固定残業代の導入を検討しているけれども、どのような制度か詳しく知らない方も多いのではないでしょうか?
固定残業代を導入することで、人事業務の効率化につながるなどさまざまなメリットがあります。
今回は、固定残業代の基本から計算方法、メリット・デメリットまでをわかりやすく解説します。
固定残業代を導入し、残業管理を適切におこないたい企業は、ぜひ参考にしてください。
目次
実際の残業時間にかかわらず、定額の残業代を支払う制度です。
固定残業代は基本給とは別に計算され、毎月一定の額が支払われます。
たとえば、固定残業時間として月30時間を設定した場合、実際の残業時間にかかわらず月に30時間分の残業代が支払われます。
固定残業代には、基本給に含めて支払う形式と一定額を手当として支払う形式の2種類がありますが、いずれも以下の要件を満たさなければなりません。
しかし、固定残業代が適用されると、労働者は自分が働いた実際の時間以上の残業代を受け取れないため注意が必要です。
みなし残業は固定残業と同義語で、実際の残業時間にかかわらず、一定の残業代を支払う制度です。
ただし、みなし残業には、以下2種類の労働時間制が存在します。
実際の残業時間にかかわらず、一定の残業代を基本給に組み込んで支払う制度
業務時間の把握が難しいケースで、一定時間勤務したものとして賃金を計算する制度
みなし労働時間制では、時間外労働や深夜労働がある場合でも、事前にその分の残業代を含めて基本給を設定します。
さらに、みなし労働時間制は以下2種類の労働時間制に分けられます。
事業場外みなし労働時間制 | 事業場外の業務・残業をみなし時間として設定し、残業代を基本給に乗せて賃金を支払う制度。 オフィス以外で勤務する従業員に適用されるケースが多い。 |
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裁量労働制 | 実際の労働時間ではなく、企業と労働者で設定した時間を労働したものとみなし、その分の賃金を支払う制度。 研究開発者や公認会計士など、特定の業務につく労働者に適用できる。 |
各労働時間制の違いを、しっかり理解しておきましょう。
固定残業代は上限時間が定められておらず、残業時間に対する残業代が最低賃金の基準をクリアしていれば、時間は自由に設定できます。
法定労働時間の1日8時間・週40時間を超える残業に従事させる場合は「36協定」を締結して、労働基準監督署長の許可を得る必要があります。
36協定を提出した場合でも、残業時間の上限は月45時間・年360時間です。
固定残業代を設定する場合、上記の上限時間内で収まるよう固定残業時間を設定する必要があります。
固定残業代の計算方法は、基本的には残業時間と残業代の単価を掛け合わせることで求められます。
具体的な計算式は、以下のとおりです。
固定残業代=1時間あたりの賃金×固定残業時間×割増率
残業時間が時間外労働・深夜労働・休日労働にあたる場合は、規定の割増率を乗せて計算する必要があります。
なお、1時間あたりの賃金は、以下の計算式で求められます。
1時間あたりの賃金=月の給与総額÷月の平均所定労働時間
月の平均所定労働時間=年間の所定労働日数×1日の所定労働時間×12カ月
1時間あたりの賃金=200,000円(月の給与総額) ÷ 160時間(月の平均所定労働時間) =1,250円
固定残業代=1,250円(1時間あたりの賃金)× 20時間(固定残業時間)=25,000円
固定残業代のメリットは、主に以下の3つです。
1点目は、残業代の計算作業が削減されることです。
固定残業代制度では、残業時間と残業代が事前に決められています。
固定残業代制度を導入すれば、毎月の給与計算時に労働者の残業時間を確認し、その都度残業代を計算する必要がありません。
残業代の計算業務が削減されるため、人事や経理部門の作業負荷が軽減され、より重要な業務に集中することが可能となります。
2点目は、人件費を把握しやすいことです。
固定残業代は毎月一定であるため、給与額の変動を抑えられ、年間でかかる人件費を把握しやすくなります。
人件費は企業の支出のなかで大きな割合を占めます。
人件費を正確に把握できれば、事業の収益予測や資金繰り計画などを立てやすくなるでしょう。
3点目は、業務効率の向上が期待できる点です。
固定残業代は残業時間にかかわらず一定の残業代が支払われるため、労働者に早く業務を終わらせることへのインセンティブを与えられます。
労働者の時間管理能力を向上させ、仕事の優先順位を適切に設定することを促せるため、結果として業務効率が向上する可能性があります。
従業員が業務を短時間で終わらせられるようになり、オフィスの光熱費削減が見込める点もメリットです。
固定残業代には数多くのメリットがある一方、以下のデメリットもあります。
1点目は、人件費が上昇するケースがある点です。
固定残業代制度では、労働者の残業時間にかかわらず、事前に定めた残業代が支払われます。
しかし、実際の残業時間が固定残業時間を下回った場合でも、固定残業代は全額支払われます。
また、固定残業時間を上回った場合は、超過した分の残業代も支払わなければなりません。
上記の事情から、企業の人件費が予想以上に上昇する可能性があります。
2点目は、サービス残業が横行しやすい点です。
固定残業代制度は、事前に設定した残業時間を超えた分の残業代も支払わなければなりません。
しかし、固定残業が正しく理解されず「固定残業代以外の残業代は一切支給されない」という認識が広がってしまうと、サービス残業が横行する可能性があります。
企業の人事・労務担当者は、従業員に固定残業代に関する正しい知識を周知させ、適切に勤怠管理をおこなうことが必要です。
3点目は、長時間労働が発生しやすい点です。
固定残業代は、事前に設定した残業時間に対して残業代を支払う制度です。
そのため、経営側に「設定した残業時間は絶対に働かせなければならない」などの誤解が生じやすく、長時間労働が発生してしまうケースがあります。
固定残業代は、長時間労働を推奨する制度ではありません。
長時間労働が常態化すれば、従業員の健康問題や生産性の低下を引き起こす可能性があり、職場環境の悪化につながります。
「支払った残業代分は働かなければならない」という間違った風潮にならないよう、経営側の意識改革や適切な勤怠管理が大切です。
固定残業代を設定する際の注意点として、以下の4つが挙げられます。
固定残業代を導入する際は、就業規則に明示する必要があります。
労働基準法では就業規則の必要事項として賃金の支払い方法が挙げられており、固定残業代であることも記載が必要です。
具体的には、以下の項目を就業規則に明記しなければなりません。
固定残業代は、基本給と区別して支払います。
固定残業代は、基本給に含めて支払う形と手当として別に支払う形の2種類がありますが、いずれも固定残業代がいくらなのかを記載して支払う必要があります。
基本給に含めて固定残業代を支払う場合、「基本給〇〇円(固定残業代を含む)」という記載では、いくら固定残業代が支払われているのかが明確ではありません。
「基本給〇〇円(ただし、固定残業代△△円を含む)」のように、固定残業代を明記して支払いましょう。
固定残業代を導入する企業は、労働者が時間外労働に従事した時間を適切に管理することが重要です。
労働者が固定残業時間を超えて働いた場合、その超過分については別途残業代を支払う必要があるためです。
仮に固定残業時間を超えて労働させていたにもかかわらず、超過分の残業代を支払わない場合、労働者とのトラブルだけでなく労働基準法違反で罰則が科される恐れもあります。
時間外労働の時間を正確に把握して記録することで、企業は法令遵守を確保し、労働者に適切な給与を支払えます。
固定残業制を導入する場合、残業がない月も固定残業代は支払わなければなりません。
固定残業代は、事前に決めた残業時間に対して残業代を支払う制度で、実際に残業がない月でも、固定残業代は全額支払われます。
また、残業が固定残業時間より少ない場合でも、固定残業代は全額支払う必要があります。
企業は上記の点を理解し、適切に残業代を支払うことが必要です。
固定残業代制度が違法となるケースとして、以下の4つが挙げられます。
固定残業代を基本給に含めて支払う場合、基本給が最低賃金を下回らないようにすることが重要です。
最低賃金とは、都道府県ごとに設定されている1時間あたりの賃金です。
最低賃金を下回る賃金を支払うことは法律で禁じられています。
たとえば、東京都の企業で以下の雇用条件で労働に従事させている企業を例に挙げます。
東京都の最低賃金は現在1,113円ですが、固定残業代と基本給の両方合わせれば月給18万円です。1時間あたりの賃金は1,125円となり、最低賃金をクリアしています。
しかし、基本給単体で見ると15万円÷160時間=938円となり、最低賃金を下回っています。
基本給が最低賃金を下回らないよう、基本給の設定に注意する必要があります。
固定残業代は他の賃金・手当と区別して支給していないと違法となる可能性があります。
たとえば、「基本給〇〇円(固定残業代を含む)」など、固定残業代がいくら支払われているのかわからないケースです。
他の賃金と区別して残業代が明記されていない場合、労働基準法違反となり罰則が科される恐れがあります。「基本給〇〇円(固定残業代△△円を含む)」など、具体的な残業代がわかる形で支給しましょう。
規定時間を超えた残業に対する割増賃金が支払われていない場合も、違法となる可能性があります。
固定残業代では、実際の残業時間が固定残業時間を超えた場合、超過分については別途残業代を支払わなければなりません。
また、固定残業を超過した労働時間が時間外労働・深夜労働・休日労働に該当する場合、所定の割増率を乗じて残業代を支払う必要があります。
従業員の就業時間を厳密に管理し、適切に賃金を支払いましょう。
固定残業時間に達していない場合に、固定残業代を支払わないことも違法です。
固定残業代は、実際の残業時間にかかわらず、事前に設定した残業時間に対して残業代を支払う制度です。
たとえば、固定残業時間を40時間で設定していた場合、実際の残業時間が20時間であっても40時間分の残業代を支払う必要があります。
固定残業代を導入する際は、設定した残業代は毎月全額支払い、超過した分は適切に計算し別途残業代を支払いましょう。
固定残業代に関するよくある質問は、以下のとおりです。
ただし、みなし残業には「みなし労働時間制」があります。
みなし労働時間制で「裁量労働制」を導入する場合は、適用できる職種が限られているため、事前に確認しておいた方が良いでしょう。
固定残業代は、残業を強制する制度ではなく、事前に設定した残業時間に対して残業代を支払う制度です。
どの勤務形態でも、労働契約に定められた所定労働時間どおりに働けば、問題はありません。
超過分の残業代を支払わなかった場合、労働基準法違反となり罰則が科される恐れがあります。
企業は従業員の就労時間をきちんと管理し、固定残業時間を超えた分の残業代を適切に支払いましょう。
固定残業代は、事前に設定した残業時間に対して残業代を毎月定額支払う制度です。
しかし、制度の運用を間違えると違法となる可能性もあるため、注意しましょう。
特に、基本給と固定残業代を区別して支払うことや規定時間を超えた残業に対する割増賃金を支払うことが重要です。
従業員の勤怠管理をおこない、固定残業代制度の運用を適切におこないましょう。
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