この記事でわかること・結論
- 【課題】 人的資本投資の成果(ROI)が見えず、人事部門が「管理」から「戦略」へ脱却できていない。
- 【原因】 「データ分断(財務・人事)」と「指標選定・分析ロジックの不明確さ」という2つの障壁が存在する。
- 【解決策】 統合ダッシュボードで指標推移を可視化し、AIを活用したデータドリブンな意思決定を実現する。

この記事でわかること・結論
目次
前回(第1回)は、煩雑な集計実務の自動化・標準化によって現場の負担を軽減し、戦略的な人材施策に充てるためのリソースを創出するという「守り」の基盤を固める重要性を説きました。
しかし、経営層が人的資本経営に期待するのは、その先の「人的資本への投資がどれだけの経営成果を生んだか」というROI(投資対効果)を把握し高めることです。
弊社の調査によれば、上場企業の約83%が経営効果を確認したいと考えていますが、実際にシステムで定量的に確認できている企業は34.3%に留まっています。
本稿では、人事部門による「戦略的分析」と、現場実務を通じて蓄積される「正確なデータ」がどのように融合し、組織の生産性向上に寄与できるのか、その未来像を提示します。

人的資本の活用において、経営層が最も期待するのは「生産性の向上(34.6%)」です。少子高齢化に伴う深刻な労働人口減少に直面する日本企業において、現有戦力のポテンシャルを最大化し、従業員一人ひとりの労働生産性を高めていくことは、極めて重要な経営課題です。
しかし、多くの企業において、多額の予算を投じて実施した全社的な「DX人材育成研修」や、多大な労力を割いて導入した「エンゲートメント向上施策」が、最終的に「労働生産性の向上」や「営業利益率の改善」にどう結びついたのかを、客観的なデータで適時把握できているケースは極めて稀です。
このように人的資本投資の効果が不透明な状態のままでは、人事部門が経営の意思決定に深く関与することが難しくなり、単なる管理部門という位置づけから脱却することができません。投資成果が目に見えないことこそが、人事の戦略的な活動を制限してしまう要因なのです。
経営陣から「投資に対するリターンはどうなっているのか」と問われた際、人事が「研修のアンケート満足度は非常に高かったです」という施策の「消化状況」でしか答えられないようでは、戦略的な議論は成り立ちません。
システムに求める機能の第1位(41.9%)が「経営成果を財務指標と非財務指標で可視化して確認できること」であるという調査結果は、多くの企業が、人的資本への投資成果を客観的に把握し、次の施策に活かすための「共通指標」を切望していることの何よりの証拠なのです。この死角を放置することは、企業にとって経営上の重大な損失につながります。


なぜ、これほど多くの企業が「経営成果の可視化」という壁の前に直面し、理想と現実のギャップに悩まされているのでしょうか。
実務構造を分析すると、そこには日本企業が共通して抱える二つの構造的障壁が浮かび上がってきます。
システムや組織の分断と、分析ロジック構築のノウハウ不足が大きな壁となっています。
人的資本投資の経営成果(ROI)を正しく測定するためには、人事部門が管理している「非財務データ(研修時間、スキルの習得率、エンゲージメントスコア、離職率など)」と、経理・財務部門や経営企画部門が厳格に管理している「財務データ(売上高、営業利益、採用コストなど)」を掛け合わせ、時系列での相関関係や因果関係を分析する必要があります。
仮に、データを集約できたとしても、人事・労務の現場に存在する無数のデータの中から、「経営成果として本当に価値のある情報」をどのように抽出し、どのように可視化すべきかのノウハウが不足しています。
しかし現実には、財務システムと人事システムは完全に異なるプラットフォームで運用されているケースが多く、社内の組織間の連携不足もあり、お互いのデータが共有・連携されるインフラが整いにくいのが現状です。
これらを突き合わせて相関を分析する環境を自前で構築しようとすれば、膨大な開発コストとIT部門の多大な工数を要する一大プロジェクトとなり、多くの企業がその前段階で躊躇しているのが実態です。
財務指標と非財務指標をどう組み合わせれば経営判断に資するのか、そのロジックをゼロから構築するには多大な時間を要し、結果として「見たい時にすぐに見られない」という停滞を招いているのです。
日々の実務を通じて担保されるデータの正確性は、経営判断の質を決定づける極めて重要な基盤であり、高度なピープルアナリティクス(戦略的な分析・提言)を実現するうえでの生命線そのものと言えるでしょう。

こうした「分析環境の構築」と「高度なロジック設計」という二つの巨大な障壁に対し、弊社が提供する人事ソリューション「Ulysses 人的資本ダッシュボード®」は、実務的でファクトベースの解決アプローチを提示しています。
本ツールの特徴は、社内に蓄積されたデータをもとに、人的資本に関する経営判断に資する情報を、経営層と共有できる「定量化された指標」で可視化できる点にあります。日々の実務を通じて蓄積された実績値をベースにしているため、経営陣も客観的な判断が可能となります。
具体的には、人的資本への投資が事業に与えた具体的な影響を、長年のコンサルティング経験から厳選した「5つの財務指標」と「8つの非財務指標」という明確なフレームワークを用いて、ダッシュボード上に適時展開します。
ここでのポイントは、「単年度における定点観測の比較」に留まらないという点です。人材に対する投資(教育研修や組織エンゲージメントの強化等)の効果は、設備投資のように、ただちに財務諸表の数値が変わるような即効性は持ちません。
施策の効果が個々のマインドやスキルを変え、それが日々の行動変容に繋がり、最終的に事業の数字として結実するまでには、必ず一定のタイムラグが発生します。Ulysses 人的資本ダッシュボード®は、この人的資本投資の特性を捉え、財務指標と非財務指標の「複数年にわたる時系列の推移」を、同じ画面上で適時グラフ化し、トレンドとして比較・モニタリングできる機能を備えています。
例えば、過去数年間にわたる「研修時間」や「研修への投資のROI」といった非財務指標の推移と、「労働生産性成長率」(財務指標)のトレンドを重ね合わせてモニタリングする。
あるいは、非財務指標である「離職率」や「欠勤率」の推移と、現場の「人件費1人当たりの収益」(財務指標)への影響を時系列で重ね、その因果関係をロジカルに分析する。
このように、複数年の「推移の可視化」を実現することで、「どの施策が、どの程度のタイムラグを経て、どのような経営成果(ROI)をもたらしたか」という、人的資本投資の効果と因果関係を鮮明に描き出すことができます。
統合データ基盤の上に、この可視化の仕組みさえ整っていれば、高度なデータサイエンティストを自社で雇うことなく、その日から人的資本経営をコントロールするための強力な「羅針盤(コックピット)」を手にすることができるのです。

ダッシュボードによって「過去から現在に至る投資の成果」が明確に可視化されれば、次に行うべきは「未来を変えるための施策の実行」です。このフェーズにおいて、SAP SuccessFactorsが備える最新のAIテクノロジーが、人事の実務を強力にアシストします。
例えば、ダッシュボード上で特定部門の「離職率」や「欠勤率」の非財務指標上昇と、「労働生産性成長率」(財務指標)の低下について相関が可視化されたとします。
ここでSAPが提供するJoule等のAIを活用すれば、膨大な勤怠パターンや評価データを元に「離職リスクの高いハイパフォーマー」を早期に検知し、人事担当者にアラートを出すことが可能です。
また、スキルベース組織への移行にあたっても、AIを活用した効率的なアプローチが可能です。経営戦略が求めるスキル要件と、従業員の現在の保有スキルとの過不足(スキルギャップ)をAIが客観的に分析し、戦略の実現に合致した最適なプロジェクトメンバーの選定を支援します。
同時に、従業員個人のスキルアップやキャリア開発を支援する観点からも、各自の保有スキルに応じた最適な学習プログラムの提示などを行うことができます。このように、可視化された「事実」に基づいて、AIを活用することで、施策の精度とスピードは向上します。
人的資本のROIを最大化する。それは決して、従業員を数値のみで管理し、効率のみを追求することではありません。
むしろ、データとテクノロジーを駆使して「組織の歪み」を早期に発見し、従業員一人ひとりの強みが活かされる環境を整えることで、結果として企業の生産性が向上するという「健全な循環」を創り出すことです。
経営層、人事部門、そして投資家が、同じ財務・非財務の指標を見て「人への投資の成果」に深い納得感を持てること。社内のデータが分散し、自社で管理すべき指標を明確に決定できないままでは、どんなに崇高な人材戦略も形骸化してしまいます。
「Ulysses 人的資本ダッシュボード®」による現状の適時可視化を土台とし、必要に応じてAIを用いた精緻なタレントマネジメントを展開していくことこそが、人的資本への投資を「確実なリターン」へと変換し、企業の持続的な未来を自らの手で切り拓いていくための、有効な戦略的な手段となるのです。

株式会社オデッセイ 代表取締役CEO 秋葉尊
NECにて営業、マーケティングを経験後
2003年オデッセイ入社、2011年より現職
独自の人事ソリューションでSAP業界トップクラスの導入実績を誇る
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