このところ、人事管理についての話題が多く取り上げられています。近年注目されている「働き方改革」では、労働関係法規の見直しをはじめ、現在生じている労働問題の解決に向けた支援等の検討がおこなわれます。
企業は、これに併せて就業規則等の改訂や積極的な支援の活用を行い、変わりゆく労働社会に適応することを求められています。
そこでこの記事では、年功序列から成果主義へと変遷している人事管理制度についてご紹介します。
目次
バブル経済が崩壊するまでの間、日本の高度経済成長の下支えをしてきた賃金制度が「年功序列型」です。日本的経営における特徴的な制度であり、この制度が正しく運用されるためには、次のような条件が必要とされます。
生産年齢人口比率とは、総人口のうち生産年齢人口(15歳~64歳までの年齢層の人口)の占める割合のことです。
高度経済成長期は、岩戸景気やいざなぎ景気などの好景気時期もあり、強い経済成長を続けました。また、戦後の第一次ベビーブームにより、生産年齢人口も大幅に増加していたのです。つまり、年功序列型賃金制度は社会環境と経済環境が歯車のようにうまく噛み合っていたから成り立っていたといえるでしょう。
この時代に年功序列型賃金制度とともに日本特有の人事制度として、
といった労働関連制度が定着してきました。
バブル経済の崩壊後、追い打ちをかけるようにリーマンショックをはじめとする経済不況期へと入りました。生産年齢人口比率についても、少子高齢化により低下が進んでいます。特に少子化については、生産年齢人口が突然増えることはないため、深刻であるといえるでしょう。年功序列型賃金を担うための条件が崩れた瞬間です。
「年功序列型」の賃金制度は、労働者の高齢化による人件費の増加と生産年齢人口比率の低下による国内市場規模の縮小が見込まれる社会には不適合となりました。
そこで、注目され始めたものが「成果主義」の賃金制度です。成果主義の賃金制度は業績や成果によって賃金などを決定するため、企業の業績と人件費がほぼ連動していて、人件費のコントロールをしやすくなります。
しかし、成果主義の賃金制度を人件費抑制のために取り入れる。あるいは人事制度がサイクルとしてその他の制度と密接に関係しあっていることに気づかず、賃金制度についてのみ取り入れることで、軋轢が生じることも考えられます。
そのことは、優秀な人材の確保や社員の高齢化など現在企業が抱えている課題や、社会問題となりつつある、長時間の労働を課すブラック企業の存在ともリンクするのではないでしょうか。
成果主義の賃金制度も万能ではありません。メリットもあれば、デメリットもありますので、それらを明確に理解したうえで構築する必要があります。主なメリットとデメリットは次の通りです。
メリット | ・特に若手社員のモチベーションのアップ ・無駄な人件費の抑制 ・年齢や勤続年数などに依存しない公平な評価 |
---|---|
デメリット | ・評価基準を設定する難しさ ・社員が個人主義になってしまう ・短期的成果を求めてしまい、中長期的な成長や成果を設定しにくい ・長期間在籍のメリット減少による定着率の低下 ・定着率低下による企業の技術や知識継承の問題 |
成果主義賃金を効果的に取り入れるためにも、次の3点に注意することが望ましいでしょう。
前述した3つの注意点のほか、賃金以外の人事制度をそれぞれの企業の成果主義賃金制度に合わせて処遇や採用等についても改定する必要があります。そのうえで、人事管理のサイクルが円滑に回るように運用することが重要です。そのための1つの方向性として示しているのが、働き方改革です。
賃金制度のみを企業の都合の良い形に改定し、採用・処遇については、元々の都合の良さや余裕がないことを理由に現状維持をする。こういった企業側の都合のみの人事制度では、社員の納得は得られるはずがありません。
多様化する労働環境に対応するための参考として、「働き方改革」に挙げられている課題と対策について、自社の課題と重なる部分からでも解決に取り組む必要があるでしょう。
高度経済成長や人口増加によって形成された年功序列型の賃金制度は、時代の変化と経済不安によって成り立たなくなりました。それによって、成果主義による賃金制度へと変遷していきましたが、労働環境などを考慮せずに賃金制度だけを変更したことにより、さまざまな問題が積みあがっています。政府が推進する働き方改革を含めて、自社の課題となる部分の解決を検討していくようにしましょう。
もし、わからないことがある場合は、専門家である社会保険労務士に相談をしてみてはいかがでしょうか。
日本大学卒業後、医療用医薬品メーカーにて営業(MR)を担当。その後人事・労務コンサルタント会社を経て、食品メーカーにて労務担当者として勤務。詳しいプロフィールはこちら