この記事でわかること
- 女性活躍推進法の概要と対象事業主
- 対応方法や取り組みの手順・内容
- 女性活躍推進に取り組むうえでの企業のメリット
- 活用できる助成金や認定制度について
この記事でわかること
女性活躍推進法とは、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」の略称で、出産・育児を理由に離職する女性が多く、女性が十分に力を発揮しにくい労働環境を是正するための法律です。
労働力不足が懸念されているなかで、女性社員が継続して就業できる職場環境を整えることはとても重要です。今回は女性活躍推進法の取り組みやメリット、直近の改正内容をご紹介します。
目次
女性活躍推進法とは、常時雇用する労働者の数が301人以上の事業主に対して、出産・育児を理由に離職する女性が多く、女性が十分に力を発揮しにくい労働環境を是正するための法律です。
また、一般事業主行動計画の策定・届出義務及び自社の女性活躍に関する情報公表を義務化しています。
女性活躍推進法は10年間の時限立法です。
対象となる事業主は、状況把握と課題分析の結果を踏まえ、女性の活躍推進に向けた、以下の施策をおこなう必要があります。
また、行動計画には計画期間、数値目標、取り組み内容、取り組みの実施時期を盛り込みます。
日本企業の女性の活躍に向けた課題は多数指摘されており、女性活躍推進法が施行された背景には、企業において性別を理由とする不平等をなくし、格差の是正を目指すために施行された男女雇用機会均等法が十分に機能していないことが挙げられます。
女性活躍に向けた課題
こうした旧態依然の企業風土を改善し、企業間競争力の強化や不足する労働人口の解消が期待されています。
女性活躍推進に取り組むことは労働者だけではなく、事業主にとってもさまざまなメリットがあります。
厚生労働大臣が定める「えるぼし」認定マークを商品、広告に付与できるため、女性活躍推進事業主であることのPRや、優秀な人材の確保・定着の効果が期待できます。
女性が働きやすい企業をPRできることは、企業イメージの向上につながり、企業価値の向上が期待できます。企業文化の改革(縦割り組織の是正やコミュニケーションの活性化、従業員の意識改革など)や業務改善に積極的に取り組んでいる企業としても認知されます。
女性活躍推進法の対象事業者は、行動計画を外部に公表する必要があるため、競合他社の女性活躍推進法の取り組みについて、知ることができます。そのため、自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析を基に、独自の取り組みを打ち出し、競合他社との差別化を図ることができます。
女性活躍推進法の対象事業主の要件、義務化されている内容を解説します。
女性活躍推進法が義務付けられている対象事業主は以下の通りです。
また、対象事業主(常時雇用する労働者が300人以上)は以下の取り組みにおいて、以下の内容が義務化されています。
義務化されている取り組み
女性活躍推進法には、以下4つの取り組みが存在します。
女性の活躍推進に関する4つの取り組み
自社の女性の活躍に関する状況把握では、基礎項目と選択項目に分けられており、4つの選択項目を確認し、状況把握、課題分析をおこないます。
自社の女性の活躍に関する状況把握のための基礎項目 | ||
基礎項目 | 計算式 | 目安 |
---|---|---|
採用した労働者に占める女性労働者の割合 | 直近の事業年度の女性の採用者数(中途採用含む)÷直近の事業年度の採用者数(中途採用含む)×100(%) | 20%以上 |
男女の平均継続勤務年数の差異 | 女性の平均継続勤務年数÷男性の平均継続勤務年数×100(%) | 70%以上 |
労働者の各月ごとの平均残業時間数等労働時間の状況 | 各月の対象労働者の残業時間数の合計÷対象労働者数 | 745時間未満 |
管理職に占める女性労働者の割合 | 女性の管理職数÷管理職数×100(%) | 20%以上 |
また、より詳しく女性活躍の状況を把握するため、これらの基礎項目以外にも各社の実情に応じて把握することが効果的と考えられる選択項目が定められています。
選択項目 | |
カテゴリ― | 項目詳細 |
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採用 | ・男女別の採用における競争倍率 ・労働者に占める女性労働者の割合 |
配置・育成・教育訓練 | ・男女別の配置の状況 ・男女別の将来の人材育成を目的とした教育訓練の受講の状況 ・管理職や男女の労働者の配置・育成・評価・昇進・性別役割分担意識その他の職場風土等に関する意識 |
継続就業・働き方改革 | ・10事業年度前及びその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合 ・男女別の育児休業取得率及び平均取得期間 ・男女別の職業生活と家庭生活との両立を支援するための制度(育児休業を除く)の利用実績 ・男女別のフレックスタイム制、在宅勤務、テレワーク等の柔軟な働き方に資する制度の利用実績 ・労働者の各月ごとの平均残業時間等の労働時間の状況 ・管理職の各月ごとの労働時間等の勤務状況 ・有給休暇取得率 |
評価・登用 | ・各職階の労働者に占める女性労働者の割合及び役員に占める女性の割合 ・男女別の1つ上位の職階へ昇進した労働者の割合 ・男女の人事評価の結果における差異 |
職場風土・性別役割分担意識 | ・セクシュアルハラスメント等に関する各種相談窓口への相談状況 |
再チャレンジ(多様なキャリアコース) | ・男女別の職種又は雇用形態の転換の実績 ・男女別の再雇用又は中途採用の実績 ・男女別の職種若しくは雇用形態の転換者、再雇用者又は中途採用者を管理職へ登用した実績 ・男女別の非正社員のキャリアアップに向けた研修の受講の状況 |
取組の結果を図るための指標 | ・男女の賃金の差異 |
行動計画の策定には、計画期間、数値目標、取組内容、取組みの実施期間を盛り込みます。
行動計画の策定 | |
項目 | 詳細 |
---|---|
計画期間 | 平成28年度から令和7年までの10年間を、各事業主の実情に応じておおむね2年から5年間に区切る |
数値目標 | 状況把握、課題分析の結果、事業主の実情に応じて課題であると判断したものに対応し、 最も大きな課題と考えられるものから優先的に数値目標を設定 |
取組内容 | 男女雇用機会均等法(均等法)に違反しない内容とすることが必要 |
取組みの実施期間 | 取組内容の実現性を加味して、設定 |
また、常時雇用する労働者が301人以上の事業主は原則として以下の2つの区分ごとに1つ以上の項目を選択します。
(1)職業生活に関する機会の提供に関する実績
(2)職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績
届け出の際もそれぞれに関連する数値目標を定めた行動計画の策定届を提出しなければなりません。
目標設定が完了したら、社内通知をおこないます。通知方法は事業所の見やすい場所への掲示や電子メールでの送付、イントラネットへの掲載、書面による交付が挙げられます。
その後、外部への公表(厚生労働省が運営する『女性の活躍推進企業データベース』への掲載も含む)をおこないますが、常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、情報公表項目について、以下の各区分から1項目以上公表する必要があります。
(1)女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供
(2)職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備
各項目は以下の通りです。
職業生活に関する機会の提供に関する実績 | ・採用した労働者に占める女性労働者の割合 ・男女別の採用における競争倍率 ・労働者に占める女性労働者の割合 ・係長級にある者に占める女性労働者の割合 ・管理職に占める女性労働者の割合 ・役員に占める女性の割合 ・男女別の職種または雇用形態の転換実績 ・男女別の再雇用または中途採用の実績 |
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職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備 | ・男女の平均継続勤務年数の差異 ・10事業年度前およびその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合 ・男女別の育児休業取得率 ・労働者の一月当たりの平均残業時間 ・雇用管理区分ごとの労働者の一月当たりの平均残業時間 ・有給休暇取得率 ・雇用管理区分ごとの有給休暇取得率 |
策定事例として、モデル計画も公表されているので、ぜひ参考にしてみてください。
一般事業主行動計画の策定例 | |
モデル計画A | 育児をしている社員が多く、いろいろなニーズのある会社 |
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モデル計画B | 育児をしている社員が多いが、長時間労働になりがちな会社 |
モデル計画C | 出産をきっかけに退職する女性従業員が多いため、出産前後の支援を強化したい会社 |
モデル計画D | 男女とも育児休業等が進んでいない会社 |
モデル計画E | 20~30代の男性従業員が多く長時間労働になりがちである会社 |
モデル計画F | 認定を目指し、両立支援対策の充実を目指す会社 |
モデル計画G | 高齢者が多いこと等により育児をしている社員がほとんどいない会社 |
モデル計画H | 地域等に対する次世代育成支援対策をおこないたい会社 |
モデル計画I | 「両立指標」を使って目標設定等をおこなう会社 |
モデル計画J | すでに「くるみん認定(子育てサポート企業認定)」を受けており、両立支援制度が充分に整っている会社 |
モデル計画K | 正社員の両立支援制度が整っている会社 |
行動計画を作成した旨を、自社を管轄する都道府県労働局に電子申請・郵送・持参のいずれかの方法で提出します。
厚生労働省が公表している一般事業主行動計画の策定・変更届出様式(令和3年4月以降~様式)で提出します。
行動計画に基づいて取り組みを実施し、経年的に効果の測定をおこないます。
ご紹介したステップは正社員を対象としていますが、非正社員についても正社員と同様の方法で課題分析、目標設定、取り組み内容の決定をなければいけません。
えるぼし認定とは、女性活躍推進法で定められた行動計画の策定、策定した旨の届け出をおこなった事業主の内、女性の活躍推進に関する状況が優良である事業主が都道府県労働局の申請することで、厚生労働大臣から優良企業として認定を受ける制度です。
認定の段階には3段階あり、各段階において採用状況、継続就業の状況、労働時間等の働き方、管理職比率、多様なキャリアコースなどの評価項目を満たしていることが必要です。
えるぼし認定よりも水準の高い「プラチナえるぼし認定」も創設されています。
女性活躍推進に優れた上場企業は経済産業省と東京証券取引所によって、「なでしこ銘柄」と認定し、中長期の企業価値向上を求める投資家に紹介します。その結果、株価の上昇や企業イメージの向上の効果が期待できます。
えるぼし認定を受けることで、国の各府省においておこなう公共調達において加点評価され、公共調達を有利に進めることが可能(公共調達における優遇措置)です。また、日本政策金融公庫の「地域活性化・雇用促進資金(企業活力協力貸付)」を利用する際に、基準利率よりも低金利で融資を受けることもできます。
女性活躍推進法に基づいた企業改革をおこないたい企業に向けて、両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)を活用できます。
自社の女性活躍に関する「数値目標」と、その達成に向けた取り組み目標を盛り込んだ「行動計画」を策定し、目標を達成した事業主には両立支援助成金が支給されます。
▼助成金の詳細
項目 | 詳細 |
---|---|
対象事業主 | 常時雇用する労働者300人以下の中小企業 |
数値目標達成時の支給額 | 47.5万円(最大60万円) |
女性活躍推進法は、女性が社会で活躍できる労働環境の整備を目的に、対象となる事業主に行動計画や届出、公表などを義務付ける法律です。
令和4年4月1日より対象事業主が、常時雇用する従業員101人以上へと拡大されます。
女性活躍推進の取り組みは「女性の活躍に関する状況把握・課題分析」「行動計画の策定・社内通知・公表」「行動計画を策定した旨の届出」「取り組みの実施・経年効果の測定」が挙げられます。
女性活躍推進に取り組むことで、企業価値の向上や優秀な人材の獲得・定着などのメリットがあります。また、えるぼし認定の取得は公共調達における優遇措置、日本政策金融公庫の低利融資を受けられます。
両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)を活用することで、常時雇用する従業員が300人以下の中小企業も女性活躍社会の推進がおこなえます。
社会保険労務士の中でも、10%に満たないと言われる助成金を専門に手掛ける特定社会保険労務士/ワークスタイルコーディネーター。なんば社会保険労務士事務所の所長。
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