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事業所内保育施設を設置・運営するには?2つの制度を紹介

監修者: 社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー
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2017年1月より、育児・介護休業法の改正があり、改めて育児・介護と仕事の両立支援が国策として推し進められることが強調されました。とはいえ、たとえ制度としての両立支援策が充実しても、実質的に活用できる社会基盤が整っていなければ意味がありません。

そこで本稿では、法定の施策にとどまらず、保育施設というインフラを自主的に整備したいという意欲をお持ちの事業者様に、2つの制度の活用についてご紹介いたします。

「事業所内保育事業」とは?“1形態2制度”の現実

2015年度より、それまで国や自治体の予算外で運営してきた民間の保育事業についても「特定地域型保育事業」としてその認可要件が整備されるようになりました。事業所に併設され、主にその従業員の養育する児童を保育する「事業所内保育事業」も、この認可を受けているケースと、あくまで認可外の従業員用の福利厚生施設であるケースとが混在しています。

特に認可を受けているケースは保育料の設定について上限規制がある反面、国・自治体に運営費の大部分を予算措置されるという特徴があります。逆に、認可を受けていないケースでは、ちょうどこの関係が逆転します。

つまり、同じ運営形態でありながら、実際には認可の有無により2つの異なる「事業所内保育事業」が存在し、財政基盤の面で両者には大きな格差が生じているという実態があります。

「企業主導型保育事業」とは?認可外のもうひとつの選択

2016年4月より内閣府所管事業としてスタートした「企業主導型保育事業」として要件を満たせば、これまで運営費の大半を事業主の自己資金に頼らざるをえなかった「認可を受けていない事業所内保育事業」でも、公的な助成が受給可能になりました。

認可外の施設でありながら、運営費のみならず施設整備費も助成対象となることや、認可事業と異なり3歳以上児の定員設定が可能なこと、場所や時期等について市町村にお伺いを立てることなく自主的に施設整備が可能なことなど、従来の認可外のケースにはない大幅なインセンティブが付与されています。

ただし、現状では定期昇給など固定人件費の上昇に見合った助成の仕組みになっていない、という点に注意が必要です(認可を受けている事業所内保育事業であれば、職員の平均勤続年数等に応じた加算がある)。当面その点は事業主の自己資金で賄う必要が生じるでしょう。

どちらが有利?税制優遇vs経費助成vs整備要件

「(認可を受けている)事業所内保育事業」と「企業主導型保育事業」のそれぞれについて、3つの視点からその運営上の有利・不利をご説明します。

まず税制優遇についてですが、前者は利用定員6名以上の施設について固定資産税・都市計画税・事業所税・不動産取得税がいずれも非課税となっているのに対し、後者はいずれの税目においても課税となっています(ただし平成29年度税制改正大綱により両者とも当該税目につき全面非課税になる予定です。

また、後者の利用者に限りその保育料等の一部につき所得税・住民税算定上の控除項目となる予定です)。なお、両者ともいわゆる“くるみん税制”による固定資産の割増償却が適用される点は共通です。次に経費助成についてですが、現状は前者の方が単価・加算項目ともに手厚くなっています。

最後に整備要件についてですが、こちらは現状後者の方がハードルは低く、柔軟な設置・運営が可能です。

保育士不足にどう対応するべきか?保育事業参入の壁

事業主が自主的に保育施設を整備し、従業員の仕事と家庭の両立支援に積極的に取り組むにあたっては、かつてないほどにその負担が軽減されています。しかしながら、最重要ともいえる保育士の採用においては一筋縄ではいきません。ではどのようにして保育人材を確保すべきでしょうか。

ひとつには、自ら採用するのではなく、既存の保育事業者に運営を委託するという方法があります。逆に自ら採用するのであれば、その母集団をできるだけ広域に形成することが重要です。例えば通勤圏外からも人材を呼び込むため、転居者用に寮を整備するのも効果的です。もうひとつは、応募者の紹介報奨制度を就業規則等によって定める、という方法も考えられます。

あるいは、時間はかかりますが無資格者に資格取得支援の制度を設けて養成するのも、設計次第ではより確実な手段と言えます。

まとめ

今回ご紹介した「事業所内保育事業」にせよ「企業主導型保育事業」にせよ、いずれもその設置運営にあたってはメリット・デメリットが存在します。本来、従業員のみなさまの育児と仕事の両立支援策として検討する以上、中長期的な視点での比較・選択が重要です。

また、設置した以上は保育の「質」が行政から問われ続けますので、保育事業者への運営委託にかかわらず、そこで働く保育従事者や施設長のマネジメントの視点も欠かせません。ぜひ計画的な整備をご検討ください。

監修者 社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー

社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー 代表社会保険労務士:
楚山 和司(そやま かずし) 千葉県出身
株式会社日本保育サービス 入社・転籍
株式会社JPホールディングス<東証一部上場> 退職
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