この記事でわかること・結論
- 第三者行為災害は通勤中や業務中に第三者による加害があった場合の災害を指し労災保険の補償対象
- 第三者行為災害の場合、被害者は求償権や控除を通じて支払い調整が行われる
- 自賠責保険との調整や示談交渉には注意が必要で、適切な手続きを行うことでのみ労災保険給付の対象
この記事でわかること・結論
第三者行為災害とは、たとえば通勤中や営業中の交通事故などにおいて、一般的に事故の相手方の加害者が存在する災害です。第三者行為災害では、労災保険の当事者ではない相手方となる第三者が、損害賠償の義務を負うことになります。
しかし、第三者行為災害の範囲や被害者への補償に関するルールなどについて、よくわからない担当者もいるでしょう。そこで、第三者行為災害で労務担当者がまず知っておくべき事項について解説します。
目次
労災保険における「第三者」とは、該当する災害に関する労災保険の当事者(政府・事業主・労災保険受給権者)以外の人を指します。
一般的に、「第三者行為災害」となる災害には次のものがあります。
例1)交通事故
例2)通勤途上でペットに噛まれたなどの理由で負傷した場合
例3)業務に起因して他人から暴行を受けた場合
ここで、例3に関して補足説明をしておきます。
たとえば、鉄道の駅員などが乗客に注意したことで暴行を受けてしまった場合、駅員が職務上の義務として注意をした結果、乗客による暴行を誘発したと考えられます。その場合は業務上で起こった第三者行為災害となります。
一方、同じく業務中に起こった暴行でも、従業員同士のケンカなどが原因の場合は第三者行為災害となりません。それは故意により起きるものであり、業務に起因した災害とはみなされないからです。
以上のように、第三者行為災害は業務に起因して意図せず起こった災害を指し、労災保険の当事者以外の加害者が「第三者」となります。
第三者行為災害に該当する災害が発生した場合、被災者は「加害者となる第三者に対する損害賠償請求権」と「労災保険の給付請求権」の両方を取得することになります。
そうなると、損害賠償金と労災保険給付の二重取りとなり、実際の損害額より多くのお金が被災者に支払われる不合理が起こります。
そのため、国は労働者災害補償保険法(以下:労災保険法)第12条の4で第三者行為災害における労災保険給付と民事損害賠償との支払い調整について、保険給付が重複しないようルールを定めています。それが「求償」と「控除」です。
第三者行為災害における「求償」と「控除」は、災害発生後速やかに給付を行うために定められた国のルールです。担当者はそのことを念頭に置き、正しい形で保険給付が行われるよう手続きを行いましょう。
次は、第三者行為災害における「求償」と「控除」の違いについて説明します。
政府が労災保険を給付する際に被災者等より損害賠償請求権を取得し、その権利を第三者(保険会社など)に直接行使することです。
第三者行為災害の最終的な損害賠償責任は、加害者となった第三者が負うべきものとされます。そのため、政府は本来第三者が行うべき損害賠償責任を肩代わりする形で労災保険の給付を行い、肩代わりした分の金額を第三者に請求することになります。
同一の事由により、労災保険給付より先に第三者による損害賠償(損害保険や自賠責保険などの支払い)が行われた場合、政府はその価額の限度で労災保険給付が控除されます。
ここで言う「同一の事由」は、次のものを指します。
(呼称は保険により違います)
上記の項目で先に民事損害賠償が行われた場合、労災保険で支払われる金額より民事損害賠償で支払われた金額を差し引いて給付する「支給調整」が行われます。
なお、社会復帰促進等事業として支払われる「特別支給金」や、保険給付の対象外となる費用(慰謝料、自動車修理代等)は、支給調整の対象とはなりません。
第三者行為災害に遭遇した際、「自賠責保険との調整を行う場合」と「示談を行う場合」については特に注意が必要です。
自動車事故では、自賠責保険等の保険金を先に受ける「自賠先行」と、労災保険を先に給付する「労災先行」のどちらかを選ぶことになります。
「自賠先行」では、労災保険と同一事由の損害項目について、自賠責保険等からの支払いが完了するまで労災保険からの給付が行われない場合があります。
「労災先行」では、自賠責保険等と同一事由の損害項目について、自賠責保険等からの支払いを受けることができません。
上記のどちらにするかは被災者が自由に選べますが、それぞれ補償の範囲が違うため、事前に双方の補償内容を確認したうえで選ぶ必要があります。
双方の真意のもとに示談が成立し、被災者等が示談内容以外の労災保険の損害賠償請求権を放棄した場合、政府は原則として労災保険給付を行わないことになっています。そのため、『労災保険から給付されるから、示談に応じよう!』などと自己判断での示談は厳禁です。
示談を行うにあたっては、事前に労働局または労働基準監督署に示談を行う旨を連絡し、その後で示談書を提出します。
示談書を書く際は、示談内容が労災保険給付を含む全損害の補償を目的とするかどうかについて、相手方に明確な意思表示をしてもらいます。また、示談締結後に別途労災保険に請求するものがあれば、その内容を示談書に明示しましょう。
第三者行為災害が発生した場合に労務担当者が特に知っておくべきことは、法律で定められた「第三者」の定義と、労災保険と民間の損害保険等の調整に関するルールです。
また、交通事故の自賠責保険等と労災保険との調整や示談に関する注意点についても理解しておきましょう。
そのうえで、第三者災害の当事者となった従業員に適切なアドバイスを行い、労災保険が給付されないなどのトラブルを未然に防ぎましょう。
1982年生まれ、東京都豊島区出身
2016年:社会保険労務士開業登録
2018年:特定社会保険労務士付記
2019年:行政書士登録
ワイエス行政書士・社会保険労務士事務所の特定社会保険労務士
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