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人材・組織企業グループや子会社を持つ大企業を中心に、シェアードサービスの導入を進めている企業が増えています。シェアードサービスは、複数の企業や組織内の共通する業務を集約させ、コスト削減や業務の効率化を図ることができます。今回は、近年注目が高まっているシェアードサービスのメリット・デメリットや対象業務について解説します。
目次
シェアードサービス(shared service)とは、企業グループや大企業などの組織において、部門ごとに共通する業務やサービスを切り離してシェアードサービスセンター(shared service center)と呼ばれる一つの部門へ集約することで、業務効率化やコスト削減を図る経営手法です。日本では、内部統制の強化やM&Aにおける対応が促進されてきた2000年以降、シェアードサービスを新たに導入・検討する企業が急速に増えてきました。
シェアードサービスの対象となる部門には、主に人事や総務、経理・財務、法務、情報システムなどの間接部門が該当します。
一般社団法人企業研究会が2003年に行った調査によると、東証一部上場1,500社の約15%(約220社)がシェアードサービスの検討または導入をしているそうです。このように、シェアードサービスは大企業を中心に、近年広がりを見せています。
【参考】日本型シェアードサービスの成功要因|アビーム コンサルティング株式会社
シェアードサービスに似たサービスとして「BPO(Business Process Outsourcing)」があります。業務効率化やコスト削減といった観点では同じ役割を持ちますが、BPOとシェアードサービスとでは、サービス提供先(委託先)が大きく異なります。
BPOは、間接部門の業務すべてを外部の企業に委託します。一方で、シェアードサービスは各部門の業務をグループ内の一か所に集約して委託します。
企業がシェアードサービスを導入することで得られるメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。
間接部門が行う専門的な業務をグループ内の一か所に集約することにより、業務の効率化が期待できます。これまで部門ごとに行っていた入力業務や印刷業務を集約し、さらにフォーマットや運用方法、締め切り期日などを統一することで、業務の効率化を実現することができます。
グループ内の間接部門を一つに集約することで、それぞれの部門で個別にかかっていた人件費や機材設備が共有化され、コストを大幅に削減できます。水道光熱費はもちろん、会議室などの施設費用、複合機やパソコン周辺機器などの備品や消耗品のコストも抑えられます。
専門的な業務を行う部門が集約するため、業務の最適化が進み、業務品質の向上も期待できます。また、各部門が行っていたスケジュール管理も一か所に集中するため、業務の納期遵守率の向上も期待できます。
次に、シェアードサービスを採用することで考えられるデメリットを見ていきましょう。
シェアードサービスの設立には、子会社などのグループ会社に集約する方法や、本社などの企業組織の一部門に統合する方法などがあります。どの方法も各部門の既存業務を標準化し、部分最適化されている業務システムを共通化する必要があり、そのための業務工数やシステム導入費などの初期費用がかかります。
また、シェアードサービスを導入する拠点は、土地の価格などを考慮することはほとんどなく、本社の近くに設置する傾向が見られます。その理由として、「早期立ち上げのため現状の場所を活用」、「コミュニケーションの維持」、「書類などの円滑な受け渡し」などが挙げられます。
【出典】日本型シェアードサービスの成功要因|アビーム コンサルティング株式会社
シェアードサービス導入にかかる初期費用の高さは大きな障壁となります。規模の大きなグループ企業の場合、間接部門の規模も大きいため、初期費用も膨れ上がってしまいます。シェアードサービスを採用する場合は、事前に綿密な資金計画が必要です。
シェアードサービスの導入から運用開始までには長い時間を要します。各部門やグループ各社で独自に設定されているルールやシステムを統合する必要があるため、一つ一つ手法の聞き取りをしながら整備を進めなければなりません。
一度導入したシステムをグループ内で標準化し、集約するのには時間も費用もかかります。また、採用している社内システムが複雑な場合、その内容を理解するための人員配置にも考慮が必要です。
これらの事前準備を省いてシステム共有化をすぐに推進する場合もあるようですが、現場の混乱を招き、本来の目的であったはずの業務効率化を図ることができなくなる恐れがあるため、慎重に進める必要があります。
間接部門の業務には、データ入力や印刷業務、書類管理などの単調な処理や作業内容が多く、配置された社員によってはモチベーションが低下してしまう恐れがあります。反復的なオペレーション業務が続くことで、優秀な人材を流出させてしまうことも考えられます。
人員を配置する際には、社員のモチベーションが維持できるように、業務プロセスの可視化や将来のキャリアパスの明確化などの対応が必要です。
シェアードサービスの対象となる業務には、次のような間接業務が挙げられます。
部門名 | 業務内容 |
---|---|
人事部門 | 労務管理、給与計算、社会保険手続き、健康管理など |
総務部門 | 備品・消耗品管理、会議室管理、アカウント管理など |
経理・財務部門 | 入出金管理、受発注管理、予算実績管理、税務など |
法務部門 | 契約管理、労働紛争対応など |
情報システム部門 | 社内システム運用、保守、ヘルプデスクなど |
アビームコンサルティング株式会社が東証一部上場企業を中心とした600社を対象に行った「日本型シェアードサービスの成功要因」調査では、経理・財務部門に次いで人事、総務などの間接部門がシェアードサービスの対象業務として採用されています。
【出典】日本型シェアードサービスの成功要因/アビーム コンサルティング株式会社
シェアードサービスの導入と一緒に検討される対策が「業務効率化システム」です。それぞれの特色を比較してみましょう。
シェアードサービス | 業務効率化システム | |
---|---|---|
導入目的 | 業務効率化、コスト削減など | 業務効率化、生産性向上など |
導入費用 | 初期コストは高いが、全体的な運用コストは下がる | 初期コストは低いが、ランニングコストが継続的にかかる |
導入期間 | 長期 | 短期・中期 |
導入対象 | 大企業内、グループ企業内の人事、総務、経理、財務などの間接部門における共通業務 | 企業内の間接部門全般のシステム |
導入業務事例 | 各部門に共通する間接業務全般 | 会議室予約管理、名刺整理、スケジュール管理、交通費精算など |
企業規模 | 大企業、グループ企業など | 中小企業、大企など |
どちらも業務効率化という主目的は一緒ですが、対象とする企業規模や導入対象は異なります。そのため、自社の業務効率化へのニーズ分析や、「どの程度の業務効率化を目指すのか」といった明確な目標を設定することが、適切なサービス・ビジネスツール選びにつながります。
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