公表内容
- 男性の育児休業等の取得割合
- 男性の育児休業等と育児目的休暇の取得割合の合計
投稿日:
ニュース子育てと仕事の両立は、現代の働き方における重要なテーマです。特に、男性の育児参加を促進し、より多くの家庭で男女が共に育児を担えるようにすることは、社会全体の課題となっています。
こうした流れを受け、育児・介護休業法が改正され、男性労働者の育児休業等の取得状況の公表が義務づけられる企業の範囲が、2025年4月1日から拡大されます。
目次
2024年5月におこなわれた育児・介護休業法の改正により、仕事と育児の両立支援に関するさまざまな措置が拡大されました。そのなかでも、特に企業に新たな対応が求められるのが、男性労働者の育児休業等取得状況の公表義務の適用範囲拡大です。
この改正は、男女ともに仕事と私生活を両立できる環境をさらに整備することを目的としています。男性の育児参加を促進し、企業における働き方改革を後押しする重要な一歩と言えるでしょう。
法改正の施行は2025年4月1日です。4月以降、新たに義務化の対象となる企業は、男性従業員の育児休業等の取得状況の公表をおこなう必要があります。
法改正により、新たに男性従業員の育児休業等の取得状況の公表が義務づけられる企業は、具体的に何を、いつまでに、どのような方法で公表する必要があるのでしょうか。詳細を見ていきましょう。
今回の改正で公表義務の対象となるのは、常時雇用する労働者が300人を超える企業です。これまでは1,000人超の企業が対象でしたので、対象となる企業の範囲が大きく広がったことになります。
改定前
常時雇用する労働者が1,000人超の企業
改定後
常時雇用する労働者が300人超の企業
ここで重要なのは「常時雇用する労働者」の定義です。これは、雇用契約の名称や期間にかかわらず、事実上、期間の定めなく雇用されていると認められる労働者を指します。具体的には、以下のいずれかに該当する人が含まれます。
つまり、契約社員やパートタイマー、アルバイトなどの雇用形態であっても、実質的に長期雇用されている場合は、この「常時雇用する労働者」としてカウントに含まれます。自社の従業員数を数える際は、この定義に基づいて正確に把握する必要があります。
公表が義務づけられる男性の育児休業等の取得状況とは、以下のいずれかの割合です。企業はどちらか一方を選択して公表します。
公表内容
ここで出てくる「育児休業等」と「育児目的休暇」は、それぞれ定義が異なります。
育児休業等とは、育児・介護休業法に基づいて取得できる休業を指します。具体的には、通常の育児休業に加え、2022年10月から施行された産後パパ育休(出生時育児休業)も含まれます。
また、3歳未満の子を育てる労働者に対する短時間勤務措置などの代替措置として企業が講じる休業制度や、小学校就学前の子を育てる労働者に関する努力義務として講じられる休業も含まれます。
対して育児目的休暇は、企業が独自に設ける休暇制度のうち、その目的が育児であることが就業規則などで明確にされている休暇を指します。法定の制度である育児休業や子の看護休暇は、ここには含まれません。
たとえば「育児サポート休暇」や「子の学校行事参加休暇」など、企業が規程で育児を目的と定めている休暇が該当します。
義務ではありませんが、企業は公表が義務づけられている取得割合に合わせて、任意で育児休業平均取得日数などを公表することが推奨されています。
これは、自社の育児・子育て両立支援への取り組みを積極的にアピールし、企業の魅力向上や人材確保につなげるためのものです。平均取得日数など、より具体的な情報を加えることで、企業の「働きやすさ」が伝わりやすくなります。
任意公表における平均取得日数の計算方法に特に決まりはありません。厚生労働省の「両立支援のひろば」では、計算方法の例が紹介されています。たとえば、以下のような計算方法が考えられます。
計算出期間中に生まれた子のうち、1歳に達するまでの間に男性労働者が取得した育児休業等の合計日数 ÷ 算出期間中に育児休業等を取得した男性労働者の人数
公表前事業年度に育児休業を終えて職場復帰した男性労働者の育児休業等合計日数 ÷ 公表前事業年度に復職した男性労働者の人数
これらの例を参考に、自社で採用する計算方法を定めて公表すると良いでしょう。任意で公表する場合も、どのような指標について、どのような方法で算出したのかを明記することで、情報の信頼性が高まります。
公表が義務づけられた企業は、育児休業等の取得状況を年に1回公表する必要があります。公表時期は、公表をおこなう日の属する事業年度の直前の事業年度(公表前事業年度)の状況について、当該事業年度終了後、おおむね3カ月以内とされています。
たとえば、事業年度末が3月の場合、2025年4月1日の義務化施行後、最初に公表が必要となるのは、2024年度(2024年4月1日~2025年3月31日)の状況です。この場合、2025年3月31日の事業年度終了後おおむね3カ月以内である、2025年6月末が初回公表期限の目安となります。
そのほかの事業年度末の企業の初回公表期限の目安は、以下の表を参考にしてください。
事業年度末 (決算時期) | 初回公表期限 |
---|---|
3月 | 2025年6月末 |
4月 | 2025年7月末 |
5月 | 2025年8月末 |
6月 | 2025年9月末 |
7月 | 2025年10月末 |
8月 | 2025年11月末 |
9月 | 2025年12月末 |
10月 | 2026年1月末 |
11月 | 2026年2月末 |
12月 | 2026年3月末 |
1月 | 2026年4月末 |
2月 | 2026年5月末 |
自社の事業年度末を確認し、公表が必要となる時期を把握しておくことが重要です。
公表方法は、インターネットなど、一般の方がいつでも閲覧できる方法でおこなう必要があります。企業のホームページや、子育て支援に関する特設ページなど、誰でもアクセス可能な形で公開します。
公表方法として推奨されているのが、厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」での公表です。「両立支援のひろば」は、企業の仕事と家庭の両立支援への取り組みをサポートする情報サイトであり、多くの企業が登録しています。このサイトに登録することで、育児休業取得状況を含む自社の両立支援への取り組みを公表することができます。
もちろん、自社のホームページなどで公表しても問題ありません。ただし、その場合も、誰でも容易にアクセスでき、公表された情報が確認できる状態にしておく必要があります。
公表する際には、公表内容(取得率または取得率+育児目的休暇率)がどちらであるかを明記すると、閲覧者にとってわかりやすくなります。
公表する割合は、以下の計算式で算出します。計算期間は、公表をおこなう日の属する事業年度の直前の事業年度(公表前事業年度)です。
これは、配偶者が出産した男性労働者のうち、育児休業等を取得した男性労働者の割合を示すものです。
(公表前事業年度中に育児休業等を開始または取得した男性労働者の数) ÷ (公表前事業年度中に配偶者が出産した男性労働者の数) = 育児休業等の取得割合
分母は、対象となる期間に「配偶者が出産した」男性労働者の総数です。分子は、そのなかで実際に「育児休業等を取得した」男性労働者の数です。
これは、配偶者が出産した男性労働者のうち、育児休業等または育児目的休暇を取得した男性労働者の割合を示すものです。
{(公表前事業年度中に育児休業等を開始または取得した男性労働者の数) + (公表前事業年度中に小学校就学前の子の育児を目的とした休暇制度を利用した男性労働者の数)} ÷ (公表前事業年度中に配偶者が出産した男性労働者の数) = 育児休業等と育児目的休暇の取得割合
分母は上記と同じく「配偶者が出産した男性労働者の数」です。分子は「育児休業等を取得した男性労働者の数」と「育児目的休暇を利用した男性労働者の数」を合算したものです。
正確な取得率を算出するためには、いくつか注意すべき点があります。以下のルールに従って、正確な人数を把握し、計算をおこないましょう。
ある男性労働者が、同一の子について育児休業を分割して2回取得した場合、または育児休業と育児目的休暇の両方を取得した場合は、計算上は「1人」としてカウントします。休業や休暇を取得した回数ではなく、取得した「人数」を分子とします。
育児休業を開始した日が含まれる事業年度の取得として計算します。たとえば、事業年度末が3月の企業で、2025年2月に育児休業を開始し、2025年5月に終了した場合、これは2024年度(2024年4月~2025年3月)の取得としてカウントされます。
同一の子について分割して育児休業を取得し、それが複数の事業年度にまたがる場合は、最初の育児休業の取得のみを計算の対象とします。
育児・介護休業法の改正により、なぜ男性の育児休業等の取得状況の公表義務の対象となる企業が拡大されたのでしょうか。今回の公表義務の対象拡大は、以下のような背景や理由が考えられます。
育児・介護休業法は、子育てや介護をおこなう労働者が、働くうえでの時間的制約を抱える時期でも、仕事と家庭を両立できるように支援するための法律です。法改正は、この支援を強化し、男性も女性も当たり前に育児に参加し、キャリアを中断することなく働き続けられる社会を目指しています。
日本における男性の育児休業取得率は、女性に比べて低い水準にあります。取得状況を公表することで、企業の意識改革を促し、社会全体で男性の育児休業取得を当たり前のものとする文化的・環境的な後押しを期待しています。
育休取得状況を「見える化」することは、企業が従業員の働きやすさや仕事と育児の両立支援にどれだけ取り組んでいるかを示す指標となります。これは、求職者や従業員からの信頼を高め、優秀な人材の確保や定着において企業の競争力を強化する効果が期待できます。
このように、公表義務化は単なる義務履行に留まらず、企業の働き方や組織文化を見直し、対外的なイメージを向上させる機会としても捉えることができます。
新たに男性の育児休業取得状況の公表義務の対象となる企業の人事・労務担当者は、早めに準備を進める必要があります。公表義務に対応するために、具体的にどのようなことをおこなう必要があるのでしょうか。
まず、2025年4月1日時点の「常時雇用する労働者」の数が300人を超えるかどうかを確認します。正社員だけでなく、期間の定めのある雇用契約でも1年以上継続雇用されている・見込まれる労働者も含めてカウントします。
「育児休業等の取得割合」と「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」のどちらを公表するかを決定します。自社の育児目的休暇制度の利用状況なども考慮して選択すると良いでしょう。
公表対象期間(公表前事業年度)における以下の情報を正確に把握・集計できる体制が必要です。
これらのデータは、日頃の育児休業や休暇の申請・取得状況の記録に基づいて集計することになります。そのため、現在の社内システムや管理方法で対応可能か確認し、必要に応じて見直しや改善をおこないます。計算上の注意点(複数取得のカウント方法、事業年度またぎの扱いなど) も踏まえて、正確に集計できる仕組みを整えましょう。
上記で解説した計算方法に従って、選択した指標の割合を正確に算出します。計算上の留意点 を再確認し、誤りがないように注意が必要です。
インターネット上で一般の方が閲覧できる方法として、両立支援のひろばを活用するか、自社ホームページなどに掲載するかを決定します。
やること | |
---|---|
両立支援のひろばを利用する場合 | サイトへの登録手続きをおこない、公表情報を入力する準備を進めます。 |
自社ホームページなどに掲載する場合 | 掲載場所(人事・採用情報ページ内、CSRページ内など)、掲載形式(PDF、HTMLなど)を検討し、情報掲載の準備を進めます。 |
自社の事業年度末を確認し、初回公表期限(事業年度終了後おおむね3カ月以内) を把握します。その期限に間に合うように、データ収集、計算、公表媒体の準備などを計画的に進めます。
公表義務化の対象となること、男性の育児休業取得状況を公表することを、従業員や管理職に周知すしてもいいでしょう。これにより、育児休業を取得しやすい職場環境づくりへの意識を高め、実際の取得率向上につなげることが期待できます。
2025年4月1日からの育児・介護休業法改正により、常時雇用する労働者が300人を超える企業に対して、男性労働者の育児休業等の取得状況を、年1回公表することが義務づけられます。これは、男性の育児参加を促進し、男女ともに仕事と家庭を両立できる社会を実現するためです。
公表義務の対象となる企業は、「育児休業等の取得割合」または「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」のいずれかを、公表前事業年度の状況として、事業年度終了後のおおよそ3カ月以内に、インターネットなどの一般の方が閲覧できる方法で公表する必要があります。公表場所としては、厚生労働省の「両立支援のひろば」が推奨されています。
新たに対象となる企業の人事・労務担当者は、まず自社が対象となるかを確認し、公表する指標の選択、正確なデータ収集・計算体制の整備、公表方法とスケジュールの決定といった準備を計画的に進めましょう。
労務・人事・総務管理者の課題を解決するメディア「労務SEARCH(サーチ)」の編集部です。労働保険(労災保険/雇用保険)、社会保険、人事労務管理、マイナンバーなど皆様へ価値ある情報を発信続けてまいります。
詳しいプロフィールはこちら