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ニュースいよいよ新年度が始まり、新たな人材が社会人としての第一歩を踏み出す季節となりました。近年、初任給を引き上げる企業が増加傾向にありますが、初任給の平均はいくらなのでしょうか。
この記事では、初任給の平均額を学歴・業種・企業規模別に解説します。また、初任給引き上げの背景にある社会情勢や、企業に与える影響、そして人事・労務担当者がとるべき具体的な対応策まで、幅広く掘り下げていきます。
目次
初任給とは、社会人として会社に入社し、初めて受け取る給与(給料)のことです。初任給は額面どおりに受け取れるわけではなく、会社から受け取る給与の額面から税金や社会保険料を差し引いた金額(手取り)を受け取れます。
近年、多くの企業がこの初任給を引き上げる動きを見せており、約7割の企業が「2025年度に前年度より初任給を引き上げる」といった調査結果も出ています。大手企業において「初任給10万円引き上げ」や「大卒者の初任給を35万円にする」などの報道も目にします。
そこでこの記事では、厚生労働省が公表している『令和6年 賃金構造基本統計調査の概況』をもとに、初任給の平均について見ていきましょう。
まずは、最終学歴別の初任給の平均です。厚生労働省の調査によると、学歴によって下記のとおり初任給に差が出ています。
最終学歴 | 初任給(男女計) |
---|---|
大学院 | 28万6,200円 |
大学 | 25万800円 |
高専・短大 | 23万400円 |
専門学校 | 23万1,000円 |
高校 | 19万9,800円 |
また、最終学歴は同じでも、性別によって初任給に差が出ているようです。
最終学歴 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
大学院 | 28万8,800円 | 27万8,000円 |
大学 | 25万1,500円 | 25万20円 |
高専・短大 | 23万9,900円 | 22万6,800円 |
専門学校 | 22万6,300円 | 23万4,000円 |
高校 | 20万3,100円 | 19万3,100円 |
これらのデータから、一般的に最終学歴が高いほど初任給も高くなる傾向があること、そして女性より男性の方が初任給の平均は高いことがわかります。
高校の場合は「~19歳」、高専・短大・専門学校・大学・大学院卒の場合は「20~24歳」における数値を引用
初任給は、業種によっても差が見られます。初任給が高い傾向にあると考えられる業種としては、以下のものが挙げられます。
業種 | 賃金 |
---|---|
鉱業、採石業、砂利採取業 | 26万7,400円 |
不動産業、物品賃貸業 | 25万9,600円 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 24万5,300円 |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 24万4,400円 |
一方、初任給が低い傾向にあると考えられる業種としては、以下のものがあります。
業種 | 賃金 |
---|---|
製造業 | 21万6,800円 |
複合サービス業 | 21万3,500円 |
宿泊業、飲食サービス業 | 22万1,000円 |
いずれも20~24歳(男女計)の数値を引用
これらのデータはあくまで一例であり、企業の規模や地域によっても変動するでしょう。しかし、業界の特性や収益構造、人材需要の度合いなどは初任給に影響を与えます。
初任給には、企業規模による差も見られます。一般的に、大企業の方が小企業よりも初任給が高くなる傾向があります。
企業規模 | 賃金 |
---|---|
大企業 | 24万4,700円 |
中企業 | 22万7,300円 |
小企業 | 22万1,800円 |
20~24歳(男女計)の数値を引用
近年、多くの企業で初任給の引き上げが見られる背景には、複数の要因が複合的に絡み合っていると考えられます。人事・労務担当者は、これらの背景をしっかりと理解しておくことが、今後の採用戦略を立てるうえで重要になります。
少子高齢化が進む日本において、新卒者の数は年々減少傾向にあります。特に、高い能力やポテンシャルをもつ優秀な人材の獲得は、企業の成長にとって不可欠であり、各社が積極的に採用活動を展開しています。このような状況下では、魅力的な初任給を提示することが、優秀な人材を引きつけるための重要な要素となります。
近年、食料品やエネルギー価格をはじめとする物価が上昇しており、新社会人の生活費も増加しています。このような状況に対応するため、企業は従業員の生活水準を維持・向上させるべく、給与水準の見直しを迫られています。初任給の引き上げも、この物価上昇への対応策のひとつとして考えられます。
経済の回復や好業績を背景に、社員への還元として初任給を引き上げる企業も増えています。企業にとって、新卒社員は将来を担う重要な人材であり、最初の段階で適切な給与を支払うことは、エンゲージメントを高め、長期的な貢献を促すうえで効果的です。
各都道府県で最低賃金が年々上昇していることも、初任給の引き上げに影響を与えています。特に、地方や中小企業においては、最低賃金の改定に合わせて初任給を見直す動きが見られます。
初任給の引き上げは、企業にとって人材獲得という大きなメリットをもたらす一方で、さまざまな影響もおよぼします。ここでは、初任給引き上げが企業に与える影響を多角的に分析し、メリットとデメリットを解説していきます。
前述のとおり、魅力的な初任給は、優秀な学生の応募数を増やし、質の高い人材を獲得するうえで非常に有効です。特に、知名度の低い中小企業や地方の企業にとっては、大手企業との差別化を図るための重要な戦略となります。
初任給の引き上げは「社員を大切にする企業」というポジティブなイメージを社会に与え、企業ブランドの向上につながります。これは採用活動だけでなく、企業全体の信頼度を高める効果も期待できます。
新卒の初任給が上がることで、既存の若手社員や中堅社員の給与水準の見直しを検討するきっかけとなり、社員全体のモチベーション向上につながる可能性があります。「自分の頑張りがきちんと評価される会社だ」という認識が広がることで、離職率の低下にも貢献するかもしれません。
競合他社よりも高い初任給を提示することで、採用市場における競争優位性を確立できます。特に、特定のスキルや専門性をもつ人材が不足している業界においては、初任給の高さが採用成功の鍵となる場合があります。
初任給の引き上げは、企業の人件費増加に直結します。特に、多くの新卒者を採用する大企業や、利益率の低い中小企業にとっては、経営を圧迫する要因となる可能性があります。
新卒者の初任給を大幅に引き上げた場合、経験のある既存社員との給与バランスが崩れる可能性があります。勤続年数やスキルに見合った給与体系を維持するためには、既存社員の給与水準も見直す必要が生じ、さらなる人件費の増加を招くこともあります。
初任給だけでなく、採用活動全体にかかるコストも考慮する必要があります。魅力的な初任給を提示しても、採用活動がうまくいかなければ、コストだけが増加するという事態も起こり得ます。
初任給の引き上げは固定費の引き上げとなるため、物価高や原材料費の高騰など、厳しい経営環境に置かれている中小企業にとっては、大きな負担となる場合があります。
初任給の引き上げというトレンドを踏まえ、人事・労務担当者はどのような対応をとるべきでしょうか?ここからは、具体的な対応策をわかりやすく解説します。
まずは、自社の属する業界、地域、企業規模における最新の初任給水準を徹底的に調査・分析しましょう。競合他社の初任給はもちろんのこと、学歴別、職種別のデータも収集し、自社の初任給が市場においてどのような位置にあるのかを客観的に把握することが重要です。
市場の初任給水準を踏まえつつ、自社の経営状況や将来的な事業計画、そして人件費予算を慎重に検討する必要があります。無理な初任給設定は、企業の財務状況を悪化させる可能性があるので注意をしましょう。
逆転現象とは、初任給を大幅に引き上げた結果、既存社員の方が給与が低い状態になってしまうことです。
逆転現象が起きてしまうと、既存社員のモチベーション低下や離職につながる可能性があります。そのため企業が新卒社員の初任給を引き上げる場合は、既存社員との給与バランスを必ず再評価し、必要に応じて調整をおこなうことが重要です。
具体的な対応策としては、たとえば、初任給の引き上げに応じて既存社員には調整手当を支給する、既存社員の賃金も一律に引き上げる、年収に占める月給の割合を増やし賞与の割合を減らすなどです。
いずれの案を採用するにしても人件費アップとなるため、人件費の予算、社員間の給与バランス、昇給額、昇格などを考慮する必要があります。
初任給だけでなく、企業文化、成長機会、福利厚生、ワークライフバランスなど、若手人材が重視する他の要素も強化することで、採用競争力を高めることができます。また、初任給の引き上げと並行して、採用戦略の多様化や効率化を図ることも重要です。
物価の上昇や最低賃金の引き上げ、人材獲得競争の激化などにより、今年は初任給の引き上げの動きを見せる企業が多くあります。初任給の引き上げは、企業にとって優秀な人材を確保する好機である一方、人件費の増加や既存社員との給与バランスなど、慎重に検討すべき課題も存在します。
人事・労務担当者は、最新の市場動向を的確に把握し、自社の経営状況や人材戦略を踏まえたうえで、戦略的な初任給の設定をおこなうことが重要です。また、初任給だけでなく、企業の魅力全体を高めるための取り組みもポイントとなるでしょう。
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