バックオフィス部門(人事総務部門)の大事な役割として、従業員の方々が健康的に活き活きと働ける環境づくりがあります。
そして、現在では単身者の増加もあり、従業員の食生活改善も企業の福利厚生制度のなかで重要な役割を占めています。この記事では、社員食堂やお弁当などの現物支給や食事代の補助の際の社会保険や税務上の考え方を解説していきます。
福利厚生とは一般的に企業が従業員やその家族に対して、健康や生活の福祉の質の向上を目的に行う取り組みを総称して使われる言葉です。しかし、その内容は多岐にわたり福利厚生制度に関しては、何が該当して、何が該当しないのかという具体的な基準はありません。
したがって、給料以外の現金給付、社外の施設利用、育児休業などについても、従業員やその家族の福祉のために行われているものであれば福利厚生となるのです。しかし、ポイントは従業員及びその家族のために行われている施策であるのか、ということにあります。
福利厚生は大きく分けると「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」に分けられ、前者は企業に実施することが義務付けられている福利厚生のことで、社会保険料の拠出を指します。後者は特に義務付けられているものではなく、企業の任意によって行われる福利厚生を指し、今回の食事補助はこちらに該当します。
福利厚生は法定福利厚生を除き、基本的には企業の判断のもとに行われます。実際に食事補助を福利厚生制度として行っている企業は、どのくらいの補助を行っているのでしょうか?
厚生労働省が平成18年に行った調査では、食事補助は住居に関する費用や医療保険に関する費用に次いで3番目に多くの金額が割かれており、比較的多くの企業で食事に関する福利厚生が取り入れられていることが明らかになっています。
また、企業規模別で見てみると従業員数が多くなるにつれて、食事補助に使われる費用が高くなる傾向が見られます。また、食事補助を「カフェテリア・プラン」として導入している企業もあります。
カフェテリア・プランとは、企業が利用可能なサービスを設定したうえで、従業員にポイントを付与し、各自がそのポイントの範囲内で好きなサービスを利用できるというものです。福利厚生を自分で選択することができるこのサービスの1つに、食事補助を設定することでそのサービスを受けられます。
もちろん、食事以外のサービスが良いという人は受ける必要はないため、各従業員はより柔軟に福利厚生制度を利用することが可能になるのです。
食事代として従業員に補助が出る場合、税務上ではどのような取り扱いとなるのでしょうか?社員食堂などで従業員の食事を提供している場合や弁当を支給している場合に関しては、以下の2つの条件を満たしている場合に限り、特に課税対象とはならない決まりになっています。
(1)従業員が食事代の半分以上を負担していること
(2)「食事代の合計」−「従業員が負担した金額」=3,500円(税抜き)以下であること
この条件を踏まえ、食事代の合計が5,000円で、従業員の負担が2,000円とした場合は、(1)の条件を満たしていないため企業から支給される食事代は課税対象となります。また、8,000円の食事代のうち半分の4,000円を従業員が負担する場合も(1)の条件は満たしますが、(2)の条件は満たさないため同じく課税対象となるのです。
そして、食事代を現金で支給する場合は深夜勤務者に対する一部条件を除き、基本的に補助した全額が課税対象となります。一方で、残業や宿直勤務に対する食事の支給は課税対象にはなりません。
食事そのものを提供するのか、現金で支給するのか、条件によって取り扱いがことなっていますので、担当者は注意が必要です。
社会保険の被保険者が、勤務する事業所より労働の対償として現物で支給されるものがある場合は、その現物を通貨に換算します。その後、報酬と合算のうえ保険料額算定の基礎となる標準報酬月額を求めることになり、これを現物給与と言います。
食事の補助を現金という形ではなく、現物という形で行う現物給与の場合、いくらに換算するかは各都道府県によって定められており、食事の場合は「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」によって現物を現金に換算します。平成29年度の東京都を例に挙げると、1人あたり1ヶ月の食事代は20,100円です。
続いて、現物給与に関する労働保険上の扱いについてご紹介します。
食事代補助が現物給与とする場合は以下の形となります。
(1)食事の提供に対して賃金の減額がともなわない
(2)労働協約や就業規則などで明確な労働条件の内容となっている場合でない
(3)食事の提供による客観的評価額が社会通念上わずかなものと認められる場合
現物給与に関しては、代金を徴収する場合は原則として賃金扱いにはなりません。しかし、徴収する場合であっても、徴収される金額が実費の3分の1を以下のとき、実費の3分の1に相当する金額と徴収される金額との差額分は賃金として扱われます。
そのため、保険料算定の際の対象となるのです。一方、実費の3分の1以上の代金を徴収する場合は現物給与とはならず、保険料算定の対象とはなりません。
今回は食事補助に関してご紹介しました。福利厚生として食事補助を取り入れることで、従業員の健康を管理ができ、結果的に会社のためになるのではないでしょうか。
しかし、その一方で食事代として補助する金額によっては課税対象や保険料算定の対象となります。労務担当者としてはそれらの条件をしっかりと確認し、実務の際に困らないようにしておきましょう。
社会保険労務士法人|岡佳伸事務所の代表、開業社会保険労務士として活躍。各種講演会の講師および各種WEB記事執筆。日本経済新聞、女性セブン等に取材記事掲載。2020年12月21日、2021年3月10日にあさイチ(NHK)にも出演。
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