この記事でわかること・結論
- 人的資本経営は従業員の知識・スキルを資本と見なす経営手法
- 人的資本経営推進のポイントは経営と人材戦略の連動、理念の明確化、人材戦略担当者の登用
- 国内外で人的資本の情報開示が求められ、企業価値向上に貢献する
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人材・組織この記事でわかること・結論
近年、人材を重視した経営手法である「人的資本経営」が注目を浴びています。
しかし、人的資本経営がどのようなもので、どう取り組むべきかわからない方もいるのではないでしょうか?
この記事では人的資本経営について、推進するポイントや企業の取り組みをわかりやすく解説します。
人的資本経営について詳しく理解し、自社に取り入れたい方はぜひ参考にしてみてください。
目次
人的資本経営とは、従業員の知識やスキルを資本と考え投資の対象とし、企業の持続的な成長を実現させる経営手法のことです。
これまで従業員は経営資源のひとつとして考えられており、人材への投資はコストとして捉えられていました。
しかし、近年外部環境の変化が激しく企業が持続的に成長を続けていくことが難しくなっており、企業を成長させる資本として「人材」が考えられるようになっています。
そこで人材への教育費などをコストではなく投資として捉え、人材の価値を向上させ企業の成長を促す「人的資本経営」が注目を集めています。
また、人材に関する情報は投資家の投資判断基準としても捉えられており、積極的な開示が求められています。
人的資本経営が求められる背景として、働き方の多様化や価値観の変化が挙げられます。
人生100年時代と叫ばれるなか、企業は長期的な観点で従業員のキャリアをサポートする必要があります。
そのためにも、継続して従業員が知識やスキルを向上させられる環境の整備が重要です。
また、コロナ禍の影響で働き方が多様化するなか、柔軟に対応できる社内システムの構築も重要となるでしょう。
このように働き方の多様化や価値観の変化により、人材を重視した人的資本経営が求められています。
ここでは人的資本の情報開示に関する国内外の動向について解説します。
人的資本経営が重要視されるなか、投資家も人材を投資判断材料として捉えており、企業は投資家に対し、自社人材に関する情報の積極的な開示が求められています。
海外では日本よりも早く人的資本の情報開示がおこなわれました。
2018年12月に「ISO30414」という人的資本情報開示のガイドラインが制定され、欧米では人的情報を開示する企業が増加しました。
さらに、米国証券取引委員会が2020年8月に上場企業に対して人的資本に関する情報開示を義務化したほか、2021年4月には欧州委員会にて「非財務情報開示指令」の改定案を発表し、情報開示の対象企業が拡大しています。
このように欧米諸国の企業を中心に、人的資本に関する情報を開示する流れが海外で加速しています。
国内では、2020年9月に経済産業省から「人材版伊藤レポート」が公表されたことで、人的資本に関する情報開示が重要視されています。
2021年6月には東京証券取引所の「改訂版コーポレートガバナンスコード」にて、「人的資本に関する情報開示」と「取締役会による実行的な監督」の項目が追加したほか、2021年11月には「新しい資本主義実現会議」にて緊急提言がなされ、人的資本への投資強化について言及されています。
国内でも欧米に遅れを取りましたが、人的資本の情報開示を積極的におこなう流れが加速しています。
人的資本経営を推し進めるポイントとして以下3つが挙げられます。
人的資本経営を自社に取り入れる場合は、上記ポイントを参考にしましょう。
人的資本経営では、経営戦略に人材戦略を組み込むことが重要です。
経営環境の変化が大きい現代では、企業の持続的な成長に人材は不可欠であり、人材戦略を中心とした経営戦略を構築する必要があります。
人材戦略を強化することで人的資本の価値が向上し、企業の成長につながるだけでなく投資家から大きな支援を受けられるでしょう。
たとえば多くの企業で課題とされているDX(デジタルトランスフォーメーション)も、デジタル技術に詳しい人材の育成や確保がそのまま成果へとつながります。
このように人的資本経営では、経営戦略を考えるうえで人材戦略を大きな位置付けとして捉える必要があります。
企業理念やビジョンを明確化することも、人的資本経営では重要です。
企業理念やビジョンを明確にすることで、他社と差別化すべきポイントが明確になるためです。
自社が重要視するものを定義すれば、経営戦略の優先順位がつけやすく自社の課題も洗い出しやすいでしょう。
経営戦略と人材戦略を連動させる際に両者の方向性が食い違ったとしても、企業理念やビジョンがあれば戦略に一貫性をもたせやすく修正しやすいメリットもあります。
また、近年ではリモートワークが普及し社員が直接顔を合わせる機会が少なくなっています。
そうしたなかで、同じ目的に向かって仕事に取り組むうえでも企業理念やビジョンの明確化は重要といえるでしょう。
人材戦略を担う人材を登用することも人的資本経営では重要です。
特に最高人事責任者であるCHROを設置し、経営陣と連携することが有効といえます。
CHROは人事部長とは異なり、人材戦略を経営的観点から実行するポジションです。
投資家とのコミュニケーションから気づいた課題を人材戦略に反映させる役割もあります。
特に経営戦略に人材戦略を組み込む場合は、CHROを設置し人事部門が経営幹部と連携することで人材戦略を推し進める必要があるでしょう。
日本企業では人事部門の責任者が経営幹部であるケースが少なく、人事部門が経営の意思決定に関わらないケースが多くあります。
人材戦略を中心とした経営戦略を実行するためには、人材戦略を担う人材を経営幹部として登用した方が良いでしょう。
人材版伊藤レポートとは、経済産業省が2020年に公開した人的資本経営に重要なアイデアをまとめたレポートのことです。
人材版伊藤レポートのなかでは、人材戦略において以下の2点が重要であると述べられています。
人材戦略に求められる3つの視点(3P)とは以下の項目を指します。
経営戦略と人材戦略が連動できているかを判断するためには、現状(As is)と理想(To be)のギャップを定量的に把握することが重要です。
両者のKPIを用いて数値化し、そのギャップを埋めていくことで効率的に人材戦略を推し進められます。
また企業文化を定着させることも人材戦略に重要であり、経営者が従業員に対し粘り強く発信し、適切に設定されたKPIで定着度合いを検証することが大切です。
人材戦略に求められる5つの共通要素(5F)として以下が挙げられます。
上記はどの人材戦略にも取り入れられる要素として取り上げられています。
特に経営戦略の実現に必要な人材を定義し、常に最適な状態に修正した「動的な人材ポートフォリオ」を設定することが重要です。
人材戦略では、現状と理想の人材ポートフォリオにおけるギャップをいかに早く解消できるかが企業の競争力に直結します。
そのため、従業員に対するリスキルや優秀な外部人材の採用、M&Aなどを通じて人材ポートフォリオの最適化を図ることで、企業の持続的な成長を促せるでしょう。
ほかにも従業員エンゲージメントを高め、時間や場所にとらわれない働き方ができるような環境整備も人材戦略において重要です。
人的資本経営は企業の持続的な成長を促進させる経営手法として、国内外の多くの企業で取り入れられています。
人的資本経営を推し進めるには、人材戦略を経営戦略の中心にすえて両者を連動させることが重要です。
本記事の内容を参考に、自社で人的資本経営を取り入れられるよう社内体制を整備しましょう。
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