「フルタイム・転勤あり・異動あり」を前提とした、いわゆる総合職採用の在り方が今、大きな岐路に立たされています。仕事と育児・介護・障害・疾病などとの両立が、これまで以上に求められ、時間や場所にとらわれない働き方が政府主導で普及啓発されています。
そのような「多様な正社員」としての働き方を、今後積極的に活用していくにあたり、どのような点に留意すべきかを解説していきます。
厚生労働省は、多様な正社員の類型として、以下の3種類を挙げています。
勤務地限定正社員は、育児や介護などによって転勤が難しい者について離職を防止することを目的としています。例えば、安定した雇用環境のもと技術の蓄積や承継が望まれる場合や、多店舗経営のもと地域のニーズに合ったサービスを提供する場合などの活用が期待されます。
職務限定正社員は、金融・ITなどの分野で高度専門的なキャリア形成や資格が必要とされている職務などについて活用する場合です。
勤務時間限定正社員は、育児や介護との両立を支援し離職を防止すること、キャリア・アップのために必要な能力を習得するなど、自己啓発の時間を確保できる働き方に活用する場合です。
「多様な正社員」を活用する際は雇用管理上、以下の点に留意しましょう。
勤務地や時間など限定の内容についてきちんと労働者へ明示することが必要です。
多様な正社員への転換制度を設けることで、従来の正社員の離職等の防止や企業の人材確保に繋がります。
従来の正社員と多様な正社員の間に賃金や昇進・昇格などの待遇について均衡を図るようにしましょう。
多様な正社員を活用しやすくするために、従来の正社員の働き方を見直すことが必要かどうか検討しましょう。
労働者が職業能力を身につけることができるよう、中長期的な視点で教育訓練への支援をするようにしましょう。
労働者への制度の十分な情報提供、および協議をするようにしましょう。
事業所閉鎖等に伴う、勤務地限定正社員の雇用継続措置は可能な限り行うようにしましょう。
勤務地限定正社員活用のための就業規則の具体例として、以下のようなものがあります。
「地域限定正社員の勤務地は、会社の定める地域内の事業所とする」、「地域限定正社員の勤務地は、採用の際に決定した事業所の属するブロック内に限定する」などになります。
「地域限定正社員の勤務地は、採用時の居住地から通勤可能な事業所に限定する」などと記載するようにします。
「勤務地:自宅から通勤可能な事業所に限るものとする」などと限定の記載をするようにするといいでしょう。
また就業規則内で定義をしておいた場合、契約書には「社員区分:地域限定正社員、就業の場所:関東事業所」などと記載することも可能です。
職務限定正社員や時間限定正社員のための就業規則の具体例として以下のようなものがあります。
職務を限定する場合、「職務限定正社員は、限定分野での業務を行う」や「職務限定正社員は、一定の職務区分において、その職務区分ごとに必要とされる業務に従事する」などと記載するようにします。
時間を限定する場合は、就業規則に「短時間正社員は、1年間の所定労働日数を180日以上250日以内、所定労働時間数を1,000時間以上1,500時間以内の範囲で雇用契約に定めるものとする」、「短時間正社員の労働時間は、1日6時間とし、各勤務日の始業・就業時刻は前月25日までに定めるとする」などと、運用に合わせて記載するようにします。
また、労働契約書において「社員区分:時間限定正社員、所定労働日数:正社員と同様、所定労働時間:1日7時間」などと定めるようにします。
働き方に合わせ、就業規則をきちんと定めておくことは「多様な正社員」に対し、労働に従事する不安を解消させることに繋がります。また、従来の正社員から転換を希望する者が検討する材料として提示できるという利点にもなります。
今後、働き方の多様化に伴い「多様な正社員」を活用していくことが、企業の安定した経営にとって重要なポイントとなることでしょう。「多様な正社員」について、どのように制度設計していくか、今から検討していくことをおすすめします。
社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー 代表社会保険労務士:
楚山 和司(そやま かずし) 千葉県出身
株式会社日本保育サービス 入社・転籍
株式会社JPホールディングス<東証一部上場> 退職
詳しいプロフィールはこちら