この記事でわかること・結論
- 2026年に向けた年金制度改正の概要と、企業の人事・労務管理への影響
- 障害者雇用率の段階的引き上げのポイントと、企業に求められる対応
- 高齢者・障害者を含む「多様な働き方」に対応するための実務上の考え方

投稿日:
ニュースこの記事でわかること・結論
2026年にかけて、企業の人事・労務管理を取り巻く環境は大きく変化します。
とくに注目すべきなのが、「年金制度改正」と「障害者雇用率の段階的引き上げ」という二つの重要な制度改正です。
年金制度改正では、在職老齢年金の見直しや被用者保険の適用拡大を通じて、高齢者や短時間労働者の就業継続が後押しされます。
一方、障害者雇用率は2026年7月に2.7%へ引き上げられ、企業にはより一層の雇用体制整備が求められます。
これらの改正は、採用戦略や賃金制度、就業規則、職場環境づくりに同時対応を迫る「Wインパクト」といえるでしょう。
本記事では、2026年に向けた年金制度改正と障害者雇用率引き上げのポイントを整理し、人事・労務担当者が押さえるべき実務対応と注意点をわかりやすく解説します。

日本の年金制度は、少子高齢化の進行に伴い、持続可能性の確保が大きな課題となっています。特に、生産年齢人口の減少と平均寿命の伸長により、高齢者の就業意欲を高め、社会全体で支え合う仕組みを強化することが急務です。
年金制度改正は、こうした社会構造の変化に対応し、多様な働き方を支え、高齢期における経済基盤の安定を図ることを目的としています。
在職老齢年金制度は、厚生年金に加入しながら働く高齢者の年金支給額を、賃金と年金月額に応じて調整する仕組みです。この制度は、高齢者の就業意欲を阻害する要因の一つとして指摘されてきました。在職老齢年金制度の支給停止基準額は、2026年4月から65万円に引き上げられます。
企業にとっては、高齢者が年金を気にせず働き続けられる環境を整備することで、豊富な経験を持つ人材の確保と活用が可能になります。賃金制度や勤務体系の見直しが、実務上の重要な課題となります。
支給停止基準額を引き上げ、年金が減額されることなく働ける高齢者を増やす方向です。これにより、企業はより多くの高齢者を雇用しやすくなり、高齢者側も収入を確保しやすくなることが期待されます。
短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大も、年金制度改正の大きな柱の一つです。企業規模要件はこれまで段階的に引き下げられてきており(2022年10月に101人以上、2024年10月に51人以上)、現在は従業員数51人以上の企業が対象となっています。
さらに、賃金要件(月額8.8万円以上)は、年金制度改正法(2025年6月成立)により撤廃が決定しています。施行日は公布日から3年以内に政令で定めるとされており、2026年10月の施行が有力視されていますが、正式な施行期日は今後の政令により確定します。
あわせて、2027年10月から2035年10月にかけて企業規模要件も段階的に撤廃されることが決定しました。
適用拡大の主な目的は、短時間労働者の将来の年金受給権を確保し、医療保険の安定化を図ることです。2026年10月に見込まれる賃金要件撤廃、2027年10月以降の企業規模要件の段階的撤廃により、対象となる短時間労働者は大幅に増加します。企業は、対象となる短時間労働者の社会保険加入手続きをおこなう必要があります。
第3号被保険者制度(厚生年金加入者に扶養されている配偶者で、年収130万円未満の者)については、多様な働き方を推進する観点から見直しが議論されてきました。
2025年6月に成立した年金制度改正法では、第3号被保険者制度そのものの改正は含まれていませんが、前述の被用者保険の適用拡大(企業規模要件・賃金要件の撤廃)に伴い、パート・アルバイトとして週20時間以上働く配偶者は社会保険に加入することとなるため、第3号被保険者から外れるケースが増える見通しです。
今回の改正法では第3号被保険者制度そのものの改正は含まれていませんが、適用拡大により第3号被保険者から外れるケースが増える見通しです。制度そのものの見直しは今後の議論に委ねられており、企業は動向を注視する必要があります。
一連の年金制度改正は、企業に対し、高齢者や短時間労働者の雇用・処遇に関する抜本的な見直しを迫ります。特に、在職老齢年金の見直しは高齢者の雇用継続を、被用者保険の適用拡大は短時間労働者の雇用条件を、それぞれ直接的に左右します。
障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)に基づき、事業主には常用労働者数に対する一定割合(法定雇用率)以上の障害者を雇用することが義務付けられています。この法定雇用率は、障害者の雇用機会を確保し、職業生活における自立を促進するための重要な制度です。
法定雇用率は、企業規模や業種によって異なりますが、一般の民間企業では、常用労働者数の一定割合(2024年4月現在2.5%)と定められています。この割合は、雇用情勢や障害者の就業状況に応じて定期的に見直されます。
障害者雇用率は、障害者の社会参加と活躍の場を広げるという社会的な要請に基づき、近年、段階的に引き上げられています。特に、2024年4月からは民間企業の法定雇用率が2.3%から2.5%に引き上げられ、雇用義務の対象となる企業の範囲が拡大しました。
この引き上げは、企業にとって障害者雇用への取り組みを強化し、多様な人材の活躍を推進する機会となります。
民間企業の法定雇用率の推移(2024年4月以降)
| 時期 | 法定雇用率 |
|---|---|
| 2024年3月まで | 2.3% |
| 2024年4月~ | 2.5% |
| 2026年7月~ | 2.7% |
2026年7月には、法定雇用率がさらに2.7%に引き上げられることが決定しています。この背景には、障害者の就業を希望する者が増加していることや、企業における障害者雇用のノウハウが蓄積されてきたことがあります。
また、国全体として「共生社会」の実現を目指すという強いメッセージも込められています。企業は、単に雇用率を達成するだけでなく、障害者が長期的に活躍できるような、より質の高い雇用を目指す必要があります。
障害者の雇用の場の確保だけでなく、企業が障害者の能力を適切に評価し、その能力を最大限に発揮できるような職場環境を整備することを促す目的があります。これにより、企業全体の生産性向上にも繋がることが期待されます。
法定雇用率の2.7%への引き上げにより、雇用義務の対象は現行の従業員数40人以上から37.5人以上の企業に拡大します。雇用義務の対象となる企業は、計画的な採用活動と、受け入れ体制の整備が急務となります。
人事労務担当者は、自社の常用労働者数を正確に把握し、法定雇用率達成に向けた具体的な採用計画と、既存社員への啓発活動を並行して進める必要があります。
障害者雇用納付金制度は、法定雇用率を達成できていない企業(常用労働者101人以上)から納付金を徴収し、達成企業に調整金や報奨金を支給する制度です。
納付金は不足1人あたり月額5万円(年額60万円)、一方、法定雇用率を超えて雇用している企業には1人あたり月額2万9千円の調整金が支給されます。
企業は、納付金の負担を避けるためだけでなく、社会的責任を果たすためにも、法定雇用率の達成を目指すことが重要です。
障害者雇用に伴う経済的な負担を企業間で調整し、障害者雇用の促進を図ることを目的としています。雇用率が引き上げられると、納付金の対象となる企業が増え、納付額も増加する可能性があります。
年金制度改正による高齢者の就業促進と、障害者雇用率の引き上げという二つの大きな変化に対応するためには、企業は高齢者と障害者の両方が能力を発揮し、長期的に働き続けられる職場環境を整備することが不可欠です。
特に、障害者雇用においては、個々の障害特性に応じた「合理的配慮」の提供が義務付けられています。これは、単なる設備投資だけでなく、業務内容や勤務時間、コミュニケーション方法など、多岐にわたる配慮を意味します。
年金制度改正による被用者保険の適用拡大は、短時間労働者の雇用形態に影響を与えます。また、高齢者や障害者の中には、フルタイムでの勤務が難しい、あるいは望まない人も多くいます。これらの状況に対応するため、企業は短時間勤務や多様な雇用形態を積極的に活用する必要があります。
多様な働き方を導入する際は、労働時間や賃金、社会保険の取り扱いについて、就業規則や雇用契約書に明確に規定し、従業員との間で認識の齟齬が生じないようにすることが重要です。
週3日勤務、1日4時間勤務などの短時間正社員制度の導入や、業務委託契約、ジョブシェアリング(一つの職務を複数の従業員で分担)など、柔軟な働き方を可能にする制度設計が求められます。これにより、優秀な人材の確保と定着に繋がります。
高齢者や障害者を雇用する際、既存の業務をそのまま任せるのではなく、個々の能力や特性に合わせて業務を細分化し、再設計する「ジョブデザイン」が極めて重要になります。
部署全体の業務を洗い出し、誰でもできる単純作業、専門知識が必要な作業、体力が必要な作業などに細かく分類します。
細分化した業務を、高齢者や障害者の能力、希望する勤務時間に合わせて組み合わせ、新たな職務(ジョブ)として設計します。
高齢者や障害者の雇用が増えることで、従来の年功序列型や、フルタイム・総合職を前提とした人事評価・処遇制度では対応が難しくなります。多様な働き方に対応した、公平で納得感のある制度への見直しが求められます。
人事評価制度の見直しは、全従業員のモチベーションに影響を与えるため、十分な検討と、従業員への丁寧な説明が不可欠です。
年金制度改正や障害者雇用率の引き上げに関する情報は、政府の審議会や省庁の発表によって随時更新されます。特に、具体的な施行時期や詳細な要件については、直前になって変更されることも少なくありません。人事労務担当者は、常に最新の情報を確認し、対応の遅れがないように注意する必要があります。
公的機関からの情報だけでなく、信頼できる専門家や労務コンサルタントからの情報も参考に、多角的に情報を収集することが重要です。
厚生労働省の年金局や、日本年金機構のウェブサイト。
厚生労働省の障害者雇用対策のページや、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)のウェブサイト。
年金制度改正や障害者雇用率の引き上げに伴う企業の対応は、多くの場合、就業規則や賃金規程、人事評価規程などの社内規程の見直しを伴います。特に、高齢者の継続雇用制度や短時間労働者の社会保険加入に関する規定は、法改正に合わせて速やかに見直す必要があります。
就業規則の変更は、労働者代表の意見を聴き、労働基準監督署への届出が必要です。法改正の施行日までに、余裕をもって手続きを完了させることが求められます。
法改正への対応は、人事労務部門だけで完結するものではありません。特に、高齢者や障害者の雇用・受け入れ体制の整備には、現場の管理職や一般社員の理解と協力が不可欠です。
情報共有と研修を通じて、全社的な意識改革を促し、「多様な人材が活躍できる職場づくり」という共通認識を持つことが、法改正への対応を成功させる鍵となります。
全従業員を対象とした法改正の背景と内容に関する説明会や、管理職向けの高齢者・障害者雇用に関する研修を実施することが有効です。特に、障害者への合理的配慮については、具体的な事例を交えた研修をおこなうことで、現場での対応がスムーズになります。
本記事では、2026年に向けて企業の人事労務管理に大きな影響を与える「年金制度改正」と「障害者雇用率の段階的引き上げ」という二つの法改正について、そのポイントと企業が取るべき対応を解説しました。
これらの法改正は、企業にとって単なる義務の履行ではなく、多様な人材を活かし、持続的な成長を実現するための「攻め」の人事戦略を構築する絶好の機会です。人事労務担当者は、最新の情報を基に、計画的かつ戦略的に対応を進めていきましょう。
在職老齢年金の見直しや多様な働き方に対応した、職務給・役割給を軸とした公平な評価・処遇制度を構築します。
高齢者の継続雇用制度、短時間労働者の社会保険適用、合理的配慮の提供に関する規定を法改正に合わせて見直します。
物理的・情報的・精神的なバリアフリー化を進めるとともに、全従業員への研修を通じて、多様な人材が活躍できる職場文化を醸成します。

大学在学中に社労士試験に合格。業界歴約30年のベテランで、ビジネスケアラー対策の第一人者として企業の人材確保・定着支援を得意とする。
詳しいプロフィールはこちら