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ニュース2025年には、労働・雇用・社会保障・建設業など、多岐にわたる分野で法改正が予定されています。これらの改正は、企業の労務管理や人事制度、そして従業員の働き方に大きな影響を与える可能性があるため、人事・労務担当者は各改正の内容を正確に理解し、適切な対応を講じなければなりません。
そこでこの記事では、2025年に施行される人事・労務に関する主な法改正について、時系列順にわかりやすく紹介します。また、改正に伴い人事・労務担当者が具体的に何をすべきか、その対策も解説します。
目次
年明けには、いくつかの重要な法改正が施行されます。
これまで書面でおこなっていた労働安全衛生関係の手続きが、電子申請で義務化されます。対象となる手続きは、下記のとおりです。
影響 | 労働基準監督署への訪問が不要となり、手続きの効率化が期待できます。 |
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企業の対応 | 電子申請システムの導入と従業員への周知をおこないましょう。 |
税務署が書類を受理した際に押印していた収受日付印が、廃止されます。
影響 | 金融機関への融資や補助金申請時に、収受日付印のある申告書の控えの提出が求められる場合、別の証明方法が必要となる可能性があります。 |
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企業の対応 | 税務署に確認し、代替となる証明方法を把握しておきましょう。 |
厚生労働省が、職業安定法指針に規定されている「転職勧奨の禁止」と「お祝い金等の提供の禁止」を許可条件に追加します。
影響 | 求人サイトでの入社祝い金などの提供が規制されます。 |
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企業の対応 | 求人活動におけるお祝い金等の提供を見直す必要があります。 |
原則すべての介護事業者は、介護保険法に基づき「介護事業財務情報データベースシステム(仮称)」を使って、会計年度ごとに都道府県への経営情報の報告が義務化されます。
影響 | 介護事業者は、経営情報を正確に報告する体制を整備する必要があります。 |
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企業の対応 | 介護事業財務情報データベースシステムについて確認し、適切な報告体制を整備しましょう。 |
2025年3月末には、高年齢者雇用安定法の経過措置終了と四半期報告書の廃止が控えています。
高年齢者雇用安定法における、65歳までの雇用確保措置の経過措置が終了します。
影響 | 企業は、以下のいずれかの措置を講じる必要があり、事実上65歳までの雇用が義務化されます。 ・定年制の廃止 ・65歳までの定年の引き上げ ・希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度の導入 |
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企業の対応 | 高年齢者の雇用継続に関する社内規定の見直しと、対象となる従業員への説明をおこないましょう。 |
金融商品取引法の改正により、第1・第3四半期の四半期報告書が廃止されます。
影響 | 四半期報告書の代わりに、取引所規則に基づく四半期決算短信に一本化されます。半期報告書および年度報告書の重要性が増し、より詳細な内容が求められます。 |
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企業の対応 | 新たな開示スケジュールに対応する体制を整備し、半期報告書と年度報告書の精度向上に努めましょう。 |
2025年4月1日には、育児介護休業法、雇用保険法、建築基準法など多くの法改正が施行されます。人事・労務担当者にとって、大きな変革期となるでしょう。
建築基準法と建築物省エネ法が改正され、省エネ基準適合が義務付けられます。
影響 | 新築住宅・建築物は省エネ基準に適合させる必要があり、建築確認手続きの中で省エネ基準への適合性審査が必要になります。 |
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企業の対応 | 建築関連の事業者は、改正内容を把握し、省エネ基準に適合した設計をおこなう必要があります。 |
育児介護休業法が改正され、育児と仕事の両立を支援するための制度が強化されます。主な変更点は以下のとおりです。
影響 | 企業は、従業員の多様な働き方に対応するため、制度の見直しや柔軟な働き方の導入が求められます。 |
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企業の対応 | 就業規則の見直し、制度の周知、管理職への研修を実施しましょう。 |
保育所などへ入所できないことを理由に育児休業給付金の延長手続きをする場合、申込書の写しなどの提出が必要となります。理由なく自宅や勤務先から遠い保育所に申し込んでいないかなど、いわゆる「落選狙い」をしていないかハローワークが確認したうえで、給付の延長が判断されます。
施行日の2025年4月1日以後に育児休業に係る子が1歳に達する場合、または1歳6カ月に達する場合から適用されます。
影響 | より厳しく審査されることになり、育児休業給付金を延長する従業員が減少する可能性があります。 |
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企業の対応 | 従業員が適切な手続きがおこなえるよう、改正内容を確認・把握し、従業員への周知に努めましょう。 |
雇用保険制度においては、以下の点が変更されます。
影響 | 企業は、雇用保険料の負担増加や従業員の退職・再就職に関する対応の変更が必要となります。 |
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企業の対応 | 給与計算システムの更新、退職者への説明資料の更新をおこないましょう。 |
「出生後休業支援給付金」の開始により、条件を満たすと最大28日間、育児休業給付の給付率が80%(手取り10割相当)になります。また、2025年4月からは、育児のための短時間勤務制度を選択し、賃金が低下した労働者に対して給付する制度がなかったことから「育児時短就業給付」が創設されます。
これらの給付制度は、育児休業を取得する労働者の経済的な負担を軽減し、より安心して育児に専念できる環境を整備することを目的としています。
影響 | 従業員が経済的な不安なく育児に専念しやすくなり、育児休業取得が促進される可能性があります。 |
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企業の対応 | 制度の周知や運用体制の整備、就業規則の改定、給与計算システムの更新などが必要になります。 |
60歳以上の雇用保険の被保険者に対する、高年齢雇用継続給付の給付率が縮小されます。
影響 | 給付額が「賃金の原則10%」に縮小されます。 |
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企業の対応 | 対象となる従業員に制度変更を周知する必要があります。 |
福祉・介護職員の処遇改善のための3つの加算が、4段階の「福祉・介護職員等処遇改善加算」に一本化されます。
影響 | 福祉・介護事業者は、新たな加算制度に対応する必要があります。 |
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企業の対応 | 厚生労働省の情報を確認し、計画的な準備を進めましょう。 |
一人親方などの事業を請け負う者や、同じ場所で作業をおこなう労働者以外の人に対しても、労働者と同等の保護が図られるよう、必要な措置を実施することが事業者に義務付けられます。
影響 | 事業者は作業現場の安全管理を徹底し、必要な措置を講じる必要があります。 |
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企業の対応 | 作業現場の安全管理体制を見直し、一人親方などへの安全教育をおこないましょう。 |
貨物軽自動車運送事業における安全対策を強化するため、安全管理者の選任・届出が義務付けられます。
影響 | 貨物軽自動車運送事業者は安全管理者を選任し、安全管理体制を構築する必要があります。 |
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企業の対応 | 安全管理者を選任し、安全運転に関する教育を実施しましょう。 |
転職エージェントや人材紹介会社などの職業紹介事業者は、「紹介手数料率の実績公開」と「違約金規約の明示」という新たな義務が課せられます。
影響 | 職業紹介事業者は、紹介手数料の実績を公開する必要があり、また、求職者に対して違約金に関する規約を明示する必要があります。 |
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企業の対応 | 職業紹介事業者は手数料率の透明性を確保し、求職者とのトラブル防止に努めましょう。 |
障害者雇用促進法に基づき、障害者の雇用義務を軽減する「除外率」が、一律10ポイント引き下げられます。
影響 | 企業はより多くの障害者を雇用する必要性が高まります。 |
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企業の対応 | 障害者雇用に関する計画を見直し、雇用促進に向けた取り組みをおこないましょう。 |
公益法人制度が改正され、資金活用の自由度が増し、柔軟に事業展開しやすくなる一方、ガバナンスの充実や透明性の向上を図るよう努めるべき旨を規定で設けるなど3つの改正のポイントがあります。
影響 | 公益法人は、資金活用やガバナンス体制を見直す必要が生じる可能性があります。 |
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企業の対応 | 資金活用やガバナンス体制について見直しを検討しましょう。 |
次世代育成支援対策推進法に基づき、企業は従業員の仕事と育児の両立を図るための行動計画(一般事業主行動計画)を策定する義務があるとされています※。この計画を策定するときに、育児休業の取得状況や労働時間に関する状況を把握し、数値目標を設定することが義務付けられます。
常時雇用する従業員100人超の企業は義務、100人以下の企業は努力義務
影響 | 企業は、育児休業の取得状況や労働時間に関する状況を把握し、数値目標を設定することが義務付けられます。 |
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企業の対応 | 行動計画の策定をおこない、従業員に周知しましょう。 |
2025年5月には、物流業界において重要な法改正が予定されています。
2025年5月15日、物流の効率化や商慣習の見直しを目的とした改正がおこなわれます。
影響 | 物流事業者は業務効率化や契約の見直しが必要となります。 |
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企業の対応 | 物流業務や契約書の見直しをおこないましょう。 |
2025年5月26日に、戸籍に氏名のふりがなを追加する改正戸籍法が施行されます。
影響 | 戸籍に氏名と共にふりがなが記載されるようになります。 |
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企業の対応 | 特に対応は必要ありませんが、社内システムで氏名のふりがなを扱う場合は、対応が必要となる場合があります。 |
2025年7月には、高速道路の割引制度が見直される予定です。
高速道路の深夜割引の仕組みが見直され、割引が適用される条件が変更されます。
影響 | 高速道路の深夜割引の対象時間や条件が変更になります。 |
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企業の対応 | 高速道路の利用が多い従業員に対し、料金体系の変更を周知しましょう。 |
2025年8月には、衣類の取り扱い表示に関する変更があります。
洗濯時などの衣類の取り扱い表示に関わる「JIS L0001」が改正され、経過措置が終了します。経過措置終了日は2025年8月19日で、JIS改正は2025年8月20日に公布されます。
影響 | 新しい記号が追加されたり、記号の意味が変更されたりします。 |
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企業の対応 | 衣料品を扱う企業は、新しい表示方法について従業員に周知しましょう。 |
2025年10月には、育児介護休業法と雇用保険法において重要な改正が施行されます。
育児と仕事の両立を支援するための制度が拡充されます。
企業は、3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者に対し、以下の措置の中から2つ以上を提供する必要があります。
企業は、労働者の育児状況や働き方の希望を把握し、個別のニーズに応じた配慮をする必要があります。
影響 | 企業は、従業員のニーズに合わせた柔軟な働き方を実現するための制度設計や、個別の配慮が求められます。 |
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企業の対応 | 従業員の意向を把握するための体制を整備し、就業規則や社内制度を改定しましょう。 |
教育訓練中の生活を支えるための給付として「教育訓練休暇給付金」が創設されます。労働者が自発的に教育訓練に専念するために仕事から離れる場合、生活費の不安なく専念できるようにするためです。
影響 | 従業員のスキルアップやキャリア形成の支援が促進されます。 |
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企業の対応 | 制度内容を把握し、従業員への周知をおこないましょう。 |
高齢者、障害者、低所得者など住宅の確保に特に配慮を必要とする人に対して、民間賃貸住宅への入居を支援するための法律が改正されます。
影響 | 高齢者の入居拒否などの課題に対応します。 |
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企業の対応 | 高齢者等の入居を支援するための制度について、確認しておきましょう。 |
マイクロソフトはWindows10のサポートを終了します。
影響 | サポート終了後は新たな脆弱性が見つかっても、更新されません。 |
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企業の対応 | Windows11への移行を検討するか、有償の拡張セキュリティ更新プログラム(ESU)の利用を検討しましょう。 |
年末には、健康保険証の変更と建設業法の改正があります。
従来の紙の健康保険証は2025年12月1日に有効期限が切れ、同月2日以降は使用できなくなります。それに伴い、マイナ保険証への移行が推奨されます。
影響 | 従業員は、マイナ保険証への切り替え、または資格確認書の利用が必要になります。 |
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企業の対応 | 従業員へのマイナ保険証への切り替えを推奨し、資格確認書の利用方法を周知しましょう。 |
建設業の担い手確保を目的として、労働者の処遇改善、働き方改革、生産性向上が促進されます。具体的な変更点としては、労働者の賃金引上げ、資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止、労働時間の適正化、現場管理の効率化などが含まれます。この改正は、2025年12月14日までに施行予定です。
影響 | 建設業に関わる企業は、労務管理や賃金体系の見直しが必要となる可能性があります。また、公共工事に携わる企業は、新たな基準に沿った契約や業務遂行が求められる可能性があります。 |
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企業の対応 | 労務管理や賃金体系、契約書の見直しをおこないましょう。 |
2025年の法改正は、企業にとって対応すべき課題が多い一方で、より良い労働環境を整備し、従業員のエンゲージメントを高めるチャンスでもあります。企業の人事・労務担当者は、これらの法改正に迅速かつ適切に対応しましょう。
なお、法改正に関する情報は常に更新されます。厚生労働省のホームページや、専門家の意見を参考にしながら、最新情報を確認するようにしてください。
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