職場定着支援助成金(中小企業団体助成コース)とは、業界全体の職場定着率(離職率の低下)向上を目的として、中小企業者を構成員とする事業協同組合等が、協同組合団体に加入している企業の人材確保や従業員の職場定着の支援をするための事業(中小企業労働環境向上事業)を行った場合、それに要した費用の3分の2の額を助成してくれる制度です。どのような仕組みや制度なのか、詳しく見ていきます。
目次
職場定着支援助成金を支給してもらうためには、その事業協同組合の構成員が中小企業者である必要があります。そして、中小企業者を構成員とする、以下の組合・組合連合会が対象です。
ただし、以下の組合・組合連合会には条件があります。
【生活衛生同業組合】
その構成員が常時50人以下の従業員を使用する(卸売業またはサービス業を主たる事業とする事業者については100人以下)構成員の3分の2以上が資本・出資総額5千万以下(構成員が卸売業である場合は1億円以下)とする法人である
【酒造組合・酒造組合連合会】
その直接または間接の構成員である酒類製造業者の3分の2以上が、3億円以下の金額をその資本の額若しくは出資の総額とする法人、常時300人以下の従業員を使用する者であるもの
【酒販組合・酒販組合連合会】
その直接又は間接の構成員である酒類販売業者の3分の2以上が5千万円(酒類卸売業者については、1億円)以下の金額をその資本の額若しくは出資の総額とする法人、常時50人(酒類卸売業者については100人)以下の従業員を使用する者であるもの
【技術研究組合】
直接または間接の構成員の3分の2以上が中小企業者、企業組合、協業組合に該当する者であるもの
【一般社団法人(公益社団法人を含む)】
その直接または間接の構成員の3分の2以上が中小企業者であるもの
しかし、その「中小企業者」には細かい基準があり、業種、出資の総額、従業員数、など細かい基準があります。以下の条件を満たす会社および個人事務所が「中小企業者」として見なされ、これらを構成員とする事業協同組合には本助成金が支給されます。
常時使用する従業員数が300人以下、かつ資本金の額または出資の総額が3億円以下
【卸売業】
常時使用する従業員数が100人以下の会社、かつ資本金の額または出資の総額が1億円以下
【サービス業】
常時使用する従業員数が100人以下、かつ資本金の額または出資の総額が5千万円以下
【小売業】
常時使用する従業員数が50人以下、かつ資本金の額または出資の総額が5千万円以下
【自転車、航空機用タイヤ、チューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除くゴム製品製造業】
常時使用する従業員数が900人以下、かつ資本金の額または出資の総額が3億円以下
【ソフトウェア事業、情報処理サービス業】
常時使用する従業員数が300人以下、かつ資本金の額または出資の総額が3億円以下
【旅館業】
常時使用する従業員数が200人以下、かつ資本金の額または出資の総額が5千万円以下
本助成金を支給してもらうには、認定組合等の主たる事業所の所在地を管轄する各都道府県の定める様式に従った、「改善計画認定申請書」の作成が必要になります。改善計画の内容として、中小労確法第3条に基づき国が定める「基本指針の7項目」があり、この項目のうちいくつかを改善するとして計画書に記入し提出します。
すべての項目を改善する必要はなく、実情に照らして改善の必要がある項目を選択してください。また、選択する項目は1つだけでもかまいませんが、「募集、採用の改善」のみを選択することはできません。
そして、この改善計画の作成が済んだあとは、改善計画認定申請書およびその写し3部を、事業所の所在地を管轄する都道府県知事へ提出します。その際、この申請書以外にも必要なものがありますので、確認しておきましょう。
次に、「職場定着支援助成金(中小企業団体助成コース)中小企業労働環境向上事業実施計画書」に基づいた、「中小企業環境向上事業計画」を作成します。これを管轄の都道府県労働局に提出して、初めて受給資格が認定されるのです。
この認定を申請するために必要な書類は以下のとおりです。
申請は都道府県知事による改善計画の認定を受けてから、事業実施計画期間の開始予定日1ヶ月前までに提出してください。
環境向上事業を行う際は、「労働環境向上検討委員会」および「労働環境向上推進員」の設置が必須となります。
組合や中小企業者の役職員等によって構成され(選任方法は任意)、向上事業の計画および効果的な事業実施について、必要な事項を検討します。
検討委員会の活動を補佐する役割をもち、企画の立案・実施、および助成金に関する書類の作成などを行っていきます。配置人数は任意ですが、最低1名以上置かなければならないこととし、雇用管理に関しての専門知識・実務経験があり、所定労働日数の6割以上を環境向上の業務に従事していることが要件となります。
では、実際に行っていく事業内容について説明していきましょう。
中小企業労働環境向上の事業内容
どういった事業を行っていくのかを決定していく必要があるため、 事業の具体的な内容について検討委員会とともに決めていきつつ、計画進行中にも随時進捗状況を把握する機会を設けていきます。
事業を行っていくだけではなく、自分たちの組合を構成する中小企業者の実態や意識調査、あるいは好事例となっている他の組合の取り組みなどの調査をします 。
実施期間が終了したあと、その成果や問題点などを分析・把握していきます。また、その成果によって今後の事業継続や、継続する場合の改善点などを検討します。
事業の実施前と実施後で、構成員の中小企業者の実態がどう変わったかも調査します 。
成果が上がっている場合は、その事業の効果はノウハウなどを他の事業所へ普及・活用するための活動が求められます。
上記の計画策定事業~モデル事業普及活動までの事項は必ず実施しましょう。そして以下の2つも改善事業の一環となり、こちらについてはいずれかひとつを実施する必要があるとしています。
安定的な雇用を確保するため、労働条件や募集・採用の問題点の調査および改善をします。
職場定着に向けた環境作り、および快適な職場環境づくりのための雇用関係に関する問題点の改善をします。
冒頭で述べたように、本助成金は環境向上事業にかかった費用の3分の2が支給されます。
また、組合の役員などを推進員に選任した場合はその給与が、外部から推進員を招聘した場合はその謝金も費用として計上されます。
事業実施期間は原則として1年、前期と後期の半年ずつ分けられるのですが、助成金の申請も、前期と後期で分けて行うことができます。終了日の翌日から2ヶ月以内に、管轄の各都道府県の労働局に「職場定着支援助成金(中小企業団体助成コース)支給申請書」を提出してください。また、それ以外にも以下の書類が必要となります。
認定組合等の区分 | 上限額 |
---|---|
大規模認定組合等(構成中小企業者数500以上) | 1,000万円 |
中規模認定組合等(同100以上500未満) | 800万円 |
小規模認定組合等(同100未満) | 600万円 |
このように、助成金を支給してもらうためには非常に多数の行程が必要になります。さらに、事業を開始してから、助成金が支給されるまでにかなりの期間があるという点にも気をつけなければなりません。
どこかに不備があって助成金が支給されなかったという状況がならないよう、支給の対象となる団体の条件、取り組みの内容、必要な書類などはきちんと確認しておきましょう。
社会保険労務士法人|岡佳伸事務所の代表、開業社会保険労務士として活躍。各種講演会の講師および各種WEB記事執筆。日本経済新聞、女性セブン等に取材記事掲載。2020年12月21日、2021年3月10日にあさイチ(NHK)にも出演。
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