この記事でわかること・結論
- 2025年の税制改正で変わる、基礎控除・給与所得控除・扶養控除などの仕組み
- 経理・人事担当者が対応すべき申告書様式の変更点や業務フロー
- 給与所得者が年収の壁や控除の最適化にどう向き合うべきか

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ニュースこの記事でわかること・結論
2025年(令和7年)の年末調整では、基礎控除・給与所得控除の段階的見直しや、扶養控除の所得要件緩和、特定親族特別控除の新設など、実務に直結する大きな変更が予定されています。
経理・人事担当者にとっては、控除額の再計算や申告書様式の差し替えなど事前準備が必須であり、給与所得者にとっても「年収の壁」への影響や控除の最適化が課題になります。本記事では、改正内容の全体像と実務への影響をわかりやすく整理します。
目次
2025年(令和7年)の年末調整では、税制全体のバランスを見直す大きな改正が入り、控除額や適用要件が複数同時に変更されます。
特に影響が大きいのは「基礎控除・給与所得控除の段階的見直し」「扶養控除・配偶者控除の所得要件緩和」「特定親族特別控除の新設」の3つです。この章ではそれぞれのポイントをわかりやすく整理します。
2025年の年末調整は、複数の控除が一度に変わるため、経理担当者は早めの準備が必要です。給与所得者にとっても手取りや控除額に影響する重要な改正です。
2025年から、基礎控除・給与所得控除は「合計所得金額に応じて段階的に変動する」仕組みへと移行します。これまでの一律控除ではなく、高所得層ほど控除額が縮小する設計となり、所得階層ごとの公平性を確保する狙いがあります。
・基礎控除は48万円〜95万円の範囲で所得に応じて変動
・給与所得控除は最低保障額が65万円へ引き上げ
・高所得層は控除額が段階的に縮小
所得が一定額を超えると控除が縮小するため、特に管理職・高収入層は手取り額に変化が生じる可能性があります。年末調整での計算もより複雑になります。
扶養控除や配偶者控除の所得要件も、家族の働き方の変化に対応する形で緩和されます。従来、わずかな年収超過で控除の対象外となるケースが多く「年収の壁」の一因となっていましたが、今回の見直しにより、より柔軟な適用が可能になります。
これにより、扶養家族をもつ給与所得者は控除を受けられる可能性が広がり、経理担当者においても扶養関係の確認と申告書のチェックがより重要になります。
2025年の改正で新設される「特定親族特別控除」は、19歳以上23歳未満の特定扶養親族の所得要件を緩和し、税負担を支援する新たな控除制度です。
働き方や家族構成の多様化に対応し、扶養外であっても一定の所得範囲の親族を支えている世帯を税制面で支援する目的があります。
・対象となる親族の範囲が明確化
・所得要件を満たす場合に控除の適用が可能
・既存の扶養控除ではカバーできない家族構成に対応
この控除の創設により、従来制度では控除が受けられなかったケースでも税負担が軽減される可能性があります。適用要件の確認と必要書類の案内は、経理担当者の重要業務となります。
【参考】年末調整のしかた(基礎控除等の改正詳細)|国税庁
【参考】令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
今回の大幅な見直しは、働き方の多様化や賃上げ環境の変化を踏まえ、所得に応じた適正な税負担を実現することが目的です。近年は物価上昇や賃金改定の動きが続き、現行制度と実態の乖離が指摘されていました。
こうしたなかで、基礎控除や給与所得控除を「所得に応じて段階的に変動させる」仕組みを導入することで、公平性を高めつつ、働く環境に合った税制へと調整する狙いがあります。
・所得階層ごとの公平性を確保するための控除再設計
・扶養構造変化に伴う制度の古さを是正
・働き方や年収分布の変化に対応するための時限的措置
こうした背景から、2025年の年末調整は単なる軽微な変更ではなく、税制構造の見直しとして実務インパクトが大きい点に注意が必要です。
令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直しなどは、令和7年12月1日に施行され、令和7年分の所得税から適用されます。
このため、令和7年12月に実施する年末調整や令和7年以降の給与支払において、改正に対応した様式や計算方法を導入する必要があります。なお、令和7年11月までの給与および公的年金などの源泉徴収事務については変更はありません。
【参考】令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
2025年(令和7年)の年末調整では、控除額そのものが見直されるだけでなく「所得に応じて控除額が変動する」しくみが導入されます。これにより、従来の一律控除では見えにくかった所得階層ごとの負担調整がおこなわれ、給与所得者の手取りに直接影響します。ここでは各控除の具体的な計算方法を整理し、どの層にどのような影響があるのかを明確にします。
基礎控除・給与所得控除ともに、所得によって段階的に増減します。年収帯ごとの影響を把握しておくことで、手取り額の変化を事前に予測できます。
2025年からの基礎控除は、合計所得金額に応じて58万円〜95万円の範囲で変動する仕組みに変わります。これにより、低所得層の控除額が手厚くなり、高所得層では控除額が縮小する方向になります。
・合計所得金額が一定額以下:58万円
・所得が上がるほど控除額が段階的に縮小
・高所得層では48万円まで減額
合計所得金額の定義は「収入から必要経費・給与所得控除などを差し引いた金額」であり、給与所得者は年収だけでは判断できない点に注意が必要です。給与計算担当者は、従業員ごとの所得情報を正確に把握しておく必要があります。
給与所得控除については、最低保障額が従来の55万円から65万円に引き上げられ、対象となる給与収入が190万円以下に拡大されます。
これにより、低〜中所得層の手取り額が増え、給与所得者の税負担が軽減される仕組みとなります。
とりわけ年収が低い層では恩恵が大きく、手取り額が増える可能性があります。一方、高所得層は控除が縮小されるため、課税所得が増えるケースも想定されます。
2025年に新設される「特定親族特別控除」は、特定扶養親族(19歳以上23歳未満)の所得要件を緩和し、従来の扶養控除の所得要件を超えてしまった場合にも適用される新制度です。
従来の扶養控除の対象外となっていた親族についても、一定の所得要件を満たす場合に控除を受けられるようになります。
・対象となる親族の範囲は扶養控除より広めに設定
・所得要件を満たせば控除適用が可能
・控除額は一定額で、家族の支援実態に応じた税負担軽減が目的
この控除は「扶養に該当しないが、生活実態として支えている親族がいる」ケースで特に有効です。給与所得者は対象となる親族がいないかを確認し、経理担当者は申告書のチェック体制を整えておく必要があります。
2025年(令和7年)の年末調整は制度改正の影響が大きく、経理・人事担当者は「様式変更」「従業員への周知」「システム更新」という3つの軸で早期に準備を進める必要があります。特に控除計算の複雑化や新設控除の追加により、例年どおりの運用では提出漏れ・計算ミスが起きやすくなります。この章では、改正後の年末調整を円滑に進めるための具体的な対応策をまとめます。
申告書の変更、控除計算の複雑化、システム更新など、対応漏れがあると業務に大きな遅延が発生します。各ステップを前倒しで準備することが重要です。
2025年の制度改正により、源泉徴収票や「扶養控除等申告書」「基礎控除申告書」など複数の申告書様式が刷新されます。特に、基礎控除や給与所得控除が段階的に変動する仕組みに変わるため、申告書の記載欄もそれに合わせて調整されています。
改定前
基礎控除・給与所得控除ともに記載箇所がシンプルで、計算も一律の仕組みでした。
改定後
申告書には所得階層の判定欄が追加され、従業員本人の所得確認がより重要になります。
経理・人事担当者は、新しい申告書を社内ポータルへ掲載するだけでなく、従業員が迷いやすい記載箇所を事前に整理し、記入方法の案内を準備しておく必要があります。
控除の仕組みが変わるため、従業員本人が提出する書類の内容や確認すべき項目も増えます。特定親族特別控除の新設により、控除対象となる親族の範囲を再確認する必要があり、記入漏れを防ぐための説明が欠かせません。
周知方法としては、社内メール・説明資料の配付・動画マニュアルなど複数の手段を組み合わせると、従業員の理解を促しやすくなります。
今回の改正は控除計算の基礎部分に影響するため、給与計算システムや年末調整ソフトのアップデート対応は必須です。更新が遅れると計算誤りにつながるだけでなく、提出期限に間に合わない可能性もあります。
・基礎控除・給与所得控除の段階的判定ロジックの反映
・扶養控除・配偶者控除の新たな所得区分の設定
・特定親族特別控除の追加項目が入力可能か
・源泉徴収票・申告書の帳票フォーマットの更新
クラウド型システムの場合は自動更新されることが多いですが、オンプレミス型や古いバージョンを利用している企業では、手動アップデートが必要な場合があります。担当者は早めにベンダーへ確認し、動作テストをおこなっておくと安心です。
年末調整の処理に入ってから更新すると、エラーや帳票不整合が発生しやすくなります。早期にテスト環境で確認し、実務に支障がないかチェックしましょう。
2025年(令和7年)の税制改正は、基礎控除・給与所得控除の段階的仕組みや扶養控除の所得要件緩和など、「年収の壁」と呼ばれる境界ラインに直接影響します。これまで年収調整をしていた世帯でも、控除額の増減により手取りが変化する可能性があり、働き方の見直しが必要です。この章では、給与所得者が押さえておくべきポイントを整理します。
所得に応じて控除額が変わる仕組みへと移行するため、年収ラインに対する考え方が変わります。控除の組み合わせによっては、これまでより手取りが増えるケースもあります。
扶養控除や配偶者控除の所得要件が緩和されることで、年収103万円・106万円・130万円といった「壁」に該当する層でも、控除の適用範囲が広がる可能性があります。控除の段階的仕組みが導入されることで、わずかな超過による急激な負担増が緩和されるケースもあります。
・扶養控除・配偶者控除の判定基準が柔軟になる
・控除額が所得に応じて変動し、手取りの差がなだらかになる
・従来の「数万円超えただけで控除対象外」が改善される可能性
働き方の調整をしていた世帯では、今回の仕組み変更により「働いたほうが手取りが増える」ケースもあるため、改正後の年収シミュレーションをおこなうことが重要です。
2025年から控除の整理が進み、複数の控除を組み合わせることで手取りを最適化できます。特に扶養控除・配偶者控除・特定親族特別控除などは、家族構成によって適用の可否が変わるため、事前の確認が必要です。
控除の最適化は、単に「控除が増える」だけでなく、働き方や収入計画にも影響するため、家族で早めに話し合っておくとスムーズです。
2025年に新設される特定親族特別控除は、従来の扶養控除の対象外だった親族にも適用される制度です。申請するためには「所得要件」「生計同一関係の確認」「必要書類の準備」が欠かせません。
従来制度
所得要件が厳しく、少しでも基準を超えると控除対象外となりやすい状況でした。
改正後
所得基準を満たせば、扶養控除の対象外だった親族にも控除を適用可能になります。
適用要件を満たせば税負担を大きく軽減できる控除のため、早い段階から対象者の確認と必要書類の整理を進めておくことが重要です。
2025年(令和7年)の年末調整は、基礎控除・給与所得控除の段階的見直し、扶養控除や配偶者控除の要件緩和、特定親族特別控除の新設など、制度の根本に関わる大幅な改正です。
経理・人事担当者は申告書の様式変更やシステム更新を早めに進める必要があり、給与所得者も「年収の壁」の影響を踏まえた働き方の見直しが求められます。控除を正しく理解し適切に申告することで、手取りを最適化し、業務負担を軽減できるでしょう。
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