年収の壁・支援強化パッケージの具体的な内容
- 年収の壁を超えて社会保険に加入した従業員の手取り収入を減らさないように取り組みを実施した企業に対して、従業員1人あたり最大50万円の支援
- 繁忙期に労働時間が増え収入が上がったことにより年収の壁を超えてしまった従業員がいても、事業主がその旨を証明することで引き続き扶養に入ったままでいられる
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アンケート最近よく耳にする『年収の壁』。税金や社会保険料の支払い義務が発生するボーダーラインのことで、主に親や配偶者の扶養に入っている方や、パートタイム・アルバイトで働く方に影響します。
現在国会では、所得税の支払い義務が発生するラインである「103万円の壁」について178万円まで引き上げることを国民民主党が要求しており、今後の動向が注目されています。
そこで今回労務SEARCH編集部では、現在議論されている年収の壁の引き上げがおこなわれた場合、大きく影響がある年収103万円以下の方を対象に、アンケート調査を実施しました。労働者は年収の壁にどのような不満があるのか、年収の壁が引き上げられたら本当に働き控えは解消するのかなど、気になる点を調査しています。
最初に、年収103万円以下の方にとって、働くうえで年収の壁はどれほど影響があるのか、年収の壁に伴う働き控えの現状について調査してみました。
まず、年収の壁の知名度について調査するために、年収の壁という言葉を知っていますかと質問してみたところ、9割以上の方が「知っている」ことがわかりました。
しかし「知っていて、意味を理解している」方は47.0%、「知っていて、なんとなく理解している」方は45.7%となり、年収の壁の概要を正確に理解している方は半数以下であることがわかります。
税金や社会保険料の負担が増えたり、配偶者特別控除が受けられなくなったりする年収のボーダーラインのこと。年収100万円を超えると住民税、年収103万円を超えると所得税、年収130万円を超えると社会保険料(または国民年金・国民健康保険料)の支払い義務などが生じます。
なお、年収の壁について「聞いたことはあるが、理解はしていない」方は5.0%、「知らない」方は2.3%となりました。
年収の壁を超えるとなにが起きるのか、その仕組みについて正確に理解している方はあまり多くないようですが、年収の壁によって引き起こされる問題のひとつとして”働き控え”が挙げられます。
税金や社会保険料の発生により手取り収入が減ることを避けるため、一定額の年収を超えないように、働く時間や収入を意図的に制限すること。
そこで次に、働き控えの現状について知るために、これまでに年収103万円を超えないように、働く時間や日数を控えたことはありますかと質問してみたところ、「ある」が74.7%、「ない」が25.3%となりました。多くの方が年収の壁を超えないように働く時間や日数を制限した経験があるようです。
働き控えが問題となっている理由は、多くの業界において人手不足につながっている可能性があるためです。特に年末は働き控えをする従業員が増える傾向にあり、その時期に繁忙期を迎える企業では、業務が回らなくなるケースもあると言われているほどです。少子高齢化によって労働人口の減少が進む日本において、働き控えによってさらに労働人口が減ってしまうことは、大きな問題と言えるでしょう。
このように人手が不足している企業にとって、従業員の働き控えはあまり望ましいものではありません。では労働者にとっては、年収の壁を超えないことで税金や社会保険料の負担が避けられるため、メリットのみを感じているのでしょうか。
次に、年収の壁があることで困った経験をしたことがあるか聞いてみました。その結果、「ある」が60.0%、「ない」が40.0%と、半数以上の方が何らかの困った経験をしていることが判明しました。
では具体的に、それがどのような困りごとだったのか聞いてみたところ、第1位は「もっと働きたいのに働けない」で41.1%、第2位は「収入が足りない」で23.9%、第3位は「就業時間や収入の管理・調整が難しい」で19.5%という結果になりました。
これらの回答から、年収の壁があることで、
といった問題が浮かび上がってきます。特に収入面に関する問題は、世帯収入が低く抑えられることで消費が減少し、日本経済全体にも悪影響をおよぼす可能性があるでしょう。
先述のとおり、年収の壁に関する問題は、親や配偶者の扶養に入っている方に特に影響します。では、年収の壁で困った経験があるにもかかわらず扶養に入ったままでいる(一定額の年収を超えないようにしている)理由は何なのでしょうか。
今回のアンケート回答者のうち、扶養に入っていると回答した方(270名)に、扶養内で働いている理由を聞いてみました。
その結果、「税金の負担を抑えられるから」が28.5%と最も多く、次いで「家事や育児、介護などの役割を優先したいから」が25.2%、「社会保険料を支払わなくていいから」が16.7%となりました。
ちなみに、前問の年収の壁があることで困った経験はありますか?に「ある」と回答した方のうち、扶養にも入っていると回答した方は54.4%です。これらの回答から、自身の働く意欲などよりも税金や社会保険料の負担軽減によるメリットの方が、今回のアンケート回答者にとっては重要であることがうかがえます。しかし、なかには家事や育児・介護といった家庭の事情を理由に、扶養内で働く方も少なくないようです。
そんな現状を受け、政府は2023年10月から『年収の壁・支援強化パッケージ』を開始しました。これは、年収の壁を越えても手取り額は減らず、労働者が年収の壁を気にせず働ける施策です。ここからは、そんな年収の壁・支援強化パッケージの認知度や利用率について調査してみました。
まず、年収の壁・支援強化パッケージについて知っていますかと質問してみたところ、「知らない」が38.7%で第1位、「聞いたことはあるが、理解はしていない」が31.0%で第2位、「知っていて、なんとなく理解している」が23.7%で第3位という結果になりました。
この回答から、年収の壁・支援強化パッケージはほとんどの方がその制度の内容を把握・理解しておらず、十分に周知されていない現状がうかがえます。政府や企業の人事・労務担当者は、この施策の効果を最大限に発揮するためにも、よりわかりやすい情報発信やさらなる広報活動が必要でしょう。
次に、年収の壁・支援強化パッケージの利用状況を聞いてみたところ、「利用していない」が95.3%とほとんどの方が利用していないことが明らかとなりました。
これは前問の回答と関連しており、年収の壁・支援強化パッケージの認知度が低いため、利用に至っていない方が多いと考えられます。
そこで次に、回答者に年収の壁・支援強化パッケージの制度の概要について説明したうえで、年収の壁・支援強化パッケージを利用できるなら、収入を上げるために今よりも働きたいと思いますか?と質問してみました。
年収の壁・支援強化パッケージの具体的な内容
その結果、「どちらかといえばそう思う」が43.0%と最も多く、次に「そう思う」が22.0%、「あまりそうは思わない」が21.7%、「そう思わない」が11.2%と続きました。
「どちらかといえばそう思う」および「そう思う」の回答を合わせると、65.0%にのぼることから、社会保険料の負担があっても手取り収入が減らない場合や、一時的な収入の増加があっても扶養に影響しない場合は、多くの労働者は「働きたい」と考える可能性があることがわかります。特に人手不足に悩む企業は、年収の壁・支援強化パッケージについてしっかりと社内周知することで、課題解決につながる可能性もあるでしょう。
ただし、年収の壁・支援強化パッケージは2025年度末までの期間限定の施策です。人手不足の解消のためにも、政府にはこの施策の後継となるような新たな制度が求められています。
現在、年収の壁のなかで大きな注目を集めているのが『103万円の壁の引き上げ』についてです。この政策は、国民民主党が2024年11月におこなわれた衆議院選挙において掲げたことから大きな話題を呼んでいます。そのような現状を踏まえ、次に年収の壁の引き上げに関する意識調査をしてみました。
最初に、年収の壁について賛成ですか?反対ですか?と聞いてみたところ、「どちらかといえば反対」が27.0%、「どちらかといえば賛成」と「わからない」がいずれも21.3%、「反対」が20.4%、「賛成」が10.0%という結果になりました。
「どちらかといえば反対」と「反対」と回答した方の割合を合わせると47.4%となり、約半数の方が年収の壁に反対の姿勢を見せていることがわかります。これらの回答の理由は、前述した「もっと働きたいのに働けない」や「収入が足りない」などの理由が考えられるでしょう。
次に、年収の壁問題の解決策をいくつか提示し、どの案を最も支持したいと思いますか?と聞いてみました。その結果、「年収の上限を引き上げる」が43.4%で第1位となりました。
これは、現状の年収の壁ではわずかな収入が増えることで、配偶者控除や扶養手当の減少、社会保険料の発生といった経済的な負担が生じ、働く意欲はあっても働かないでいる選択をとる労働者が多いことや、現在、壁となっている年収の額では収入が足りないと感じる方が多いことがうかがえます。
次に支持されたのは「年収の壁を撤廃する」案で25.0%でした。これは、労働者の自由度を高めるという点では魅力的ですが、社会保険制度への影響や、税制改革といった大規模な変更を伴うため、現実的な解決策としてはやや難しい面があります。
続けて、「週20時間未満の短時間労働者にも厚生年金を適用する」案は6.3%、企業側にのみ保険料負担を求め、労働者には半分の厚生年金を支給する「厚生年金ハーフ」案は4.3%と、比較的低い支持率にとどまりました。これらの案は、特定の層への限定的な対策となるため、より広範な問題解決には不十分だと判断された可能性が考えられます。そのほか、現状維持を望む方も6.0%いました。
現在、国会で議論されているのは、所得税の支払い義務が生じる年収を103万円から178万円に引き上げる政策です。もしこの年収の壁の引き上げがおこなわれた場合、収入を上げるためにもっと働きたいと思う労働者はどれほどいるのでしょうか。
次に、年収の壁の撤廃や年収上限の引き上げがおこなわれた場合、収入を上げるためにもっと働きたいと思いますか?と聞いてみた結果、「どちらかといえばそう思う」が42.0%、「そう思う」が37.3%と、程度に差はあるものの、合わせて約8割の方がもっと働きたいと考えていることがわかりました。
しかし、「あまりそうは思わない」は15.0%、「そう思わない」は5.7%と、年収の壁が変更されたとしても働く意欲は変わらない方も一定数いるようです。
前問で「あまりそうは思わない」または「そう思わない」と回答した方にその理由を聞いてみたところ、「現状の働き方に満足しているから」が46.8%と最も多い結果となりました。
この設問では「現状の収入に満足しているから」といった回答も用意したため、対象の回答者のうち約半数は、収入よりも仕事と生活のバランスを重視していることがうかがえます。
次に多かったのは、「社会保険料の負担が発生し、手取りが減るかもしれないから」で19.3%、続けて「現状の収入に満足しているから」が9.7%、「年収の壁の撤廃や年収上限の引き上げによるメリットがわからないから」が8.0%、「減収による財政負担が心配だから」が6.5%となりました。
最後に、現在議論されている年収の壁の引き上げについて、賛成か反対かを聞いてみました。
その結果、「賛成」は45.0%、「どちらかといえば賛成」は32.7%、「反対」は3.3%、「どちらかといえば反対」は6.3%、「わからない」は12.7%という結果になりました。 「賛成」と「どちらかといえば賛成」を合わせるとその割合は77.7%となり、約8割の方が年収の壁の引き上げに肯定的な意見を持っていることがわかります。
次に、前問で「反対」または「どちらかといえば反対」と回答した方に向けてその理由を聞いてみたところ、第1位は「社会保険料の負担が発生し、手取りが減るかもしれないから」で24.2%となりました。
これは、たとえ103万円の壁が引き上げられたとしても、依然として130万円の壁は残るためです。年収130万円を超えると、それまで社会保険に加入していなかった方も扶養から外れて社会保険に加入する義務が生じます。もしも社会保険(厚生年金・健康保険)の加入条件を満たさない場合は、国民年金・国民健康保険に加入し、保険料は全額自己負担となります。
つまり、103万円の壁が引き上げられても一定の年収を超えると社会保険料(または国民年金・国民健康保険料)の負担が発生するのは変わらないため、手取り収入の増加は限定的になる可能性があるということです。年収の壁の引き上げに反対の姿勢を見せる方の多くは、この点を懸念していることがうかがえます。
次に多かった反対の理由は、「現状の働き方に満足しているから」と「178万円に引き上げるメリットがわからないから」でいずれも20.7%でした。続けて、「配偶者控除や扶養控除に影響するかもしれないから」が10.3%、「減収による財政負担が心配だから」と「現状の収入に満足しているから」がいずれも6.9%となりました。
今回のアンケート調査で、年収の壁は今もなお働き控えにつながっていることがわかりました。政府は労働者が年収の壁を気にせず働けるように、年収の壁・支援強化パッケージなどの対策を講じていますが、対象となるほとんどの労働者がその制度を知らない・理解しておらず、利用している方もわずかしかいない現状では、十分な効果は期待できません。
しかし今回の回答者のうち、もし年収の壁・支援強化パッケージを利用できるなら利用したいと考える方は約6割、そして年収の壁の引き上げなどがおこなわれた場合、もっと働きたいと考える方は約8割いました。この数字は現在、年収の壁によって「もっと働きたいのに働けない」「収入が足りない」などの不満を抱えている方が多いことも示しています。
ただ、年収の壁の引き上げがおこなわれたとしても、社会保険料の負担が発生し手取り収入の増加は限定的となる可能性がある、その対策である年収の壁・支援強化パッケージは2025年度末で終了するなど、課題は依然として残っています。政府が年収の壁に関する問題を解決するためには、働く人の声を丁寧に聞き、その実態を踏まえた抜本的な制度見直しが必要と言えるでしょう。
調査名 | 年収の壁に関するアンケート |
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調査対象 | 年収103万円以下の男女300名 |
調査期間 | 2024年11月15日~2024年11月25日 |
調査方法 | インターネット調査 |
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