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インタビュー建設業界では、休日出勤や夜勤、直行直帰といった独自の働き方が多く、紙やExcelによる勤怠管理では対応しきれないケースも少なくありません。加えて、2024年の法改正により残業時間の上限規制が適用され、より正確かつ柔軟な勤怠管理が求められるようになりました。
そうしたなか、現場からの声に寄り添ったSaaS型勤怠管理システムを開発・提供しているのが「株式会社GeNEE」です。
今回は、同社の代表取締役社長を務める日向野卓也さんに、勤怠管理システム開発の背景や導入企業での成果、システム運用のポイント、そして今後の展望などについて詳しくお話を伺いました。
目次
—まずは、御社の事業内容について教えてください。
日向野さん
弊社は現在、7つの事業を展開しています。具体的には、システム開発事業、スマホアプリ開発事業、DX/ITコンサルティング事業、MVP開発事業、AI開発事業、脆弱性診断/セキュリティ監査事業、そしてSaaSの企画・運営です。
—多数の事業を展開しておりますが、どのようなビジョンのもとでおこなっているのでしょうか?
日向野さん
弊社が標榜するビジョンとしましては「大切なお客様とともに、デジタルな現代社会をより効率的に、よりスマートなものへと変革させる」というもので、さまざまな技術支援や技術研究によって日本社会全体に影響を与えられるようなテック系カンパニーを目指しております。
—御社サービスの一つである勤怠管理システム『ケンスマ勤怠』は、どのような背景や課題意識から誕生しましたか?開発のきっかけについて教えてください。
日向野さん
建設業特有の残業規制や働き方改革の動き、そして世論を含む透明性の高い職場環境を求める声に応えるために開発しました。
加えて、建設業は人件費が原価と密接に紐づいているため、休日出勤や夜勤、早朝出勤、現場への直行・直帰など、建設業独特の働き方や各種諸手当に対応する仕組み(システム)が必要という声もありました。建設業で働く方々は、システムを通じて打刻を含む柔軟な登録作業ができ、一方の承認者はその登録情報を適切なタイミングで確認し、承認する必要があるのです。
一般の勤怠サービスは広く普及していますが、建設業界に特化していて、かつ建設業で働く方々にとって使いやすいUI/UXを兼ね備えたSaaS型のクラウドベースドなサービスが存在しないため、ケンスマ勤怠が生まれました。また、勤怠管理だけでなく、原価管理にも直結するシステムというところがポイントです。
—『ケンスマ勤怠』は建設業界ならではの複雑な勤務形態に対応しているのですね。では勤怠管理において、現在企業が直面している最大の課題は何だとお考えでしょうか?
日向野さん
最大の課題は、正確な実態の把握に尽きます。建設業を対象とした残業規制が開始され、月で何時間、半年で何時間、年で何時間という決まりができました。その一方、建設事業者が入職者一人ひとりに対し、現行の法規制に照らし合わせて、個人の残業時間がどの程度で推移しているか、可視化ができているかと言うと、実状はそうはなっていないと思われます。
たとえば、休日出勤が2回発生するだけで月の残業時間が大きく変わりますが、その直後に残業時間の調整をおこなえる建設事業者は大手企業含めてまだ少ないと考えます。そういった特性を踏まえますと、日次ベースで残業時間の実態を適切に把握し、かつ法律と突合した上で勤怠管理していくことが求められてくるでしょう。
—法規制への対応と実態把握のギャップが大きな課題となっているなかで『ケンスマ勤怠』ではどのようなアプローチをとっているのでしょうか?
日向野さん
勤怠の可視化という課題に対して、ケンスマ勤怠はSaaSという形態を重視しています。これは、入職者の方々すべてがどこからでもアクセスでき、かつ一定のセキュリティ品質を維持したクラウドベースドな自己申告型の仕組みを採用しています。
毎日、入職者がご自身の手で打刻をおこなうことで、ご自身の残業時間が見えることは勿論、管理者としての上司からも法規制と照らし合わせた実情がグラフやマトリクスなどで一覧的に俯瞰できるデザイン仕様を採用しています。
—他社の勤怠管理システムと比較したとき『ケンスマ勤怠』ならではの特徴はありますか?
日向野さん
ケンスマ勤怠は打刻をおこなう入職者個人だけでなく、それらを閲覧管理する上司からも見やすいUI/UXを採用しているところに他社との大きな違いがあると考えています。
また、先程申し上げたように、建設業界は休日出勤や夜勤、早朝出勤といった業界独自の働き方が浸透しています。そちらの慣習に合わせ、働き方にフィットしたシステム仕様となっている点も大きな特徴の一つです。
—使いやすさと業界特有のニーズへの対応を両立されているのですね。働き方改革が進む建設業界では、今後さらに需要が増えていきそうです。
日向野さん
ケンスマ勤怠は、建設業を150年やっている重厚長大系の会社様と共同で開発を進めています。SaaSサービスの大半は業界の習わしや文化を知らないテック会社が作っていますが、弊社の場合、業界独自の仕組みを熟知した会社様とともに二人三脚でケンスマ勤怠を開発しているため、現場ファーストのシステムになっていると自信を持って言えます。
現在開発中ではありますが、建設業は給与、つまりは給与や賞与が原価計上されるものなので、残業を適切に把握するだけでなく、出勤現場の勤怠と原価の紐づけを一つのシステムで完結することによって、現場ごとの原価を集約し、原価管理や原価計算の機能をこれまで以上に高めることができると考えています。
—『ケンスマ勤怠』を導入して、実際に成果が出た企業の事例を教えてください。
日向野さん
具体的な成果としましては、労働時間や残業時間の可視化によって、残業管理に関する新しい法律に適切に対応することができたり、また問題になりそうな現場を早期に洗い出し、入職者の配置換えや応援体制を速やかに構築できるようになったと聞いています。
ケンスマ勤怠の情報は給与計算の基になるだけでなく、現場単位で原価管理、そして原価計算することが可能になりました。また、設定によっては全社員が全社員の残業時間情報一覧をグラフで閲覧することができるので、自身が職場内でどれくらい残業しているかが自他ともに確認でき、自浄作用が生まれているという話も聞けています。
—労働時間の可視化により、法令遵守や現場管理だけでなく、組織全体の意識改革にもつながっているのですね。異なるタイプの企業での活用事例はありますか?
日向野さん
このサービスは建設業に特化した勤怠管理システムです。まだ広がっていませんが、ゼネコンではなく、協力会社、専門工事業者にも適用可能な仕様設計となっています。これらの業界は同じ法律適用を受けなければなりません。そのため、ゼネコン以外では協力会社や専門工事業者に活用されていくものと考えております。
—導入企業の声のなかで、特に評価が高かった機能や「便利だった」と言われる点はどこですか?
日向野さん
評価が高かった機能としては大きく2点挙げられます。
1点目は、承認者にとって入職者を一つの画面で一覧化し俯瞰できるようになった点です。またグラフ表示搭載なので、一目で誰がどの程度残業しているのか、いつどのタイミングでどのような対処をすべきか、がシンプルに理解できるようになった点です。
2点目は、現場ごとの原価管理に繋がるデータをダウンロードできる点です。企業経営者にとっては、法律順守しながら、かつ原価管理、原価計算を適切におこない、必要に応じて経営意思決定をしなければなりません。そのため、原価管理に繋がるデータをいつ・どこでもリアルタイムにダウンロードできる点に好評の声をいただいております。
—反対に、導入時や運用初期によくあるつまずきやミスにはどのようなものがありますか?
日向野さん
重厚長大系の会社様の中には、今でも紙やExcelで帳票や報告書を管理しているケースが多くございます。既存のものからケンスマ勤怠、つまりはSaaSサービスに切り替えることによって、使い慣れるまでにはある程度お時間をいただくことになります。
分かりやすい例を挙げますと、休日の種類の選び方などはシステム上で適切なものを選択し、登録しなければなりません。紙の場合では、それに近しいものを選択したり書いたりすれば良いかもしれませんが、システムでは裏側で適切なデータ管理や集計作業が走行しますので、正しいものを選択していただかなければなりません。
—アナログからデジタルへの移行には、やはり慣れの期間が必要ということですね。このような課題に対し、企業側で何かできることはあるのでしょうか?
日向野さん
それを回避する方法としては、ビデオでのHOW-TOを視聴いただいたりしています。またヘルプデスクセンターも設けておりますので、必要に応じて問い合わせ対応やレクチャーの機会をいただいております。建設事業者様のなかには、ITリテラシーが比較的高い若手社員を集めてレクチャー会をおこなっているという話も聞いております。
—『ケンスマ勤怠』の導入コストやランニングコストの目安を教えてください。
日向野さん
初期費用は無料となります。使いやすさやシステム理解にある程度お時間がかるものと考えており、月額費用は1年間無料でご提供しております。1年以降は15人までは29,800円(税込)~となっています。そこからは1ライセンス1,650円(税込)となります。
—投資対効果(ROI)を測る上で、どのような指標で効果を評価するのが適切でしょうか?
日向野さん
新しい法律に対応するという意味ではROIではなく、まずは違法残業をしない/させない仕組み作りに寄与するという効果が一番大きいと考えております。
ただ、ケンスマ勤怠の導入により、残業時間を圧縮させることも可能です。仮に紙やExcelからケンスマ勤怠に切り替えた場合、一人当たり日次の入力・確認作業、上長への報告作業などで10-15分(ここでは簡単化のため、15分とします)の稼働がシステム化され、軽減するとします。
従業員数が200名の企業様であれば、200名×(15分*20営業日)=60,000分(1,000時間)で月に1,000時間の稼働削減となります。こちらに加えて、総務や人事での集計作業も大幅な削減が見込めると考えております。仮に原価としての人件費が@2,500円とするなら月2,500,000円の削減効果となります。年間では30,000,000円となります。
—導入後に最大限の効果を得るために、企業が実践すべき運用のベストプラクティスを教えてください。
日向野さん
企業様のご状況にもよるかと思いますが、可能でしたら週単位で残業時間が増えそうな人を部下一覧として把握をし、早め早めに部課長の管理職陣、企業様によっては経営幹部層陣で人の入替を検討・実行することだと思います。ケンスマ勤怠導入後、リアルタイムで数値が上がってきますので、そちらを有効活用しない手はありません。
また、今後の予測がしやすい仕様を採用していますので、週の会議などで議題にあげて、残業時間を超過しないような体制を早急に作ることが重要だと考えます。また、データから残業時間が多い社員を客観的に洗い出して早期に個別ヒアリングをおこなう運用も非常に大切だと思います。
—『ケンスマ勤怠』は今後どのように進化していくとお考えですか?
日向野さん
原価管理と一貫して企業の会計システムおよび勤怠システムが適切な形で連携し、財務会計数値と管理会計数値が管理可能になるビジョンを描いています。また将来的に、工事支出関連や請求書/請書関連を電子上で取り交わしできる機能も実装する予定です。会計から一貫してお金の流れを管理できるようなSaaSになるのが最終到達点です。
—最後に『ケンスマ勤怠』の導入を検討している企業の担当者へメッセージをお願いします。
日向野さん
ケンスマは、透明な労務管理と即時の数値化によって法規制に適用しながら労働管理や原価管理などができるSaaSサービスを目指しています。ケンスマの導入を通じて、働き方改革を促し、時代に合った建設業になる一助になればと思っています。
労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
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