この記事でわかること
- 業務委託でタイムカード勤怠管理は「拘束性」で違法の恐れがある
- 労働基準法適用基準は「労働者」かどうか。違反時は罰金も
- 偽装請負防止には業務委託契約と雇用契約の違いを正確に理解することが重要
この記事でわかること
労働力を補うために業務委託契約を結んだ場合、委託先の勤怠管理をタイムカードで管理することは違法となるのでしょうか。判断ポイントは、業務委託契約と雇用契約、どちらに当たるかを基準とします。
また、タイムカードに限らず、業務委託契約の運用にはさまざまな注意をしなければなりません。
本記事では、タイムカードによる勤怠管理の違法性、業務委託契約と雇用契約の違い、偽装請負を防ぐ対策を解説します。
目次
企業では従業員だけでは足りない人員を補うため、業務委託で労働力を確保します。従業員とは「雇用契約」を締結することとなりますが、業務委託とは「業務委託契約」を締結します。
業務委託契約とは、外部のフリーランスや企業に対し、業務の一部あるいはすべてを委託するための契約書です。一方の雇用契約とは、労働者が労働力を雇用主に提供し、雇用主が労働力に対して報酬を支払うことを約束する契約書です。
契約内容が異なるため、従業員と同じ扱いで委託先を管理すると違法となるかもしれません。
タイムカードでの勤怠管理は、違法となる恐れがあります。
判断のポイントは「拘束性」です。業務委託契約では「月80時間の作業をしてもらう」という契約はできても、「平日10時〜16時に必ず作業する」という時間指定は基本的にできません。
もちろん、飲食店などで労働時間がある程度限定される場合には、認められるケースもあります。しかし、「従業員と同じようにタイムカードで労働時間を管理する」ことは避けるべきでしょう。
万が一、業務委託に見せかけた雇用である「偽装請負」と判断されれば、無許可で労働者供給事業をおこなったとして、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(職業安定法64条9号)を科されるかもしれません。
このようにタイムカードに限らず、業務委託契約と雇用契約の違いを理解しておかないと、知らぬ間に法律に抵触する恐れもあるため、企業はその違いを理解しておく必要があります。
具体的なポイントに絞って、2つの違いを解説します。
雇用契約では業務をおこなう時間・場所を指定、管理できますが、業務委託契約ではできません。
業務委託契約 | 雇用契約 |
・事業者同士の対等な契約であり、発注側は受注側への指揮命令権をもたない ・発注側からの指示や命令に対し、拒否することもできる ・業務をおこなう時間や場所を指定、管理できない |
・雇用主と労働者という主従関係が発生し、雇用主は指揮命令権をもつ ・雇用主からの指示や命令には従わなければならない ・業務をおこなう時間や場所を指定、管理できる |
業務委託契約 | 雇用契約 |
・受注者には労働法を適用されない ・1日8時間、週40時間の「法定労働時間」の制限がなく、残業代を支払う義務はない ・最低賃金はない ・発注側が健康保険料や国民年金保険料などの社会保険料を支払う義務はない ・契約の打ち切りに対する失業保険や、業務中のケガに対する労災保険はない |
・労働者には労働法が適用される ・1日8時間、週40時間の「法定労働時間」があり、超えた時間の残業代を支払う ・最低賃金がある ・雇用主が健康保険料や国民年金保険料などの社会保険料を一部負担する ・条件を満たした労働者には、有給を付与する ・客観的・合理的な理由なく、相当な理由がなければ、労働者を解雇できない |
業務委託契約 | 雇用契約 |
・成果物や業務遂行に対して、報酬を支払う | ・成果に関係なく、労働時間に対して報酬を支払う |
業務の代替性とは、他の人が代わりに業務をおこなえるかどうかを判断するものです。
業務委託契約 | 雇用契約 |
・代替性のない(他の人が代われない)業務は、業務委託契約に適している | ・代替性のある(他の人が代われる)業務は、雇用契約に適している |
業務で使用するPCや工具などの負担範囲についてです。
業務委託契約 | 雇用契約 |
・発注側は器具・機械を負担せず、受注側が準備する | ・雇用主が器具・機械を負担する |
偽装請負を防ぐために、労働基準法が適用される基準と対策を解説します。
労働基準法などが適用される基準は、「労働者であるかどうか」です。
労働基準法では、労働者を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」(労働基準法9条)と定義しています。
また、労働組合法では、労働者を「職業の種類を問わず、賃金、給料、その他これに準ずる収入によって生活する者をいう」(労働組合法3条)と定義しています。
いずれかの法律で「労働者」と判断されるかが重要です。
たとえ業務委託契約を結んでいても、委託先が「労働者」と判断される場合は、労働基準法などが適用され、「残業代の支払い」や「社会保険料などの一部負担」などに対応しなければなりません。
企業は、その判断ポイントを十分に理解しておくべきでしょう。
具体策をポイントごとに解説します。
・労働者性を否定する (業務委託契約となる) |
・労働者性を肯定する (雇用契約となる) |
|
業務依頼の諾否 | ・諾否できる | ・諾否できない |
---|---|---|
指揮命令権 | ・指揮命令権がない | ・指揮命令権がある |
報酬(対価) | ・歩合制 | ・時給制 |
代替性 | ・再委託できる | ・再委託できない |
器具・機械の負担 | ・委託先が所有する | ・雇用主が用意する |
業務を依頼したときに、本人の意思で受ける・受けない(以下、「諾否」)を決められるかは、労働者性の判断に深く関わります。諾否を選べる場合は労働者性を否定し、諾否を選べない場合は、労働者性を肯定します。たとえば、デザイナーが「来週までにポップ広告を作ってほしい」という業務依頼を受けるかは本人の自由でしょう。
ただし、大きな業務を受注した上で、そのなかで発生する細かな業務については、諾否を選べなくとも労働者性を肯定するとはいえません。たとえば、Webディレクターに「Webサイトをゼロから作ってほしい」と依頼したなかで「サイト設計図の作製」を依頼しても労働者性を肯定することとなりません。
指揮命令権がある場合は、労働者性を肯定し、指揮命令権のない場合は、労働者性を否定します。
もちろん、業務委託に関して発注者側がある程度の指示を出すことはあるため、労働者性を肯定するとは限りません。
しかし、「平日の10時〜16時に作業してください」と時間を拘束したり、「メッセージの返信は1時間以内に」と業務の進め方について細かく口出しすることは、許容範囲を超える可能性があります。また、依頼している業務と直接関係のないミーティングへの参加や、服装を指定することも同様です。
対策として、具体的な業務の進め方を指示しないよう注意してください。
「風邪でミーティングを休んだので報酬を減らす」「想定より長時間働いてもらったので、追加の報酬を支払う」など、労働時間に応じた報酬の増減をおこなっていると、労働者性を肯定します。
対策では、成果に対して報酬を支払う「歩合制」を採用したり、欠勤や追加業務に対し、労働時間をベースとして報酬を増減させないことが大切です。
また、報酬額が正社員よりも高く設定されている場合は、従業員に対する支払いではなく、事業者への支払いと認められ、労働者性を否定します。ただし、単に月額で支払われる報酬額を比べるのではなく、業務量や経費も踏まえてください。
対策としては、業務委託契約時に、委託先との交渉を経て報酬額を決定することです。もし画一的に報酬額を決める場合は、業務量や経費を踏まえた時間給を算定し、それが社内の従業員よりも高いことがポイントとなります。
代替性のある業務を、委託先が他者に再委託すること、補助者を使用することが認められている場合は、労働者性を否定します。
対策では、業務委託契約時にできるだけ再委託や補助者の使用を許容することです。再委託が難しい場合にも、補助者の使用だけでも認められるよう検討すべきでしょう。
業務で使用する器具・機械を委託先が所有しており、かつ、それらが高価な場合は労働者性を否定することにつながります。
発注者側が器具・機会をやたらに負担していると、労働者性を肯定することとなりかねないため、報酬などから差し引くといった対策をできるでしょう。
これらの対策を実施して、労働者性を否定できたとしても、他の法律に抵触する恐れがあるため、注意しなければなりません。
具体的には「労働組合法」や「下請法」が挙げられます。
委託先を多数抱えている場合は、委託先の団結により「労働組合法」が適用されるかもしれません。
もし値上げ要求のために委託先が団結しようとしていると明らかでも、労働組合法が適用されれば、発起人との取引を打ち切ったり、団体の結成を妨げようとする行為は「不法労働行為」(労働組合法7条1号)とみなされます。
団体の結成や、団体交渉の動きを見せた時は、まず専門家に相談すべきでしょう。
資本金額が一定額を超す発注側と、資本金額が一定額を下回る受注側との業務委託では、「下請法」が適用される場合があります。
下請法では、発注側は「給付内容」「代金」「支払期日」「支払方法」などを明記した書類を交付しなければなりません(下請法3条1項)。
業務委託のタイムカードでの勤怠管理は、違法となる可能性があります。雇用ではなく業務委託であると証明できるよう、今回お伝えしたポイントを踏まえて契約を結ぶことが大切です。
1984年生まれ。社会保険労務士。
都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談(病院側・労働者側双方)や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名以上。独立後は年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。
詳しいプロフィールはこちら