この記事でわかること・結論
- サステナビリティ開示基準(SSBJ基準)の定義・3つの基準の内容・いつから義務化されるのかの最新スケジュール
- Scope3開示を通じてサプライチェーン経由で中小企業にも波及する具体的な影響
- 人的資本開示が人事労務部門の新たな責務になるという実務上の視点

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ニュースこの記事でわかること・結論
2025年3月、日本初のサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)が公表されました。2027年3月期から時価総額3兆円以上の大企業への義務化が段階的にスタートする予定であり、日本の経営・開示実務は大きな転換点を迎えています。
「うちは中小企業だから関係ない」「上場していないから対象外のはず」と思っている方も多いかもしれません。しかし、Scope3(バリューチェーン全体の温室効果ガス排出量)の開示義務を通じて、大企業はサプライチェーン上のすべての取引先に排出量データの提供を求めるようになります。
実際、中小企業の約2割がすでに取引先から脱炭素関連の要請を受けているというデータもあり、SSBJ基準の影響はあらゆる企業に及ぶといっても過言ではありません。特に人事労務担当者にとって見逃せないのが「人的資本開示」との接点です。女性管理職比率・育児休業取得率・男女賃金格差・研修投資額といったデータの整備・開示は、今後人事部門が主役となる新たなミッションとなりつつあります。
本記事では、制度の概要から人事労務の実務への影響まで、わかりやすく解説します。
目次

「サステナビリティ開示」という言葉が経営・人事の現場でも聞かれるようになりました。まずは基本的な定義と、なぜ今この動きが加速しているのかを整理しましょう。
サステナビリティ開示とは、企業が環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する非財務情報を投資家や社会に向けて開示することです。財務データ(売上・利益・資産など)と並ぶ企業価値の判断材料として位置づけられており、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードでも「サステナビリティを巡る課題への対応を検討し、開示すること」が求められています。開示の対象となる情報は、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)にまたがる幅広い分野にわたります。
義務化加速の背景には、国際的な制度整備の連鎖があります。国連と機関投資家が設立したPRI(責任投資原則)の署名機関は2025年3月時点で5,261機関に達し、10年前の3倍以上に増加。こうした投資家ニーズを受け、ISSBが2023年6月に国際基準(IFRS S1号・S2号)を公表、EUでもCSRD(企業サステナビリティ報告指令)が2023年1月に発効しました。
日本もこの流れを受け、2023年3月期の有価証券報告書(有報)から「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設(ガバナンス・リスク管理は全企業必須)。さらに2025年3月5日、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が日本初のサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)3種類を公表し、段階的な義務化へと歩を進めました。

2025年3月に公表されたSSBJ基準は3種類で構成されています。それぞれの役割を把握することで、自社にどの基準が関係するかを判断できます。
正式名称は「サステナビリティ開示ユニバーサル基準(サステナビリティ開示基準の適用)」といい、SSBJ基準全体に共通する基本的なルールを定めた基準です。用語の定義・機密情報の取り扱い・開示のタイミング・比較情報の提示方法・誤謬の訂正方法など、開示全般に関わる事項が含まれています。この基準は他の2基準(一般基準・気候基準)と必ず同時に適用する必要があります。
正式名称は「テーマ別基準第1号(一般開示基準)」といい、気候変動以外のサステナビリティ全般を対象とした基準です。人事労務担当者にとって最も関係が深い基準であり、女性管理職比率・育児休業取得率・男女賃金格差・研修投資額・従業員エンゲージメントといった人的資本情報をはじめ、人権・労働環境、コンプライアンス・サイバーセキュリティへの対応体制などが開示対象となります。
サステナビリティ開示における人的資本の一例として、女性活躍や男女間賃金格差の開示も含まれます。関連する法改正の詳細は「女性活躍推進法改正の記事」であわせてご覧ください。
正式名称は「テーマ別基準第2号(気候関連開示基準)」といい、気候変動に関するリスク・機会の情報開示を定める基準です。Scope1・2・3の温室効果ガス排出量の開示義務のほか、シナリオ分析・内部炭素価格の設定・物理的リスクと移行リスクの開示なども求められます。
| 区分 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| Scope1(直接排出) | 自社が所有する排出源からの直接排出 | 自社工場の燃料使用、社有車 |
| Scope2(間接排出) | 他社から購入した電気・熱の生成から発生する間接排出 | 工場・オフィスの電力・空調 |
| Scope3(その他の間接排出) | バリューチェーン全体における間接排出(Scope1・2以外) | 仕入先の原材料製造、自社製品の廃棄、従業員の通勤 |

SSBJ基準では、サステナビリティ関連財務情報の開示を4つの構成要素(コア・コンテンツ)で整理しています。2023年の有報改正で設けられた枠組みを引き継ぎながら、より詳細で定量的な開示を求めているのが特徴です。
「誰がどのようにサステナビリティを管理・監督しているか」を示す情報の開示です。取締役会や経営会議がサステナビリティリスクをどのように監督しているか、担当役員・委員会の役割・スキル・情報入手の頻度、経営者がどのように意思決定に関与しているかなどを開示します。
自社が認識しているサステナビリティ関連のリスク・機会の内容、それらが現在・将来の事業に与える影響、そして不確実な将来に対するレジリエンス(回復力・柔軟性)を開示します。気候変動については、複数のシナリオを想定したシナリオ分析の実施と開示も求められます。
サステナビリティリスクをどのように識別・評価・モニタリングしているか、組織的なプロセスを開示します。「結果」だけでなく「プロセス」の透明性が求められる点がポイントです。
Scope1・2・3別の温室効果ガス排出量と算定方法、削減目標の設定とその達成状況、人的資本に関する定量データなどを開示します。「取り組んでいます」という定性的な説明だけでなく、数値による裏付けが必要です。
SSBJ基準は制度上はプライム上場企業を対象とした基準ですが、「自社には関係ない」とスルーするのは早計です。Scope3開示と人的資本開示という2つのルートを通じて、あらゆる企業・人事担当者に影響が及ぶ時代がすでに始まっています。
義務化の直接対象でなくても、今から動く理由があります。
大企業がScope3を開示するためには、取引先に排出量データの提供を求める必要があります。日本商工会議所・東京商工会議所の2025年度調査では、中小企業の21.3%がすでに取引先から脱炭素関連の要請を受けており、今後さらに増える見通しです。「答えられない」では取引リスクになる可能性があるため、今から自社のScope1・2の把握を始めることが重要です。
女性管理職比率・育児休業取得率・男女賃金格差・研修投資額といった人的資本データを対外的に整備・開示する役割は、人事労務部門が担うことになります。「社内の管理業務」から「経営の透明性を対外的に証明する情報提供者」への転換が求められています。
育児休業取得率や賃金格差の開示を通じてダイバーシティへの本気度を示すことは、採用競争力の向上にもつながります。人事戦略とサステナビリティ開示は今後切り離せない関係になっていくでしょう。
SSBJ基準がいつから、どの企業に義務化されるのか。最新のスケジュールを確認しておきましょう。2025年10月の金融庁ワーキング・グループで示された内容をもとに整理します。
| 適用開始時期 | 対象企業(時価総額の目安) | 備考 |
|---|---|---|
| 2026年3月期〜 | — | 任意適用が可能(すべての基準に準拠する必要あり) |
| 2027年3月期〜 | 3兆円以上(プライム上場) | 最初の義務化対象。内閣府令等の改正は 2026年2月に公布・施行 |
| 2028年3月期〜 | 1兆円以上3兆円未満 (プライム上場) |
前年度の義務化開始から 1年後に段階適用 |
| 2029年3月期〜 | 5,000億円以上1兆円未満 (プライム上場) |
2025年10月のWGで2029年3月期からの適用案に賛同を得た |
| 未定 | 5,000億円未満(プライム上場) | プライム全体への段階適用は「数年後を目途」に検討中 |
上記スケジュールは2025年10月30日時点の金融庁ワーキング・グループ資料をもとにしています。内閣府令等の改正内容・施行日は今後確定する予定であり、最新情報は金融庁のウェブサイトをご確認ください。
SSBJ基準による開示内容の信頼性を担保するため、第三者保証の義務化も段階的に導入される予定です。基本方針は「SSBJ基準の適用開始年度の翌期から第三者保証を義務化する」とされており、当初2年間は保証の範囲をScope1・Scope2排出量とガバナンス・リスク管理に限定した「限定的保証」とする方向で検討されています。なお、有価証券報告書の提出期限(事業年度終了後3カ月以内)は延長しない方向が示されており、適用開始年度とその翌年度については「二段階開示」を認める経過措置が設けられる見込みです。
義務化の直接対象はプライム市場上場企業のみです。しかしScope3対応・人的資本データ整備の観点から、今から準備を始めることが推奨されます。サステナビリティ対応には一定のコストが伴います。詳しくは、中小企業が活用できる助成金・補助金の記事でご確認ください。
2027年3月期からの段階的な義務化に向けて、対象企業では今まさに体制整備が本格化しています。義務化の直接対象でない企業も、Scope3への備えと人的資本データの整備を早期に始めることが、取引リスクの回避と採用競争力の向上につながります。
労務SEARCHでは、法改正・制度動向に関する実務情報を継続的に発信しています。SSBJ基準をはじめとするサステナビリティ関連の最新情報もあわせてご活用ください。

平成26年より神奈川県で社会保険労務士として開業登録を行い、以後地域における企業の人事労務や給与計算のアドバイザーとして活動を行う。
退職時におけるトラブル相談や、転職時のアドバイスなど、労働者側からの相談にも対応し、労使双方が円滑に働ける環境作りに努めている。
また、近時は活動の場をWeb上にも広げ、記事執筆や監修などを通し、精力的に情報発信を行っている。
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