新たに義務化された介護離職防止のための措置
- 介護に直面した旨を申し出た従業員への個別周知・意向確認
- 介護に直面する前の早い段階での情報提供
- 研修や相談窓口の設置などといった雇用環境の整備
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ニュース2025年4月1日から、改正育児・介護休業法が段階的に施行されました。4月から施行されたものの中には、介護離職防止のための支援に関する改正も含まれ、企業に対し、仕事と介護の両立支援制度が強化されています。
そこでこの記事では、改正育児・介護休業法における仕事と介護の両立支援制度の具体的な変更点、改正の背景、そして今すぐ人事・労務担当者が取り組むべき対応策について、わかりやすく解説します。
2025年4月1日に育児・介護休業法が改正され、介護離職を防止し、従業員が仕事と介護を両立できるようにするため、以下3つの措置を講じることが企業に義務づけられました。
新たに義務化された介護離職防止のための措置
これまで、介護休業や介護に関する両立支援制度は企業に整備されているものの、その内容や利用方法が従業員に十分に周知されていないケースがありました。
「制度があることは知っていたけれど、詳しい内容や申請方法まではわからない」といった状況を解消するため、今回の改正では、介護に直面した旨を申し出た従業員に対して、企業は以下の事項を個別に周知し、制度利用の意向を確認することが義務づけられています。
これらの事項の周知および利用の意向確認は、以下のいずれかの方法でおこないます。
この個別周知・意向確認は、介護休業や介護両立支援制度などの利用を円滑に進めることが目的であり、企業は取得や利用を控えさせるような働きかけはおこなってはなりません。
仕事と介護の両立支援制度は、主に次の5つが挙げられます。これらは育児・介護休業法に基づく制度であり、勤務先の業種や規模にかかわらず、従業員は原則として利用できることになっています。
介護休業とは、労働者が要介護状態の対象家族を介護するために取得できる休業制度です。対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割して取得できます。
介護休暇とは、労働者が要介護状態の対象家族の介護や通院の付き添い、介護サービスの手続きなどの世話をおこなうために取得できる休暇です。取得可能日数は、対象家族が1人の場合は年5日まで、2人以上の場合は年10日まで。時間単位での取得も可能です。
所定外労働の制限とは、要介護状態の対象家族を介護する労働者が、介護が終了するまで所定外労働の免除を請求できる制度です。対して時間外労働の制限とは、同様に介護をおこなう労働者が介護終了するまで、1カ月24時間、1年150時間を超える時間外労働を制限できる制度です。
これら2つの制度における請求期間などは、1回の請求で1カ月以上1年以内の期間請求でき、請求回数に制限はありません。
そして深夜業の制限とは、同じく介護をおこなう労働者が、介護が終了するまで午後10時から午前5時までの労働を制限できる制度です。こちらは1回の請求期間が1カ月以上6カ月以内となり、請求回数に制限がない点は他2つの制度と同様です。
所定労働時間の短縮などの措置とは、要介護状態の対象家族を介護する労働者が利用できる制度です。具体的には、短時間勤務制度、フレックスタイム制度、時差出勤の制度、介護費用の助成措置のいずれかを、利用開始から3年以上の間で2回以上利用できます。
介護休業給付とは、雇用保険の規定により要件を満たした介護休業取得者が休業期間中に給与の67%を受給できる給付金です。有期雇用労働者の場合は、追加の要件を満たすことで受給できます。
介護は育児と異なり、予測が難しい側面があります。従業員が「まだ介護は始まっていない」「親はまだ元気だから関係ない」と考えているうちに、急に介護が必要となるケースも少なくありません。
そこで今回の改正では、介護に直面する前の従業員(40歳頃)に対し、介護休業や介護両立支援制度などに関する情報提供をおこなうことが義務づけられました。これは、従業員の介護リテラシーを高め「仕事と介護の両立のために必要な情報を知らなかった」という状況を防ぐことを目的としています。
情報提供について | |
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提供事項 | 上記「介護に直面した従業員への個別周知・意向確認」における周知事項と同様 |
提供期間 | 労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度(1年間)、または労働者が40歳に達した日の翌日(誕生日)から1年間のいずれか |
提供方法 | 面談 (オンライン面談も可能)、書面交付、FAX、電子メールなどのいずれか。人数が多い場合は、電子メールなどでの一斉送信も可能 |
情報提供をおこなう際には、各制度の趣旨・目的を踏まえ、従業員の理解と関心を深めるように努めることが望ましいとされています。また、早期の情報提供をおこなう場合、介護保険制度についても併せて知らせることが推奨されています。
厚生労働省が情報提供に活用できるリーフレットなどを公開しているので、そちらも参考にしましょう。
さらに、介護休業や介護両立支援制度などの申し出が円滑におこなわれるようにするため、企業は雇用環境の整備に取り組むことが義務づけられました。具体的には以下のような措置です。なお、可能な限り複数の措置を講ずることが望ましいとされています。
主な雇用環境の整備方法 | 期待できる効果 |
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介護休業・介護両立支援制度などに 関する研修の実施 |
・制度の理解促進 ・利用しやすい雰囲気づくり |
介護休業・介護両立支援制度などに 関する相談体制の整備(相談窓口の設置) |
・相談先、申し出先の明確化 ・制度の利用に関する疑問や不安を気軽に相談できるようになる |
従業員の制度利用事例の収集および提供 | ・制度利用のイメージをもちやすくなる ・制度利用の心理的なハードルを下げられる |
従業員へ制度利用促進に関する方針の周知 | ・従業員の安心感につながる |
上記の義務化に加え、今回の改正では、介護関係において以下の見直しもおこなわれます。
そのほかの介護に関する改正
これまでは、労使協定を結べば、継続雇用期間が6カ月未満の労働者は介護休暇の対象から除外できました。しかし改正後はこれが認められなくなり、継続して雇用された期間にかかわらず、介護休暇を利用できるようになります。
改定前
継続した雇用期間が6カ月未満の労働者は対象外
改定後
継続雇用期間にかかわらず介護休暇を取得可能
そのため労使協定を締結している場合は、見直しが必要となります。
要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるよう、企業は措置を講ずる努力をしなければなりません。
テレワークが可能かどうかは職種にもよりますが、導入できれば介護をしながらの勤務継続、ひいては離職防止につながります。
テレワークの導入にあたっては、就業規則の見直しが必要です。また、テレワークと合わせて、中抜け時間の取り扱いや管理方法、フレックスタイム制の導入なども検討することが望ましいとされています。
今回の育児・介護休業法の改正、特に介護離職防止に向けた制度強化の背景には、日本社会が直面する以下のような構造的な課題があります。
日本の人口は、少子高齢化が進行しており、生産年齢人口(15歳~64歳)は減少の一途を辿っています。一方、高齢者人口、特に75歳以上の後期高齢者人口は増加傾向にあり、2040年代後半には団塊ジュニア世代が後期高齢者となるため、医療・介護ニーズはさらに増大すると見込まれています。
このような状況下では、労働力人口の確保が企業の存続と成長にとって不可欠であり、現役世代の離職を防ぐことが重要です。企業は、従業員が安心して働き続けられる環境を整備することが喫緊の課題と言えるでしょう。
厚生労働省の調査によると、毎年10万人前後もの人が親などの介護を理由に離職しており、その数は増加傾向にあります。特に介護を担う40代~50代は、職場において中核を担う管理職層であるケースも多く、これらの層の介護離職は、企業にとって大きな人材流出、生産性低下につながります。
経済産業省の調査によると、親や家族の介護に直面する従業員は年々増加しており、その数は2025年には約307万人に達すると予測されています。また、2030年には仕事と介護の両立が困難になることによる経済損失額が、約9.1兆円に達すると言われています。
大企業では年間6億円以上、中小企業でも年間700万円以上の損失が発生するという推計もあり、介護離職防止は企業経営における重要なリスクマネジメントの観点からも重要視されています。
かつては、専業主婦世帯が多く、家族内での介護を担いやすい環境がありましたが、近年では共働き世帯が増加し、家族介護の担い手も変化しています。いわゆる「嫁介護」は減少し、「実子」や「配偶者」が主な介護者となっており、働く誰しもが家族介護をおこなうことになり得る状況となっています。このような社会の変化に対応するためにも、企業による仕事と介護の両立支援が不可欠となっています。
従業員は、介護に直面しても仕事を続けたいという意向をもつ一方、両立のための制度が十分に活用できないケースや、制度を利用しづらい職場の雰囲気があることを離職理由として挙げる割合が高くなっています。
弊サイトが実施した、介護をしながら働いている人を対象としたアンケート調査では、回答者のうち85%以上が「介護を理由に仕事をセーブする必要性を感じたことがある」という結果がでました。
仕事と介護の両立支援は、単なる介護の支援ではなく、従業員のキャリア継続を支援するものです。従業員は企業に対し、柔軟な働き方や休暇制度の整備、経済的な支援などを求めています。
今回の法改正は、このような社会全体の変化と従業員のニーズに応え、企業がより主体的に仕事と介護の両立支援に取り組み、介護離職を防ぐための具体的な枠組みを示すものと言えます。
今回の、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援の強化に伴い、人事・労務担当者は具体的に以下の対応を進める必要があります。すでに法改正はおこなわれているため、対策できていない企業は迅速に対応を進めましょう。
まずは、改正法の具体的な内容を人事・労務担当者が正確に理解することが重要です。
そのうえで、経営層や従業員に対して、改正の趣旨や具体的な変更点についてわかりやすく説明する機会を設ける必要があります。社内説明会、イントラネットでの情報公開、質疑応答の場の設定などが良いでしょう。その際には、厚生労働省のウェブサイトや関連資料を積極的に活用することをおすすめします。
今回紹介する対応策を実行するためには、経営層の理解と協力が不可欠です。法改正の意義や、仕事と介護の両立支援が企業にもたらすメリットを説明し、経営層のコミットメントを得られるように働きかけましょう。
介護に直面した従業員から申し出があった場合に、速やかに個別周知と意向確認をおこなうための体制を整備する必要があります。
誰が個別周知・意向確認の窓口となるのか、担当者を明確にしましょう。人事部門の担当者だけでなく、必要に応じて管理職との連携も検討します。
面談、書面、FAX、電子メールなど、できれば複数の周知方法を用意し、従業員の希望に応じて対応できるようにしましょう。特に、書面や電子メールで周知する場合には、必要な情報が網羅されているかを確認します。
制度利用の意向をどのように確認するのか、具体的な方法(アンケート、ヒアリングなど)を検討し、運用ルールを明確化します。個別周知・意向確認の実施記録を残す方法を検討します。
40歳ぐらの従業員に対して、介護休業や介護両立支援制度、介護保険制度に関する情報提供を定期的におこなうための計画を立てましょう。
具体的にやるべきこと | |
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対象者の抽出 | 40歳に達する従業員をリストアップする仕組みを構築 |
情報提供時期と頻度 | 年度初めなど、定期的な情報提供のタイミングを決定する |
情報提供ツールの準備 | 制度概要、申請手続き、相談窓口などをまとめた資料(リーフレット、パンフレット、社内FAQなど)を作成する |
情報提供方法の検討 | 集団説明会、個別面談、郵送、メール配信、eラーニングなど、効果的な情報提供方法を検討する |
介護休業や介護両立支援制度などの利用を促進するために雇用環境を整備します。
全従業員向けに制度の概要や介護に関する基礎知識、管理職向けに両立支援のポイントや部下の相談対応に関する研修を企画・実施します。外部講師の活用やeラーニングの導入も検討しましょう。
社内相談窓口の設置、担当者の配置、相談対応ルールの明確化をおこないます。必要に応じて、外部の専門家(社会保険労務士、キャリアコンサルタント、産業ケアマネジャーなど)との連携も検討します。相談窓口などを決定したら、その窓口の連絡先や利用方法を従業員に周知しましょう。
実際に介護休業や両立支援制度を利用した従業員の事例を収集し、社内報やイントラネットなどで共有します。プライバシーに配慮しながら、制度利用のメリットや両立のヒントなどを伝えることが重要です。
企業として仕事と介護の両立支援を積極的に推進する方針を明確化し、経営層からのメッセージとして発信するなど、従業員に周知しましょう。
介護休暇に関する労使協定を締結している場合は、改正後の要件(継続雇用期間6カ月未満の労働者も対象とする)に適合するよう、内容を見直す必要があります。必要に応じて、労働組合との協議をおこない、新たな労使協定を締結しましょう。就業規則の修正も忘れてはいけません。
介護をおこなう従業員がテレワークを活用できるよう、制度の導入や拡充を検討しましょう。職種によっては難しい場合もありますが、可能な範囲で柔軟な働き方(時差出勤、短時間勤務、フレックスタイム制、中抜け制度など)の導入を検討することも、両立支援に繋がります。これらの制度を導入・拡充する際には、就業規則の見直しが必要です。
2025年4月から、企業は介護に直面した従業員だけでなく、将来的に介護に直面する可能性のある従業員に対しても、積極的に情報提供をおこない、利用しやすい雇用環境を整備することが義務づけられました。
企業の人事・労務担当者は、この記事で解説した内容を踏まえ、法改正の趣旨を理解し、具体的な対応策を実行する必要があります。従業員一人ひとりの状況に寄り添った支援をおこなうことで介護離職を防ぎ、貴重な人材の定着を促進しましょう。
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