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インタビュー近年、働き方の多様化やビジネス環境の変化により、従来の目標設定・管理方法が通用しにくくなっています。目標管理がうまくいかず、組織の成長を阻むケースも少なくありません。そこで注目されているのが「OKR(Objectives and Key Results)」という目標管理方法です。
そこで今回は、多くの企業においてOKRの導入・運用を支援する『株式会社タバネル』代表の奥田和広さんに、企業がいま抱えている目標管理に関する課題や、OKRと従来の目標管理方法の違い、OKRを効果的に導入する方法などについて伺いました。
目次
—まずは、御社について事業内容などを教えてください。
奥田さん
組織マネジメントのご支援、特にOKR(Objectives and Key Results)の導入、運用を中心としたコンサルティング、およびマネージャーの育成、支援をおこなっております。
—近年、働き方やビジネス環境が急速に変化しているなか、企業の目標管理についてはどのような課題が多いのでしょうか。
奥田さん
近年、働き方やビジネス環境の急速な変化により、組織のマネジメントはますます複雑かつ困難になっています。リモートワークや多様な働き方、価値観の普及でこれまでの指示命令、上意下達を中心としたマネジメントは通用しなくなってきました。その結果、目標の設定や浸透が従来通りの方法では難しくなり、経営層と現場の認識にズレが生じるケースが増えています。
—それらの課題は、企業にどのような影響を及ぼしていると考えますか。
奥田さん
硬直化した目標管理により、環境変化のスピードに対応できず、組織変革や戦略変更がおこなわれず、競争力、収益力を失ってしまうリスクがあります。さらに、従業員エンゲージメントの低下、個人主義や他律社員の増加が起こり、社員の成長や生産性、さらに意思決定のスピードにも悪影響を及ぼします。
—経営層と現場の認識にズレが生じているケースは、どのような企業に多く見られますか。
奥田さん
安定的に収益を上げてきた企業において上記の課題は生じやすいです。成功体験の呪縛から環境変化への適応が遅れます。その焦りから、よりトップダウンや成功体験の強化を進めてしまう傾向があります。また、中規模以上の企業でも生じやすいです。組織が大きくなるにつれて部門間の連携が難しくなり、経営層と現場の目標のズレが生じやすくなります。
—企業の目標管理方法は、KPIの設定やOKRの導入、人事評価制度の構築などさまざまあると思います。OKRが他の目標管理方法と異なる点や、いまOKRを選ぶべき理由を教えてください。
奥田さん
OKRは、従来の目標管理に比べ、透明性、挑戦を重視しながら、組織の意欲と努力のベクトルを継続的に高速で合わせることを得意としています。OKRは人事評価のための目標管理ではなく、組織のマネジメントを効果的におこなうツールと考えていただくとよいでしょう。
—単なる評価のための指標ではなく、組織運営のためのツールとして活用できるんですね。
奥田さん
単に目標の設定や管理にとどまらず、組織マネジメントに良い影響を与えます。そのため変化が激しい現代のビジネス環境に適応しやすく、また、従業員の挑戦意欲を高めると同時に組織として成果を上げたい企業にはOKRが最適だと考えています。
—そのような企業が実際にOKRを導入する場合、どのような手順で進めていくことが望ましいでしょうか。
奥田さん
まず、経営層がOKRの意義を深く理解し、全社で共通認識を持つことが重要です。その後、まずはトライアル部門からOKRを導入することが望ましいです。トライアル対象部門の従業員にOKRの教育をおこない、部門全体のOKRをマネージャーとメンバーが一緒に設定する場を設けることが推奨されます。
トライアル運用を開始する際は、運用ミーティングに伴奏しながら改善していくことが効果的です。3~6カ月のトライアル期間を通じて、自社にあったOKRの設定、管理方法にブラッシュアップして、全社に展開していくとよいでしょう。
—まずは経営層の理解が導入成功のカギとなりそうです。企業がOKRを導入する際には、どのような課題に直面しやすいでしょうか。
奥田さん
OKR導入時には、経営層と現場の認識の違いや、学習期間の認識が課題となることが多いです。経営層にはOKRの導入に強い意志を持って、一部の現場からの反発や運用が徹底されるまで学習期間が生じることに立ち向かっていただくことが大切です。
—社内での合意形成や予算確保におけるポイントはありますか。
奥田さん
経営層から現場までの合意形成を徹底することが重要です。そのためにもOKRについての共通理解が欠かせません。そのためには、様々な情報源から各自がOKRについて学ぶのではなく、共通の学習の機会を設けるとよいでしょう。
また、経営層自らOKR導入のねらいを発信することがおすすめです。予算確保は無理のない範囲で大丈夫ですが、経営企画部門もしくは人事部門を中心に数名のOKR推進チームを設定することは欠かせません。
—御社に問い合わせされる企業からは、具体的にどのような相談が多いでしょうか。実際に聞く生の声を教えてください。
奥田さん
「変革や成長の速度を加速したい」、「環境変化に適応できる組織や事業に変革したい」、「従業員の挑戦や協力を促進したい」といった声が寄せられています。またその背景に「従業員のベクトルが揃っていない」、「従業員の能力、意欲を十分に引き出せていない」といった組織のマネジメント課題を抱えていることが多いです。
—企業の成長フェーズや状況によって、OKRの導入目的も変わってきそうですね。OKRの導入は中小企業でも効果的だと思いますか。
奥田さん
中小企業でもOKRは効果的です。特にリソースが限られる中小企業では、全社員が共通の目標を理解し、優先順位を明確にすることが競争力向上につながります。OKRのフレームワークは柔軟であり、少人数でも簡単に運用を開始できます。またマネジメント人材が不足していることも中小企業の課題です。そのため、マネジメントツールとしてのOKRは中小企業にとって大きな効果をもたらします。
—これまでに御社が支援された企業のなかで、OKRの導入によって、具体的にどのような変化が見られ、課題の改善に成功した企業の事例がありますか。
奥田さん
社員が保守的で挑戦ができない、また社員同士および部門間の連携不足が課題を抱えており、OKRに関心をもってお問い合わせをいただきました。導入前は、トップダウンかつ縦割りの目標設定が定着しており、保守的な目標設定がおこなわれていた結果、新たな環境下で必要となる戦略への挑戦が滞っていました。
当社の支援でまずは一部部門からOKRを導入し、6カ月のトライアル期間を経て、全社に展開しました。まず、最初に効果が表れたのは心理的安全性でした。OKRの展開を通じて、社員同士だけではなく組織の上下、部門間の透明性が高まりました。OKRの導入と並行して、経営陣を中心に新たな戦略を展開したことで、業績およびエンゲージメントスコアが向上するという成果も見られました。
—心理的安全性の向上が、業績やエンゲージメントスコアの改善にもつながるのは、実践的な成果ですね。ではOKRの導入後、狙いどおりの効果を発揮したかどうかを測るには、どのような指標や方法を用いるのが効果的でしょうか。
奥田さん
多くの企業で実施されるようになってきた従業員エンゲージメント調査を活用するとよいでしょう。このようにすることで、調査実施にかかる手間や従業員の回答負担を抑制することができます。
OKR導入の狙いに応じて計測する指標を定めます。挑戦意欲、従業員同士の協力、心理的安全性などに狙いに関係する項目を設定し、調査結果が導入前後でどのように変化しているか計測します。特に改善が大きかったチームについてヒアリングして、全社に横展開するとより効果的です。
—導入後に期待した成果が得られなかった場合、よくある主な原因は何でしょうか。
奥田さん
導入後に成果が得られない原因として、高頻度の運用を十分におこなわないことです。導入当初はOKR推進チームがサポートしながら進めなければいけません。OKRに限りませんが、新たな仕組みの成功は継続的なフィードバックと改善が鍵です。
—OKRをより効果的に活用するために、企業側で工夫できることはありますか。
奥田さん
高頻度かつ定期的な運用ミーティングを設け、進捗状況を確認しながらメンバーの参画意欲を高めることが重要です。チームに挑戦と協力を促すフィードバック文化が醸成されます。
そのためにもOKR推進チームを中心にサポート体制を構築すること、相談窓口やFAQ、マニュアルを準備することも有効です。またOKR導入の初期段階では、OKRをうまく活用できている部門のリーダーにインタビューし、その声を全社に展開することも有効です。同時に、転職者や新入社員がOKRを共通理解できるように教育の機会を設けることも大切です。
—OKRの達成度合いを給与やボーナスと直接結びつけることには賛否がありますが、OKR導入企業の人事評価制度はどのような運用が望ましいと考えますか。
奥田さん
OKRの達成度合いは基本的に挑戦を前提とするため、給与やボーナスと直接結びつけるべきではありません。達成度合いを評価に直接結びつけると、保守的な目標を設定してしまうからです。大切なことは、単純に達成度合い直接結びつけるのではなく、挑戦できたか・十分に取り組みできたかを考慮して、評価することが望ましいです。
—リモートワークが普及するなかで、OKRをどのように活用すれば効果的な目標管理が可能だと考えますか。
奥田さん
リモートワーク下では、OKRを通じてチームの透明性を高め、全員が共通の目標に向かって取り組める環境を整えることが重要です。OKRは高頻度で進捗ミーティングを行いますので、透明性、情報共有の不足を防ぐことができます。
またオンライン上でOKRの進捗状況を可視化することで、リアルタイムでチームの状況を共有します。また、ミーティングによって、リモート下でのコミュニケーション不足を解消できます。
—今後、企業は目標管理に関してどのように対応していくべきだと思いますか。また、御社でも新しい取り組みを検討されていることがあれば教えてください。
奥田さん
目標管理を正しく実施することを「目的」に考えないで対応すべきだと考えます。あくまで目標管理は「手段」です。当社では、OKRはマネジメントツールであり、企業ごとに目的達成に向けてツールをどのように使いこなすか、コンサルティングしています。
現在当社では、企業の目的達成に欠かせない役割である「マネージャー」の活躍支援に新たに注力しています。マネージャーを育成するだけでなく、目標管理も含めて全体的に組織のマネジメントを見直し、マネージャーが活躍できる環境を作るお手伝いをさせていただきます。
—最後に、目標管理の強化や成功を目指す企業に向けて、アドバイスをいただけますか。
奥田さん
目標管理の強化を何のためにおこなうか?を経営層は明確にしてほしいです。全社員が目標の重要性を理解し、一丸となって取り組むことが重要です。目標管理は従業員を評価するためのツールではないと考えています。意欲的に挑戦する従業員が増え、管理職が活躍し、社会に大きな価値を提供できる組織を目指すために、目標管理、そして組織マネジメントを強化していただきたいです。
労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
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