団結権の行使を妨げないように、不当労働行為救済制度があります。もしも、不当労働行為を疑われた場合、申し立てにより労働委員会の審査が行われます。その結果として、不当労働行為が事実であった場合は救済命令が発せられます。
結果に納得ができない場合は再審査の申し立ても可能ですが、企業としてはできる限りトラブルを避けたいものです。不当労働行為とはどのようなものか覚えておきましょう。
不当労働行為とは、主に使用者(事業主)が労働組合の活動などを妨害することを言います。単純に活動の邪魔をするだけではなく、労働組合の組員であることを理由に減給・解雇の対象としたり、労働組合からの団体交渉を正当な理由なく拒否したりすることが該当します。
あるいは、使用者自身が労働組合の活動に介入したりすることも不当労働行為です。仮に活動の邪魔をする意思はなく、むしろ好意的に活動をサポートしようと金銭的な援助をしようとしても、不当行為になりますので注意しなければなりません。次項で詳しく見ていきましょう。
労働者が労働組合を結成しようとしていたり、加入しようとしていたり、すでに組合員であるということを理由とした不利益取扱(減給や降格、解雇など)は、不当労働行為とみなされます。また、組合からの脱退を強制することや、脱退を雇用の条件とすること(いわゆる黄犬契約)も該当します。
労働組合が団体交渉を要求してきた場合、これを正当な理由無しに拒否することは不当労働行為とみなされます。また、交渉に応じたとしても、労働組合の意見を一切聞き入れない、交渉を途中で打ち切るなど、実質的に相手に交渉をさせないような行為も該当します。
労働組合の結成や、その活動を支配、介入することは不当労働行為となります。また、組合運営のための資金を援助するなど、組合にとってはプラスに見える行為でも、実は禁止されている行為だったりするのです。あくまで、労働組合は使用者から独立して活動すべきものであり、そこに使用者が立ち入ってしまえば仮に支援であっても、その独立性を侵害しているとみなされてしまいます。
労働者が労働委員会に対して不当行為を申し立てたり、労働委員会の調査に対して証拠を提示したりすることを理由として、その労働者に対して不利益取扱を行うことは不当労働行為になります。
使用者の不当労働行為に対して、労働組合が労働委員会に申し立てを行うと、まずは各都道府県の労働委員会から調査が入ります。ここでは何が不当行為にあたったかの確認、双方の主張、証拠の提示などが行われ、情報が整理されていきます。
そして、調査が終わると、次は審問です。公開の審問廷にて審問が行われ、調査の結果や証人尋問などを踏まえ、最終的な合議が公益委員によって下されます。使用者の行為が不当労働行為にあたる場合は救済命令が、あたらない場合は棄却命令が出されます。
もし、この合議に不満があるという場合は、中央労働委員会に再審査の申し立てを行うことが可能です。再審査も1度目の審査と同じ流れで行われますが、使用者側の主張が認められれば、初審命令変更がいいわたされます。
また、初審、再審ともに命令が不服な場合は、裁判所へ取消訴訟(命令を取り消してもらうための訴訟)を行うことも可能です。ただし、調査の過程で労使間による話し合いが行われ、解決に向かいそうな場合は、労働委員会から「和解」を進められることもあります。和解が合意に達すれば、和解協定が締結され、審査はここで終了です。
前述したように審議の結果、不当行為とみなされた場合は救済命令が、不当行為ではないと判断された場合は棄却命令が出されます。この救済命令は「全部救済」と「一部救済」に分かれており、全部救済はすべての不当行為について改善しなければならない命令です。
不利益取扱のほか、労働組合への介入や団体交渉の拒否など、複数の行為で申し立てが行われていた場合、全部救済ではそのすべてを改善しなければなりません。労働組合へ介入しないように留意する、団体交渉にはきちんと応じるなどを命じられるほか、不利益取扱を受けた労働者に対しては、不利益を補償しつつ、その立場についても元の状態に戻さなければなりません。
たとえば、労働者の解雇が不当とみなされたのであれば、その労働者を職場復帰させ、さらにその労働者が就業できなかった期間の分の賃金の支払いに応じます。一部救済は、不利益取扱は認められたものの、組合への介入は認められなかった場合のように、申し立てた内容の一部が不当行為とみなされることにより発せられます。
また、使用者の行為が不当労働行為とみなされなかった場合には、棄却命令が出されます。この場合は、特に何も改善しなくて良いのですが、申し立てがあったことは事実です。しっかりと反省して、今後の事業に活かすようにしてください。
不当労働行為というのは、絶対にあってはならないことです。労働組合とのやりとりのなかで、つい熱くなってしまうことはあるかと思います。しかし、その発言や行為が、不利益取扱を示唆するようなもの、支配、介入行為にあたるものでないか、しっかりと確認しなければなりません。
トラブルの元になるのは、自分の行為です。それを避けるためには、自らの言動をコントロールするよう心がけましょう。
社会保険労務士法人|岡佳伸事務所の代表、開業社会保険労務士として活躍。各種講演会の講師および各種WEB記事執筆。日本経済新聞、女性セブン等に取材記事掲載。2020年12月21日、2021年3月10日にあさイチ(NHK)にも出演。
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