取り決めは無効とされる恐れがあります。
労使協定の書式は、労使協定の種類によって異なります。必要事項が記載されていれば、フォントの種類やサイズ、カラーなどの指定はありません。厚生労働省が労働基準法関係の様式として、労使協定に利用できるものを公開しているので、流用するとよいでしょう。
労使協定は、派遣社員にも関係があります。
労使協定方式は、派遣元企業が労働組合または労働者代表との間で労使協定を締結し、派遣社員の待遇を取り決める方法です。
これにより、派遣先企業の賃金規定が派遣社員の賃金に影響を与えなくなります。ただし、厚生労働省が毎年規定する「同業種における一般的な賃金」よりも高額に定める必要があります。
労使協定を締結せずに、関連する労働をさせた場合には、罰則を受ける可能性があります。多くの場合は罰則を受けないものの、悪質と判断された際は刑事罰を科せられます。労使協定の中でも多くの企業が締結する36協定の罰則は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金です。
次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
一 第三条、第四条、第七条、第十六条、第十七条、第十八条第一項、第十九条、第二十条、第二十二条第四項、第三十二条、第三十四条、第三十五条、第三十六条第六項、第三十七条、第三十九条(第七項を除く。)、第六十一条、第六十二条、第六十四条の三から第六十七条まで、第七十二条、第七十五条から第七十七条まで、第七十九条、第八十条、第九十四条第二項、第九十六条又は第百四条第二項の規定に違反した者
労使協定は、企業と社員の間で締結する契約です。締結するだけではなく労働基準監督署への届出が必要なものがあります。届出が不要でも社員への周知は必須のため、忘れずにおこないましょう。労使協定は多くの企業で問題なく締結できるものですが、まれに拒否されることもあります。円滑に労使協定を締結できるように、必要に応じて専門家のサポートを受けることが大切です。
労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
詳しいプロフィールはこちら