労働災害(以下「労災」)のリスクは、安全装置や保護具による物理的な対策のほか、職制の見直しや従業員の適切な健康管理によって、一定の程度まで低減することが可能です。
しかしながら、その可能性に気がつかず発生してしまう事故までも防止することは困難です。そこで、過去の認定事例や災害統計を知ることで、あらためて潜在的な労災リスクを見直し、現状の備えが同業内でどの程度の水準なのか、チェックしてみましょう。
目次
最初に紹介するのは物による負傷や疾病の事例です。ほとんどの仕事において何かしらの物を使って作業をしている場合が多いことから、誰にでも起こる可能性があるものといえます。
例)ドライクリーニング工場において、洗濯機の稼働中に発生した静電気による火花が、石油系の溶剤に引火したことで火災が起こり、労働者3名が負傷したという事例があります。
また、この火災につながった原因は、石油系の溶剤に静電気除去剤を適正な割合で添加していなかったこととしており、3名の負傷者を出してしまった原因として、洗濯機に内蔵されている静電気を感知するセンサーが作動しなかったこと、あらかじめ緊急災害時の措置を工場が定めていなかったこと等が挙げられています。
この事例には次のような対策の徹底がなされました。
以上のような負傷以外にも、物によって疾病になってしまった事例もあります。
例)高齢者施設に勤めている労働者が、入居者を抱きかかえようとしたときに、腰部に痛みを感じたため病院で受診したところ、腰椎捻挫と診断された事例があります。疾病の原因としては、前屈み、中腰といった介護の仕事でよく見られる動作が何度も行われていたことに加え、リフトなどの機器を有効に使わなかったこと等が挙げられています。
この事例には次のような対策の徹底がなされました。
人による負傷や疾病の事例を、こちらも負傷と疾病に分けてご紹介します。人はすべての仕事を進める上で欠かせない要素であるため、あらためて見直すことの重要性が比較的高いといえます。
例)雨のなか、荷物を配達しているときに階段で足を滑らせ転んでしまい、尻もちをついて負傷してしまった事例があります。これは配達を急ぐあまり足元への注意や、雨に対する注意を怠っていたことのほか、事業所における安全衛生活動が十分に行われていなかったことが原因だといわれています。
この事例には次のような対策の徹底がなされました。
例)トイレの清掃作業中に使用していた洗剤を別の洗剤が入っている容器に入れてしまい、強い異臭が発生しました。ただちに液体を流し捨て、換気を行いましたが、その後具合が悪くなり病院へ受診したところ、塩素が発生したことによる塩素ガス中毒と診断され入院することとなった事例があります。
これは洗剤を混ぜることによる危険性の認識不足や、安全衛生管理体制が整っていなかったことが事故原因としてあげられています。
この事例には次のような対策の徹底がなされました。
最後に、危険に対する管理が不足したために発生した負傷、疾病の事例を紹介します。
例)簡易リフトでダンボールを搬送していた際にリフトを吊っているワイヤーが切れ、リフトが作業者と共に墜落し、作業者が腕を切断したという事例があります。事故原因として考えられるのが、人が簡易リフトに乗ったまま作業をしていたこと、規格に合わない簡易リフトを設置していたことです。
そのほか、簡易リフトの点検や整備が不足していたこと、作業者に簡易リフトの注意事項などを周知徹底させることができていなかったことなど管理不足が原因であるとも考えられます。
この事例には次のような対策の徹底がなされました。
例)福祉施設で調理作業中に調理員のひとりが一酸化炭素中毒にかかったという事例があります。原因は調理場の換気が不十分であったことに加え、調理場の設計や一酸化炭素が多く発生する燃料を使用する危険性への配慮不足、作業者に対する安全教育が不十分であったことなど管理面での問題があげられます。
この事例には次のような対策の徹底がなされました。
ここでは、労災について統計の面から紹介します。統計の面から確認するうえで大切なのが度数率と強度率です。度数率とは災害の発生頻度を表す数字のことで、強度率は災害の重さの程度を表す数字です。
これをふまえて、厚生労働省で行われた「労働災害動向調査」の結果をみてみましょう。
以上のことから、数値が減っているからといって安心することなく、労災を少なくするためにも継続して注意喚起など安全教育を行っていく必要があることが分かります。
ここまで労災の事例とその原因、統計について紹介してきました。
物や人、管理など労災が発生する要因はさまざまですが、今回紹介した事例をはじめ、その多くは防ぐことができたものであり、労災は個人の注意不足によるものや点検不足、安全教育不足などで引き起こされます。労災をなくすためにも、各企業は安全教育や注意喚起を徹底しなければいけません。
また、そういった取り組みは一時的なものでは意味がないので、継続して行うことが求められます。