この記事でわかること・結論
- 賞与支払届は賞与支給時に必要で、社会保険料計算の基になる
- 年3回以下支給の労働対価が賞与対象で提出漏れは延滞料が発生する
- e-Gov電子申請でいつでも手続き可能、APIで労務管理システムと連携も
この記事でわかること・結論
賞与支払届(健康保険・厚生年金保険)をご存じでしょうか?現在、賞与についても社会保険料が算出され、会社は支給した賞与から個人負担分の社会保険料を控除して会社負担分とともに日本年金機構に納付しなければなりません(健康保険組合に加入している企業は健康保険組合にも)。
賞与支払届について解説するとともに、賞与とされる賃金の範囲、また届出を電子申請で行う際のメリットについても解説します。
賞与支払届(健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届)とは、被保険者および70歳以上被用者へ賞与を支給した際に支給額を記して提出する書類です。
毎月の給与で徴収される各従業員の社会保険料や厚生年金保険料は、4月から6月の給与から算定した標準報酬月額を用いて計算されています。毎月の給与は、比較的一定の金額が支給されることが多いため、この計算方法で納付すべき保険料額が定められています。
しかし、賞与の場合は、毎月の給与と違う金額が支給されるのが一般的です。そのため、標準報酬月額では、賞与に見合った社会保険料や厚生年金保険料を徴収することができないのです。しかし、賞与も従業員の所得になるものですから、保険料を徴収する義務があります。
そのため、会社は従業員に賞与を支給した場合、その事実と支払賞与の額を日本年金機構や加入している健康保険組合に、賞与を支給してから5日以内に届け出る必要があります。
賞与にかかる社会保険料は、税引き前の賞与の総支給額から1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に保険料率を掛けます。保険料率は毎年改正されているため、賞与支給前に保険料率を確認しましょう。
日本年金機構は、届出のあった賞与額から、各従業員の健康保険料や厚生年金保険料額を算出して会社に対して納付請求を行います。
対象となる賃金は「賞与」のみではありません。賃金や給料、俸給、手当、賞与など名称にかかわらず労働者の労働の対価として、年3回以下の頻度で支給されるものはすべて賞与の対象となります。
そのため、支給名称を変えたとしても、賞与として扱われますので気をつけるようにしましょう。また、「賞与」という名称であったとしても、年4回以上支給される場合は賞与の対象となりません。この場合は、通常の給与と同様に標準報酬月額の対象となります。
なお、会社によっては、従業員が結婚をしたときに結婚祝い金を支給したり、子供が生まれたときに出産祝い金を支給したりするケースがあります。これらについては、保険料の納付対象となりませんので届出の必要性もなく、従業員から徴収する必要がありません。あくまでも、労働の対価としてこのルールが適用されます。
賞与支払届は以下のポイントに注意しましょう。
賞与が発生していない場合、賞与支払届の代わりに被保険者賞与支払届総括表を提出しなければなりません。
また、標準賞与額には上限があり、健康保険は年度累計額が573万円、厚生年金保険は1カ月あたり150万円まで(1ヶ月で2回以上支給される場合も同様)となります。
健康保険の年度累計額が573万円を超える場合は健康保険標準賞与額累計申出書を提出しなければなりません。
賞与支払届が提出されていない場合、年金事務所から賞与支払届督促状が送付されます。申告漏れがあった場合、提出先である年金事務所や健康保険組合に速やかに連絡を行い、遅延理由を記した報告書と一緒に保険料を納付します。
e-Gov電子申請とは、現在紙で行っている申請・届け出などの行政手続きを24時間いつでもどこでも行える電子申請システムです。
通常、健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届を提出する際には、手書きで書類を作成して、行政機関へ持ち込んでいたという方も多いと思います。しかし、近年ではe-Gov電子申請の利用が増えています。
電子申請を行うことで、行政機関に出向く時間や費用などを抑えることができます。また、24時間いつでも提出することができますので、提出遅れなどのリスクを防ぐことができるでしょう。
セキュリティについて不安に思う方もいるかもしれませんが、電子申請を行う際には、事前に認証局で電子証明書を取得する必要があります。電子証明書と固有のICカードを利用し電子申請システムを介して申請することになりますので、高いセキュリティを確保しています。
ただし、電子承認システムを利用する際には、申請をするためのパソコンが要件に適している必要があります。OSやバージョン、JAVAなどによっては対応できないことがあります。また、必ずしも最新のものであれば適用しているというわけではありませんので、事前に確認しておくようにしましょう。
e-Gov電子申請は外部連携API(Application Programming Interface)にも対応しています。業務で使っている従業員情報を入れた各種労務管理ソフトを通じて、電子申請用のデータへ直接やりとりを行うことができるというメリットがあります。
自動で申請書類として連携することができるので、労務担当者の作業時間を大幅に削減することができるでしょう。また、API連携では申請を楽にするだけではなく、審査状況の確認や公文書の取得なども、その労務管理ソフトのなかで行うことができます。
労務管理ソフトとWebブラウザ間の往復を行わずとも一括で処理することが可能です。API連携に対応した労務管理ソフトは複数ありますが、そのなかでもオフィスステーションがおすすめです。バックアップが不要のクラウド型労務管理システムであり、登録データから自動で帳票データの作成が可能です。
電子申請もワンクリックで対応することができ、100種類以上の印刷用帳票に対応しています。労務担当者の作業コストを大幅に削減する効果が期待できます。
社会保険労務士法人|岡佳伸事務所の代表、開業社会保険労務士として活躍。各種講演会の講師および各種WEB記事執筆。日本経済新聞、女性セブン等に取材記事掲載。2020年12月21日、2021年3月10日にあさイチ(NHK)にも出演。
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