働き方改革法が2019年4月から施行になり、残業時間の上限規制や有給休暇取得が義務化されています。法案の内容に組み込まれなかったものの方向性として政府は副業・兼業の解禁を奨励しています。副業・兼業とは「収入を得るために本業以外の仕事を行うこと」ですが、これまでは副業・兼業をすることで、情報漏洩のリスクや疲労・睡眠不足等で本業がおろそかになる、競業・利益相反になるとして禁止している企業がほとんどでした。
しかし、働き方改革法のなかで副業・兼業が推進され、これからの企業は副業・兼業への考え方を改めていく必要があります。
こちらの記事では、働き方改革で副業・兼業が推進されることによる、企業側の取るべき対応やメリットについて解説していきます。
目次
副業・兼業は、2018年のガイドライン改定以降、企業を中心に広がり、現在では「当たり前の働き方」として定着しつつあります。
さらに近年は、公務員の副業規制も見直され、制度としても大きく変化しています。
2025年には地方公務員の副業が条件付きで拡大され、
2026年4月からは国家公務員についても、副業の許可基準が緩和されました。
これにより、公務員の副業は「原則禁止」から「許可制で可能な範囲が広がる」段階へと移行しています。
就業規則で副業禁止が一般的
「許可なく他社で働かない」が原則
企業側がリスク(情報漏洩・健康管理等)を理由に制限
副業は原則認める方向へ転換
モデル就業規則から「副業禁止規定」は削除
届出制(申告制)で管理する考え方に変更
政府が副業・兼業を推進する背景には、働き方の多様化や人材活用の必要性があります。
主な理由は以下のとおりです。
日本では労働人口の減少が進んでおり、副業・兼業を通じて人材の能力を最大限活用することが重要とされています。
また、副業は個人の成長だけでなく、企業や社会全体の生産性向上にもつながると期待されています。
副業・兼業が推進されていますが、従業員が会社側に何も言わずに始めて良いわけではありません。
企業側は、副業・兼業を希望する従業員に下記2点を提出してもらいましょう。
これらは、副業・兼業を認めることで懸念される「企業秘密等の情報漏洩」や「長時間労働による健康阻害」等のリスクを回避するために必要になります。
副業・兼業を認める場合、企業は従業員の就業状況や健康状態を適切に把握・管理する必要があります。これは、副業が原則認められる方向に変わった一方で、企業側に安全配慮義務が求められるためです。
労働基準法第38条では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されています。
つまり、労働基準法で定められた労働時間に関する規定では、副業・兼業先で就業している時間と本業での就業時間を合算しなければなりません。
そのため、従業員から申告により、副業・兼業先での就業時間を把握する必要があります。
ただし、企業側の管理負担軽減のため、現在は「簡便な管理手法(管理モデル)」の活用が推奨されており、法改正によって「自社での労働時間のみで割増賃金を計算する」方向への転換が議論されています。
副業・兼業を行う従業員の長時間労働による健康阻害を防止する観点から、自社と副業・兼業先の企業で時間外労働(残業)や休日労働の抑制・免除する等の配慮が必要になります。
さらに、従業員の健康状況を把握するために、定期健康診断のほかに産業医との面談もすべきです。
副業・兼業が禁止されているイメージのある公務員ですが、現在は状況が大きく変わりつつあります。
結論から言うと、公務員の副業は全面的に自由ではないものの、許可制のもとで可能な範囲が広がっています。
これまで公務員は、「営利企業への従事」や「自ら事業を行うこと」が原則として制限されており、信用失墜行為の禁止、守秘義務、職務専念義務といったルールのもとで厳しく管理されてきました。
しかし近年は制度の見直しが進み、2026年4月からは国家公務員の自営兼業制度が改正され、副業・兼業の基準が大きく緩和されています。
従来は、不動産賃貸や太陽光発電、家業の継承などに限られていましたが、見直し後は以下のような事業も対象に追加されています。
さらに、不動産賃貸や太陽光発電についても、一定規模以下であれば承認不要となる範囲が拡大されるなど、制度の柔軟化が進んでいます。
ただし、公務員の副業はあくまで許可制であり、下記などの条件を満たす必要があります。
そのため、公務員の副業は「自由にできるもの」ではなく、所属機関の承認を前提に行うものと理解しておくことが重要です。また、あくまで「自営(個人事業)」が中心であり、他社に雇用される形態は引き続き厳格に制限されています。
副業・兼業を許可していくにあたって、企業側がどういった対応をしていく必要があるのか、その注意点はどのようなものがあるのかを解説していきます。
まず副業・兼業を解禁するにあたって、企業側が基準を作っておく必要があります。
【検討すべき事項の一例】
「業務内容」、「就業日・時間」、「就業期間」、「就業時間帯等」、「勤務地」等
「事前の承認・承認者」、「届け出の有無」、「提出書類」等
「勤務表の提出」、「産業医面談」、「上司や人事担当との面談・報告」等
【注意点】基準を厳しくしすぎないこと
厳しくしすぎると、従業員の副業・兼業を行う意志がなくなる恐れがあり、副業・兼業を推進していると言えなくなってしまいます。
企業側は、従業員が副業・兼業を行うにあたって問題がないか、決められた基準を元に確認します。
副業・兼業を開始するにあたって必要な手続きや書類の提出について、しっかり説明し漏れのないようにしましょう。
【注意点】従業員に対し必要以上の情報を求めないこと
企業側が副業・兼業先の機密情報まで求めてしまうと、競業・利益相反になってしまい裁判や、企業信用の失墜につながります。
現在の業務に支障がない場合は、積極的に認めていきましょう。
定期的に副業・兼業を開始した従業員とコミュニケーションを取り、健康状態の確認や業務への支障がないか確認しましょう。
業務に支障がないかを確認するために、同じ職場の従業員からヒアリングするのも良いです。
【注意点】副業・兼業による問題が発生していないかチェックすること
副業・兼業を続けたいために、身体が辛くても「大丈夫」と言ってくる可能性もあるため、注意が必要です。
副業・兼業が解禁されることによってどんなメリットがあるでしょうか?
従業員だけでなく、企業側にもどういったメリットがあるか解説していきます。
副業・兼業ができることで、収入面での不安が減ります。これにより、より良い収入を求めた転職を防ぐことができます。
また、育児や介護のために一時的に勤務できない従業員が、在籍したまま在宅でできる副業・兼業をすることで、会社を辞めてパートやアルバイトを探すこともなくなり、企業側にとって貴重な戦力を失わずに済むようになります。
あるいは他社から、副業・兼業として、別の企業から優秀な人材が来る可能性もあります。
副業・兼業で得た新たな知識や仕事の進め方を自社で生かすことができます。
同種の企業で副業・兼業をしていた場合、作業導線や備品・原材料の置き場の工夫等で、今までより効率のよい方法を取り入れることができます。
別の業種であっても、パソコンのスキルが向上したり、違う視点で物事をとらえられるようになります。
今まで気が付かなかったことに目が向き、業務改善が促進される場合もあります。
副業・兼業をするのは、経済的な理由が多いです。収入が増えることにより、余裕ができて精神的な不安がなくなります。
心に余裕ができると、仕事に前向きになり、より難しい仕事へ挑戦したり、仕事の質が向上していきます。
従業員のモチベーションが向上するのは、企業側にとっても大きなメリットになります。
すでに副業・兼業を推進している企業の例を見ていきたいと思います。
これらの取り組みは早期事例ですが、現在では多くの企業で副業制度が導入されています。
2016年に副業が解禁されるというニュースが話題になりました。
ロート製薬では、優秀な人材を育成することを目的として解禁されました。
企業を成長させるためには、自らが考えて行動する従業員が必要と考えたからです。
「社内チャレンジワーク」として副業を認める制度が実施され、開始直後は60名を超える副業希望者がいたようです。
副業の条件は、「勤続3年以上で国内勤務の正社員」で、上司ではなく、直接人事に申告すれば始めることができます。
大手企業に勤めていながらも、これだけの人数の希望者がいたことから、副業・兼業への関心の高さが伺えます。
日産自動車はかなり早い時期の2009年から副業を一部解禁しています。
副業・兼業が認められているのは「休業日」だけであり、就労時間も「8時間以内」と決められています。
副業・兼業を解禁した目的は、当時の景気悪化にともなった従業員の賃金カットが行われたためで、従業員が生活費を補填するための施策になっています。
人材育成を主目的に副業・兼業が解禁されました。
主な施策としては、「時間と場所の有効活用を目的とした施策」、「従業員の自己成長につながる施策」の2つになります。
これらを実施するために、従来のフレックスタイム制からコアタイムを撤廃し、始業時間・終業時間を日単位で変更ができるようにしたそうです。
これにより、業務状況によってフレキシブルに勤務時間が調整できるため、副業・兼業がしやすい状況になったのです。
SBI新生銀行では、多様な働き方の実現を目的として、副業・兼業を解禁しています。
従来は家業など限定的なケースのみ認めていましたが、他社との業務提携をきっかけに、「勤務時間外の過ごし方は社員の自由である」という考えのもと、2018年にトップダウンで制度改革を行いました。
副業・兼業は申請・承認制で運用されており、業務内容や実施時間などを申告したうえで許可されます。また、労働時間については、自己申告により定期的に把握し、健康管理の観点からも管理体制を整えています。
さらに特徴的なのは、副業を「外に出るもの」としてだけでなく、外部人材の受け入れ手段としても活用している点です。特にデジタル人材など、通常の採用では確保が難しい人材については、副業人材として柔軟に受け入れています。
実際に副業を行った社員からは、「異なる環境で働くことで新たな視点が得られた」といった声もあり、人材育成や組織活性化にもつながっています。
副業・兼業はすでに企業・公務員ともに広がり、「例外的な働き方」から「前提となる働き方」へと変化しています。
特に公務員についても制度の見直しが進み、許可制のもとで副業の幅が拡大しています。
今後は、企業側にも副業を前提とした制度設計や管理体制の整備が求められるでしょう。
副業・兼業は企業側にとって、優秀な人材の確保や従業員のスキルアップ、仕事の質の向上や従業員のモチベーションアップ等のメリットがあります。
しかし、副業・兼業を認めていくにあたって、企業側が対応していかなければならないことは多々あります。
企業側がなすべき対応がどんなことか、副業・兼業を推進することでのメリットやリスクをしっかり理解し、企業側と従業員がお互いにwin-winな関係になれるよう、記事を参考にしていただければ幸いです。

ソビア社会保険労務士事務所の創業者兼顧問。税理士事務所勤務時代に社労士事務所を立ち上げ、人事労務設計の改善サポートに取り組む。開業4年で顧問先300社以上、売上2億円超達成。近年では企業の人を軸とした経営改善や働き方改革に取り組んでいる。
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