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労使合意による社会保険の適用拡大とは?条件とメリットについて

労使合意による社会保険の適用拡大とは?条件とメリットについて

監修者:加治 直樹 かじ社会保険労務士事務所
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多様な働き方を求めるニーズが広がり、企業としては従業員のニーズに応える必要があります。

平成29年4月から従業員数が500人以下の会社で週20時間以上働く短時間労働者であれば、労使で合意することにより社会保険に加入できるようになりました。年金や医療の給付を充実させることは、企業の魅力を増加させることにつながります。

適用拡大と導入メリットについて確認し、従業員のニーズに応えることも大切です。

労使合意による社会保険の適用範囲が拡大

2017年4月1日から、社会保険厚生年金保険・健康保険)の加入対象が拡大しています。もともと従業員が500人以下の会社においては、パートタイム・アルバイトなどの短時間労働者は、社会保険に加入することができませんでした。

しかしこの改正により、従業員数が500人以下の会社で週20時間以上働く短時間労働者は、労使で合意すれば社会保険に加入できます。拡大されることによって適用される社会保険の加入条件は、次のすべてを満たす必要があります。

労使合意による社会保険の適用範囲

  • 1週間あたりの所定労働時間が20時間以上
  • 1ヶ月あたりの所定内賃金が88,000円以上
  • 雇用期間の見込みが1年以上
  • 学生でない労働者(ただし、夜間・通信・定時制の学生は対象)
  • 以下のいずれかに該当する
    →従業員数が501人以上の会社(特定適用事業所)
    →従業員数が500人以下の会社で社会保険加入に対して労使間での合意がなされている

社会保険の適用範囲は段階的に拡大中

社会保険の適用範囲は2017年以降も段階的に拡大されており、2023年現在の加入条件は上記と異なります。現在の社会保険の加入条件については、以下の記事を参考にしてください。

労使合意とは?具体的な方法を解説

合意

従業員が500人以下の場合に、前提となる必要条件である「労使合意」はどのようなものでしょうか?

労使合意とは

労働条件や福利厚生について、労働者と事業主の間で交わされる取り決め事項のことをいい、働いている従業員の2分の1以上と事業主の合意によって成立します。

ここで明記されている「働いている従業員」とは、

  • 厚生年金保険の被保険者
  • 70歳以上の被用者
  • 前述の要件を満たす短時間労働者

のことをいいます。もし、これらの従業員の過半数で組織する労働組合がある場合は、労働組合の同意が必要です。労働組合がない場合は、同意対象者の過半数を代表する者の同意、もしくは同意対象者の2分の1以上の同意が必要です。

そして、法人の場合は企業単位で同意と申し出をすればいいのですが、個人事業である場合は、社会保険の適用事業所単位で同意と申し出が必要になりますので、確認を怠らないようにしましょう。

同意対象者に含まれない者は?

なお、週の所定労働時間が20時間未満の従業員は、そもそもの拡大対象ではないので、同意対象者には含まれません。

また、労働基準法第41条2号に規定されている監督又は管理の地位にある者は、従業員というよりも経営者と一体的な立場になるため、同意対象者の過半数を代表する者にはなれないので注意が必要です。

パート・アルバイトが社会保険に加入するメリット

社会保険(厚生年金保険・健康保険)に加入することは、労働者に次のようなメリットがあります。

社会保険加入のメリット

  • 将来もらえる年金額の増加
  • 障害厚生年金や遺族厚生年金の受給額の増加
  • 傷病手当金や出産手当金などの医療保険の給付の充実
  • 会社からも保険料を支払ってもらえる

社会保険に加入することで、給料からそれぞれの保険料が控除されます。そのため手取り給料が減少し、社会保険への加入を嫌がる人もいるでしょう。

しかし、将来もらえる年金額の増加や手厚い給付などを加味すると、保険料控除があったとしても、社会保険に加入したいというパート・アルバイト従業員は少なくありません。

労使合意を進める際には、これらの短時間労働者間での対立も生まれやすいです。全員が賛成の場合は、特に問題もなく進められますが、反対意見の短時間労働者がいる場合は、同意に理解してもらえるようなフォローも必要でしょう。

パート・アルバイトが社会保険に加入する会社側のメリット

メリット

短時間労働者が社会保険(厚生年金保険・健康保険)に加入することで、会社側の負担は大きくなります。そのため経営者の中には、加入に対して積極的ではないことも少なくありません。しかし昨今は、人材不足などで困っている企業は多いです。

有能な人材の流出を防げる

短時間労働者であっても、有能な人材は非常に多く存在しています。130万円を超える収入がある場合は配偶者の被扶養者にもなれず、国民健康保険や国民年金に加入していると負担は非常に大きいものです。

そんなときに、同業他社が厚生年金保険・健康保険加入を提示してくれば、そちらに人材が流出してしまう恐れがあります。

従業員の労働意欲の向上につながる

また、短時間労働者の福利厚生を充実させることで、従業員の労働意欲を向上させる効果が期待できます。多少の費用はかかりますが、結果として会社全体の労働生産性の増進につながりうるものです。

このように、パート・アルバイト従業員を社会保険に加入させるのは、会社側にとっても大きなメリットがあります。

まとめ

厚生年金保険・健康保険は、従業員数が500人以下の会社であっても、労使合意の上で短時間労働者の加入ができるようになります。給与からの社会保険料控除が発生してしまうものの、将来もらえる年金の増額や手厚い給付を受けられるようになるでしょう。

また、会社側としても従業員のやる気や労働生産性のなどを図ることができます。積極的に社会保険の適用拡大について検討してみてはいかがでしょうか?

かじ社会保険労務士事務所 監修者加治 直樹

大学卒業後、地方銀行に勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務の経験あり。在籍中に1級ファイナンシャル・プランニング技能士及び特定社会保険労務士を取得し、退職後にかじ社会保険労務士事務所として独立。
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