今後、少子高齢化社会の進展による労働力不足の対策として、高齢者の活用を考えている企業も多いかと思います。また、定年を迎えた従業員が引き続き企業のなかで活躍していけるよう、人事制度の設計が重要になるとともに、就業規則等での規定も必要になります。今回は、この継続雇用制度について詳しく解説していきます。
目次
まずは、高齢者雇用安定法がどのような法律なのかについて説明します。
高齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)とは、その名前のとおり高齢者の雇用の安定やその他福祉の増進を図り、経済や社会の発展に寄与することを目的とした法律です。
定年の引き上げや継続雇用制度の導入による雇用確保の促進、および高齢者の再就職の促進、定年退職した人などに対する就業機会の確保、シルバー人材センターや助成金の活用などが挙げられます。
高齢者雇用安定法は少子高齢化が進み、多くの高齢者が活発に活動している昨今において、高齢者が元気で働く意欲や能力がある限り、働き続けることができる社会を目指すうえで重要な法律だといえます。
高齢者雇用安定法では、継続雇用制度の導入に関する規定があります。
企業が雇用する高年齢従業員が希望をすれば、定年後も引き続き働くことのできる「再雇用制度」や「勤務延長制度」のことを指します。
平成25年度の法改正により、高齢者雇用安定法はこれまで一部の人に限定されていた継続雇用制度の範囲を、希望者全員とすることが定められました。同じく、定年年齢を60歳に設定している場合は、65歳に引き上げることも定められています。
同法では事業主にこれらの継続雇用制度導入や、定年年齢引き上げなどの高齢者雇用に関する措置を義務付けているため、たとえ現在の事業所内に該当する高年齢従業員がいなくても本制度を導入しなければいけません。
継続雇用制度は、高齢者雇用安定法によって就業規則に規定する旨が定められています。
そのため、現時点で定年の規定があり定年年齢が65歳未満の企業は、定年年齢の引き上げや継続雇用制度導入に関して就業規則に記入しなおさなければいけません。これは、後述する経過措置を行っている企業も同じです。
一方で、もとから定年の規定がない企業や、定年の規定があっても定年の年齢が65歳以上の企業に関しては、継続雇用制度の条件を満たしていることになります。よって、就業規則の変更や新たに追記する必要はありません。
前項で少しだけ触れていますが、継続雇用制度には経過措置を行うことが認められる場合があります。では、どのような企業が経過措置を行うことができるのでしょうか?
すでにご説明しているとおり、高齢者雇用安定法では希望者全員を継続雇用することが定められています。これをふまえ、継続雇用制度の経過措置は、法改正以前の希望者全員ではなく、労使協定によって継続雇用制度を一部の人に限定していた企業が行うことができます。すなわち、継続雇用制度の対象を希望者全員とするため、企業内の制度を整備していく必要があることから設けられたものが、この経過措置といえるのです。
このような企業の場合は、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給対象年齢に達した従業員に対して、引き続き従来の限定された基準を利用できるという措置を講じることができます。
また、経過措置は平成37年4月まで設けられており、希望者全員の継続雇用制度の提供は段階的に引き上げられていて、経過措置終了後にすべての従業員に適用されることになります。
継続雇用制度による雇用は、働いていた企業のみが対象となるわけではありません。継続雇用制度では高年齢従業員が雇用される企業の範囲を、グループ企業まで拡大する仕組みが設けられています。
ここで注意が必要なのは、グループ企業間での雇用が可能だからといっても、そのまますぐに再雇用できるわけではないということです。グループ企業での再雇用を行う場合は、もとの企業と再雇用先の企業との間で、高齢者の再雇用に関する契約を締結しなければならないとされています。
このようにグループ企業での再雇用ができる一方で、もとの企業で再雇用することももちろん可能です。どちらの企業で再雇用するかどうかは、事業主が判断できるため、この判断基準に関して就業規則に記入するといいでしょう。
今回は、高齢者の継続雇用制度について紹介してきました。少子高齢化が進むことで、今後も年金受給年齢の引き上げなどが行われる可能性は高いでしょう。それに伴い、高齢者の労働環境もさらに変化していくことが予想されます。
働く意欲や能力を持つ高齢者の存在は、企業にとっても非常に重要な存在です。そういった人たちのためにも、まずは法律に基づいた就業規則を整え、高齢者を雇用できる体制を整えるようにしましょう。
社会保険労務士法人岡佳伸事務所 代表 特定社会保険労務士 | 岡 佳伸
平成28年10月、社会保険労務士として開業。
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